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『わたし心配しかできないから――筋萎縮性側索硬化症(ALS)の妻との歳月』

加藤 誠司・郁子 19980222 自費出版,206p. 1800円


■加藤 誠司・郁子 19980222 『わたし心配しかできないから――筋萎縮性側索硬化症(ALS)の妻との歳月』,自費出版,206p. 1800 ※ b als

加藤郁子
1955年1月10日生(p.126)
1991年9月14日手術(p.190)
1992年夫に告知?(p.16)
1992年1月4日退院(p.48)
1992年6月19日再入院(p.48)
1993年7月 トーキングエイドを使い始める(p.55)
1997年1月27日逝去(41歳)(p.126)

■引用

 「世の中には、これほど凄まじい病気が存在することを知り、愕然といたしました。
 この病気は、難病中の難病と言われるほどの、不治の病(やまい)であると言うことも、初めて知りました。
 この病気の告知を、当時の担当主治医の先生から聞かされ、説明を受けた時には、病気そのものが進行性である為、年齢的にも三十五歳と言う若い年齢と言うこともあ(p.5) り、良くて二年悪くて半年位が、一定の期間であると思ってください、死を免れない病気であると聞かされました。
 私は頭の中が真っ白になり、その闇の中へ放り出されたような状態になった事を、今でも鮮烈に思い出します。」(pp.5-6)

◇郁子さんと病気 横須賀中央診療所所長 春田明朗 19-20

 「加藤郁子さんのところへ行くたびに、病名や病気の今後についてお話ししなくてはという思いにかられました。筋萎縮性側索硬化症という、進行性で死は避けられない病気ですが、それを先に延ばしながら生きることができます。現に、手足が動かせず、声も出せず、ものも食べられず管から流動食を注入しつつ、呼吸も機械の力を借りながら、わずかに残された額の動きでパソコンをあやつり、ものを書いたり、多くの仲間と通信したりしている人もあります。
 郁子さんには、原因不明の難病であり、現代の医学では治療法がないことが初めに告げられただけでした。後は、病名やこの先どうなるかという質問もありません。(p.19)手足が動かせず、ものも食べられなくなり、病気がどんどん進んでいるのは、いやというほどわかっているはずです。いまさら、病名を聞こうが聞くまいが関係ないと思われていたのでしょうか。
 それより、その日その日を楽しく過ごすことを大切にされていたようでした。」(pp.19-20)

◇郁子さん、あの大空で今、何をしていますか 訪問看護婦 松浦一子 21-22

 「ご家族の希望で病名は告げられていませんでしたので、ピリピリとした緊張の中で訪問看護を開始しました。
 当初は郁子さんの本当の気持ちはどうなんだろうかと悩みました。いろいろな関わりの中でも病気についての質問はありませんでした。今までの経過の中、徐々に動けなくなっていく状況から多分ご自身の病気を察していらっしゃったのではないかと思います。」(p.21)

◇1995年9月16日

 「夕方のニュースで、車椅子の天才結婚すると報道されたのは、宇宙物理学者のホーキング博士だった。私と同じ病気だけど、病気になりはじめ、外で遊べないので、子供のときから本読んだり勉強して、アインシュタインからホーキングまでと言われる程の博士になったという。
 […]
 (私はこのときに、郁子の病気は少し違うんだよ、と言いました。数パーセントでも希望を持たせたかった。多少安心した様でした。この日は、風が強くて植木を心配する)」(p.88)
 *()内は加藤誠司の文章

 「医師は状況から、今後半年から二年位と言う厳しい反応でもありました。又、出来る限り自宅で過ごさせてあげられた方が良いと思われます、と言うお話しでもありました。先行きの無い、治療方法も無い人を、ただベッドに寝かせて置くだけになってしまう様な形では、基本的には病院へ置くことが難しく、在宅介護と言う形になりました。」(p.99)

 「妻の病気は、癌のような病気と違って、数パーセントの生存の可能性もない、決定的に死を宣告する病名ということもあり、本人には知らせずに希望を持たせる対応にしたのでした。/私は正直言って、妻に病名を宣告して、早くから生命維持装置を付けても、最終的(p.184)には心臓だけが動いている状態となり、身体は植物状態で意識は変わらずと言う苛酷な生存となってしまうことも考慮しました。/最終的には、本人の苦痛等は全て相手に意思伝達することも出来ない状況で、過ごすしかないと言う事例を、いくつか見聞きしましたので、大変悩みました。」(加藤・加藤[1998:184-185])

 

立岩の文章における言及→『ALS』

 [14]一九九二年・「良くて二年悪くて半年位が、一定の期間であると思ってください、死を免れない病気であると聞かされました。」(夫に、加藤・加藤[1998:5-6])
 [124]一九九二年頃、加藤誠司は妻の加藤郁子がALSだと医師から告げられる。「この病気は、難病中の難病と言われるほどの、不治の病(やまい)であると言うことも、初めて知りました。/この病気の告知を、当時の担当主治医の先生から聞かされ、説明を受けた時には、病気そのものが進行性である為、年齢的にも三十五歳と言う若い年齢と言うこともあり、良くて二年悪くて半年位が、一定の期間であると思ってください、死を免れない病気であると聞かされました。/私は頭の中が真っ白になり、その闇の中へ放り出されたような状態になった事を、今でも鮮烈に思い出します。」(加藤・加藤[1998:5-6]、その後については[130])
 [130]「妻の病気は、癌のような病気と違って、数パーセントの生存の可能性もない、決定的に死を宣告する病名ということもあり、本人には知らせずに希望を持たせる対応にしたのでした。/私は正直言って、妻に病名を宣告して、早くから生命維持装置を付けても、最終的には心臓だけが動いている状態となり、身体は植物状態で意識は変わらずと言う苛酷な生存となってしまうことも考慮しました。/最終的には、本人の苦痛等は全て相手に意思伝達することも出来ない状況で、過ごすしかないと言う事例を、いくつか見聞きしましたので、大変悩みました。」(加藤・加藤[1998:184-185])
 そして妻は知らなかったと書いている。ただ次のような箇所もある。
 [131]一九九五年九月一六日「夕方のニュースで、車椅子の天才結婚すると報道されたのは、宇宙物理学者のホーキング博士だった。私と同じ病気だけど、病気になりはじめ、外で遊べないので、子供のときから本読んだり勉強して、アインシュタインからホーキングまでと言われる程の博士になったという。[…](私はこのときに、郁子の病気は少し違うんだよ、と言いました。数パーセントでも希望を持たせたかった。多少安心した様でした。[…])」(加藤・加藤[1998:88]、加藤郁子の文章の後の( )内は夫の加藤誠司の文章)
 [132]加藤を診た医師(横須賀中央診療所所長)は次のように言う。「加藤郁子さんのところへ行くたびに、病名や病気の今後についてお話ししなくてはという思いにかられました。筋萎縮性側索硬化症という、進行性で死は避けられない病気ですが、それを先に延ばしながら生きることができます。現に、手足が動かせず、声も出せず、ものも食べられず管から流動食を注入しつつ、呼吸も機械の力を借りながら、わずかに残された額の動きでパソコンをあやつり、ものを書いたり、多くの仲間と通信したりしている人もあります。/郁子さんには、原因不明の難病であり、現代の医学では治療法がないことが初めに告げられただけでした。後は、病名やこの先どうなるかという質問もありません。手足が動かせず、ものも食べられなくなり、病気がどんどん進んでいるのは、いやというほどわかっているはずです。いまさら、病名を聞こうが聞くまいが関係ないと思われていたのでしょうか。/それより、その日その日を楽しく過ごすことを大切にされていたようでした。」(春日[1998:19-20])
 [133]同じ人への訪問看護婦の記述。「ご家族の希望で病名は告げられていませんでしたので、ピリピリとした緊張の中で訪問看護を開始しました。/当初は郁子さんの本当の気持ちはどうなんだろうかと悩みました。いろいろな関わりの中でも病気についての質問はありませんでした。今までの経過の中、徐々に動けなくなっていく状況から多分ご自身の病気を察していらっしゃったのではないかと思います。」(松浦[1998:21])
 [291]加藤誠司は妻[131]次のように言われ、自宅で妻を看ることになる。「医師は状況から、今後半年から二年位と言う厳しい反応でもありました。又、出来る限り自宅で過ごさせてあげられた方が良いと思われます、と言うお話しでもありました。先行きの無い、治療方法も無い人を、ただベッドに寝かせて置くだけになってしまう様な形では、基本的には病院へ置くことが難しく、在宅介護と言う形になりました。」(加藤・加藤[1998:99])

■言及

◆立岩 真也 20041115 『ALS――不動の身体と息する機械』,医学書院,449p. ISBN:4260333771 2940 [amazon][kinokuniya] ※ b als

※おことわり
・このページは、文部科学省科学研究費補助金を受けている研究(基盤(C)・課題番号12610172)のための資料の一部でもあり、本から引用されている部分等はその全体を紹介するものではありません。その記述、主張の全体については、当該の本・文章等に直接あたっていただきますよう、お願いいたします。
・作成:立岩 真也
UP:20020614 REV:20020910,20030412
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