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『日本的雇用慣行の経済学――労働市場の流動化と日本経済』

八代 尚弘 19970124 日本経済新聞社,,264p. 1854



八代 尚弘 19970124 『日本的雇用慣行の経済学――労働市場の流動化と日本経済』,日本経済新聞社,264p. 1854 ・この本の紹介の執筆:櫛田英司(立命館大学政策科学部4回生)


序章 日本的雇用慣行と日本経済(p3〜11)

「日本的雇用慣行とは、一般に長期的な雇用や年功序列・賃金体系、および企業内組合などの雇用・賃金形態として理解されている」(P3、L1〜2)
要旨)1990年代に入って、日本経済の環境は大きく変化した。その中で日本企業の従来のやり方が見直されるようになってきた。この背景には、人口の少子・高齢化、企業・経済活動の国際化、社会・経済的規制の緩和などの「三つのK」があげられると著者は言う。これまで成功を収めてきたシステムは、社会経済環境の変化の中での対応が遅れ、大きな調整コストを強いられる場合も多い。その調整を円滑に進めていくにはどのような政策が必要とするか検討するのが本書の課題であるとしている。

1 日本経済の環境変化(p4〜p6)

要旨)1992年以降の日本の経済停滞の長期化は、単なる景気循環ではなく、中期的な経済成長の屈折をともなったものである可能性が大きい。日本経済の「成熟化」が、中期的な経済成長減速の大きな要因と考える事もできる。しかし、中期的な経済成長の屈折はバブル景気の中では充分に認識されなかった。つまり、「戦後最悪の不況」は、構造変化と景気循環とが重なった複合要因に基づくものといえる。

2 日本経済の構造改革と労働市場(p6〜p7)

要旨) 多くの日本企業が、雇用制度・政策を改め、より低い成長のもとでも安定した経営を維持できるような体制へのリストラを進めている。今後、企業活動の国際化は大きく進むことから、多くの企業は世界的な観点から投資・生産活動の再配置を考えるであろう。また、労働市場は企業と家族とを結ぶ重要な接点である。日本企業の構造改革が成功するかどうかのカギは、市場機能を最大限に生かす規制緩和の進展であり、それは労働市場で重要になる。市場における労働力需給の調整を効率的に行うためには、社会的規制の大幅な緩和がより重要になる。つまり、家族や社会保障など労働市場と密接な関係にある分野の政策の再検討が必要になる。

3 本書のねらいと構成(p7〜11)

要旨) 第1章では、国際比較の視点から米国や欧州と比べた日本的雇用慣行の問題を検討する。これまで日本の失業率が平均的にも低く、またそれが景気変動の中で相対的に安定してきたのは何故か、こうした雇用の安定の主たる要因として、企業内訓練をもっとも効率的に行うシステムとしての日本的雇用慣行を国際比較の観点から検討する。
    第2章では、これまでの日本的雇用慣行を支えてきたメカニズムについて考える。
    第3章では、欧米と比べて日本の雇用者がこれまで払ってきた長時間労働、頻繁な転勤にともなう家族の負担などの社会的コストと比較考量する。
    第4章では、日本的雇用慣行の実態について、短期的な景気循環の過程で生じた雇用保蔵などの傾向について分析する。
    第5章では、少子・高齢化の進展と労働供給の減少という日本経済がこれまで経験したことのない大幅な環境変化のなかで、長期的な経済成長の減速に対応して、企業が固定的な雇用者比率を低下させ、流動的な雇用者比率を直接・間接的に引き上げる「雇用のポートフォリオ・シフト」モデルを提示し、その実証分析を行う。
    第6章では、経済活動の国際化の観点から、日本的雇用慣行の問題を検討する。
    第7章では、産業や労働市場の問題を離れ、広く国民生活における雇用流動化の意味を考える。
    第8章では、雇用政策・社会政策全般についての問題を取り上げる。
    第9章では、公務員制度改革について論じる。「公務員一括採用」には合理的な根拠がないことを指摘する。

第1章 国際化する雇用問題(p13〜32)

要旨) 財政赤字削減と失業者増加とのトレード・オフ(二律背反)の関係を改善することが、各国の主要な関心事となっている。
OECD諸国だけについてみても、その平均失業率は、1970年の3.4%から95年の7.6%まで高まっているが、日本においては3%台の低い水準にとどまる失業率である。(注:当時の話)そして、その背後にある日本的雇用慣行に大きな関心が世界から寄せられている。以下では、欧州や米国と比べた日本の雇用問題の特徴と、先進国に共通した国際競争の問題について検討する。

1 先進国の雇用問題(p14〜22)

要旨)  欧州では量的だけでなく質的にも雇用機会の悪化が進んできた。欧州の構造的な失業問題の背景には、政府が労働市場への強い介入を行っていることがある。欧州では、失業中の生活保障を政府の基本的な責任とする思想から、全く就業経験をもたないまま、失業給付に依存して生活し、就業意欲が低減する結果に結びついている面もある。また、政府が企業に対して、失業防止のためにさまざまな形での解雇規制を設けていることも、逆に企業の新規雇用需要を抑制している。
     さまざまな失業対策が、結果的に「労働市場の硬直性」を高め、高い失業率をもたらしているという悪循環がみられる。欧州は「雇用なき成長」の型である。
     米国の失業率は日本よりは高いものの、欧州諸国の半分とまだ低い水準にある。また、欧州と比べて長期失業者の比率が低いこともひとつの特徴である。
     米国の雇用パターンの大きな特徴としては、労働市場の流動性が高く、その景気循環を通じた調整機能がよく働いている。米国は雇用機会は量的には増えるものの、質的には必ずしも改善されない「低賃金多就業」である。
     第二回雇用サミットでは、「第三の途」が大きな目標となった。これは、世界的な経済の構造変化を、保護主義によって妨げるのではなく、世界貿易と直接投資の拡大を原則とする市場メカニズムを活用し、若年・未熟練労働を取り込むような政策のことである。

2 日本的雇用システムの評価(p23〜27)

要旨) 日本の長期的にみた労働生産性上昇率の高さと景気循環を通じた失業率の低位安定の背景には、いずれも企業による企業内訓練(OJT)のための投資がその大きな要因として考えられる。日本企業のOJT重視の戦略は、欧州での大きな問題となっている若年失業の増加を防ぐメカニズムともなっていた。良好な雇用機会を長期的に拡大させるためのカギとなるものは企業内での熟練形成であるといえる。
    日本の雇用システムは、企業の内部労働市場での労働力の流動性を高めることで、企業や企業グループを単位とした雇用の固定性を図る方式といえる。
    一国の雇用システムは他国に比して「絶対優位」にあるというよりも、異なる環境のもとでの「比較優位」にあるといえる。
   世界貿易と資本移動との一層の拡大が必要である.
 
3 世界的大競争のなかでの雇用問題(p27〜32)

要旨) 「1990年代の先進国の失業問題の大きな特徴は、雇用機会をめぐる世界的な競争の高まりを反映している。」
    「第1に、1980年代後半期以降、NIESやASEAN、および中国などのアジア経済の急激な台頭から、世界の工業品市場における供給が大幅に増加した事である。」
    「第2に、かっては世界の先進国を二分していた東西の垣根が崩れ、世界の自由経済市場の規模が一斉に拡大した」である。
    「第3に、欧州や北米における地域経済統合の進展は、当該地域内部での産業間の競争を拡大させている」ということである。
    かっては国際間の競争の強まりは、発展途上国にとって先進国からの「新植民地主義」の脅威であったが、今日では、逆に先進国ガ発展途上国からの輸出攻勢におびえているという「皮肉な逆転」となっている。
    この背景には、「生産要素価格の均等化定理」が働いている。
    世界的大競争に対抗して先進国ガ生活水準の持続的な向上を維持するためには、その高賃金に見合った労働生産性の高さで発展途上国に対抗する以外に方法はない。一国の経済全体で、生産性の相対的に低い部門から高い部門へと、資本や労働力を移動させる事によって、マクロベースでの労働生産性の向上を図ることも重要となる。国内における労働力の再分配により、日本産業の平均的な生産性を高める余地はまだ十分にあるといえる。

第2章 日本的雇用慣行の合理性(p33〜p63)

要旨) 欧米諸国と比較した日本の雇用安定の背景には、高い経済成長の持続のもとで労働需要が長期的に拡大してきたというマクロ経済のパフォーマンスの良さがあることは疑いない。またさらに労働市場における制度・慣行も大きな役割を果たしている。
    日本の労働生産性上昇率が高い要因としては、@日本企業の設備投資比率が高く、それだけ労働者の資本装備率を傾向的に高めてきたこと、A技術革新のスピードが速く、資本の量だけでなくその質(生産性)も高いこと、B産業構造の変化が速く、労働や資本がより効率的な分野へと移動してきたこと、などがあげられる。

1 日本的雇用慣行の経済的意味(p35〜36)
要旨) 日本と欧米諸国との雇用慣行の違いは、質的な違いよりも、それがどの程度まで企業間で普及しているかの量的な違いに過ぎない。
    労働市場における雇用システムのひとつの理念型として、日本的雇用慣行は幅広く受け入れられているといえよう。
    
2 長期的雇用慣行(p36〜44)

要旨) 日本の大企業では、原則として新規学卒者をその卒業と同時に採用し、定年時までの継続的な雇用を保障する長期的雇用慣行が一般的にみられる。こうした雇用慣行は「終身雇用」と称される。しかし、今日の日本のように定年後の再就職が常態となっているような状況のもとでは、「終身雇用」はもはや適切な表現ではない。これは、定年時までの雇用を保障するという面とともに、定年年齢になれば強制的に解雇するという二つの側面をもっている。

3 年功賃金制度(p44〜55)

要旨) 長期的な雇用慣行と対をなすものが、年齢に応じた昇進システムと、それに対応した賃金体系である。
    年功賃金制度を、雇用者の人的資本量に対応した賃金の増加と、企業による教育投資を保全し、雇用者による「持ち逃げ」を防ぐためのシステムとして理解すれば、年齢賃金のプロファイルは、企業内での熟練形成の量に比例して高まることが用意に説明できる。
    年功賃金制度のひとつの大きな意味は、「生涯を通じた賃金の後払い」である。
    年功賃金制による雇用者の企業への定着をさらに補強するものとして退職金がある。

4 企業内労働組合(p55〜58)

要旨) 労働組合の基本的な機能は、労働供給の制限を通じて、雇用者の賃金や労働条件の改善を図ることである。
   
5 日本的雇用慣行のインセンティブ・メカニズム(p59〜63)
 
要旨) 日本的雇用システムを構成するさなざまな労働制度・慣行は、それぞれが経済的合理性をそなえている。
    一見すれば安楽な日本的雇用慣行のもとでも、実は厳しい競争メカニズムが働いているのである。

第3章 日本的雇用慣行の社会的コスト(p65〜89)

要旨) 雇用者が負担する日本的雇用慣行のさまざまなコスト面について考察し、その効率性と公平性のトレードオフ関係に注目する。

1 「遅い昇進」のコスト・べネフィット(p65〜68)

要旨) 「遅い昇進」を通じて熟練雇用者を大量に形成する日本の雇用システムの効率性の高さを、その盾の半面である社会的コストの大きさと比較考量して評価する事が必要。

2 労働時間の長さ(p69〜74)

要旨) 日本の雇用慣行のいくつかの問題点は、週休二日制が充分に普及していないこと。また、週休以外の休日が多い反面、欠勤日と年次有給休暇日数(消化率)が少ない。その原因のひとつは"集団主義"にある。

3 頻繁な配置転換と転勤(p74〜76)

要旨) 日本の労働者は長期雇用保障の見返りに、個々の職務についての安定性を相対的に犠牲にしている。日本は仕事上の理由による家族の別居率が高い。しかも出世が約束されていない広範囲の層にまで広がっている。

4 男女間賃金格差(p76〜82)

要旨) 日本の男女の賃金格差がみられる要因のひちつとして「統計的差別」がある。また日本は常用とパートの賃金格差が大きい。その主たる要因は日本的雇用慣行に求められる。

5 労働組合の役割(p83〜89)

要旨) 日本おける労働組合の役割の限界は、その過去の成功の結果なのである。

第4章 日本的雇用慣行の変化(p91〜115)

要旨) 日本的雇用慣行の実態について1980年代後半から雇用や賃金面において一見して相反する動きがみられている。それはどのような将来の変化を示唆するのか。

1 景気後退における雇用調整の実態(p92〜101)

要旨) 日本の雇用慣行の特徴は景気後退期にもっともよく現れる。日本の失業率の背景には@人口供給要因A労働時間調整メカニズムB企業内雇用保蔵C就業意欲喪失効果などの諸要因がある。
   従来の高い成長の時代には日本的雇用慣行は日本労働市場を安定化させるように働いていたが、人口の高齢化や経済活動の国際化のなかで経済成長が中期的に減速していくもとでは、逆に不安定なメカニズムへと転化する。

2 日本的雇用慣行変化の兆し(p101〜108)

要旨) 1995年以降日本的雇用慣行の変化と密接に関連したいくつかの主要な変化が生じている。@大企業での雇用の減少と中小企業での拡大Aホワイトカラー、とくに管理職層に重点を置いた雇用調整が顕著に見られるB通年採用方式への変化の兆しが見え始めている。

3 賃金構造の変化(p108〜115)

要旨) 賃金プロファイルが変化している。そのひとつの要因として「要素価格均等化」の力が現実に働いている可能性がある。
    また年功賃金制度改革の一環として、年俸制を導入する企業が増加しているが、現行では管理職を中心とした中高年層が主な適用対象である。それは相対的に高い賃金の切り下げという面もあり、必ずしもその本来の趣旨に沿わない場合も多い。

第5章 高齢化と日本的雇用慣行の行方(p117〜141)

要旨) 日本的雇用慣行を単に労働市場での慣行としてではなく、広く日本の企業システムの一部として考える「比較制度分析」の見方が最近、有力となっている。

1 日本的雇用システムの制度的補完性(p118〜122)

要旨) 日本的雇用慣行は、他の日本の企業システムとも「制度的補完」の関係を有していることが、長期的な安定性を維持してきたことのひとつの要因と考えられる。しかし、反論も可能である。

2 高齢化と労働市場(p122〜130)

要旨) 今後、21世紀に向けて、国民生活に長期的にもっとも大きな影響を及ぼす要因は、高齢化の進展である。日本の労働市場では、@労働供給の減少、A女性雇用者の比率の高まり、B労働者の高年齢化、などの現象が生じる。

3 国際化の影響(p130〜131)

要旨) 労働需要の先行きについては、見解が大きく分かれる。

4 人的資本への最適な投資水準(p132〜141)

要旨) 企業が「企業特殊的熟練」の対象となる新卒者を採用することは、人的資本に対する「投資」と考え、市場で容易に調達される「一般的熟練」をもつ者を期間を定めて雇用することはリースを活用することに近い行動である。このように考えると「雇用のポートフォリオ選択」として捉えることができる。

第6章 「産業空洞化」と日本的雇用慣行(p143〜165)

要旨) 企業の労働力需要の長期的な減少が生じるとすれば、そのひとつの大きな要因が、「産業空洞化」の現象である。

1 海外直接投資と海外生産の拡大(p144〜148)

要旨) 直接投資が急増した事の直接的な要因は@国内賃金の上昇A海外での保護主義を避ける目的での直接投資B国内の不動産価格の高騰にともなう内外の資産価格格差。

2 産業空洞化と国際分業の違い(p149〜157)

要旨) 労働集約的な産業の雇用機会が、賃金水準の低い発展途上国に移動するのは、通常の国際分業のプロセスであるが、ハイテク産業までもが海外に移転し、良好な雇用機会を失わせるのが「空洞化」である。

3 海外投資と国内雇用(p158〜160)

要旨) 「空洞化」対策として、何か特別な政策を考慮するよりも、適切な需要管理政策によって、国内産業の潜在成長力を生かすとともに、市場メカニズムを活用した労働力の流動化政策といったオードソックスな経済・雇用政策の延長線上の政策を考える事のほうが望ましい。

4 労働市場の効率化を通じた空洞化の克服(p161〜163)

要旨) 産業空洞化防止のためには、産業や企業の間で貴重な労働力を適切に配分するための労働市場の効率化と、そのために市場における労働力の効率的な配分を妨げるような制度の改革が必要となる。

5 日本的雇用慣行と産業構造変化(p163〜165)

要旨) これまでの労働市場政策が、日本企業の固定的な雇用慣行を支持する方向で行われてきた。こうした政策を見直し、労働市場の需給に中立的な雇用政策が必要とされる。それが産業間の円滑な労働移動を通じて、産業の空洞化を防ぎ、国際分業を促進するための大きなカギとなろう。

第7章 雇用流動化と国民生活(p167〜195)

要旨) 日本的雇用慣行が変化することは、国民生活全体にとってみれば、やはりマイナス面の方が大きいのではないかと懸念する向きも多い。

1 日本的雇用慣行と家族(p168〜174)

要旨) 日本の家族関係の大きな特徴のひとつは、その安定性にある。離婚率は最低の水準であるが、今後の経済環境の変化によってそれが離婚率の高まりに結びつく可能性は大きい。そのきっかけは女性の雇用者としての就業率の高まりである。

2 日本的雇用慣行と少子化(p174〜184)

要旨) 少子化に対しては、多様な家族形態を社会的に容認するしかないであろう。個々の形態にとらわれず、家族や個人の子育てに直接支援する子供の社会的扶養の概念を確立する必要がある。

3 企業の学歴主義(p185〜192)

要旨) 日本では家族による過剰な教育投資が大きな社会問題になっている。日本の場合に、学歴主義の弊害がとくに大きな事の要因としては、@大企業とその他の企業との間で賃金・労働条件に大きな格差が存在すること、A長期雇用と企業内訓練重視の慣行のもとで中途採用機会が限定されていること、B大学教育の段階で競争メカニズムが働かず、学歴を獲得する機会が大学入試の段階に事実上限定されてしまうことから、その準備のため、初等・中等教育体系が大きく歪められること、などがある。

4 日本的雇用慣行の変化(p192〜195)

要旨) 日本的雇用慣行と家族との関係は、今後急速に変化する可能性が大きい。その主たる要因は、労働市場における高齢化と女性化、および国際化の一層の進展である。

第8章 高齢者雇用政策の再検討(p197〜227)

要旨) 働く意思と能力をもつ年齢層をできるかぎり労働市場にとどめることが、高齢化社会への基本的な対応となる。しかし、60歳以上の高齢者に対する企業の雇用需要は少ない。これは日本的雇用慣行から派生する問題である。

1 六〇歳台前半期の就業問題(p199〜206)

要旨) 本来、一定の年齢を超えると雇用需要を大幅に減少するという、特殊な立場に置かれているのは、男性の60〜64歳層よりも、企業の内部労働市場に属している50歳台以前の層であるといえる。

2 雇用安定政策の問題点(p206〜212)

要旨) 日本的雇用慣行を大前提として拡大の一途をたどってきた雇用保険を中心とした、これまでの高齢者雇用安定政策の見直しが必要となっている。

3 雇用と年金のトレードオフ(p212〜217)

要旨) 高齢者の雇用と公的年金との関係は、本来、どちらかでなければならないといった二者択一的な関係ではなく、個々の労働者の自由な選択の結果として決まることが望ましい。一方で高齢者の就業意欲を損ねないような制度にすれば、他方で、公的年金財政収支が悪化するというように、両者の間には互いにトレードオフの関係がある。この問題に対応するためには、とくに金額の大きな報酬比例年金の改革が必要となる。

4 雇用流動化に対応した政策課題(p217〜227)

要旨) 長寿化の進展のなかで、公的年金財政の健全性を維持するためには、少なくとも60歳台前半期の高齢者の生活安定の基礎は雇用に置かれることが肝要である。そのためには、高齢者にとっての良好な就業機会の確保とそれを支援する労働政策が前提となる。

第9章 雇用流動化と公務員制度改革(p229〜250)

要旨) 公務員の人事管理方式は、日本的雇用慣行の典型でもあり、民間の大企業の雇用慣行と多くの類似性をもっている。このため、労働市場全体の変化と合わせて検討する必要がある。

1 日本おける政治と行政との役割分担(p230〜234)

要旨) 日本における官僚行動の特徴は@「法律に基づかない規制」が広がっている。A国民各層の私的利益を官僚システムの中で代表させる「多元主義」。Bドラスティックな改革を好まない。

2 省庁間の「縄張り争い」の要因(p234〜240)

要旨) タテ割りでもヨコ割りでも、各省庁の組織が分立しているので、業務分野の調整が避けることができない。その意味で各省庁の縄張り争いを抑制するのではなく、それを調整するメカニズムが必要である。

3 行政システム改革の方向(p241〜243)

要旨) 官僚間での競争メカニズムを単に省庁統合などによって抑制するのではなく、むしろそれを積極的に活用する方向での制度改革が望ましい。

4 公務員制度改革の方向(p244〜250)

要旨) 公共部門と民間の労働市場の壁を低くし、同一の専門的な職種間で、官民の自由な人事交流を活発化することが、雇用流動化に沿った本来の公務員制度改革の方向となる。

終章 (p251〜254)

要旨) 本書において主張してきた事は、日本的雇用慣行が経済合理的なシステムであればこそ、人口高齢化や経済活動の国際化、およびそれにともなう経済成長の減速という日本の経済環境の長期的な変化に応じて、別の合理的なシステムに変化していくというである。


『私のコメント』
 それぞれのデータや年代が少し古いと感じる部分は多々あったが、今の企業・省庁にもまだまだ当てはまる内容だと思う。戦後長年その体制で続けてきたわけですぐには別の合理的であると思われる様式には移行はできないであろう。そもそも何が合理的であり何が非合理的であるかというものは結果論の部分があると思う。結果として成功した、成功してきたから合理的であったといい、失敗したから非合理的であった。責任を取れとなると誰も新しいシステムに挑戦はできないであろう。私は一般にいう上位数%に人間が富を独占する、アメリカ主義的な成果主義には反対である。本当の成果主義では信頼は生まれないと直感的に感じるからである。信頼という観点ではすぐに"リストラ"をして数値上だけの健全さをアピールする企業も信用ができない。やはり基本は年功序列・終身雇用を定めた上で、さらにその中で差異をつけていくのがいいのではと思う。また、そのやりかたでも女性の社会進出などにもワークシェアリングなどの導入によりうまく機能させることはできるだろうと思う。
 何が正しい、間違いかとは歴史が示すものだと思う。今の我々(学生)は学者ではなく、今の環境の中で自分の居場所(職場)を見つけその中でまた道を開くしかない。だが私は、自分だけが助かる(助かりたい)ではなく、周りみんなも協力して仕事をしていける環境はつくっていきたいとは思う。

 以上、最後のコメントは意味がよくわからなくなりましたが、書籍の紹介を終わります。


UP:20040207
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