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『過労自殺』

川人 博 19980520 岩波新書,210p. 640


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■川人 博 19980520 『過労自殺』,岩波新書,210p. 640
・この本の紹介の執筆:辻野理子(立命館大学政策科学部)

■目次

第一章 事例から
1、 三九歳・技術者の死―東京
2、 四六歳・設計技師の死―京都
3、 二四歳・広告代理店社員の死―東京
4、 二四歳・食品会社社員の死―広島
5、 三四歳・厚生省係長の死―東京
6、 二八歳・地方公務員の死―千葉

第二章 特徴・原因・背景
1、「過労死一一〇番」への自殺相談
2、過労自殺の特徴
3、過労自殺と精神障害
4、自殺の特徴の変遷
5、年齢による過労自殺の差異
6、遺書の特徴―少年自殺と比べて
7、 会社本位的自殺

第三章 労災補償をめぐって
1、 自殺と労災認定
2、 労災認定の具体的事例
3、 「業務外」と判断された過労自殺の事例
4、 行政の変化の兆し
5、 公務員の場合

第四章 過労自殺をなくすために
1、 職場に時間とゆとりを
2、 職場に心のゆとりを
3、 適切な医学的援助・治療を
4、 学校教育への期待
5、 競争を規制して、よりよい社会を

第一章 事例から斑

1、 三九歳・技術者の死―東京
2、 四六歳・設計技師の死―京都
3、 二四歳・広告代理店社員の死―東京
4、 二四歳・食品会社社員の死―広島
5、 三四歳・厚生省係長の死―東京
6、 二八歳・地方公務員の死―千葉

第一章は事例である。すべてに共通して言えることは、休日出勤、深夜問わず長時間労働、それによっての過労やストレスに耐えかねての自殺となっていることである。そして、本人はこのようになる前に、体調や精神の不良のサインを出している。このように至るまで会社は何も手を打たなかったのだ。家族は苦しみ、嘆き、憤りを感じている。

第二章 特徴・原因・背景

1、「過労死一一〇番」への自殺相談
 97年には84件の相談があった。その中には、遺族が自殺を労災として認めるように労基署に申請を行うこと、会社に損害賠償請求訴訟を提訴している。労働行政や労働裁判では労災で傷を負ったり病気になったり、命を落とした労働者を「被災者」と呼んでいる。

2、過労自殺の特徴
 過労自殺には基本的特徴がある。第一に、脳・心臓疾患の過労死と同様に、幅広い範囲の労働者に広がっていることである。業種、職種を問わずほとんどの分野の職場で発生していて、会社内の地位にも関わらず発生している。第二に、自殺に至る原因として、長時間労働・休日労働・深夜労働・劣悪な職場環境などの過重な労働による肉体的負荷、および思い責任・過重なノルマ・達成困難な目標設定などによる精神的負荷が挙げられる。目標が達成できないなどという行き詰まりからくる精神的ストレスの比重がより高い。あと、リストラの対象になるのを恐れて自らを追い込む。第三に、自殺に至る過程において、自殺社の多くは、うつ病などの精神状態に陥っていたと推測される。第四に、殆どの企業は、職場で過労自殺が発生した場合に、その原因を労働条件や労務管理との関係で捉えようとせず、従業員の死を職場改善の教訓に生かさず、遺族に対しても冷淡である。第五に、過労自殺はその実態がなかなか組織の外部に伝わらない。殆どの企業は事実を覆い隠そうとする。

3、過労自殺と精神障害
 うつ病と自殺は大きな関係がある。うつ病の症状は睡眠障害、食欲の変化、身体のだるさ、頭痛などの身体症状と関心・興味の減退、意欲・気力の減退、知的活動能力の減退などの精神症状である。他にも無力感、劣等感などを感じたりもする。うつ病は病気自体の特性として、自殺念慮・自殺企図をもたらすのであり、この点において大変恐ろしい病気といえる。自殺念慮とは、死んだほうがまし、死にたいとの気持ちであり、これが進んで、一日中死ぬ方法ばかり考え、ついにそれを実行するのが自殺企図である。

4、自殺の特徴の変遷
 自殺はバブル崩壊後から増えてきている。自殺は一般的に女性より男性のほうが多い。自殺者のうち有職者は全体の4割といわれている。勤務問題で自殺した年齢を見ると、20〜59歳は93.7%を占めている。

5、年齢による過労自殺の差異
  過労自殺は青年労働者から中高年労働者まで広がっていて、年齢に関わらず、過重な労働が原因となっている。青年労働者は就職前の予想をはるかに上回る仕事量、責任の重さに遭遇し、心身のバランスを崩している。中高年労働者は入社後長い年月を経ることにより、労務管理体制に組みこまれ会社人間になってしまう。業務命令ならどんな過重な労働でも受け入れてしまうので、過労死の背景となっている。そして、青年の場合のほうが中高年に比べて裁判や労災申請の語りで社会的に知らされる機会が多い。

6、遺書の特徴―少年自殺と比べて
 少年自殺の遺書と過労自殺の遺書には少し違いがある。過労自殺は会社や家族に対するお詫びという内容となっているのに対し、少年自殺は自分をいじめた人に対する深い恨みを書き綴っている。

7、 会社本位的自殺
 自殺の類型は3つある。@自己本位型自殺A集団本位的自殺Bアノミー的自殺がある。中高年労働者の過労自殺は過労とストレスが原因であるが、その根底には個人の会社に対する強い従属意識があり、会社という共同体に精神面でも堅く縛られていた状況がある。これを会社本位的自殺といえる。

第三章 労災補償をめぐって

1、 自殺と労災認定
 自殺の労災認定は少ない。一つめは労基署に遺族が申請する数が少ない。二つ目は労働省が労災認定に大変消極的であるからである。脳・心臓疾患に関する労災認定基準をつくっているのに過労自殺にはないという実体がある。

2、 労災認定の具体的事例
 労災認定されている自殺類型は3つある。@心因性精神障害による自殺、心理的負荷A心因性精神障害による自殺、業務と精神状態との間に労災事故や職業病が介在する場合B外因性精神障害により自殺、労災事故による外相が直接的原因で精神障害になり自殺する場合である。

3、「業務外」と判断された過労自殺の事例
 労災と認められる自殺はごく一部にすぎない。長年にわたり労働行政は、業務に起因したと思われる多くの自殺を「業務外」と判断し、遺族の請求を退けてきた。特に過労・ストレスによる自殺(過労自殺)の関しては、ほぼすべて「業務外」と判断してきた。

4、行政の変化の兆し
 リストラが進む中で、過労やストレスの結果自殺に至るケースが増え、労基署への労災認定を求める申請数が急増するようになった。マスコミにより、社会的関心が高まったのもある。労働行政が動かざるを得なくなったのだった。

5、公務員の場合
 公務員の労働災害は「公務上災害」(公災)といわれる。基本的に労働省と考えは一緒である。自殺そのものは原則として公務上の災害と認められない、としている。まれなケースで認定されることもあるようだ。これに不服をもち、労働組合は過労自殺労災認定に取り組んでいる

第四章 過労自殺をなくすために

1、 職場に時間のゆとりを
 豊かさとは何かが問われ過労死が大きな社会問題となり、労働時間短縮は国民的スローガンとなっていった。だが、バブルが崩壊して、日本は不況に陥った。長時間労働、深夜労働、休日労働など、労働時間は全く減らない。そこにはみなし労働、最良労働が考えられる。労働時間の規制に関する法を出さなくてはならない。忙しいとは心を亡くすことである。日本人全体が、もっと時間のゆとりをもつことが、行政や企業活動を健全な方向に導いていく重要な条件にもなってくる。

2、 職場に心のゆとりを
 リストラ下で職場ストレスは増える。業務上の様々な事情から被災者が精神的に追い込まれていったことが原因である。失敗は許されない職場であった。そして同僚や上司、取引先に配慮しすぎる傾向が働きすぎる日本人にはある。義理を守ることよりも人間のいのちと健康ははるかに尊い価値があると著者は主張している。

3、 適切な医学的援助・治療を
 自殺者の殆どは精神科治療を受けなかった。一つ目の理由は、仕事に追われ続け、病院に行く時間がなかった。二つ目は、病院に行っても適切な治療が行なわれなかったことである。もっとうつ病に関する知識をもつことが必要であると著者は言っている。

4、 学校教育への期待
 企業に就職してからあまり経っていないのに。自殺してしまう青年がいるのは事実である。過労自殺に至った若者は、激しい受験戦争や就職競争を勝ち抜いた人が多い。一生懸命やりすぎてしまうのだろう。あたかも労働が絶対的な自己目的であるかのように励むのである。これは教育に原因があるのではないか。結果だけを追い求めすぎてしまっている。

5、 競争を規制して、よりよい社会を
 豊かさとゆとりが大切である。日本は、経済力は得たかもしれないが、幸福度は他の国と比べてもとても低い。競争によって活路を見出すのではなく、国際的にも国内的にも過剰な競争に必要な規制を行なって、荒々しい市場競争に歯止めをかけることが私たちがしなくてはいけないことである。

過労自殺というものはとてもひっそりと全国で起こっているものであると思う。本当に日本人は働きすぎである。家族との団欒もする暇もない、趣味は仕事という人は数多いだろう。企業がそういう雰囲気をつくりだしているのだ。もっと働け、働かなければリストラするぞ、と。イタリアにはシエスタという長い昼休みがある。この時間は店も殆ど閉まっている。イタリア人が通勤する場所は30分以内なのだそうだ。そのシエスタという時間に家族と一緒に昼ごはんを楽しんだり、昼寝をしたりする。世界一貧乏だといわれるバングラディッシュの人々の目はきらきらしていた。心がとても豊かであった。それに引きかえ日本はこころがすさんでいる人が多い。癒しがブームだが、日本自体を変えていかないとあんまり意味がないと思った。


UP:20040215
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