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『ジェンダー・バランスへの挑戦――女性が資格を生かすには』

青島 裕子 19971215 学文社,181p. 1600



■青島 裕子 19971215 『ジェンダー・バランスへの挑戦――女性が資格を生かすには』,学文社,181p. 1600 ・この本の紹介の執筆:小林理恵(立命館大学政策科学部2回生)

<目次>
第一章 資格ブームのなかの女性
1、資格ブームの背景
・ 「寄らばライセンス」の時代
・ 資格で人生を変えたい
・ 生涯の仕事をもちたい
2、資格の分類
・ 資格の認定先による分類
・ 資格の機能による分類
・ 資格の取得方法による分類
3、女性用資格ガイドブックとは
・ 資格のすすめ
・ 資格の可能性
・ 女性向の資格とは
・ 女性用ガイドブックは必要なのか
4、女性が資格を生かすには
・ 人気資格は時代を映す
・ 難関資格へのチャレンジ
・ 合格者から見たジェンダー・バイアス

第二章 女子学生は資格をめざす
1、就職難時代と資格
・ 就職難の切り札となるか
・ ダブルスクール族の増加
・ 専門学校への「再入学」
2、女子学生の資格に関する意識
・ アンケート調査の概要
・ 現在もっている資格・これから取得したい資格
・ 資格に期待すること
・ 資格取得の態度
3、女子学生と資格をめぐる課題
・ 根強いOL願望
・ 仮目的としての資格
・ 職業生活のビジョンとは

第三章  資格制度の成立と女子教育
1、資格制度の発展
・ 戦前の資格制度
・ 戦後の変化
・ 「職業資格」と「教育資格」の一体化
2、戦前の女子高等教育と資格
・ 限られた教育機会
・ 女子高等教育の始まりと教員資格
・ 医療関係資格
3、戦後の女子高等教育と資格
・ 教育機会の拡大
・ 女子の進学動向
・ 女子別学教育の現状
・ 女子大学で取得できる資格

第四章  短期大学における「資格教育」
1、短大教育と資格
・ 「資格教育」とは
・ 短大で取得できる資格
・ カリキュラムへの影響
・ 学生生活への影響
2、「資格教育」への変遷
・ 第T期(1950〜64年)―発足期
・ 第U期(1965〜74年)―拡大期
・ 第V期(1975〜84年)―転換期
・ 第W期(1985以降)―再構築期
・ 「資格教育」の果たした役割
3、「資格教育」の問題点
・ 資格と就職の乖離
・ 偏った職種への水路づけ
・ 職業キャリアの限界
4、短大の将来願望と「資格教育」
・ 職業の専門家・高度化での対応
・ 生涯学習時代への対応
・ 女性の生き方の変化への対応
5、「資格教育」の再構築

第五章  資格は女性集中職をつくる
1、女性労働の現状と課題
・ 女性の職場進出
・ 女性労働をめぐる課題
・ 根強い性別職務分離
2、女性集中職と資格
・ 女性集中職とは
・ コンパラブル・ワースの可能性
・ 女性比率の高い専門的職業
・ 資格制度の変化
3、栄養士の女性化
・ 資格制度の成立
・ 高等教育における栄養士養成
・ 栄養士はなぜ女性集中職になったのか
終章 ジェンダー・バランスをめざして
1、 職業分布の変化
2、 制約された選択
3、 消える性差のバリア
4、 これからの資格術
5、 資格のもつインパクト

参考文献

第一章:資格ブームのなかの女性

  90年代以降、企業の成長は確実に低下し、特にバブル経済崩壊後は、従来のような社内終身雇用制を維持する事は事実上不可能となった。そこで企業は能力により格差をつける人事管理を模索しはじめ、社員の能力をはかる指標の一つとして資格に目を向けるようになった。また、社員の側もリストラに備えて、あるいは転職や独立など、会社外に新しいキャリアを求める場合のために、「会社外でも通用する専門能力」を示す武器として資格取得を考えるようになってきている。資格取得をめざすのは男性ばかりではない。ある書店曰く、最近は女性の方が資格関連の本を購入する事が多いそうである。これからの時代は、例え結婚しても、夫と二人三脚で働かなければゆとりある生活は保証されない。ここにきて家族法改正、夫婦別姓容認への動き、中高年夫婦の増加などにより、家族の枠組みそのものが揺らぎ始めている。高齢化社会が到来し、老後の不安も大きい。女性にとって自立的な人生を支える経済力の重みは、ますます強まっている。
  資格ブームの影響を受けて、各種の資格ガイドブックが続々と出版されている。ところが、「女性向き」ガイドブックと「男性向き」(あるいは一般向け)ガイドブックに取り上げられている資格とを比較してみると、意外にも両者の違いは殆どない。しかし、女性向きガイドブックがウエイトをおいている資格にはある種の共通する傾向があり、この傾向こそが「女性向き」と銘打っているゆえんなのである。次のような資格が「女性向き」ガイドブック推奨の資格ある。
@女性が独占している資格
A家事・育児と両立できる資格
B「ハート」で勝負できる資格
C趣味を仕事にできる資格
  しかし、これらの活動を職業の域まで高めるには、相当の時間・エネルギーが必要である。さらに、かなり高度のレベルに到達したとしても、果たして職業として成り立ち得る可能性はどの程度あるのだろうか。このように、資格取得が新しい可能性を開けるという前書きの記述との矛盾点が目に付く。
  資格への女性の進出はかなり認められるものの、合格者に占める女性比率は資格によって大きな偏り(ジェンダー・バイアス)がある。介護福祉士91.4%、消費生活アドバイザー71.8%、インテリアコーディネーター76.6%などが、女性合格者の割合が圧倒的に高い資格である。一方、社会的威信が高く、独立可能な専門的職業に繋がりやすい難関資格については、女性合格者の割合はきわめて低い。女性の進出する余地はまだ大きく残されている。

第二章:女子学生は資格をめざす

  学生の就職活動において重視されることは時代によって変化する。在学中の成績や部活動経歴が大事なポイントとされていた時期もあったが、最近学生の間で重要ポイントと考えられているのは「資格」である。学生の資格志向を反映して、大学に通うかたわら資格取得のための講座やスクールに通う「ダブルスクール族」や、大学や短大を卒業した者が専門学校に入学するケースも増えてきている。ちなみに、就職活動のためにしようと思っていることとして、資格取得をあげる者が多い。男子学生では14%が、女子学生では実に42%が「資格」と答えており、女子の方が資格取得に対して熱心である。
 女子学生の資格取得の実態や、資格に寄せる期待などを、アンケートにとった結果である。

・就職に希望すること
@就職に有利
⇒しかし実際、「資格はとってみたけれど、あまり役立ったとは思わなかった」という感想が多数を占めている。
A希望する職業(職種)に就ける
⇒女子学生の就職難の現状を考慮に入れれば、とにかく職を得ることに目がいってしまう傾向はある程度納得はいくものの、職業生活の「入り口」に照準を合わせた資格取得は、その後の長い職業人生とどのようにつながるのだろうかと、ふと不安になる。
B給与や昇進に差がつく
⇒大事なのは資格をとったことではなく、それをどう仕事に生かしているかである。
C転職や独立がしやすい
⇒転職や独立の際には、学生の就職時よりはるかに厳しい目で資格が評価される。
D「いざというとき」の安心感
⇒簡単に取れる資格、誰もがもっている資格では、「いざというとき」何の役にも立たない。
E実力の証明
職業社会において、資格はあくまでも基礎力を証明するものに過ぎない。

・資格取得の態度
@受かりやすい資格をとる
⇒受かりやすい資格と資格の価値とは反比例の関係である。
Aできるだけ多くの資格をとりたい
⇒大学や短大をあげて学生の資格取得を奨励する環境づくりの結果。
B皆がもっている資格をとる
⇒資格取得における横並び志向は、短大生の自信のなさを表しているようだ。
C事前に必要な情報を得る
⇒情報の質を選別する冷静な目をもっているのだろうか。
Dキャリアプランとの関連を考える
⇒資格の取得は、自分がどのような仕事をしたいのか、どのような職業人生を送りたいのかという過程を考えていく過程で、浮上してくる問題のはずである。

・課題
  これまでOLが担ってきた一般事務の仕事の総量はコンピュータにとって代わられつつあり、職場からOLが消える日は次第に現実のものとなりつつある。しかし、女子学生の進路の選択肢には変化の兆しがみられない。
  若者の目的喪失の時代において、検定資格は仮目的を提供するという意味をもっていると分析する。資格のランクを細かく区分して短期間の目的を設定し(階段アイデンティティ)、資格によって自分が何者かを示そうという気持ちを起こさせる(資格アイデンティティ)のだ。女子学生が資格に向かう態度は、将来の青写真を描けないでいる姿と重なり合っている。
  女性の本来の生き方とは、家庭にあって妻として、母として生きることであり、女性が職業を持つ事は二義的であるという規範が根強く残っており、「いざというとき」「もしものときに役立つ」という曖昧な資格頼みの発想が生まれるのかもしれない。

第三章:資格制度の成立と女子教育

  戦後には職業資格の数は飛躍的に増加した。そして、戦前には無試験で取得できた資格の多くが試験に合格する事で取得できる方向に制度改正された。
  日本において女子の就学義務が制度化されたのは、明治政府が成立してからのことである。しかし、その制度とは、女子は男子より一般下の教育でよしとする方針を骨子としたものである。この基本方針は第二次大戦終了の時期まで引き継がれた。
  医療系職業の中で最も量的拡大をみたのは薬剤師である。天野正子氏の指摘によれば、この時期、薬学科へ女性が集中した理由は、薬剤師は注意深さや綿密さなどの女性の「特性」に合った職業とみなされていたこと、結婚後も薬局経営などの形で仕事と家庭を両立できる職業と考えられていたことによるものだった。「女性向きの職業」、「女性にふさわしい職業」とは、何よりも妻・母という家庭人としての本分を妨げない職業にほかならなかったのである。
  敗戦とともに、1945年には女子教育刷新要領が発表され、女子の大学入学の機会均等、大学における男女共学などの指摘が示された。戦後の復興が進み社会が安定するにつれて、女子の進学率は上昇し、進学要求の高まりに応えて多数の大学・短大が開設され、高学歴の実現に急速に近づきはじめた。しかし、今では女性が男性の進学率を上回ったとはいえ、1995年現在、女子の四年制大学への進学率は24.6%に過ぎず、短大への進学率が22%を占めている。男子の場合は、40.9%が四年制大学、わずか2%が短大であるのを比べると、男女間の進学パターンには明らかに大きな格差がみられる。また、女子学生の専攻分野は依然として人文系、教育系、家政系に集中していて、教育、文学、家政にほぼ限られた戦前の女子教育のあり方が、制度上では完全な平等が実現した戦後もなお強固に生き続けている。また、女子大学に設けられている学部の7割近くは文学部と家政学部で占められていて、教育内容の著しい偏りがみられる。

第四章:短期大学における「資格教育」

  18歳人口の減少に加えて、女子進学者の短大から四大への移行が現実のものとなるにつれて、「資格のとれる短大」をアピールすることが、短大再生の切り札になると期待されている。しかし、資格が学校教育と深く結びつくことで、最低限度の学習で資格を取得しようとする傾向が生まれることや、資格が教育課程の中で自動的にとれる仕組みになっていると、とれるものは取得しておこうと不必要な資格でも取得しようとするようになり、これが教育効率の低下を引き起こす。また、本来は特定の職業につくことや、特定の仕事をすることを目的とした教育であるはずなのに、しだいに資格の付与そのものが教育の主要な目的となっていく、すなわち「資格教育」へと変質する傾向が見られる。また、特に短大の場合、過密スケジュールによって行われる「資格教育」は、職業生活を探索するための貴重なチャンスを学生から奪ってしまうというマイナス面も無視できない。
  短大における「資格教育」の広がりについて、「発足期」→「拡大期」→「転換期」→「再構築期」という一連の変化が確認された。しかし、「資格教育」によって、これまで多くの「栄養士」や「保母」「幼稚園教諭」や、「小・中学校教諭」などを育ててきたことは評価できるものの、その変遷を通してみれば、職業をもって自立的に生きる女性を育てる事が目指された時期はどこにもなかったといえる。また、短大で各種の資格を取得した者のうち、その資格を生かした就職をする者は少ない。さらには、「資格教育」は短大卒業者の就業の可能性を広げるというよりも、彼女達を偏った職種職域に水路づけることにより、かえって短大卒女性の生き方の選択肢を狭めてきたのではないだろうか。また、こうした水路づけの構造は、「女は女の領域で生きるのがよい」という性による分業意識を醸成し、社会的にみれば性役割の再生産に寄与してきたと考えられる。また、短大で取得できる資格には、「二種」あるいは「二級」などの、いわゆるセカンドクラスの資格が多いことから考えると、資格を取得した短大生の職業キャリアは決して発展的なものとはいえない。
  これまでの「資格教育」は、専業主婦として生きる女性のライフコースを想定し、文字どおり資格付与そのものにウエイトをおく教育が行われてきた。しかし、女性が充実した人生を生きるためには、発展的な職業生活をもつことが重要な条件となった今日、「もしものときの安心料」としての資格は、短大生にとってかつての輝きを失いつつある。
 短大における「資格教育」は、伝統的な女性の生き方を前提とした教育であると同時に、資格に依存しすぎた教育であったために、有効な職業教育とはなりえなかった。今後はいかにして短大教育の中に真の「職業教育」を構築していくかが問われる。第一に、現代のビジネス社会が求める職業能力の基礎を育成するための教育(コンピュータ運用能力・実践的な語学力・対人能力・コミュニケーション能力など)である。第二に、女性の意識を変革させることを根幹においた職業教育である。

第五章:資格は女性集中職をつくる

  高度経済成長の日本経済の中で、女性労働は引き続き量的拡大を続けている。また、勤続年数の長期化や、既婚者の占める割合が六割近くにまで伸びていて、家事・育児と職業とを両立させるライフスタイルはかなり定着している。また、フルタイム労働だけでなく、パートタイマー、派遣社員など、就労形態の多様化が進んでいる。しかし、女性の労働率は二十代半ばと四十代半ばの年齢層で二つのピークを示し、出産・子育て期に当たる三十代半ばでダウンするという、いわゆるM字型就労が続いている。この背景には、「男は外・女は中」という性別役割分業の固定化と、働く女性に対する社会的支援体制の不足があるとみられる。また、男女間の賃金格差も大きい。
  女性労働の質的向上を阻んでいる最も大きな要因は、性別職務分離にある。性別職務分離には、同一職種内での性別隔離を意味する「垂直的職務分離」と、「水平的職務分離」の二つの側面がある。
  就業者が女性に偏る傾向のある職種は、一般に「女性職」と呼ばれる。女性集中職の多くは、女性が家庭内で従事してきた家事・育児労働が賃金労働に変わった職種でもある。「女性は、市場でも、掃除をし、給仕し、裁縫をし、教え、そして物を売る。また子どもや高齢者、病人の世話をし、看護をする」のである。さらに、女性集中職はおおむね低い賃金、劣悪な労働条件、昇進の機会の欠如、不安定な雇用といった特徴をも合わせもっている。
  女性集中職、例えば保母や幼稚園教諭、栄養士などについても、資格取得のための養成施設には明らかに性による偏りがみられる。女性集中職の形成と固定化に大きな役割を果たしている女子別学教育のあり方が、今問われているといえる。

終章:ジェンダー・バランスをめざして

  資格によって職業社会のヒエラルキーの下層部分に女性が集中する構造が創られ、今日まで維持されてきたという側面がある。しかし、現代の若者の考え方は急速に変わってきている。今後男性一般職が誕生する可能性はかなり高いといえる。また、これまで女性の職業とされてきた領域(福祉等)に進出する男性も目立ってきた。従来の女性集中職への男性の参入が徐々に進みつつあるのである。一方で、大型トラックの運転手、工場現場のクレーン・オペレーター、ボイラー技師、ジャンボジェット機のパイロットなどといった新しい分野へ女性を受け入れるための職場環境の整備はさらに進む見通しである。今後の少子化による労働力の不足などの要因も加わると、ジェンダーによって強固に仕切られてきた職業間の垣根はさらに低くなり、女性の活躍の場はこれまでに増して広がっていくだろう。

≪コメント≫
  私は現在二回生で、やはり最近「就職活動」という言葉に敏感になってきている。特に、就職活動を行う際の前提として、何でも良いからある程度の数の資格を取得せねばならないという使命感のようなものが心に芽生えはじめてきていた。そこで、―女性が資格を生かすには―といった興味深い題材を用いたこの書物を手にとって読んでみたのだが、資格と言っても、私が思っている以上に力を発揮する存在ではなかったようである。また、女性の仕事としての象徴、そして味方でもあるかのように思われた、福祉系や教育系の資格は、性による分業意識を助長する原因の一つともなりうる事を知って、大変複雑な気持ちを覚えた。家事や育児に縛られず、自己実現を可能にしたい、または夫への経済的依存を軽減し自立したいと願う女性は増加しているにもかかわらず、福祉や教育系といった女性集中職がまだまだ人気であるという現状は、時代と共に女性の地位が向上してきたかのように見える裏側では、女性としての本分は、無意識のうちに、根本的にはまだ完全に改善されていないという事を意味するのであろう。女性が自然と福祉や教育分野に興味を示す傾向があるという事に対しては納得がいく。というのも、女性には元々「母性」といった本能を持ち合わせており、困っている人を助けたり人の為になりたいという願望は男性より強いものと考えるからだ。よってある程度興味分野が偏ってくる傾向にあるのは納得がいく。とは言え、これらの分野の職業を女性集中職として位置付ける風潮は良くない。これらが女性集中職となる事で、逆に、女性としての地位すら固定される要因ともなるからだ。
  女性にとって、本当の意味で、なりたい職種に就けるように支援するという事は、学習の場の拡大を意味する。学びのフィールドを広める事で、自然と興味分野も広がるだろう。例えば、女子大での学部の分野をより広範囲にするべきだ。あるいは逆に、学部といった枠組みを超えて、総合的な分野における学習の場を多く設け、できるだけ多方面の分野に触れさせる機会を与えるべきだ。皆が生まれつき持ち備えた「母性」によって職を限定するのではなく、その人が本当にしたいと思う事を発掘させる手助けをする必要があるのだ。まさに、「母性」を超えた、「個性」が重視される時代は、ここにも反映されるべきである。



労働  ◇2003年度受講者宛eMAILs  ◇ 

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