「家では、妻一人で介護していたが、身体が動かせないために妻には相当の負担になっていた。公的サービスも利用し、ヘルパーが週2回来てくれていたが、1日の時間が短く、介護の負担はたいして軽くならなかった。」(p. 14)
「退院して家に戻ったものの、その日から困ったのは、トイレであった。小柄な妻は、私を支える力がなく、ベッドから車椅子に移動するだけでも大変苦労した。少しタイミングがずれると2人とも一緒に倒れてしまい、一旦倒れると妻は体の大きい私を起こすことができない。」(p. 15)
「特養ホームは、精神、身体に障害を持ち、常に介護を必要とする人が入居するところだが、言い換えれば、まさか自分が老いて障害をもつ身になるとは思わなかったということなのである。」(p. 19)
「結婚してからずっと夫に尽くし、子育てに専念する生活を送ってきた。だから、今からでも遅くない、自由な生活がしたいと思った。<023<家にいる時とは違い、ここでは気を使わずにすむので本当に気が楽。今の生活がすばらしく感じられる。そして、もっと生きていたいと思うようになった。」(pp. 22-23)
「でも、人生の最後の時間を別々に暮らすようになるなんて辛いことです。それでも、夫が面会に来てくれる間はまだいい。夫が病気になって、入院すればもう会えなくなるんです。夫の病気が気になっても見舞いに行ってあげることもできない。何もしてあげることもできないということが一番辛いことだった。」(p. 25)
「聞き取り調査の結果から見ると、特養ホームの最初の印象を肯定的に捉えている人は89%だった。しかし、この数字は、特養ホームの生活に満足しているという数字ではなく、とにかく特養ホームに入れて安心したということを示しているにすぎない。そして、この安心は、特養ホームに入るまでの不安定な状況や家族に遠慮しながら暮らす精神的な苦痛と息苦しさから解放されて得られた安心という面が強い。」(p. 26)
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