「@ 均衡において、第一部門に男性が多いのは、女性の結婚退職の確率が高いので、そのリスクを補うためにより高い能力を女性に要求するからである。しかしながら、それは必ずしも能力や嗜好に性的格差があることを意味しない。フィードバック効果があれば、複数均衡の事態が生じ、事前の性的格差がない場合でも、一方の性が優遇される事態が発生しうる。
A 複数均衡が存在するときいずれが選択されるかは、歴史的経緯に依存する。すなわち、企業が採用戦略を変更するには何らかの費用が必要であるという仮定の下では、男性は市場労働、女性は家事労働ときいう性的比較優位が明確であった時代に採用された戦略により近い戦略が、性的比較優位消滅後も最適戦略として選択される。
B 日本のように、大企業や中堅企業で内部労働市場が発達し、雇用が長期にわたる社会では、差別的採用が行われる可能性の高いことがモデルから推測手できる。」(238)