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『変わる日本型雇用』

高梨 昌 19940408 日本経済新聞社,221p.


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■高梨 昌(たかなし・あきら) 19940408 『変わる日本型雇用』,日本経済新聞社,221p. 立命館大学図書館:0114022677
・この本の紹介の執筆:O(立命館大学政策科学部学生)


プロローグ 日本型雇用の実像
 蔓延する雇用慣行崩壊論/繰り返されてきた動揺・崩壊議論/変化する「底流」

第1章 日本型雇用とは何か
 1、日本型雇用崩壊説の誤り
 2、誤解多い「終身雇用」
 3、能力差含む「年功賃金」
 4、変わる企業別労働組合

第2章 進む日本型雇用のリストラ
1、 終身雇用の動揺
2、 年功処遇の変質

第3章 変化の底流にあるもの
1、 情報化・技術革新の波
2、 サービス経済化の影響
3、 国際化の進展
4、 高齢化の波
5、 労働力供給の制約
6、 時短の進展
7、 変わる勤労意識

第4章 日本型雇用の行方
1、 働く「選択肢」の多様化
2、 心豊かな高齢化社会
3、 企業と個人の「共生」

《内容》

プロローグ 日本型雇用の実像

 蔓延する雇用慣行崩壊論・繰り返されてきた動揺・崩壊議論・変化する「底流」という3つの観点から、
・「雇用調整」というものが、正確に判断・理解されているのか
・「雇用調整」によって「日本的雇用慣行」が崩されるのか
・「日本的雇用慣行」とは何か
・「日本的雇用慣行」の三本柱とも言われる終身雇用、年功賃金企業別組合について内容
・「日本的雇用慣行」は簡単には崩壊・変容したりはしない
・以前までは慣行の基本が維持されていた、それがなぜ近年「崩壊」議論になったのか
・新しい働き方―日本の雇用システムとは
・労働力の流動化は雇用慣行を揺るがすものなのか
おおまかに以上のような内容を1,2,3,4章で述べ内容を踏まえた上で、これまで日本で有効に機能していた「日本型雇用慣行」システムが現在どのような状況にあるのか、問題点とその対応について本書では述べていく。

第1章 日本型雇用とは何か

1、 日本型雇用崩壊説の誤り
勤続年数や賃金実態に変化なし/通説と実態のズレ/「年功」の二つの意味/企業別組合は「御用組合」ではない/欧米でも同じ現象/パート、派遣社員も長期勤続傾向/日本型雇用慣行を支えるものの7項目で構成され、終身雇用などを踏まえた上での日本的慣行崩壊説に対する考えを変えるものになっている。例えば、終身雇用(伸びる一方で短期化していない)と賃金(昇給制の維持)など実態に変化がないこと・終身雇用・年功に対する実態と理解の違い・労働組合の重要性・パートや派遣市場の拡大が雇用慣行解体の理由にすることの間違いなどである。

2、誤解多い「終身雇用」
訳語としての終身雇用/わが国特有の労務管理政策が背景/忘れ去られた「限定」の3項目で構成され、終身雇用に対してのあり方を述べている。例えば、「終身雇用」は日本の雇用システムの基本であること・長期勤続の慣行が定着した理由、背景・日本の企業と労働者の変化・現在の状況から日本の雇用システムが変化したと言えるかなどである。

3、能力差含む「年功賃金」
誤解を広めたOECD報告/高度経済成長下の「幻想」/無視できぬ勤続年数による「期待」の3項目で構成され、年功賃金の理解の誤差とあり方について述べている。例えば、能力と賃金の関係・高度経済成長下での賃金制度・年功の意味などである。

4、変わる企業別労働組合
 低下する組織率/懸念される影響力の低下/企業別組合の特徴/企業別組合の機能/オイルショック後に「協調路線」が定着/企業別組合の社会的チェック機能/春闘の転換/解決迫られる生活課題/状況変化に対応できるかの9項目で構成され、労働組合についての基礎的理解が述べてある。例えば、パートタイマーなどの拡大によって、欧米でも落ち込んでいる「労働組合の組織率の低下」とその背景・日本の労働組合は他国に比べ組織率はまだ高い方であること・日本の労働組合の特徴、機能・労働組合が経済に与える影響などである。
 以上のように第1章においては終身雇用、年功賃金、労働組合における日本型雇用システムについての理解の整理と雇用システムの根本的な内容について述べている章である。これらの内容を踏まえた上で第2章からは、高齢化などの社会問題などのも関係しながら日本型雇用システムの内容を深めている。

第2章 進む日本型雇用のリストラ

1、終身雇用の動揺
 広がる早期退職優遇制度/出向・転籍/「非終身雇用型職業」の拡大/中途採用の実像/比重高まるパートタイマー/契約社員の実態/派遣労働者の位置の7項目で構成され、高齢化や女性の社会進出に伴う企業が採用する人材の変化や終身雇用とパート化の関係などが述べてある。例えば、高齢化社会おける企業の対策・若い年齢への移行・早期退職優遇制度への期待と不安・大企業から中小企業への出向・出向の変化・派遣労働者、パートタイマーとは異なる正社員の拡大、背景・中途採用の実態、理由・サービス産業でのパート雇用の影響・パート化の意味などである。

2、年功処遇の変質
 賃金カーブ/仕事給化/年棒制の行方/高齢化・定年延長と賃金制度/脚光浴びる専門職制度の5項目で構成され、賃金のポイントを踏まえた上で、高齢者層に対する賃金の変化の動向について述べてある。例えば、賃金の問題点と動向・属人給(賃金が年齢・勤続年数で決定される要素)と仕事給(能力や仕事の内容に対応する要素)で構成されていること・賃金制度の現状と変化について・年棒制とは何か・導入される理由・年功賃金に変化・高年齢層の賃金改定・処遇システムの変容などである。
 以上のように第2章では賃金や終身雇用の今までの機能などが変わってきた現状について述べている章である。第3章ではこれらの変化に伴い、技術革新や企業と個人などについての現状と問題点について述べている。

第3章 変化の底流にあるもの

1、情報化・技術革新の波
 技術革新による雇用量の変化/仕事の質を大きく変えるOA・FA化/技術革新と人材育成の3項目で構成され、技術革新に伴う人材開発、個人が企業とどうかかわるべきなのか、それによって雇用はどう変化していくべきなのかが述べてある。例えば、技術革新は雇用を削減する一方で、拡大させるという影響を持っている・専門家の進展に伴う技術的職業従事者の増加・サービス経済化の進展に伴う技術士の増加・これらに関係する人材開発の重要性・能力や技術内容の変容・年功賃金や年功昇進などの雇用システムが質的変化に対応できるか・技術者と作業者の二極分解の進行と阻止・個人と企業・職業能力開発・新しい形の人材育成システムの構築などである。

2、サービス経済化の影響
 サービス経済化と職業構造の変化/労働市場流動化と能力形成の2項目で構成され、ここでは、職業への企業とろうどうしゃの意識の変化というものが理解できるようになっている。例えば、経済化などの変化から「職業」でも変化がでてきている・職業に対する意識の変化・職業選択の時代・需要と供給のミスマッチ拡大・個人能力形成のあり方・公的な公共職業安定所と私的な民営有料事業所の増加理由などである。

3、国際化の進展
 外国人労働者問題/日本型生産システムの海外移転の2項目で構成され、海外での企業における問題や、外国人増加に伴う問題点について述べている。例えば、外国人の増加の原因と不法就労者増加・外国人受入問題・正社員化、総合職化を進める企業の増加・日本企業の海外進出の加速化・日本型生産システムの移転と雇用慣行の移転・人事制度の問題・などである。

4、高齢化の波
 日本型雇用のアキレス腱/広域化するキャリア形成の2項目で構成されている。日本の雇用システムが高齢者に雇用機会を提供しにくい構造であること・産業の重点移行に伴う問題(組織や人材育成)・日本の組織編成のあり方・高齢化のメリット、デメリット・労働市場とは・広域人事異動の原因などについてである。

5、労働力供給の制約
 女子労働力の活性化/高齢労働力の活用の2項目で構成され、育児や出産などの生活とのバランスを考えた上での職業選択をする女性・高齢者労働・若年層に関する理解と問題点について述べてある。例えば、働きかの多様化と生活との両立という女子労働への理解・生活と労働の両立・パート労働の変容・継続雇用問題・若年者中心の企業増加・人材戦略の見直し・働く側に合わせた職場づくり・能力開発の見直しなどである。

6、時短の進展
 制度的な改正が先行/所定内でも進む/時短の意義/変わる働く者の価値観の4項目で構成され、ここでは、時短の進展と労働市場の動向、働く者の意識変化というものが今までの日本の雇用慣行を変化させる要因となってきていることが理解できる。例えば、労働時間の短縮などの制度の改正・時短の目的・働く者の仕事や生活に対する価値観の変容の要因・労働時間と自由な時間などである。

7、変わる勤労意識
 四十歳代でも終身型と転職型が拮抗/会社側の処遇の変化も背景に/従業員も年功制の修正に柔軟姿勢の3項目で構成され、これまでの日本型慣行が経済率を高め、生活の安定に関係してきたことは言うまでもないが、生活の豊かさ・精神的なゆとりというものが問われるようなり、そのことが企業というものを変化させ、日本型雇用というものが問われるようなったことについて述べてある。例えば、企業の求める人材の変化・会社への帰属意識の希薄化の原因・企業の対策に応じて変化してきている労働者などである。
以上のように第3章では生活の充実や個性化を求める価値観の変化、生きがいの多様化について述べている章である。第4章では、これらの進化によって日本の雇用というものが今後どうあるべきなのかについて述べている。

第4章 日本型雇用の行方

1、働く「選択肢」の多様化
 女性がリード役に/個人評価はシビア/フレキシブルな職業生涯の3項目で構成され、職業選択の多様化の原因や、問題について述べてある。例えば、パートタイム・派遣社員・契約社員などの職業選択の幅を広げた女性・高齢者や若者のライフスタイルにあった働き方とは・アイデアの創造=個人評価という厳しくなる評価・今後のパートなどの進化と労働市場の流動化がどれほど進むかの二点の重要性・選択肢多様化のもつ意味、課題などである。

2、心豊かな高齢社会
 三つの「過ぎる」/生活の充実/仕事の「中」のゆとり/エージレス雇用の実現にむけて/「なだらかな」引退の準備/「働きたくない人」にはその自由を保障の6項目で構成され、現代があらゆる面においての転換期であること、心豊かな高齢社会を迎えるためにはどうすべきなのか、職業生涯における労働と余暇とのバランスついて述べてある。例えば、日本が直面している三つの過剰な状況とは何か・生活システムの見直し・仕事と生活の中でのゆとりと生きがい・今後の高齢化社会における雇用と就業を考える際のポイント・勤労意欲を生かす仕組みとは何かなどである。

 3、企業と個人の「共生」
 「共生」論の提起/8割以上が「会社優先」/企業の中だけでは充足されない豊かさの3項目で構成され、労働と個人生活・企業と個人との「共生」という視点から今後の日本の雇用のあり方について述べている。例えば、まず「共生」論の提起・会社優先と会社離れ・個人と企業の共生による豊かさなどである。
以上のようにこの章では、近年増加する「働く女性」に対して働きやすさを中心に議論されてきたことが、女性だけでなく、高齢者、若者、中年男性にとっても重要な問題であるということが理解できる章である。

感想(by O)

 この本は多くのテーマを述べ、日本の雇用というものを本1冊で基本的なことから社会問題に関わるとことまで、詳しく述べてあった。細かく構成することによってより多くの関連性や、一つ一つの内容も理解できるものだった。日本型の慣行は今後も消えることはないと思うが、内容が変化していくことは確実である。その中で、如何に自分のライフスタイルにあった職業選択をするかで、日本の雇用も大きく変化していくのではないだろうか。高齢化が進む日本で今後の雇用問題というのはますます議論されていく中で問題点も少なくない。そのため日本の制度や政策への見直しの必要性というのは今後さらに高まっていくだろう。バランスのとれた高齢社会を迎えるためにも、変化していく雇用などの知識を深め考えていかなければならないと感じた。
以上


UP:20040207
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