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『税制改革のビジョン――消費税増税路線を見直す』

野口 悠紀雄 19941017 日本経済新聞社,252p.


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野口 悠紀雄 19941017 『税制改革のビジョン――消費税増税路線を見直す』,日本経済新聞社,252p. ISBN-10: 4532143268 ISBN-13: 978-4532143268 [amazon] ※ t07.

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内容(「BOOK」データベースより)
「増税なき高齢化社会」への構想。大蔵主導の増税路線を批判、直接税改革・資産課税強化など、真に抜本的な改革構想を提示。

内容(「MARC」データベースより)
構造的な欠陥を抱えた消費税では高齢化社会は支えられない。「直間比率の是正」「所得・消費・資産のバランス」といった基本哲学自体に誤りがある。大蔵主導の増税路線を批判、直接税改革、資産課税強化など改革構想を提示。*

■目次

第1章 なぜ税制改革か
第2章 2段階方式の税制改革を
第3章 消費税は高齢化社会を支えられるか
第4章 直接税の改革
第5章 「増税なき高齢化社会」への論議を
第6章 相続税の合理化
第7章 個人事業所得の構成と課税制度
第8章 地方消費税と地方税制
第9章 国際化時代の税制
第10章 税と公債
第11章 「税制改革」の改革

■引用

第1章 なぜ税制改革か

 「一九八〇年代の税制改革の背景としていま一つ指摘されるのは、累進課税に対する批判的な見解の強まりである。
 所得税の累進性の問題として、つぎの諸点が指摘された。第一は、労働意欲に与える影響である。累進度があまりに高いと、働くより余暇を楽しむほうが合理的になり、労働意欲が低下する。こうした影響は、所得の高い人々、つまり生産性の高い人々に対してより強く働くため、社会は大きな損失をこうむる。第二は、所得分散との関連である。累進度が高いと、所得を世帯員間で分散することが有利になり、水平的公平が侵される。第三の理由としてあげられるのは、いかに形式的に累進度が高くとも(あるいは、累進度が高いために)、節税や脱税が増加し、実質的な累進性が確保されないということである。さらに、利子所得などについて源泉徴収が行われる場合、所得税<0024<の税率が単一税率に近いと、単一税率の源泉分離課題だけで課税が完結することも、付加的な理由としてあげられる。
 こうした背景のもとで、アメリカでは、それまで最高税率が五〇%であったものが、一九八六年の税制改革において、税率がに一五、二八%の二段階に簡素化された。また、イギリスでは、形式的には累進税率をとっているものの、基本税率(二五%)で納税者の九五%をカバーするという事実上の単一税率となった。従来、所得税の一つの大きな機能は、所得再分配にあるとされ、そのため、高い累進税率が設定されていた。アメリカかイギリスにみられた累進構造の緩和は、所得税の大きな変化であるといってもよい。」(野口[1994:24-25])

第9章 国際化時代の税制

 「タックスヘイブンとは、法人の所得に対する税率が日本に比べて著しく低い国・地域を指す。企業活動の利益をタックスヘイブンに設立した子会社に吸収させれば、企業グループ全体の納税額を低く抑えることができる。「タックスヘイブン対策税制」とはこうした行為を抑えるための<0211<措置である。具体的には「タックスヘイブン」を指定し、ここにある子会社の留保所得の一部、または全額を親会社の利益とみなして課税する。日本は一九七八年にこの制度を導入した。現在、バハマやバミューダ、モルディブなど四一の国・地域がタックスヘイブンに指定されている。
 「移転価格規制」とは、多国籍企業の取引価格操作による租税回避を防止するための措置である。企業が海外企業と取引をする際、子会社などの系列会社との間では、取引価格を通常より高くしたり、低くしたりする操作がしやすい。[…]「移転価格税制」はこうした価格装置をチェックするため、系列会社間でも通常価格で取引したとみなして課税する仕組みである。日本では八六年から実施されている。」(野口[1994:211-212])
 「域内資本移動が完全に自由化されると、利子所得課税の脱税を防止する必要は緊急のものとなる。このため、EC委員会は、八九年に共通利子課税案を委員会指令として採択した。これは、加盟国がEC居住者への支払い利子に対し一五%以上の源泉徴収税を適用するというものである。
 しかし、この指令に対してはクルセンブルク、オランダ、イギリスが反対した。ことにルクセンルクは利子の源泉徴収がなく、さまざまな優遇処置を講じて外貨導入をはかってきたので、強く反対した。  このように、税の国際協調はきわめて困難であり、それが資本移動の完全自由化に対して大きな障害になっている。経済活動について国境を撤廃するのは一見するほど容易ではない。現実の世界は「ボーダーレス」とはほど遠いものといわざるをえないのである。
 税制の協調は望ましいか
 以上でみたように、税制の差による効果は、調整できるものもあるが、できないものもある。こ<0214<のため、税制の違いが、さまざまな問題をもたらすことになる。また、調整するといっても、そのための手続きは繁雑である。
 そこで、各国で税制や税率を統一することが考えられる。これは、右でみた諸問題を解決する。また、調整措置が不必要になり、簡略化がはかれるというメリットがある。
 しかし、これには、つぎのような問題がある。まず、技術的な問題がある。[…]
 仮に技術的困難が克服されたとしても、調整は必ずしも望ましいとはいえない。それは、決定過程における問題である。たとえば、利子課税の場合、仮に税率の低い国があれば、税制協調がなければ、他国にはそれに合わせて税率を低く設定する圧力が加わる。他方で、各国で協調することになると、通常は税率の高い国に合わせられることになる。したがって、税率は協調しない場合に比べて高くなる傾向がある。つまり、税率の決定に関して一種のカルテルが結ばれるのと似た効果が発生するのである。
 ただ、この考えにも、いくつかの問題を指摘できる。第一に、国の間の競争は個人や企業の場合とは異なる。たとえば、ある国が高齢化していれば、社会保障経費が多く、したがって税率も高くせざるをえないだろう。このように、税率は必ずしも政府活動の効率性を示さないから、簡単ではない。第二に、前述の競争原理は、国境を越えられない生産要素には働かない。そこで、競争圧力<0215<に直面した国は、労働所得や土地に対する課税を強化する可能性がある。土地課税は望ましいかもしれないが、労働所得に課税が集中するのは、公平の観点から、望ましいとはいえまい。
 ただし、一般的にいえば、協調とは市場の決定を官僚機構の決定で置き換えることを意味する。したがって、協調が無条件に望ましいとはいえないことを認識するのは重要であろう。」(野口[1994:214-216])


UP:20081211 REV:20090412
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