HOME > BOOK >

『ナースのための精神医学――症状のとらえ方・かかわり方』


last update: 20110124
このHP経由で購入すると寄付されます

浜田 晋・竹中 星郎・広田 伊蘇夫 編 19970910 『ナースのための精神医学――症状のとらえ方・かかわり方』,日本看護協会出版会,281p. ISBN-10: 4818005940 ISBN-13: 978-4818005945 3360 [amazon][kinokuniya] ※ m.

■目次

T.精神の発達と危機 広田伊蘇夫 1

はじめに:霧の中での模索 1
A.ライフサイクルということ 3
B.乳・幼児期:共生から分離への道 4
 1.経験としての1例:ある養護施設で 4
 (a)養護施設入所に至った経緯 4
 (b)入所後の生活記録 5
 (c)日常的対応 5
 (d)成長とキー・パーソンの存在 6
 2.乳・幼児期と母親 7
 (a)共生・絶対的依存から基本的信頼の芽生え 7
 (b)ほどよい育児と精神的自立 8
 (c)強制的分離・放置と依存的抑うつ 8
 (d)育児の要点 9
 3.幼児と父親 10
 (a)サルトルの幼児期回想 10
 (b)現実認識能力と父親の役割 10
C.児童期:集団と自己との葛藤期 11
 1.児童期の危機 11
 (a)登校拒否ということ 12
 (b)登校拒否児の心 13
 (c)坂口安吾の眼差し 14
 (d)ある登校拒否児の作文から 14
 2.対人関係の拡大 15
 3.児童の現代的変貌 15
D.青年期:アイデンティティ確立への道 16
 1.青年期の身体的変化 17
 2.エリクソンとアイデンティティ論 17
 (a)ある症例 18
 (b)母親殺しと一卵性母娘 19
 (c)脇道から〔アイデンティティ〕の確立を考える 20
 3.青年期に多い心の病い 20
 (a)過剰な自意識と対人恐怖 20
 (b)対人恐怖の軽症化 22
 (c)その他の好発疾患 23
 4.いじめをめぐって 24
E.中年期(壮年期):個性化への道 25
 1.中年期の課題――ユングおよびエリクソンの見解 26
 2.中年期の身体的・心理的変化 26
 3.ライフ・イベントと心の揺らぎ 27
 4.中年期に多い心の病い 28
F.老年期:衰弱と円熟 30
 1.老年期と年齢 30
 2.老いと生理的機能 33
 3.老いと睡眠 34
 4.老いと知的機能 36
 5.老いと性格変化 38
 6.家族・社会のなかでの老い 39
 7.老髦と介護 41
G.死に臨む心と医療 43
 1.死にゆく場の変貌 43
 2.死に臨む心の時間構造――日めくりカレンダーを生きる 44
 3.死に臨む心の空間構造――孤独の心を生きる 45
 4.孤独の心と身体の痛み 46
 5.死に臨む心の生命飢餓感 47
 6.死に臨む病者の反応 49

U.精神症状をどうとらえるか 竹中星郎 53

A.関係はいかにして確立されるか 53
B.理解するということ 54
 1.全体を理解する 55
 2.心理的な距離 55
 3.「理解」は急がない 56
 4.本音は後から話す 56
 5.話すことの意味 58
C.受容と共感 59
D.転移と逆転移 61
E.関与しながらの観察 62
F.精神症状へのかかわり 63
 1.精神症状が急変したとき 64
 2.防衛機制について 65
 3.退行と転換 65
 4.興奮や暴力行為の背景を考える 66
 5.病棟の人間関係をダイナミックにとらえる――「治療共同体」 68
 6.患者は自分の病気をどのように考えているか 69
G.現象のとらえ方と方法論 71
 1.心理的な問題と脳の症状、身体の相関 71
 2.多元診断 72
 3.精神分析と現象学的人間学 73
 (a)精神分析 73
 (b)現象学的人間学 75
H.精神医学的な現在症のとらえ方 75
I.精神病の分類 75

V.どうかかわるか 浜田 晋 83

A.出会い 84
 1.「出会う」ということ 84
 2.「出会い」を妨げるもの 88
 (a)病者に対する差別感 88
 (b)医療者と患者のあいだ 89
 (c)ここにたどりつくまでに 90
 (d)世の医療不信のなかで 90
 3.出会いの場 90
B.診断について 92
 1.評価と理解 92
 2.見立てについて 94
 3.疾病性と事例性 96
C.心のケア 98
 1.感性をみがく 99
 2.精神療法から学ぶ 100
 (a)受容、受け入れる accept 101
 (b)適切な距離を保つ 101
 (c)転移と逆転移 102
 (d)両価性(アンビバレント) 103
 (e)あるがままま 104
D.治療過程−地域内ケアの道を探る 104
 1.治りつづけたFさん 104
 2.「治療チーム 」について――とくに地域内ケアのなかで 109
 3.家族 114

W.精神分裂病 広田伊蘇夫 121

A. 精神分裂病の概要 122
 1.好発年齢 122
 2.罹病危険率・受療者数 122
 3.経過・予後 122
 4.神経症との相違点 122
 5.精神分裂病者の思考・認知の特異性 123
 6.感情様態、行動面の特異性 124
 7.精神分裂病の病型 125
 8.向精神薬(副作用をふくめて) 125
B.症例 126
 1.外来通院のみで経過している症例 126
 2.外来受診、短期入院、そして外来通院中の症例 127
 3.多彩な幻聴・妄想エピソードに悩まされる症例 128
 4.長期にわたり社会生活をし、一過性に症状の再燃した症例 129
 5.4日間の母親の不在が精神の錯乱に至った症例 130
 6.長期入院、退院後、時々休息入院する症例 132
 7.老いてなお 133
C.精神分裂病者と医療 133
 1.言葉より聴く力を 134
 2.感受性ということ 135
 3.常識という土俵とゆとり 136

X.躁うつ病 浜田 晋 139

A.うつ状態 139
 1.精神症状 139
 2.身体症状 140
 3.なかでも特徴的な症状 140
 4.表出症状 141
 5.さらにいくつかの症状 141
B.躁状態 142
C.病型 143
 1.古典的躁うつ病 143
 (a)両極性躁うつ病(循環病) 143
 (b)単極性うつ病 143
 (c)単極性躁病 144
 2.今日的うつ病 144
D.治療とかかわり 147
 1.薬物療法 147
 2.小精神療法 148
 3.生活指導 149
 4.家族とのかかわり 150

Y.境界例 松本雅彦 153

A.概念 153
B.症例 154
C.境界例の病理 158
 1.症状 158
 2.力動 161
 (a)カーンバーグ 161
 (b)マスターソン 163
D.診断 164
E.治療 166
F.境界例登場・増加の社会文化的背景 168

Z.心の揺れと身体症状(身体表現性障害) 広田伊蘇夫 171

A.身体症状の底にひそむ心の揺れ 172
B.症例 172
 1.過換気症状で頻回に救急車で夜間来院していた症例 173
 2.顎・口唇部の不随意運動を繰り返した症例 174
 3.頻回にふらふらっと崩れ、「てんかん」として治療されてきた症例 175
 4.慢性的に背部痛・頭痛を訴える症例 176
 5.便通にこだわる症例 177
 6.ふらつき、頭重感、食欲不振を訴えて受診した症例 178

[.アルコール依存症 樋掛忠彦 181

A.症状 182
B.経過 185
C.治療とケア 186
 1.治療への導入 186
 2.入院治療と外来治療 187
 3.集団療法の重要性 187
 4.自助グループへの参加 188
D.家族への援助 189
E.いくつかのトピックス 190
 1.女性のアルコール依存症 190
 2.単身のアルコール依存症 192
 3.老年期のアルコール依存症 192

\.睡眠障害 広田伊蘇夫 195

A.夜間睡眠中の異常行動 195
 1.夜中に起き上がり、歩き回る症例 195
 2.夜間、絶叫し飛び起き、駆け出した症例 196
B.不眠症 197
 1.不眠症診断のガイドライン 197
 2.不眠症に関与する諸要因 198
 3.睡眠薬を投与する前の心得 199
 4.睡眠薬の投与に関して 199
C.過眠症 200

].症状精神病(身体病による精神症状) 竹中星郎 201

A.症例: 肝性脳症 202
B.臨床症状 203
 1.意識障害 203
 (a)重い意識障害:昏睡 203
 (b)中等度・軽度の意識障害 204
 (c)せん妄、もうろう 205
 2.うつ状態 205
 3.通過症候群 206
 (a)情動障害 207
 (b)幻覚・妄想 207
 (c)健忘(コルサコフ)症候群 207
 (d)人格変化 207
C.意識障害を来す原因 208
 1.代謝性疾患 208
 2.内分泌疾患 208
 3.感染症 210
 4.その他 210
D.意識障害への対応 211
 1.意識障害の早期発見 211
 2.具体的な対応 211
 3.原因を考える 212
E.人工透析の精神医学的問題 213
F.リエゾン精神医学とその役割 214
 1.医療の全般的な状況と問題について認識する 215
 2.身体と精神症状との相関をみる 216
 3.精神的な問題について責任をもつ 216
 4.他科のスタッフとの連携 217
 5.他科のスタッフをサポートする 218
 6.精神障害者の合併症への取り組み 219

XT.心的外傷後ストレス障害(PTSD) 浜田 晋 221

A.症状 224
B.治療 225

XU.老年期の精神障害 竹中星郎 227

A.老年期の精神障害の位置づけ 230
 1.脳の病気と心の病気 230
 2.性格変化・人格障害 232
B.老年期の心理的な特性 233
 1.喪失体験 235
 2.孤独・孤立 235
 3.死の現前化と不安 236
 4.適応 237
 5.性格・人格 238
C.心の病い 239
 1.妄想 239
 (a)盗られ妄想 239
 (b)老年期の妄想の特徴 240
 (c)作話との違い 241
 (d)迫害妄想 241
 (e)嫉妬妄想 241
 (f)接触欠損妄想「幻の同居人」 242
 (g)慢性体感幻覚症 242
 (h)願望による妄想 244
 (i)共同体被害妄想 244
 (j)人物誤認、家族否認 244
 2.うつ病 245
 (a)仮性痴呆 245
 (b)老年者のうつ病の特徴 246
 (c)身体の病気によるもの 246
 (d)うつ病の身体的管理 247
 (e)うつ状態への対応 247
 3.神経症 248
 4.老年期の人格障害 250
 (a)若い頃からの性格が顕在化する 251
 (b)老年期に特有の人格障害 252
D.痴呆性疾患 253
 1.痴呆の臨床症状 254
 (a)記憶・記銘の障害 254
 (b)見当識障害 254
 (c)意欲や人格水準の低下 254
 (d)生活行動の障害 254
 (e)随伴症状 255
 (f)夕方症候群 255
 2.痴呆を来す疾患 255
 3.アルツハイマー病 257
 4.血管性痴呆 258
 5.その他の痴呆性疾患 259
E.老年者に対する看護・介護について 260
 1.個の存在として 260
 2.生活史 260
 3.自立の意味 261
 4.家族を支える 261
 5.話を聞く、テンポを合わせる 262
 6.補聴器、ベッドの高さ、履物など 262
 7.ラジオ、新聞 263
 8.個人的な経験を点検する 263
 9.テストの問題 263
 10.自らの人間観を広げる 264

おわりに代えて――水俣病から学ぶもの 浜田 晋 267

索引 273

■引用

 「はじめに

 本書には歴史がある。
 生まれたのは『新らしい精神科看護』(東京都立松沢病院長 江副勉監修、同病院吉岡眞二、岡田靖雄編、1964年4月)である。それは雑誌『看護』に1960年1月から3年5ヵ月にわたって掲載されたものをもとにまとめられ、執筆者10人中6人までが松沢病院医師であった。
 序文に江副勉(当時松沢病院院長・すでに故人)は言う、「著者らはみんなわたしの親しい若々しい考えをもった同僚であり、来る日も、また来る日も、精神病院の中で、数多くの心を病む人々のために献身している真摯な、活動的な臨床家です」と。
 たしかに私たちはみんな若かった。精神医療の夜明けを信じ、燃えていた。その本は「小精神医学」教科書ではなく、症例を中心にわかりやすく、精神病院で働く看護者のための実践的な書としてスタートした(表紙が青いことから巷間「青本」と呼ばれていた)。
 ついで10年後の1973年10月、『精神医学と看護−症例を通して』(浜田晋、広田伊蘇夫、松下正明、二宮冨美江編)として登場した(巷間「黄本」と呼ばれる)。執筆者は21名となり看護者が4名加わる。
 1965年の精神衛生法の改正を機に「精神病院入院中心主義から地域内ケアへ」と私たちの眼はむかう。しかしそこでもまだ軸足は精神病院の中にあった。世は激動の時代にあり、精神病院のあり方が根底から問われていた。
 そして1982年2月、この書の集大成ともいうべき分厚い『改訂版 精神医学と看護−症例を通して』を世に問うこととなる(巷間「白本」と呼ばれる)。執筆者24名(うち看護者5名、PSW1名、OT1名)、松沢病院に在職するものわずか2名と激減している。序文には「今日精神障害者問題は“病める個人を病院の中”から“社会という文脈”の中で彼らをどうとらえ、どうかかわってゆくか」とうたわれている。
 それから更に十数年がたった。この十年の医学界の発展はおどろくべきものがある。画像診断ひとつをみても、医療の成り立ちを根本から変えるものがある。
 そして今、高度技術化、近代化された医療は、患者にしあわせばかりはもたらさなかった。この庶民の医療不信のなか、豊かな国日本の医療は、危機的状況にあるという見方もできよう。
 健康診断でMRIをとってもらった老人が、「大根の鬆(す)のようにあなたの脳は鬆だらけだ」と言われて、その夜からせん妄になった。このようにして新たな患者が、近<@<代医療によって、また高度経済成長のなかで、家族の変質のなかで、つくられていく。
 疾病構造も大きく変わった。大精神病(精神分裂病と躁うつ病)も、古典的神経症も、「軽症化」し、変容し、普遍化した。その境界は不鮮明となり、「精神疾患」が身近になった。そして高齢社会を迎えた。そこではもはや「精神医学」と「身体医学」を分けることは許されなくなったのである。
 そして第4冊目『ナースのための精神医学』が浜田・広田・竹中のわずか3名によって再び書きなおされることとなった。もはや3名とも精神病院にはいない。若干のうしろめたさ(今日依然として精神病者は鍵の中にいる)を感じつつも、である。
 ここではもう名店街はいらない。スリムにしよう。「今、精神科医にとって何が本質的な課題なのか」、それを看護者とともに考えたい、ということがねらいとなった。
 そして3名の意見は大きく違った。
 「精神医学」という軸足をきっちり定め、患者や老人をどう理解しかかわるか(あえて“精神科看護者のため”という枠をはずして一般看護者を視野に入れつつ)を追究する立場と、自らの医療観・人間観を生身で表現する立場と、いま精神科医としてとくにナース(運命共同体)にどんなメッセージを送りたいかという3つの立場に分かれた。読者から「一体なんだ、これは……」とお叱りをこうむるかもしれない。正直いってまとまりを欠いている。書名も『それぞれの精神医療』としたほうがよいのかもしれない。
 しかし私はこれでよいと思っている。いまや個の時代なのであろう。私たち3人が何かを述べた。ここから読者自身が、何かを感じてくださればそれでよい。まとまった精神医学の本はいっぱいある。あえて比喩的に言うならば、第1書は「子供の時代のなかで」、第2書は「青春の書」、第3書は「成人の集大成」として、第4書は「老いの果てに」の象徴とでもなろうか。それぞれの味わいを感じとっていただければよい。ただ、ここで最も大切な核は、症例である。この症例だけは大切に読み込んでほしい。そこには4書を通じての基本的理念がふくまれている。
 不安の時代である。危うい時代である。そして私に残された時間は乏しい。そこでともに生きる人間として、どう生きるか。この書が一隅を照らす灯りともなれば、幸いである。そしてこの書を人ははたして何色本と呼ぶのであろうか。
 なお最後に、この4書を通じて日本看護協会出版会の方々が、見守り、アイディアを出し、編集にあたった。ありがとうと言っておきたい。

                          1997年8月
                               浜田 晋

UP:201101030 REV:20110816
精神障害/精神医療/…  ◇精神障害/精神医療/…・文献  ◇精神医学医療批判・改革  ◇浜田 晋  ◇広田 伊蘇夫  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)