HOME> BOOK

結婚の社会学

―未婚化・晩婚化はつづくのか―

山田昌弘 19960820 丸善ライブラリー


このHP経由で購入すると寄付されます

この本の紹介の作成:大森継生(立命館大学政策科学部4回生)
掲載:20020801

1章 結婚論の現在
  結婚しない「いい女」の四条件/「結婚しない」と「結婚できない」の間
2章 結婚難の虚実
結婚難の実情/結婚難への様々な解釈
3章 結婚意識の男女差―――生まれ変わりとしての結婚
イベントvs 生まれ変わり/結婚相手選びの男女差/魅力の性差
4章 低成長期の結婚難―――国際結婚という帰結
経済成長と結婚難/ハイパーガミー(女子上昇婚)の結婚難/高度成長期の結婚/経済の低成長化の影響/低成長+ハイパーガミーの結婚難/国際結婚の増大
5章 恋愛の変化と結婚難
男女交際機会の増大と恋愛観の変化/戦後〜1960年代 男女交際が制限された時代/交際機会の増大と晩婚化/男女交際の活発化の現実/男女交際の活発化がもたらすもの/男女交際の活発化が結婚難をもたらす3つの理由/恋愛と結婚の分離/テレビ・ドラマの変化/もてる人ともてない人の階層分化
6章 もっといい人がいるかもしれないシンドローム
もっといい人がいるかもしれないシンドローム/「もっといい人がいるかもしれないシンドローム」の拡大/出会いを「運」に頼ろうとする意識の登場/見合いから結婚紹介業へ/結婚紹介業の誕生/近代的恋愛結婚観の転換期
7章 結婚のゆくえ
結婚問題のタブー/結婚難のゆくえ/雇用構造の変化が結婚に与える影響/男女による魅力の差は変化するのか?/民法改正による離婚の規制緩和/ポスト近代は来るのか?

1章 結婚論の現在

1章で著者は「なんで、この人が独身なんだろう」とつい思ってしまうような素敵な女性を「社会学的」に観察してみて、「結婚しない『いい女』の四条件」というのを提案している。その四条件は次の4つである。
@専門職 
A自宅――母は専業主婦
B男女交際に寛容な親
C恋人がいる、もしくはいつでもできると思っている
この条件が当てはまる人が結婚しない理由として、結婚に伴う「家事負担」を嫌悪していることと、結婚にとらわれなくても楽しく男女交際を行えているということが考えられる。1970年代以降の緩やかな結婚年齢の上昇と、1980年代から1990年代のシングル論の流れとして、明るく積極的なシングルから結婚したくてもできない消極的なシングルという流れを指摘している。

以下にあげる2点を現代日本の結婚状況の事実として捉え、このような自体が生じる原因を、戦後日本社会50年の歩みの中に見つけていくことを本書の目的としている。
@結婚に関する意識や思考が変わらないゆえに、結婚しない人が増えつづける
A男女交際が盛んになっているからこそ、結婚しない人が増え続ける

2章 結婚難の虚実

結婚難の実情を統計数値から見てみた上で、著者が謝りと思う俗説を順に否定している。著者が否定している俗説は以下の6つ。
1 男余り説のウソ
2 「3 結婚したくない人が増えた」4 説のウソ
5 男女交際が下手になったのウソ
6 わがままな若者が増えた説のウソ
7 恋愛に遅れた男性説のウソ

3章 結婚意識の男女差

 最初に「結婚」が男女にとってどう違うかを述べている。結婚とは男性にとっては「イベント」であり女性にとっては「生まれ変わり」であり、男性は結婚や結婚の相手によって、自分の人生のコースが変わると思わないが、これに対し、女性は結婚する相手の職業や経済状況、価値観、家族の状況などによって、自分の人生のコースの修正が必要となる場合が多い。女性にとっては自信のアイデンティティーも結婚によって変化する。男性は自分が自分であることの理由を社会的役割に求めることが多いため、結婚によるそれの変化はほぼない。しかし、女性の場合は○○の娘、○○の妻、○○の母というように、男性の家族であること、すなわち家庭内役割にアイデンティティーを置いているひとが多い。さらに女性の場合、生活水準も変化するケースが多い。こういった結婚の意味の男女による違いが配偶者選択に影響を及ぼす。結果的に、父親より学歴が高く、経済力がありそうな男性を女性は選ぶことになる。当然ではあるが、自分よりもこの2点において上回っていることも結婚相手の条件となる。これに反して、男性が好む女性というのはいわゆる「かわいい女性」であり、つまりいろんな意味で自分を頼りにする女性のことである。こういった「魅力の性差」という現実があることによって、女性の社会進出にブレーキがかかり、現在日本で結婚難が生じる基盤になっているのだ。

4章 低成長期の結婚難―――国際結婚という帰結

 4章では経済成長と結婚難の関係について述べてある。経済の戦後高度成長期には結婚は比較的容易であり、低成長期には結婚が抑制される。経済の高度成長期は学歴の成長期でもあり、高等学校、大学への進学率も大幅に上昇した。その結果、女性にとっては自分の父親よりも高学歴の男性が見つかりやすくなった。また、この頃、豊かでない家庭では息子に優先的に教育投資したため、女性より男性のほうの学歴が高いケースが多かった。つまり、高度成長期には、女性はよりよく生まれ変わらせてくれる男性を労せずして見つけることができ、男性は、自分の人生のコースを邪魔しない女性を容易に妻にすることができたのである。これに対し、バブル期を経た現在は、経済が停滞し低成長が続いているといわれる。そのような現在は、高度経済成長期に比べ、結婚難になっている。また、「親の経済力が高い女性の結婚難」や「経済力の低い女性の結婚難」の理由についてもこの章で述べている。

5章 恋愛の変化と結婚難

 5章では「男女交際」のあり方の変化が、結婚難をもたらすロジックを考察している。1970年頃から始まった男女交際の活発化の代表的な原因として、以下の4つをあげている。
1 女性の社会進出
2 青年の意識の変化
3 青少年の経済的余裕の発生
4 匿名5 性確保の手段の発達
さらに、男女交際の活発化が結婚難をもたらした理由を3つあげている。
1 恋愛と結婚の分離
2 もてる人ともてない人の階層分化
3 もっといい人がいるかもしれないシンドローム
「恋愛と結婚の分離」については、テレビドラマで描かれている恋愛の変化からも分析している。男女交際が増えると、選択肢が増える。選択肢がおおくなったがゆえに、もてる人ともてない人の階層分化という形で、結婚相手としても考えてもらえない層が出現することが結婚難の一つの原因である。

6章 もっといい人がいるかもしれないシンドローム

 6章では、選択肢が増え、恋愛が自由化されて生じたもう一つの傾向、「もっといい人がいるかもしれないシンドローム」を検討し、それと関連して、最近盛んになっている結婚紹介業の罠を指摘している。「もっといい人がいるかもしれないシンドローム」の拡大については、1990年代からより広い層に浸透し始めているとし、その様相を「出会いを運に頼ろうとする意識の登場」とそれと関連して「結婚(相手)紹介業の興隆」という2つの点から分析している。次に、「見合い」から「結婚紹介業」へと移行した過程、及び、結婚紹介業の誕生からそのシステム、そして利点まで詳しく説明してある。

7章 結婚のゆくえ

 7章では、以下にあげる3つの傾向に焦点を当てて日本の結婚の将来を論じている。
1 経済構造、特に、雇用構造(年功序列・終身雇用)の変化
2 男女の魅力の意識の変化
3 民法改正による離婚の規制緩和
また、結婚難の一つの原因は、未婚者には「別れる自由」があるのに対し、一度結婚すると「別れる自由」が厳しく制限されることにあるとし、それなら、法的に離婚をしやすくすれば、心理的な意味で、結婚に踏み切る人が多くなるのではないかと述べている。そして最後に、「近代的夫婦」を、結婚生活が夫婦一体の生活の単位であると同時に、愛情の単位でもあるとし、「ポスト近代的夫婦」を、夫婦は愛情のみでつながっており、生活は一人一人が責任をもつというふうに述べ、「ポスト近代的夫婦」への移り代わりが完全なものとなった時、結婚は、経済的な問題を考慮せず、好きな人と行なうものとなるだろうとしている。



家族  ◇社会学(者)  ◇BOOK
TOP HOME(http://www.arsvi.com)