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『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』

Gallagher, Hugh G. 1995 By Trust Betrayed: Patients, Physicians, and the License to Kill in the Third Reich, Vandamere Press
=199608 長瀬修訳,現代書館,422p. ISBN:4-7684-6687-7 3675


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■Gallagher, Hugh G.(ヒュー・ギャラファー) 1995 By Trust Betrayed: Patients, Physicians, and the License to Kill in the Third Reich, Vandamere Press=199608 長瀬修訳,『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』,現代書館,422p. ISBN:4-7684-6687-7 3675 [amazon][kinokuniya] ※

ヒュー・G・ギャラファー著 長瀬修訳
(現代書館 電話03ー3221ー1321 fax 3262ー5906
mail: g-shokan@netlaputa.ne.jp )
1996年刊 定価3、500円プラス消費税

ナチスドイツが20万人以上の障害者を殺害していた「T4計画」を描く。
ガス室は障害者を抹殺するために開発された。

花田春兆氏推薦
「ナチスドイツがもたらした障害者の極限状況。だが、その基盤であ
る優生思想に、あなたの心は果たして無縁でいられるのだろうか。
障害者の著者が告発する、障害者の歴史の最も重要な一面」

■内容説明[bk1]
ナチスドイツがもたらした障害者の極限状態。ヒトラーの指示の下、医者が自らの患者を「生きるに値しない」と選別、抹殺していった恐るべき歴史の事実を、ニュルンベルク裁判資料と現地調査で綴る。

■著者紹介[bk1]
〈ギャラファー〉作家、研究者。1952年ポリオにかかり、以後車イス生活を送る。ジョンソン大統領のスタッフを務めた。障害者問題に関する功績が大きい。

■目次

 序論
 序章
 第一章 T四計画開始
 第二章 T四計画の起源
 第三章 T四計画の実施
 第四章 子供計画
 第五章 アブスブルクのT四計画
 第六章 T四計画のつまずき
 第七章 T四計画と医者
 第八章 T四計画と法律家
 第九章 T四計画と教会
 第十章 T四計画その後:一九四五年ー一九九四年
あとがき:会話
 付録A 世界各地の歴史にみる障害者
 付録B ブラウネ牧師の報告書
 付録C ミュンスター司教の説教
 付録D カール・ブラント被告への最終弁論
 付録E カール・ブラント被告の最終陳述
 参考文献
 原注
 訳者あとがき
 索引

 
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■訳者あとがき

 本書は、現代史を含めた障害者史そして人類史にとって重要な意義を持つ、ナチス
ドイツの障害者「安楽死」計画に関する、障害者自身による研究書 Hugh Gregory
Gallagher, By Trust Betrayed (1995, Vandamere Press)の訳出である。T四計画と
呼ばれた障害者「安楽死」計画で、総計20万以上の障害者が抹殺された。優生思想
の負の頂点ともいうべき歴史的事件である。
 ヘンリー・ホルト社から90年に初版が出た後、94年までのネオナチの動きの追
加と章立ての変更を経てヴァンダミア社から95年に改訂版が出た。本書はその改訂
版の翻訳である。
 近年、「障害」を切り口とする障害(者)学が起こりつつあり、障害者の歴史はそ
の有力な一翼を担っている。これまでの歴史の中で障害、障害者は見えない存在だっ
た。フェミニズム、女性学の発展にともなって歴史の中で女性が見えるようになって
きたのと同様に、歴史の中で障害、障害者に光を当てる必要がある。本書もその努力
の一環である。
 思い起こせば、本書が取り上げている問題に私が関心を抱いたきっかけは、上智大
学の渡部昇一が週刊文春誌80年10月2日号に書いた「神聖な義務」という記事
だった。それ以来、ナチスドイツと障害者というテーマは心の片隅にあった。本書と
出会った時には、縁を感じた。
 なお、同記事で渡部昇一はアレクシス・カレルを「ヒトラーとは逆の立場の人」と
しているが、カール・ブラントは自分の弁護の中でカレルを引用している点を指摘し
たい。(Kuehl, S. "The Nazi Connection" 1994, Oxford University Press)
 翻訳を始めたのは、92年、国連事務局障害者班に赴任したウィーンだった。その
ウィーンで恐ろしいと感じたのは、報道で接した隣国ドイツでのネオナチによる障害
者への物理的攻撃である。障害者の殺害にまで発展している。本書第10章でも描か
れているように、現実の問題としての障害者への攻撃性の根深さを感じた。
 ピーター・シンガーという障害新生児の安楽死を主張するオーストラリアの哲学者
が西ドイツ(当時)に招かれたが、障害者運動の反対により、主催者が招待取消に追
い込まれるという事件が1989年に起きている。その背景にはネオナチの障害者攻
撃に見られるように、T四計画を過去の出来事として葬りきれていないドイツの事情
もある。
 しかし、優生思想の問題はドイツだけのものでない。そして優生学・優生思想はT
四計画のように国家権力によって明確に暴力的に現れる場合よりも、私的な自己決定
の形で現れるようになり、いっそう拡散・深化してきている。
 障害者班のニューヨークへの移転にしたがって、私も家族と93年秋に引っ越し
た。米国では著者のギャラファーとの出会いがあった。一度は約束を得て、ワシント
ン郊外の自宅を訪問した。もう一度は、ADA成立4周年記念の式典がホワイトハウ
スで開かれた時に偶然に出会った。なお、首都ワシントンのホロコースト博物館に
は、著者の協力もあり、T四計画に関する小コーナーがある。
 ギャラファーには障害分野ではもう一冊、障害者としてのフランクリン・デラノ・
ルーズベルト大統領に関する著書がある。障害者としての自己を否定し、車イスを使
用している姿の写真を決して公にしなかったルーズベルトを障害者の視点から描いて
いる。
 94年秋に国連勤務を終え、オランダはハーグの社会研究大学に入学した。ハーグ
からハダマーに2度、出かけた。ハダマーでは偶然に知り合った年輩のドイツ人から
当時の話をわずかだが、うかがうことができた。ハダマー出身といえば、現在の独政
府労働社会省のカール・ユング次官がそうである。ある国際会議の合間に話す機会が
あったが、異臭を今でも忘れていないと語っていた。
 ハダマーの精神病院はT四計画を後世に伝えるために、ガス室があった地下室は保
存され、公開されている。一階には資料室が設けられ、T四計画の背景、経過が展示
されている。資料室の連絡先は次の通り。Gedenkstaette Hadamar, Moenchberg 8,
65589 Hadamar 電話 +49-(0)6-433-9170
 初版と改訂版の翻訳をしている間に国境を超えて3回も引っ越しをしてしまった。
その中で特に印象に残るのは、国連事務局員として赴任中の93年暮れに国連総会で
採択された「障害者の機会均等化に関する基準規則」(機会均等基準)である。「政
府は障害を持つ人の家庭生活への完全参加を推進すべきである。政府は障害を持つ人
の人間としての尊厳への権利を推進し、性的関係、結婚、親となることに関して、障
害を持つ人を法律が差別しないよう保障すべきである」と規則9で規定したことは、
歴史的に見て、大きな前進である。性や生殖は最後まで偏見や差別が残る分野だから
である。
 機会均等基準は国際障害者年、「国連障害者の10年」の蓄積から生み出された国
際社会の果実であり、将来の障害差別撤廃条約もしくは障害者の権利条約の基礎とな
るべき基準である。ぜひ、読者には一読をお願いする。拙訳で恐縮だが、翻訳が日本
障害者協議会(〒173板橋区小茂根1ー1ー7、電話03ー5995ー4501、
ファックス03ー5995ー4502)から出ている。
 なお、本書でベテルのボーデルシュヴィンクとブラントの対決が描かれているが、
ベテルの施設が本当に障害者抹殺に抵抗したかに関して、ドイツの研究者であるステ
ファン・キュールが疑問を投げかけている(Kuehl, S. 前掲書)。

 本書の翻訳の直接のきっかけを作ってくれた、上智大学わかたけサークル時代から
の旧友である小林英樹さん、用語等で翻訳に協力して頂いた中西由起子さん、戸田美
雅さん、辛抱強く付き合って頂いた現代書館の小林律子さんに厚くお礼申し上げる。

 最後に、常に支えてくれる妻の顔玉愛に、ありがとう。

         優生保護法が母体保護法になった年の盛夏に横浜・鶴見にて
                                 長瀬修


 
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■書評・紹介・言及

◆立岩 真也 1997/04/30 「書評:ヒュー・G・ギャラファー『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』(現代書館,1996年)
 『日本生命倫理学会ニューズレター』12:5-6 2枚
◆立岩 真也 2001/10/25 「優生学について――ドイツ・1」(医療と社会ブックガイド・9)
 『看護教育』2000-10(医学書院)
◆立岩 真也 1997/09/05 『私的所有論』,勁草書房,445+66p. ISBN-10: 4326601175 ISBN-13: 978-4326601172 6300 [amazon][kinokuniya] ※
◆立岩 真也 20130520 『私的所有論 第2版』,生活書院・文庫版,973p. ISBN-10: 4865000062 ISBN-13: 978-4865000061 1800+ [amazon][kinokuniya] ※

 
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■引用

◆医者は「治療と成功を好む。自分が有能でないと見られるのは好まない。しかし、障害を持つ患者や慢性的な病人はそれこそ自分の無能の証明である。患者は医者が心理的に距離を置いているのを当然感じる。患者は孤立感を味わう。病院で過ごしたことがある障害者は誰でも経験している。医者から受けるやさしい軽蔑にはほとんど敵意に近いものすらある。」(p.353)


UP:1996 REV:..20040907(ファイル移動) 
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