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『家族・ジェンダー・企業社会――ジェンダー・アプローチの模索』

木本 喜美子 19951120,ミネルヴァ書房,シリーズ・現代社会と家族,258p.

last update:20100916

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木本 喜美子 19951120 『家族・ジェンダー・企業社会――ジェンダー・アプローチの模索』,ミネルヴァ書房,シリーズ・現代社会と家族,258p. ISBN: 4623025861 3675 [amazon][kinokuniya]

■内容

(「BOOK」データベースより)
世界に名だたる長時間労働体制下の日本において、家族は解体の淵に立っているのか―本書は、従来の家族研究方法に内在する問題点を批判的に考察しつつ、現代日本の家族を歴史的に位置づけ、かつ「企業社会」との相互連関構造を明らかにする。ジェンダー・アプローチによる家族研究の到達点。

「MARC」データベースより)
世界に名だたる長時間労働体制下の日本で、家族は安定しているのか。解体の淵に立っているのか。従来の家族研究方法の問題点を批判的に考察しつつ、現代日本の家族を歴史的に位置づけ、企業社会との相互関連構造を解明する。

■目次

第1部 「家族の危機」と家族研究
第2部 現代家族論の諸相
第3部 家族と「企業社会」

■引用

 第4章 「家族賃金」という観念と現代家族

 「[…]「家族賃金」観念の成立について論及した日本では数少ない論者である原剛は、近代社会にくおける女性<0063<の従属的地位と「家族賃金」観念の成立・定着とを結びつける視角をもたない。」([63-64])

 「フェミニストによる「家族賃金」観念の定着過程の把握において、論者によって力点のおき方に相違はあるものの、ほぼ共通の認識としては、労働運動がこれにかかわったという事実をあげることができる。[…]
 ここでの重要なポイントは、バレットらとともにヒラリ・ランドも指摘するように、これが「資本主義の要求」であるだけではなく、組織された労働者(特に熟練労働者)が自分たちの利益にかなうものとしてこの戦略を選択し、支持したという点である(Barrett & McIntosh[1980:53]、Land[1980:54])。労働組合運動が、賃金交渉の重要な論点として「家族賃金」観念を掲げ、単純労働者の場合も、十九世紀から二十世紀初頭の間にこれを、賃金交渉の主要な武器とするようになった(Lewis[1986:103])。とりわけ組織された労働者の中心勢力であった熟練労働者にとって、「家事に専念する妻によって秩序正しく清潔に管理された家庭で妻にかしづかれること」(原[1988:233])が、理<0064<想の家庭像になり、下位の階層にもこれが普及していったのである。ここに、労働者が自ら主体的に、「家庭賃金」観念を、したがって近代的な性別分業構造を選択し受容したプロセスを見出すことができる。[…]
 ウォリィ・セカムによれば、第一次世界大戦までにこの観念は、「すべての発達した資本主義国において、プロレタリアの理想として強烈に信じられるようになった」(Seccombe[1986:54])」(木本[1995:64-65])

 「吉田恵子は、妻や子どもを加えた複合的な家計収入構造から、夫のみの単一的な家計収入構造への変化の時期を一八八〇年代以降とし、その背景として実質賃金の上昇に注目する(吉田[1985])。児童労働はすでに一八七〇年の義務教育法によって減少へと向かっていたが、実質賃金の上昇が、既婚女性の就労の必要性を低下させるとともに、女性労働が可視的に現われる最後の領域だった家内工業を衰退させたのである。こうして既婚女性の経済活動からの撤退が方向づけられ、性別分業構造が明瞭な姿をとることになった。」(木本[1995:67])

 「だがもっとも大きな打撃をこうむらなければならなかったのは、男性ブレッドウィナーをもたない女性であった。つまり結婚していない女性、未婚の母、寡婦などは、貧困層として再生産されることになるのである。」(木本[1995:68])

 Humphries[1977]の紹介:「ここでハンフリーズは、労働者の「家族賃金」を求める運動の動機を、「伝統的家族構造を擁護するという強い動機」(Humphries[1977:244])に求める。この「伝統的家族構造」の含意は定かではないが、これを労働者階級が擁護する理由が二点あげられている。一つは、資本主義の発展とともに家族の「共同体的関係」が堕落させられる傾向が現れるが、少なくとも工業化初期段階の労働者階級にとって、家族の維持は家族内部の被扶養メンバーをサポートするために不可欠なものであったとする。つまり低コストの親族関係にもとづく相互扶助が、家族依存の「物質的基礎」であり、同時にそれは「人間的な行為」に導かれたものであるとする。第二の理由は、普遍的プロレタリア化のもとでの労働力の価値低下に遭遇した労働者が、「労働供給のコントロール」を通じて、家族の生活水準を維持しようとしたところに求められる。すなわち家族のあるメンバーが労働市場から撤退し、残った労働者の賃金増加を求める「家族賃金」要求は究極的には、家族擁護を「階級の利益」とする労働者階級が採用した戦略だということになる。」(木本[1995:71])。
 Humphries[1981]の紹介:「鉱山法以前にすでに、性と年齢に応じての職域分離構造が堅固にできあがったいたので、男女労働者間の労働市場における「競合」はそもそもありえなかった。しかも労働家族団として雇用される習慣のもとでは、男性労働者にとって妻や娘の就労は家族収入を最大化する道であった。適当な家族員とチームを組めない場合は、家族外の労働者を雇い、彼らに賃金を支払わねばならなかったからである。また夫の統率下の家族労働においては、基本的に個人として賃金を受けとる習慣がなかった。また「個人の収入」という観念が存在しないので、妻と娘の就労によって、夫(父親)の権威が損なわれることは少しもなかったのである。したがってこの事例に関する限り、男性が「家族賃金」要求によって得る利益はまったくなかったことになる。」(木本[1995:73])

 「注目しておきたいのは、ハートマンの議論は、「家族賃金」という観念が定着した結果から考察した視角であり、それはこの観念それ自体が有していた歴史的限界が時間の経過とともに明確になった地平からとらえようとするものであるという点である。これに対してハンフリーズはあくまでも、歴史的事実としてどのようにこの観念が受け入れられ、定着してきたのかを把握しようとする。」(木本[1995:75])

◇Barrett, Michele & McIntosh, Mary 1980 The 'Family Wage': Some Problems for Socialists and Feminists, Capital and Class 11, Summer 1980
◇原 剛 19880220 『19世紀末英国における労働者階級の生活状態』,勁草書房,359p. ISBN: 4326500603 9240 [kinokuniya]
◇Land, Hilary 1980 The Family Wage, Feminist Review 6
◇Lewis, Jane 1986 The Working-Class Wife and Mother and State Intervention, 1870-1918, Lewis ed.[1986]
◇Lewis, Jane ed. 1986 Labour and Love: Women's Experience of Home and Family, 1870-1918, Basil Blackwell
◇Seccombe, Wally 1986 Patricarchy Stabilized: The Construction of the Male Breadwiner Wage Norm in Nineteenth-Century Britain, Social History 12-1
◇大陽寺順一教授還暦記念論文集編集委員会 編 198501 『社会政策の思想と歴史――大陽寺順一教授還暦記念論文集』,千倉書房,463p. ISBN: 4805105100 7140 [kinokuniya]
◇吉田 恵子 1985 「家庭経済よりみた十九世紀末英国における貧困」,大陽寺順一教授還暦記念論文集編集委員会編[1985]


第6章 <主婦の誕生>と家事

 「日本においてマジョリティ女性が主婦という時代を迎えたのは、第二次大戦後に起こった急激な高度経済成長のただなかであった。「三食昼寝つき」が専業主婦の代名詞となり、「総サラリーマン化」した男性と「総専業主婦化」した女性という組み合わせが一般的なものとなり、働く女性にあっても、まず主婦であり母であるということが第一義的に位置づけられる段階が形成されたのである(4)。
 主婦の経済的自立の必要性を説く石垣綾子の問題提起をきっかけに起こった主婦論争が、この「総専業主婦化」<0126<時代に起こったのは、偶然の一致ではない(5)。女性が少なくとも心理的にはすでに、主婦という存在に拘束される状態があったからこそ、主婦という社会的存在をめぐって論争が起こったのである。それにもかかわらずこれが、「一般の主婦にとってはピンとこない無縁の論争といったままで終わった」[駒野1982:240]のは、「主婦こそが女性の幸せと信じて疑わなかった女性たちが、マジョリティを形成していたからにほかならない。その意味ではこの論争に参加した人々は、時代を先取り的にとらえたパイオニアとして位置づけられよう。それにもかかわらず矢澤澄子が指摘するように、この論争においては、「『家事労働=主婦労働』という性別分業視点を越えられなかった」[1988:89]。それは、時代の制約によると考えるべきであろう。社会の現実的基盤がいまだ、人々にそのような問題意識を与ええない段階であったのである。」(127)

「(4)この時期は、都市家族の特徴が農村にも波及して全国的に一般化した時期と一致している。詳しくは中川清[1989]を参照のこと。
(5)論争の詳しい経過は、上野千鶴子[1982]、矢澤澄子[1993:57-56](ママ)を参照。この論争の意義を理解するうえでは、丸岡秀子[1982]の第三章および第四章が役に立つ。」(132)

駒野 陽子 197612 「「主婦論争」再考――性別役割分業意識の克服のために」,『日本婦人問題懇話会会報』 →上野編[198212:231-245] *r
丸岡 秀子 1982 『婦人思想形成史(下)』,ドメス出版
中川 清 1989 「都市家族の形成と変容」,『都市問題』80-2
矢澤 澄子 199311 『都市と女性の社会学――性役割の揺らぎを超えて』,サイエンス社,女性社会学者による新社会学叢書 (3),263p. ISBN: 478190713X [kinokuniya] 

■書評・紹介

■言及



UP:20100916 REV:
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