『多文化主義・多言語主義の現在――カナダ・オーストラリア・そして日本』
西川 長夫・渡辺 公三・McCormack, Gavan 編 199710 人文書院,305p. ISBN:4-409-23026-3 2310
■西川 長夫・渡辺 公三・McCormack, Gavan 編 19971020 『多文化主義・多言語主義の現在――カナダ・オーストラリア・そして日本』,人文書院,305p. ISBN:4-409-23026-3 2310 [amazon]/[kinokuniya]/[bk1] b
■内容説明[bk1]
ともに移民国家であり多文化主義の政策を実行しているカナダ、オーストラリアの多文化主義と多言語主義の実際の姿と矛盾、可能性に光を当てる。グローバリゼーションの時代を迎え国家の概念に根本的な再検討が迫られている。
■著者紹介[bk1]
〈西川〉1934年朝鮮生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。現在、立命館大学国際関係学部教授。著書に「国境の越え方」「日本の戦後小説」など。
多文化主義・多言語主義の現在 西川 長夫著 9-23
ナショナリズム・マルチナショナル・マルチカルチュラリズム 渡辺 公三著 24-41
単一文化の神話を越えて ガバン・マコーマック著 42-54
多文化主義宣言への道 木村 和男著 55-74
カナダの多文化主義の意味するもの 加藤 普章著 75-91
ケベックの選択 石川 一雄著 92-108
北部ケベックの先住民 スチュアート・ヘンリ著 109-132
カナダにおける先住民族と先住民権 トーマス・バージャー著 ノア・マコーマック訳 133-146
多文化主義国家オーストラリアの誕生とその現在 関根 政美著 147-164
多文化主義と法の役割 杉原 充志著 165-176
先住権のゆくえ 細川 弘明著 177-199
文化を創造する人びと 鈴木 清史著 200-211
非英語圏からの移住者にとっての家庭と世代間変容 佐藤 真知子著 212-223
ポスト・エスニック・マルチカルチュラリズム 杉本 良夫著 224-242
多文化主義への挑戦 ジョージ・パパリナス著 海宝 康臣訳
◆多文化主義・多言語主義の現在 西川 長夫著 9-23
「第五に、多文化主義・多言語主義の理論的な問題にふれておきたい。多文化主義が政策として登場したという事情から、その理論的な検討がなおざりにされる傾向があった。だが運動としての多文化主義も、政策としての多文化主義も、理論としての多文化主義によって深められ裏付けられない限り、方向を見失う恐れがないとは言えないだろう。本稿で私がここまで疚しさと煩わしさを感じながら、「多文化主義」のあとに「多言語主義」ということばを付してあえて「多文化主義・多言語主義」という書きかたを続けてきたのは、一つには多文化主義のあいまいさとある種の詐術を意識化したいという気持が働いていたからである。言語は文化の最も重要な要素である。もし多文化主義を唱えるならば、あるいは多文化主義を押し進めるならば、それは論理的に当然、多言語主義を伴うはずであるし、多言語主義を伴わなければそのことについて何らかの説明を必要とするはずである。」(p.16)
「文化はあいまいな概念であるから、多文化主義を唱えることは容易である。それはたいして我身にかかってこない。だがひとたび多文化主義の必然的な帰結である多言語主義が導入されれば、事態は急変する。多文化主義を受けいれながら多言語主義を拒否する理由の説明は、いままで私の知りえた限りでは、経済的効率のみである。それは妥協によって成立つ現実政治の観点からは説得的な理由である。では、文化的多様性を認め、それぞれの文化的自立と共存を積極的に推し進めようとする多文化主義は、経済的な効率によって左右されるような性質のものであろうか。そこには論理的あいまいさが残されており、その理論的なあいまいさにあえて立ち入ろうとしない姿勢がうかがわれるのである。」(p.17)
cf.立岩真也『自由の平等』
◇序章注15 「集団としての規定・同一性の肯定性が主張されるとともに、それが他の範疇の人々の排除やそこで規定される属性に回収されるものでない個人の抑圧につながりうることが問題にもされる。そしてそれに分配の問題が重ねられるという具合になっていて事態はなお複雑なのだが、しかしそれでも私は議論がおおまかすぎると感じる。例えばテイラーが持ち出すケベック州でのフランス語の問題についてどこまでのことが言えるのか、言語は他のものとどこが共通しておりどこが異なるのかを考えるといった仕事を一つずつ積んでいくことが必要だと思う。」
テイラー/ハーバーマスの『マルチカルチュラリズム』中の文章について
「テイラーとハーバーマスという、世界的な名声を得ている第一級の哲学者たちの、多文化主義をめぐる言説のあいだに見え隠れするあいまいさや矛盾あるいは言い落としの部分のなかに、今後展開し深めなければならない多文化主義の重要な理論的課題、むしろ彼の性といったものが示されているのではないかと思う。次の四点を指摘しておきたい。
(1)先住民問題[…](19)[…]
(2)新しいタイプの自由主義の提案にせよ、民主的立憲国家の成熟にせよ、ここでの議論は既成の国民国家の存続を前提して、国民国家の枠の中で、統合形態の再編、デモクラシーやシティズンシップの新たな形態を問うという形で進められている。[…]
(3)[…]彼らが用いる文明、文化、エスニシティ、民族、アイデンティティ等々の主要な概念が、基本的には国民国家時代に形成された古い概念のままであって、そうした概念に対する根本的な懐疑や批判が、いくつかの興味深い提案はあるものの、いまだ十分に行なわれていないところ[…]
(4)二人の哲学者の緻密な論理が時にあいまいで欺瞞的に思われるのは、エスニシティや民族問題(20)の背後にあってつねにその根本的な原因になっている、差別(あるいは搾取と被搾取)のシステム、形を変えた新しいタイプの植民地主義、といったものに対する指摘や考察の欠如、あるいはそうした差別のシステムと多文化主義がいかなる関係にあるかについての考察の欠如が感じられるからではないかと思う。」(pp.19-21)
*西川長夫のファイルでも同じ文を引用
◇ナショナリズム・マルチナショナル・マルチカルチュラリズム 渡辺 公三著 24-41
◇単一文化の神話を越えて ガバン・マコーマック著 42-54
◇多文化主義宣言への道 木村 和男著 55-74
◇カナダの多文化主義の意味するもの 加藤 普章著 75-91
◇ケベックの選択 石川 一雄著 92-108
◇北部ケベックの先住民 スチュアート・ヘンリ著 109-132
◇カナダにおける先住民族と先住民権 トーマス・バージャー著 ノア・マコーマック訳 133-146
◇多文化主義国家オーストラリアの誕生とその現在 関根 政美著 147-164
◇多文化主義と法の役割 杉原 充志著 165-176
◇先住権のゆくえ 細川 弘明著 177-199
◇文化を創造する人びと 鈴木 清史著 200-211
◇非英語圏からの移住者にとっての家庭と世代間変容 佐藤 真知子著 212-223
◇ポスト・エスニック・マルチカルチュラリズム 杉本 良夫著 224-242
◇多文化主義への挑戦 ジョージ・パパリナス著 海宝 康臣訳