『家族と家庭――望ましい家庭を求めて』
飯田 哲也 1994.10.10 学文社
この本の紹介の作成者:K,H(立命館大学政策科学部5回生)
掲載:20020718
本書の目的
「人間にとって家族とは何か?」この問いに理論的に答えることが本書の主要な課題で
あり、日常生活のうえでも学問的にも認められる「常識的家族観」への疑問を投げかけ、
そこから抜け出す必要があることについての課題を提起し、家族の起源と日本に家族の
史的考察によって家族を考える方向を提示したものである。(はしがきより引用)
〜構成〜
序章 「家族とは何か」を考える〜問題の提起〜
1、「家族」についてのさまざまな意識
2、「家族とは何か?」に答えるには
第一部 家族と家庭
イントロダクション
第1章 人間生活とは?
1、生活とは?
2、人間とは?
3、家族生活とは?
第2章 家族と家庭
1、 家族と家庭とは違う
2、 家族とは?
3、 家庭とは?
第3章 家族生活の問題状況
1、 家族問題について考える
2、 社会問題としての家族問題
3、 現代日本の家族問題の推移
4、 問題状況という見方
第4章 望ましい家庭像を求めて
1、 考え方と現実
2、 家庭像はいろいろある
3、 理想の家庭について
第5章 家庭生活の諸条件
1、 意識的条件
2、 物質的条件
3、 家族社会学理論への誘い
第二部 家族社会学の理論構成
イントロダクション
第6章 理論構成の性格
1、 基本視角
2、 論理一貫性
第7章 個人・家族・社会
1、 家族の本質論
2、 家族の社会的位置
第8章 家族の内部理論
1、 家族構成・家族機能・家族関係
2、 生活構造と生活力
3、 ライフサイクル
第9章 家族と外社会
1、 家族と他の集団
2、 社会のなかの家族
第10章 家族変動・家族問題・家族政策
1、 家族変動論
2、 家族問題と家族政策
附論 21世紀への一試論
1、 未来論への挑戦
2、 未来の社会像
3、 結び
〜要約〜
序章 「家族とは何か」を考える〜問題の提起〜
家族を根本的に考え直す主張はけっして新しくないが、その多くはこれまでの支配的な
観方への単なる批判にとどまっており、新しい展開をどんな方向に求めるかについて整
理して具体的に主張する。(p.1-2)
1、「家族」についてのさまざまな意識
家族を定義するにあたっては、現にある「家族」から顕著に認められる特質を引き出し
てくるという発想、あるいは「家族」についての制度、理念などに着目し、どこにどの
ように重点を置くかという発想と解釈する。(p.7)
2、「家族とは何か?」に答えるには
結論は三つにまとめられる。第一に、現象整理による不明瞭性であて定義する前に「家
族」を想定している。第二に、もしそうでないなら、家族の理念を借定し、それをもっ
て家族の集団的特質とする結果になっている。第三に、現象整理に忠実であるほど、例
外にぶつかり、定義することを放棄せざるを得ない。(p.11)
第一部 家族と家庭
第一章 人間生活とは?
1. 生活とは?
「生活とは生産活動である。」生産活動は、生活資料の生産、新しい欲求の生産、他の人間
の生産、協同様式の生産の四種類がある。(p.22-26)
2.人間とは?
「人間は主体的活動であるとともに協同的存在である。」(p.29)
3.家族生活とは?
家族生活はすでに確認した生活の一部分であり、しかも時代によっても違うし社会によ
っても違うものでもあり、さらには人々の多様な家族意識と結びつけて理解しなければ
ならない難しい存在である。家族成立の二大基本条件は、物質的条件(=生活資料の確
保)と家族内での生活活動(=家事、子育て)である。(p.35-37)
第2章 家族と家庭
1.家族と家庭とは違う
日本の家族意識は常識的にも学問的にも混乱しており、家族と家庭とは違う、この二つ
の言葉をはっきり区別する必要がある。(p.41)
2.家族とは?
家族とは、血縁または婚姻などのエロス的契機と生活での共存によって結ばれ、その結
びつきが社会的に承認されている人々によって構成され、客観的には社会の必要性にたい
して主観的には構成員の必要性に応じて、生産主体としての人間の生産にかかわる人間的
諸活動が意識的かつ無意識的に行われる人間生活の日常的単位である。(p.47)
3.家庭とは?
家庭とは「理念としての家族」である。これ以上の規定はできない。人がどんな「理念」
を描くかはそれぞれ自由だからである。(p.55)
第3章 家族生活の問題状況
1.家族問題について考える
常識的理解として、家族生活に関することすべてが家族問題であると思われているが、
これは一つのテーマであって家族問題でない。家族問題把握として「社会問題としての家
族問題」とう見方を主張したい。(p.65-66)
2.社会問題としての家族問題
家族問題は社会問題である。社会学における社会問題とは、人間の生産と官憲の生産に
結びつく問題である。(p.70-71)
3、 現代日本の家族問題の推移
高度経済成長の影響が国民生活に浸透してきた70年代後半からは、「問題事象」として
直ちに表面化しない部分こそが重要になってきた。一見平穏無事で問題がない家族のなか
で、ある日突然「噴火」するかのような事件がマスコミに登場する。この潜在化こそが特
徴である。(p.72-74)
4、 問題状況という見方
一つの家族だけで家族生活を円滑に営むことが難しくなった、無理をしなければ家族生
活ができなくなった。(p.75)
第4章 望ましい家庭像を求めて
1、 考え方と現実
「理想の家庭のタイプはない」理想と現実はかけ離れている。ユートピアにならない理
想は必要だが、生活における個人の必要性は極めて多様であり、特定の価値観に収束し
ないはずである。(p.85-88)
2、 家庭像はいろいろある
常識的な家庭生活を営んでいる人は、常識をはみだした家庭が選択肢の一つであること
を認める必要がある。(p.97)
3、 理想の家庭について
家族論は、女性論や男性論が加わって一層多様であり、簡単に整理できないが、理想の
家庭像についての基本的な視点は個人の必要性と社会の必要性、そして生活力である。
(p.97-101)
第5章 家庭生活の諸条件
1、 意識的条件
意識的条件を追求することは単純に意識を変えようということではなく、人間が主体的
活動で協同的存在であることに基づいて考える問題である。常識的な先入観にとらわれず
に相対化してみる、あるいは実例が少数であることを変わっているという奇異な目でみな
いことは難しいが重要である。(p.109)
2、 物質的条件
物質的条件とは、時間、空間、収入、制度、政策の四つの要素とそれらの相互関連であ
り、現代日本の物質的条件の特徴は、それぞれの家族にとっては、この四つの要素のあい
だに格差とアンバランスに充ちていることである。現代日本では、これらをバランスよく
持つことはきわめて難しい。そこに家族と地域をセットに考える、つまり地域が補うとい
う共同性の創出が必要になる。(p.115-118)
3、家族社会学理論への誘い
新しい主張や実験が氾濫しているなかでいま必要なのは、プリンシプルにもとづいて、
家族生活が社会的に営まれている事実を前提とし、家族・個人・他の集団・社会それぞれ
の関連をトータルに組み立てることである。そのためには体系性をもった理論が絶対に必
要である。(p.120)
第二部 家族社会学の理論構成
第6章 理論構成の性格
1、 基本視角
基本視角は、その理論の基本性格と理論的射程を示す物として重要性をもつ。著者の家
族論の基本視角の一つは、「家族の秩序」が社会を制約するという視角であり、もう一つは、
「所有の秩序」が家族を条件づけるという視角。第三は、「集団分化」である。これは、エ
ンゲルスの見解から導き出せない独自の視角である。(p.133-136)
2、 論理一貫性
論理一貫性は、学問の生命線であり大変重要である。しかし、最近の家族社会学では、
単著あるいは共著において論理一貫性をもった理論構成が著しく少なくなってきている。
(p.137-138)
第7章 個人・家族・社会
1、 家族の本質論
第二章での家族の諸側面の並列的説明に加え、それらの相互関連と社会の中の位置付け、
家族否定論、家族無用論に対する批判的見解の表明。(p.144)
2、 家族の社会的位置
家族は、現在のところ、次の世代を産み育てる唯一の集団であり、家族否定論は論理的
には人類滅亡につながるものである。家族は、生産力であり、社会的に制約される。ま
た集団分化の進展のなかで多様化している。(p.150-154)
第8章 家族の内部理論
1、 家族構成・家族機能・家族関係
家族構成は、森岡清美の夫婦家族、直系家族、複合家族という3分類を若干補強する。
家族機能は、生産主体としての人間の生産にとって不可欠な生活資料の確保と家族生活に
おける人間的諸活動および社会的「生活力」の発展への関与である。家族関係の基本は役
割分担にあるが、これについては家族関係における物質的条件の獲得と家族生活としての
人間的諸活動などがどのように分担されており、そのことが他の家族関係とどのようにか
かわっているかが問われている。(p.160-162)
2、 生活構造と生活力
生活構造は家族社会学の理論構成からはずされている場合が多く、家族社会学の理論構
成にそれを組み込む必要がある。「生活力」とは生活構造とともに家族の状態を全面的に捉
える概念であると同時に、他の集団および家族政策と家族を理論的に結びつける概念でも
あるが、社会学の主要概念として、人間生活一般をも解明し得る概念として構想したもの
である。(p.168-169)
3、 ライフサイクル
家族構成、生活構造と並んで、ライフサイクルは家族生活のなかでは変化の著しい分野
の一つであると同時に、家族生活を全体として捉える重症な視角の一つである。(p.173)
第9章 家族と外社会
1、 家族と他の集団
現代は、「集団化」の極限の時代であり、多様な集団が人間の生産にそれぞれなにほどか
関与しているその中では、人間の生産に関わる重要な集団を確認しておくことが大事であ
る。(p.186)
2、社会のなかの家族
社会のなかの家族については、社会的規定性の強い家族の受動的側面と相対的に独立し
ている側面とさらには社会に対する能動的側面の3つの面から考えることによって、社会
と家族の関係が総合的に理論化される。(p.191)
第10章 家族変動・家族問題・家族政策
1、 家族変動論
このテーマは「家族はどこから来てどこへ行くのか?」という問いに答える大きすぎる
テーマである。高度経済成長が日本社会に未曾有の変化をもたらしたことに照応して、家
族生活もかつてない激変に見舞われたことは、日本人にとって体験的事実だろう。家族変
動論にとって大事なことは、このような変化がつぎの時期つまり現在進行しつつある変化
をどのように変化を準備しているかということである。
最近の動向を一言でいえば、変化でなく変容である。それは、これまでの常識的家族観
がくずれはじめているという変化動向である。(p.204-206)
2、 家族問題と家族政策
家族問題は、経済至上主義という暗黙前提がもたらしたものである。この前提は他方で
は「自由な生き方」を未成熟ながらも定着させはじめるとともに、価値観の多様化したが
ってまた家族の多様化を方向づけることにもなった。家族政策は、それが家族の必要性で
あるならば、特定の理念にもとづくものでなくて家族の多様化に応じるものでなければな
らない。「自由な家族創造」が家族政策の基本にすえられるとしたら、中央からの画一的な
政策は、実状に合わないものになる。発想の転換のたどりついたところは政策主体そのも
のを変えること、したがって政策の意味をも根本的に変える必要があることを提起してい
る。(p.212)
附論 21世紀への一試論
1、 未来論への挑戦
肝要なのは、自由な家庭創造の追及を可能性でなしに現実化するため、それに適合する
意識的条件と物質的条件という2つの社会的条件の追及である。自由な家族創造は単に自
分勝手ということではなく、真に主体的活動であり、共同体の可能態として協同主体であ
る人間を生産できる家族関係を維持・発展させるかぎりにおいての自由を意味する。
(p.217-218)
2、 未来の社会像
「地方分権を主とした社会」が未来社会像である。これは、地方分権ではできないこと
だけを中央政府がうけもつという考え方であり、家族生活にたいする適合性という点、と
りわけ現在の家族政策の画一性から脱するという点から構想したものである。価値観の逆
転が必要である。経済をすべての尺度とする現在の支配的な思考を他の尺度と同列に位置
付ける思考が求められ、その方向なしには未来への展望は語れない。(p.219-221)
3、 結び
未来について考えるにあたっての不可欠なものは3つある。1つは歴史認識にもとづく
現実認識。次には哲学。そして人間愛。人間は主体的活動であるとともに協同的存在であ
り、そのような人間の生産の原点は家族であることにほかならない。家族の多様な選択性
の保障こそが、人間性回復のキーポイントである。(p.222)
◇関連HP
日本家族社会学会
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsfs2/katudou.htm
日本家族社会学会は、家族に関する理論的・実証的および実践的な研究を推進し、個人と
社会の発展に寄与することを目的として、1991年に結成された学術団体です(日本学術会
議登録)。
社会学文献情報データベース
http://www.nii.ac.jp/ir/dbmember/socio-j.html
戦後,日本人研究者が発表した,あるいは日本国内で発表された社会学関連の文献(著
書,翻訳,雑誌論文,編書論文,AV・マルチメディア資料,等)についての書誌情報が
収録されています。データは,日本社会学会の機関誌「社会学評論」掲載の各年度の文
献目録を基礎にし,さらに日本社会学会および関連学会(現在は日本家族社会学会のみ)
の会員の自己申告した情報を追加したものです。
……以上。コメントは作成者の希望により略、以下はHP制作者による……