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『居住福祉』

早川 和男 19971020 岩波書店,227p.

last update:20100612

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■早川 和男 19971020 『居住福祉』,岩波書店,227p. ISBN-10: 4004305276 ISBN-13: 978-4004305279  \777  [amazon][kinokuniya]

■内容(「BOOK」データベースより)

住宅災害であった阪神大震災,困難な在宅介護,ホームレス問題….貧困な居住条件は人々の心身を破壊するだけでなく,その社会的費用もはかりしれない. 居住環境ストックの充実による町の防災・福祉機能向上にむけて,世界や日本の取り組みを紹介し,市民と行政が一体となった, 誰もが安心して住める町づくりを構想する.

■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

◆早川 和男
1931年奈良市に生まれる。1955年京都大学工学部卒。現在、長崎総合科学大学教授。日本福祉大学客員教授。神戸大学名誉教授。国際居住福祉研究所所長 (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

序章 住まいあっての暮らしと人生
  ◇ 住居は生存の基盤
  ◇「安心できる部屋」がほしい
  ◇ 居住を補償しない国家
  ◇ 暮らしを支える居住環境ストック
  ◇ 市民社会の基礎としての居住環境

第1章 阪神・淡路大震災に学ぶ
 1 いのちと生活を支える住居
  ◇ 震災は「住宅災害」
  ◇ 被災の階層性
  ◇ 被災を大きくした居住差別
  ◇ すべては住居の属性
  ◇ 希望をつくる生活の根拠地
 2 居住環境と防災対策
  ◇ 地震がこわい
  ◇ 警告されていた大震災
  ◇ 狭小過密居住での死傷
  ◇ 生活と公園
  ◇ 避難拠点としての公共住宅団地
  ◇ 学校と防災
  ◇ 遠距離通勤と防災
  ◇ いのちを救った福祉施設
  ◇ 町なかの医療機関の役割
  ◇ 学校には障害者がとどまれなかった
  ◇ 本当の危機管理とは

第2章 健康と住居
 1 現代の傷病と住居
  ◇ 住居がつくる傷病とリハビリテーションの困難
  ◇ 狭小過密居住
  ◇ 傷病を生む家屋構造
  ◇ 居住設備の不備
  ◇ 住環境――日照・通風の不良、高湿度
  ◇ 居住権の侵害・住居費負担と傷病
  ◇ 妊婦・新生児・乳幼児の健康
  ◇ シックハウス症候群
  ◇ スウェーデンの対応
 2 イギリスのとりくみ
  ◇ 住居と健康への医師の対応
  ◇ 克服すべきは"犠牲者シンドローム"
  ◇ "シェルター"による「子どもと健康」調査

第3章 高齢者と居住福祉
 1 なぜ老人ホームへ
  ◇ 高齢者居住福祉の条件
  ◇ 老人ホーム入所の三大理由は家庭・身体・住宅事情
  ◇ 家の狭さが最大の理由
  ◇ 帰る家がない
  ◇「社会的バリアフリー」の確立
  ◇「弱者対策」の誤り
  ◇ 福祉政策と居住福祉の合体を
 2 居住保障と地域社会の役割
  ◇ 転居の弊害
  ◇ ちょっと待て、退職後の転居
  ◇ 居住継続にとりくむ西欧
  ◇ 地域と結び付く高齢者福祉施設
  ◇ 地域密着型ミニデイサービス施設
  ◇「老人狩り」を引き起こした特養の建設
  ◇ 居住福祉は市民参加のもとに
  ◇ 福祉のまちづくりとは

第4章 居住福祉原論
 1 住居は福祉の基礎
  ◇ 社会福祉制度の役割と限界
  ◇ 社会保障制度審議会の勧告
  ◇ 社会的予防医学としての住宅政策
  ◇ 住居は社会資産
  ◇ 万をこわして一をつくる?
  ◇ サービスによる福祉からストックによる福祉へ
 2 福祉を支える居住
  ◇ 西欧における住居規準の制定
  ◇ アメリカの住居基準
  ◇ イギリスの教訓
  ◇ 居住の権利を脅かす諸政策――新しい局面
 3 居住民主主義
  ◇ 住居は人権である
  ◇ 居住の権利宣言
  ◇ 居住の権利感覚
  ◇ 市民全体の居住政策と住む能力の発展
  ◇ 近代住居理論批判
  ◇ 居住地が養う社会的良心
  ◇ 居住思想の追求

第5章 居住福祉への挑戦――世界と日本
 1 欧米の居住権運動
  ◇ それは一人の幼児の凍死から始まった
  ◇ 借家人同盟の活躍
  ◇ 低所得者住宅に寄付する企業市民
  ◇ 非住宅を住居に変える
  ◇ 市民映像センターの活動
  ◇「キャシー・カムホーム」からホームレス法制定へ
  ◇ シェルターの活動
  ◇ バトラー博士の積極行動主義
 2 日本のとりくみ
  ◇ 待つ福祉から出かける福祉へ
  ◇ 大工・職人の役割
  ◇ 不動産業者の社会的役割
  ◇ 住宅改善チーム構想
  ◇ 被災住民よるまちづくりの提言
  ◇ 行政を動かし地上げを追い払ったお母ちゃんパワー
  ◇「絆をつくる町」のメッセージ
  ◇ 自治がつくる居住福祉

むすびにかえて――わたしの住居研究

■引用

◆居住を保障しない国家
「一九九六年六月、東京都大田区の多摩川河川敷には七二軒の小屋があった。そこに住む人たちにたいして、東京都は立ち退き勧告と 強制執行を行った。住人の中には、倒産したり、借金取りに追われたり、家賃を払えなくなってやって来た元社長や専務もいた。
 「Iさん(四九歳)は大手ゼネコンの下請け会社の社長だったが倒産し、川崎市内のマンションの家賃が払えなくなり、 元社員ら五人と河川敷に来た。今も週二、三回仕事に出かける。別の男性(五一歳)は市営住宅から河川敷に移り住んで 五年。日曜日以外は仕事に出かける。敷金がないのでアパートは借れない。」(『東京新聞』一九九六.六.二五)<007<
 居住の不安は、公共住宅でも同じである。
 一九九二年七月、大阪・東豊中団地に住むHさん(七一歳)が内縁の妻(八四歳)を絞殺し、自分も首をつって死ぬという事件が おきた。二人の収入は年金の月三万円、家賃などを払うと三、四千円しかのこらなかった。三〇年余払いつづけてきたが一年半ほど 前から滞納、公団は明けわたし訴訟をおこし、老夫婦は強制執行の前日に心中したのである。(『朝日新聞』一九九二・七・三ほか)
 全国に約七二万世帯が住む公団住宅の居住者は、失業したり年金暮らしになったり、家賃値上げで払えなくなると、裁判にかけて でも追い出される。それを苦にした自殺、無理心中、餓死などが頻発している。
 平成年度に入ってから公団住宅家賃を三ヶ月以上滞納した者は毎年一万世帯前後、そのうち裁判にかけられたもの約四千件、 和解や自ら出ていったものを除いた強制退去は毎年約千件。その数は年々ふえている。家賃滞納件数・訴訟件数が毎年ほぼ一定な のにたいし強制退去の件数がふえているのは、公団当局による家賃のとりたてが苛酷になっているからであろうか(表1)*1)。
また町なかの民間借家などに住む住民が、行政の再開発事業とそれにからむ暴力的地上げな<008<どで追い立てられる事態が再びぶり返し、 人びとを居住不安に陥れている。持ち家所有者とて例外ではない。固定資産税、相続税などで住み続けられなくなる心配は大きい。」(pp.006-008)
*1)公団住宅家賃滞納状況と滞納者に係る法的措置状況 住宅都市整備公団

「家なき人がふえている原因は、ホームレスの例のように経済不況の場合もあるが、政府や自治体などの住宅・土地政策も大きく 作用している。
 戦後の日本では、「国民の生存権、国の社会保障的義務」を規定した憲法二五条に基づき、国民の強い運動もあり、まがりなりにも 各種の社会保<009<障制度がつくられてきた。だが、住居保障に関しては、その理念も制度もない。わずかに公営住宅があるが、その量は 一九九四年度末で約二〇九万個、住宅全体の約五年にすぎない。
 新築公営住宅の応募倍率は、たとえば平成六(一九九四)年度の全国平均は七倍、東京、大阪など三大都市圏では一六倍。都市住宅の 募集戸数(新築・第一種公営住宅)は八二二戸、応募者数二万九六八六人、応募倍率三六.一倍などで当選は僥倖に近い。」(pp.008-009)

◆高齢者居住福祉の条件
「日本は急速な高齢社会に向かっている。政府はこれに対応するため平成元(一九八九)年に「高齢者保健福祉推進一〇ヵ年戦略」 (ゴールドプラン)、平成六(一九九四)年に「新ゴールドプラン」で高齢者介護サービス基盤整備の基本的枠組みを示した。
 「ゴールドプラン」は在宅福祉をめざしている。それは基本的に望ましい方向だが、高齢者の住宅が老朽・狭小過密のままで、 あるいは自立生活やリハビリを支えられない居住条件では在宅福祉は成り立たない。ホームヘルパーその他の在宅介護支援体制が充実し 公的介護保険制度があっても、介護する場としての「宅」がなければ、在宅介護は困難である。「寝たきり老人ゼロ作戦」 などは夢のまた夢ということになる。
 総じて、現在の高齢者福祉政策は介護の場となる「宅」を抜きにして論じられている。在宅福祉政策の総点検が必要になっている といえよう。」(p.88)

 「在宅福祉を可能にする条件の基本は、
1 経済的条件=年金などの所得保障
2 高齢者が住めるコミュニティ=自己決定、自立、自主性のある行動を支える
であり、具体的には次のようなことがあげられる。
 ○収入に合った住居費負担で、安全で安心して住み続けられる住宅。
 ○コミュニティの安定。自分だけでなく地域の人も追い出されない。
 ○医療・保健サービス
 ○デイサービス、ショートステイ、特養、老健施設、ヘルパー、給食、その他の福祉サービスが近隣に存在すること。介助器具の貸与。
 ○日常の生活環境施設が整い、交通が便利なこと。自立した自主性のある外出の容易な町。」(p.89)

◆不動産業者の社会的役割
「ひとり暮らし老人にはなかなかアパートを貸してくれない。<208<
 東京都の不動産代理・仲介業者に対するアンケート調査によると、高齢者が入居する際の問題点は、「体が弱くなったり 病気になった場合の対応が困難」六五.一%、「保証人がいない場合がある」四二.九%、「家の構造や設備が合っていない」 二七.〇%、「住宅の安全管理面で問題がある」二五.四%、「家賃が希望に合わない」二〇.六%などである(東京都「高齢期の 住まいと費用」平成八年三月)。
 この課題に応えようとしているのが、東京都宅地建物取引業協会江戸川区支部の仲介業者である。(…)」(pp.207-208)

◆社会保障制度審議会の勧告
「たとえば昭和三七(一九六二)年八月二二日、総理府社会保障制度審議会(大内兵衛会長)は「社会保障制度の総合調整に関する 基本方策についての答申および社会保障制度の推進に関す勧告」を池田勇人内閣総理大臣に提出した。そこでは次のように問題の指摘 と改革の方向が<134<述べられている。「わが国の住宅難は国民全体の問題である。これに対する国の施策が不十分であるうえ、近年の産業構造の変革、 人口の過度な都市集中などがいよいよ深刻にしている。とくに国の住宅政策は、比較的収入の多い人の住宅に力を入れているので、自己の負担によって住宅を もつことができず、公営住宅を頼りにするよりほかない所得階層の者はその利益にあずからない。これでは社会保障にはならない。住宅 建設は公営住宅を中心とし、負担能力の乏しい所得階層のための低家賃住宅に重点をおくよう改めるべきである。」厳しい批判である。 もし、この勧告に従って住宅政策が展開されていれば、国民の居住状態は少しはよくなっていただろうと思われる。」(pp.133-134)

「このような問題意識をさらに強くもったのが、平成七(一九九七)年七月四日の社会保障制度審議会(隅谷三喜男会長)による 「社会保障制度の再構築――安心して暮らせる二一世紀の社会を目指して」(村山富市内閣総理大臣に提出)である。この勧告は、 今後の「社会保障の理念」<135<として国民に「自立と連帯」を求めるなど、社会保障の権利性を否定し、国家責任を放棄ものという批判が強い。 しかし、住宅政策と住居の貧困については、危機感がみなぎっている。「住宅、まちづくりは従来社会保障制度に密接に関連するとの 視点が欠けていた。このため、高齢者、障害者等の住みやすさという点からみると、諸外国に比べて極めて立ち遅れている分野である。 今後は、可能な限りこの視点での充実に努力を注がれたい。」「我が国の住宅は社会における豊かな生活を送るためのものとしては 余りにもその水準が低く、これが高齢者や障害者などに対する社会福祉や医療の負担を重くしている一つの要因である。……在宅福祉 を重視する政策が今後進められなければならないが、その受け皿となる「住み慣れた家」の安全性や快適性、福祉用具の利用可能性が 改めて問われている。」「実質的には住宅問題であるものが福祉の問題として対策を迫られている事例もあり、生存と生活の基盤である 住宅について、……福祉との連携を重視した住宅政策の展開が不可欠である。」<136<的を射た指摘である。高齢社会を意識した内容に なっているが、高齢者の住居の劣悪さは住宅一般の低水準の延長線上にあることは、先に述べたとおりである。」(pp.134-136)

■書評・紹介

■言及



*作成:山本 晋輔 *増補:北村 健太郎
UP: 20090705 REV: 20100612
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