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『男女同一賃金』

中下 裕子・山田 省三・中島 通子 199412 有斐閣選書175,278p. 1800


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■中下 裕子・山田 省三・中島 通子 199412 『男女同一賃金』,有斐閣選書175,278p. ISBN:4-641-18225-6 1800 [amazon][boople][bk1]
・この本の紹介の作成:K(立命館大学政策科学部2回生)

□内容説明[bk1]
日本の女性の賃金は男性の57.5パーセント。なぜ女性の賃金は低いのか。日本の賃金実態を明らかにしたうえで、各国の法律・判例を参考にしながら、男女平等賃金実現のための方策を大胆に提案する。〈ソフトカバー〉*
□著者紹介[bk1]
〈中島〉1935年東京都生まれ。東京大学文学部・法学部卒業。弁護士。中島通子法律事務所所長。「女性の権利に関する委員会」委員長。著書に「女が働くとき読む本」など。*


・以下の紹介の作成:加山智丈(立命館大学政策科学部2回生)

目次

パート1:なぜ女性の賃金は低いのか 
 1:男女賃金格差の実態
 2:男女の賃金格差はなぜ生じるのか
 3:男女賃金格差と公正賃金

パート2:男女の賃金格差はどのように是正されてきたか
 1:労働基準法4条
 2:労働組合・行政機関による是正
 3:裁判による是正

パート3:各国の男女同一賃金の現状
 1:国際的な現段階
 2:イギリス 
 3:アメリカ
 4:カナダ
 5:ドイツ
 6:フランス
 7:EU

パート4:真の男女同一賃金をめざして
 1:同一価値労働同一賃金原則の実現にむけて
 2:パートタイマーの賃金の是正のために
 3:性別による職域分離解消のために


パート1:なぜ女性の賃金は低いのか

  日本における男女賃金格差の実情は次のように言うことができる。第1に、女性の初任給はいずれの学歴においても男性の90%台後半であり、スタート時点での格差はそれほど大きくはない。第2に、男性の賃金が加齢とともに順調に上昇していくのに対して、女性の賃金は30歳代前半から頭打ちの状態が生涯続いていく。第3に、男性については、学歴の差が賃金に反映しているが、女性ではあまり相関性がみられず、むしろ女性の大卒は男性の高卒を、女性の短大卒は男性の中卒の賃金をそれぞれ下回っている。
  また、個別のケースでは事情が異なることがあるとしても、全般的な傾向からすれば、女性の就労実態や、男女の職域分離が賃金格差をもたらしている。

パート2:男女の賃金格差はどのように是正されてきたか

  1947(昭和22)年に制定された労働基準法の第4条は世界各国のなかでも、もっとも早い男女同一賃金規定である。その反面、あまりにも簡略すぎる規定であり、違法な賃金差別の認定基準や私法上の効果に関する規定がないため、その実効性に問題を残した。
  施行当初から、女子であることのみを理由とする賃金差別だけではなく、女は効率が悪い、女は勤続年数が短いなどという社会通念や、その職場の一般的な平均実態を理由とする賃金差別も労働基準法違反であることを明らかにしていた。労働基準法4条は合理的理由のない女子に対する賃金の不利益取り扱いを禁止するものである。
  敗戦直後から労働組合の結成が相次ぎ、婦人部も作られて、女性差別の撤廃と保護要求をかかげて活発に活動し、1950年総評が結成され婦人対策部が設けられてからは男女同一賃金を要求したが、男性役員が女性の問題を取り上げない組合や少数組合のため労使交渉で解決できない職場で働く女性たちは、労働基準監督署に申告したり、最終的には裁判所に提訴することになる。労使交渉によっても、労基署をはじめとする行政機関によっても是正されない賃金の男女差別の是正は、最終的には裁判によることになる。

パート3:各国の男女同一賃金の現状

  イギリス:イギリスの男女賃金格差は1994年で71.7(男性を100とした場合の女性の賃金)であり、他のヨーロッパ諸国に比べても大きい。イギリスでは、40歳代以降に格差が60%台と最高になり、60歳代で再び70%台に復帰する。年齢ごとの格差の増減は日本と同様の傾向を示している。
  アメリカ:アメリカは先進諸国のなかでは男女間の賃金格差が大きい国である。1990年代の女性の賃金は65.0%にすぎない。賃金格差の推移をみても、大きく格差は縮まっていない。
  カナダ:カナダは、アメリカと同じく男女賃金格差の大きい国のひとつであり、1991年の女性労働者の所得は男性の所得の平均67.6%にすぎない。しかし、近年、男女間格差是正のための取り組みが労働組合を中心にして盛んにおこなわれるようになってきている。そして、そのような中から、世界でもはじめてのユニークな法制度が誕生しその実施がはじまっている。
  ドイツ:ドイツにおける女性の賃金は男性の73.6%であり、フランスとイギリスとの中間に位置している。
  フランス:フランスは、ヨーロッパ諸国の中でも男女平等が比較的進んだ国であり、男女間の賃金格差も81.8%と小さいほうである。その理由のひとつとして、男女の平等賃金を達成するために、裁判以外の多様な手段が保障されていることが挙げられるだろう。
  EU:EUでは、ローマ条約119条や、それをより具体化した平等賃金指令が男女平等原則を法定している。これらの規定は加盟国を直接に拘束するため、各加盟国では国内法のみならず、EU法によっても男女平等賃金が保障されることになる。

パート4:真の男女同一賃金を目指して

  男女同一賃金を実現するためには、客観的職務評価制度の導入などにより同一価値労働同一賃金原則の適用を確保すること、および、パートタイマーの賃金や待遇を改善することが必要であるが、根本的な解決としては雇用におけるすべての性差別を撤廃し、性別による職域分離を解消しなければならない。そのためには、均等法を抜本的に改正すべきであるが、同時に、男女がともに仕事と家庭を調和できる労働条件と社会システムを整備する必要がある。


◎コメント

  男と女が同じ作業をして同じ賃金をもらえる、ということは当たり前である。しかし、その当たり前なことが行われていないとは明らかにおかしいことである。また、このことを黙認しているということは、社会全体が女性を差別している、ということを認めてしまっているということではないだろうか。やはり、いかなる差別というものも許してはならないものである。
  これまで、女性たちは労働組合運動を通じて、あるいは裁判という手段を用いて差別と闘い、厚い壁を少しずつ打ち砕いてきた。その女性たちの闘いをこれからも継承していかなければならないであろう。女性たちの主体的な闘い抜きに差別がなくなることはないからである。女性一人一人が日常的に差別と闘うことが求められているのである。
  本書は、女性の平等への闘い、というものがどういった経緯でどのように変化していったものかが克明に記されており、大変わかりやすいものとなっている。しかし、女性はこのようにしたらよい、ということがわかりやすかったが、反対に、男性側はどのようにすればよいのかがわかりにくいものであったのが残念であった。


UP:20040209
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