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『皇紀・万博・オリンピック――皇室ブランドと経済発展』

古川 隆久 19980315 中央公論社(中公新書1406),247p.

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last update:20150807

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■古川 隆久 19980315 『皇紀・万博・オリンピック――皇室ブランドと経済発展』,中央公論社(中公新書1406),247p.  ISBN-10: 4121014065 ISBN-13: 978-4121014061 700+税  [amazon][kinokuniya]

■内容

明治政府は皇室を国家統合と近代化のシンボルとなし、神武天皇即位を建国元年とする皇紀法制化を採用した。一九三〇年代に至り、経済発展という国家目標達成のため、 万博・オリンピックを皇紀二六〇〇年奉祝事業として招致する構想が合意をみる。皇室ブランドを利用して、国家・企業・個人の利益獲得が目指されたのである。 ここに見られるのは欲望の追求が解放された活力溢れる社会であり、これこそ戦後に受け継がれた精神である。

■目次

はじめに

第一章 皇紀法制化(一八七二年)と国家イベント
1 皇紀(神武天皇紀元)――紀年法の近代化
2 橿原神宮の創建
3 政府の紀元二五五〇年(一八九〇年)記念イベント

第二章 幻に終わった明治の大博覧会計画
1 発端――日露戦争を祝って
2 大博覧会計画のスタート
3 経済効果への期待とアメリカの参加表明
4 大博覧会の延期と皇室ブランド
5 大博覧会の中止とその後

第三章 「紀元二六〇〇年」(一四〇〇)に向けて
1 紀元二六〇〇年奉祝の発端――オリンピック招致と橿原神宮拡張
2 一九三五年万博構想――外貨獲得と観光ブーム
3 紀元二六〇〇年万博構想――阪谷芳郎の登場
4 橿原神宮、奈良県と観光ブーム
5 紀元二六〇〇年奉祝記念事業の国家プロジェクト化
6 六大事業の決定
7 紀元二六〇〇年をめぐる国民観の対立
8 万博問題の紛糾
9 観光立県へ――奈良県

第四章 日中戦争のなかで
1 日中戦争勃発の影響――中止か
2 橿原神宮と国民精神総動員――奈良県の対応
3 万博・オリンピックの準備再開
4 万博延期・オリンピック返上――戦時体制の強化
5 戦時下でも盛んな全国の奉祝記念事業
6 宮崎県の場合――辣腕知事の活躍
7 政府の方針転換――国民精神総動員運動への活用

第五章 「紀元は二六〇〇年」
1 のべ五〇〇〇万人が参加
2 東亜競技大会――アジアへのアピール
3 奉祝の状況――公式記録から
4 奉祝の実態
5 奉祝楽曲演奏会――欧米へのアピール
6 その他の記念行事、記念事業から
7 紀元二六〇〇年奉祝と国民動員

第六章 戦後への遺産・影響
1 東京オリンピック(一九六四年)への遺産
2 大阪万博(一九七〇年)への影響
3 東京の都市計画への遺産など

おわりに
あとがき
参考史資料目録

■引用

おわりに

 本書で明らかになったことをまとめると、以下のようになるだろう。一八七二年の皇紀法制化の経緯に典型的にみられた国民統合指向と、 日露戦後の万博にむけての合意形成過程で典型的にみられた経済発展指向が、 一九三〇年に紀元二六〇〇年記念を名目にオリンピック招致運動が始まったことを契機に相関連することとなった。 そして、皇室ブランドという正当化のシンボルをめぐって、国民統合指向と、経済発展指向という二つの論理がせめぎ合いながら、 国家としての紀元二六〇〇年奉祝記念事業と記念行事という方向に話が発展した。当初この構想が広く合意や関心を獲得していったのは経済発展指向の文脈であり、 それはさまざまな便乗の動きを生み出していった。その後、 日中戦争期の戦時体制強化のため国民統合という方向性が大きく表面化したものの、底流では経済発展指向が社会資本や文化の発展など広い意味での発展指向として残り、 それが戦後にさまざまな影響や遺産をもたらすことになったのである。(p.230)

 ここまでの考察から浮かびあがってくる敗戦までの近現代の日本は、社会の支配的な雰囲気としては「欲望の追求」がすでに肯定され、 同時代人のなかからも過剰だと感じられるほどにそれが行なわれる社会であった。その点では、同時期の欧米先進国ともなんら変わらない状況を呈していたのである。 ここからは、従来よくあった、マルクス主義的な発展段階論や、理想化した西洋近代をものさしとして日本近代を「遅れ」「ゆがみ」を指摘するような、 日本近現代史を一方的に「暗い」「悪い」ととらえることにつながる枠組みとは違う歴史の見方が浮かび上がってくる。 一方、利益を求めてのバイタリティーあふれる人々の動きは、決して英雄的な物語ではなく、われわれとそれほど距離を感じさせないという点で、 一方的な日本「賛美」とも違う歴史の見方を示唆しているのである。(p.234)

■関連文献

◆荒俣 宏 20000123 『万博とストリップ――知られざる二十世紀文化史』,集英社(集英社新書0011),238p.  ISBN-10: 4087200116 ISBN-13: 978-4087200119 680+税  [amazon][kinokuniya]

◆椹木 野衣(さわらぎ・のい) 20050225 『戦争と万博』,美術出版社,349p.  ISBN-10: 4568201748 ISBN-13: 978-4568201741 2800+税  [amazon][kinokuniya]

■書評・紹介

■言及



*作成:北村 健太郎
UP: 20150807 REV:
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