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『雇用慣行の変化と女性労働』

中馬 宏之・駿河 輝和 編 19970625 東京大学出版会,339p. ISBN: 4130401548 5670


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■中馬 宏之・駿河 輝和 編 19970625 『雇用慣行の変化と女性労働』,東京大学出版会,339p. ISBN: 4130401548 5670 [boople][amazon] ※

・内容(「BOOK」データベースより)
日本の労働市場の構造変化を解明。「日本型」雇用慣行のゆくえは?女性をとりまく雇用システムはいかに変容を遂げるのか。
・内容(「MARC」データベースより)
労働力の高齢化がもたらす様々な問題に対し、女性の労働市場への参加はどういった意味をもつのか。「日本型」雇用慣行のゆくえや、女性をとりまく雇用システムの変容を探る。
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 目次
序章 雇用慣行の変化と女性労働―課題と要約

 第I部 「日本型」雇用慣行の変容
1章 日本企業の雇用調整――企業利益と解雇
2章 経済環境の変化と中高年層の長勤続化
3章 生え抜き登用の後退と内部労働市場の変質――マイクロ・データによる検証
4章 賃金勾配における企業特殊的人的資本とインセンティブ
5章 就職市場における大学の銘柄効果

 第II部 女性をとりまく雇用環境
6章 日本における男女賃金格差の要因分析――同一職種に就く男女労働者間に賃金格差は存在するのか? 中田 喜文 173-199
7章 男女間賃金格差の経済理論  川口 章 207-
8章 コース別人事制度と女性労働  脇坂 明 243-
9章 女性の就業選択――家庭内生産と労働供給 永瀬 伸子 279-
10章 アンペイド・ワークの議論と女性労働 篠塚 英子 313-335


6章 日本における男女賃金格差の要因分析――同一職種に就く男女労働者間に賃金格差は存在するのか? 中田 喜文 173-199

 「労働経済学の立場から、性に基づく「賃金差別」の存在を厳密に実証する努力は、未だ十分に行われていない。」(p.177)
 「我々は、後者の労働市場分断仮説が、現実の現象と整合的で、説明しては適切なものと判断した。なぜなら、これら2つの仮説は、労働市場の機能面に関しては、同一職務を遂行する男女間で職務訓練量について企業が差をつけるかどうかで異なる立場をとる。また現象面においては、そのような訓練量差の結果、同一職務に就く労働者の勤続年数、職務経験年数などの経験属性の市場評価において、男女差が存在するかにおいて異なる予想を持つ。そして、我々はすでに、この現象面における検討結果として、労働者の経験属性の市場評価において、男女差が存在しないことを、職種別賃金関数の推定をとおして示したからである。」(196)
 「本章の結論のとおり、男女賃金格差のほぼすべてか、職務遂行能力とは無関係な年齢要因の経済評価の男女差によるものであり、かつそれが男女役割分担を思想的背景に、労使による生計費へ配慮した賃金交渉の結果によるとすると、そのような賃金格差は労働基準法の規定する「同一労働同一賃金原則」に反することは明らかである。」(197)


7章 男女間賃金格差の経済理論  川口 章 207-

 「@ 均衡において、第一部門に男性が多いのは、女性の結婚退職の確率が高いので、そのリスクを補うためにより高い能力を女性に要求するからである。しかしながら、それは必ずしも能力や嗜好に性的格差があることを意味しない。フィードバック効果があれば、複数均衡の事態が生じ、事前の性的格差がない場合でも、一方の性が優遇される事態が発生しうる。
 A 複数均衡が存在するときいずれが選択されるかは、歴史的経緯に依存する。すなわち、企業が採用戦略を変更するには何らかの費用が必要であるという仮定の下では、男性は市場労働、女性は家事労働ときいう性的比較優位が明確であった時代に採用された戦略により近い戦略が、性的比較優位消滅後も最適戦略として選択される。
 B 日本のように、大企業や中堅企業で内部労働市場が発達し、雇用が長期にわたる社会では、差別的採用が行われる可能性の高いことがモデルから推測手できる。」(238)


10章 アンペイド・ワークの議論と女性労働 篠塚 英子 313-335

1.本章の目的
2.アンペイド・ワーク登場の背景
 2.1 女性運動の国際的潮流
 2.2 先進国と第三世界諸国にみる対応の相違
 2.3 日本での議論不毛の理由
 「久場がいうように、当時評価されていたのは専業主婦に限定した家事労働を中心とした狭義のアンペイド・ワークだけであり、現在、関心が持たれている女性全体(有業者も含めた )が担っていたアンペイド・ワークの評価ではなかった。さらに男女を含めたボランティアなどの行為までを含む広義のアンペイド・ワークの議論にまで進展することはなかった。」(p.318)
 「議論を先取りすると、第三者に依託できるサービスだけがアンペイド・ワークである。しかし当時の日本では…」(p.318)
3.アンペイド・ワークの経済的解釈
 3.1 SNAにみる生産境界問題
 境界領域の定義
 「対価の有無の区別は経済学では労働サービスが「生産的か、非生産的か」で定義されるが、両者の境界領域での線引きは不明瞭である。」(p.320)
 家事労働をSNAから除去する理由
 ウォーリングの批判
 3.2 第三者基準について
 3.3 日本での議論不毛の理由


■書評・言及

◆稲葉振一郎
 「中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』(東京大学出版会)。
(大体において)新古典派の立場の労働経済学者たちによる共同研究の成果である。計量的実証分析がメインであり、表題通りのテーマについて日本の学界の最新の成果がうかがえる。しかし個人的に興味深かったのは、数少ない理論的論文である川口章「男女間賃金格差の経済理論」と篠塚英子「アンペイド・ワークの議論と女性労働」である。前者は伝統的な「統計的差別理論」をゲーム理論の道具を使って動態化(差別の再生産のモデル化)しており、後者はかつてマルクス主義フェミニストが言上げしながら、スローガンばかりで有効な分析を与えてこなかった家事を初めとする不払労働についての議論が新たな局面に入りつつあることを教えてくれる。」

◆石田 好江 19991110 書評 『社会政策学会誌』02:205-209

UP:200504 REV:1022 20060810
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