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『未婚化の社会学』

大橋照枝 1993.6.20 日本放送出版協会,NHKブックス666,本体870円+税


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この本の紹介の作成者:横山篤志(立命館大学政策科学部3回生)
掲載:20020710

はじめに

第一章 結婚モラトリアム現象
 〇 女性ニューシングルズの出現
 〇 崩れる男性主導型の結婚
 〇 結婚に望まれる対等な関係への可能性
第二章 ゆらぐ結婚というシステム
 〇 男性の利益をはかる結婚のシステム
 〇 社会体制を支える結婚
 〇 精神的・経済的に自立した結婚
 〇 隷従を生む経済的な依存
第三章 結婚による女性の経済的デメリット
 〇 女性家事労働の経済的価値
 〇 経済学が扱わなかった女性家事労働の経済的分析
 〇 結婚を阻害するその他の要因
第四章 経済学のテーマとなった結婚
 〇 経済学における新分野のスタート
 〇 ベッカーの「結婚の理論」とは
 〇 アメリカの女性経済学者による「結婚の経済学」
第五章 事実婚はシングルのバリエーション
 〇 戸籍制度がひきずる家制度の残滓
 〇 戸籍上の婚姻がもたらす問題
第六章 事実婚を選んだ女性たち
 〇 日本における事実婚の記録
 〇 福祉国家スウェーデンにおける結婚のパターン
第七章 未婚化社会が日本を変える
 〇 男女役割固定観念からの脱皮
 〇 女性社会進出で、高経済・高福祉社会確立
終章 女性が自立して生きるために
 〇 どんなライフスタイルでも選択できる社会システム
 〇 女性の社会進出を促すためのサポート

はじめに

 〇 ゆれる結婚というシステム
 結婚というシステムは、女性にとって、そして男性にとって何であるか。結婚は社会学的・経済学的には何をもたらすか。
有史以来、男性が妻をめとることで、無償で家事・育児・介護を任せられた「結婚というシステム」が今ゆらいでいる。(p.8)

 〇 未婚化現象が多様でフレキシブルな社会づくりの突破口に
 女性ニューシングルズの増大、結婚モラトリアム化の進展する一方、まだまだ日本社会は35歳以上の人口の9割強が結婚しているという皆婚社会である。(p.9)
 女性の社会進出、高学歴化、経済的自立、シングル・マザー化、事実婚、夫婦別姓、また、法的整備が図られることなどによる、多様性をサポートする社会はフレキシブルでしなやかである。

第一章 結婚モラトリアム現象

1.結婚しない女性の増加
 日本では結婚に関して結婚適齢期という社会通念が強かった。しかし、20代後半から30代前半の情勢における未婚率は急上昇し、晩婚化、いわば結婚モラトリアム現象が高まっている。また、現在、結婚が男性の供給過剰で、女性は選ぶ側にあり、その気になれば結婚できるのにしないのである。(p.15−16)
 
2.増える結婚消極派・否定派
 日本女性は、20代では結婚消極派・否定派が多いが、年齢が高まるほど肯定派が増える。そこで昔とは違い、女性は結婚の魅力、メリットの低さを考えている。(p.17−22)

3.高賃金化で減退する結婚の経済的メリット
 終身雇用・年功序列賃金体系のもとで、学校卒業と同時に就職し継続していれば、さほど男女賃金格差も少なく、独身女性が経済的自立をするには十分である。しかし、女性の全年齢の雇用者の平均賃金は、男性の57.5%にすぎず、この男女賃金格差は、OECD諸国中最大である。(p.23)
 高学歴=高賃金であることが、女性の進学率を高める大きなインセンティブになっている。そして好景気は、労働力不足を生み女性の雇用が促進される可能性を持っているのである。

4.社会のコスト・パフォーマンスを高めた結婚制度
男性主導型の社会にとって、結婚はこれまできわめてメリットの多いシステムであった。社会通念では、男性は、結婚して身を固めると信用が高まるということあった。しかし、女性は、女性が妻という名のもとに、無償で家事、育児を担う代償として生活が保障されるというのが、今までの結婚であった。結婚して家庭を無償で支えてくれる女性の存在は、コスト・パフォーマンスのよい経済社会を維持するためにも、世帯を管理するためにも、社会にとっても便利であった。(p.28−30)
   女性をほぼ、家政婦扱いにしていた。

5.女性の積極的結婚モラトリアム
 @男性はマザーコンプレックスで育っていることが多いと指摘   精神的・生活者としての自立をしていないため女性を母親、家政婦、看護婦代わりに求める傾向が強くなっている。
 A女性の高学歴化と高い就業率で市場に進出
@、Aの理由から女性の積極的結婚モラトリアムが進んでいる。(p.31−32)

6.ミッシン・ママになりたくないニューシングルズたち
 旭通信社が1990年に、自分を喪失し、行方不明状態にある女性を「ミッシン・ママ」(自分を見失っているママ)と名づけた。
ミッシン・ママの四つのクラスター分け(p.35)
@ 高踏享楽派のラブリー・ママ(18.4%)
A 現状打開派のマイティ・ママ(26.4%)
B 未来待望派のフラスト・ママ(23.6%)
C 停滞安住派のニュートラ・ママ(31.6%)

7.自立した男女のパートナーシップの確立
 互いに自立した男女は双方にとって、精神的・経済的に1+1=2ではなく、互いの協力や高めあいによる相乗効果で、3にも5にもしていけるメリットを多く生み出すために努力する時に来ている。(p.40)

8.日本の男性は、男性天国に安住(p.40−41)
 
9.ファッション、ライフスタイルで進むパーソナル化(p.42−46)
 @「モノ」    「心の満足」
 A「住」     「レジャー余暇」
 B「将来のために貯蓄」   「毎日を楽しむ」

第二章 ゆらぐ結婚というシステム

1.家父長制度における女性の地位
 家父長制度の確立・・・社会の生産性が高まり、私有財産制の形成により、男性が中心となり、直系の子孫に財産を継承させ、家を維持していくこと。   妻の貞操が強制される。
(p.48)

2.「能力ある女性は結婚などしない」とミルは予告
 ミルは、「女性は文学的教養を授けられるべきでなかった。」と男性の本音を逆説的に主張。(p.52)

3.家父長制度のもとで機能した結婚のシステム(p.54−55)

4.資本主義経済を発展させた結婚システム
 女性の無償の家事・育児などの再生産を生むシャドーワークが、男性の市場労働での生産を生む原動力となった。(p.56)

5.マルクス主義フェミニストたちの思い込み
 フェミニストの女性たちがマルクス主義を一つの救世主と見たことは、必ずしも正しくない。(p.59)

6.豊かな社会が、女性の不当な役割をカムフラージュ(p.59−60)
 
7.男性社会がつくった結婚のトリック
 女性を目覚めさせないように適齢期に結婚させ、子孫繁殖のための道具にしようとする策略など。(p.62−63)

8.結婚制度の欺瞞の本質に迫ったバートランド・ラッセル(p.63−66)
 
9.結婚制度と愛のジレンマ
 「現代の結婚の困難な面の一つは愛であり、愛というものの価値を最もよく意識している人達が痛切に感じている問題で、それは、愛は自由で自発的であるときのみ栄える。そして法律のきずなで愛を結び合わせる結婚というものは、こうしてあぶはちとらずになる。夫婦の理解すべきことは、たとえ法律がどう言おうとも、生活スタイルで二人は自由であらねばならない。」ラッセルの結婚と愛の問題に関しての主張(p.66−67)

10.女性のこうむる経済的不利
 少子化   育児休業制度、児童手当ではカバーできなくなる。(p.72)

11.フェミニズムの祖メアリー・ウルストンクラフトの愛のかたち(p.73−78)
 
12.多様化する結婚のパターン(p.78−79)
 
第三章 結婚による女性の経済的デメリット

1.先進国一長い女性の家事労働時間
 1990年のNHK「国民生活時間調査」で、専業主婦の家事時間は7時間18分。(p.83)

2.男性平均賃金の七割にもなる主婦の家事労働
 1990年のNHK「国民生活時間調査」で、主婦業の年収は246万6058円にもなる。女性の家事労働の価値は、相当の価値を生んでいる。   家事労働は時間と労力が必要。
(p.84−87)
3.賃金の支払われない家事労働(p.87−89)

4.GNPを支える女性の家事労働
 女性の「消費」の役割は、結婚制度という隠れミノによって、賃金が支払われるどころか、その価値が無視されてきたのである。(p.91)

5.家事・育児・介護を優先させる社会のしがらみ
 日本女性の労働力曲線の基本パターンはM字型である。   中央凸の山型を目指すべき。(p.93−101)

6.自立を妨げるパートの低賃金
 多くのパート女性は年収100万円を超えないように苦労している。(p.101−104)

7.高い子供の養育費と薄い公的補助
 子供を育てるのに22年間で必要な養育費と教育費で2404万円もかかる。   女性の結婚モラトリアム化、結婚後のDINKSの増大、子供は一人などの傾向を強める。(p.107)

8.エスカレートする結婚式費用(p.107−111)

9.女性の長い寿命と貧しい老後
 夫に扶養される立場にあって、低賃金のパート労働下にある女性は、老後、夫の特別な蓄財でもなければ、厳しい経済状態に陥る。(p.111)

10.社会保障における女性の地位
 社会保障自体が、女性が経済的に自立して生きることを全く前提にされていない。(p.116)

第四章 経済学のテーマとなった結婚

1. ゲーリ・S・ベッカーが開発した結婚の経済学(p.122−124)

2. 進むアメリカの女性経済学者の結婚研究(p.124−126)
 
3. 教育への人的資本投資の増大で高まる「機会費用」
 高学歴の女性が専業主婦かすることは、機会費用を高め、家庭内の潜在的生産性にも貢献する。(p.128)
 女性が結婚を経済効率で選ぶ傾向が高くなる。   結婚かを遅らせる(晩婚化)(p.129)

4. 「結婚の理論」の出発点
 経済学者が、結婚を無視してきた事実は全くの手抜かりであった。(p.130)

5. 結婚が成立する最大の条件
 「自分たちの子供を育てたいという願いと両性の肉体的、感情的結びつきであり、自分の子供を持つことと愛情の大切さは結婚が規模の経済性だけでなく、二人の男女(代替性)がないことである。」(ベッカー)(p.132)
 
6. 経済効率からみた結婚
 「女性の賃金のほうが高い場合は、男性の側に特別家事能力が高い場合は別として、結婚するメリットは少ない。しかし、男女間の賃金格差が大きいと、お互いを、賃金労働と家事労働に分業すればその効果は最大になるので結婚のメリットが最も高い。」(ベッカー)(p.133−135)

7. 子供の質への期待(p.135)

8. 結婚にふみきる愛情と関心
 「人を愛する」=「愛情=関心」(p.136)

9. 慎重な伴侶探しが晩婚化(p.137−138)
 
10.情報化社会で高まる離婚
 「情報化社会では、多くの出会いがあり、出会った相手についての新しい情報で満ちていて、離婚率を高めている。」(ベッカー)(p.138−139)

11.シングル世帯の増加(p.139−140)

12.アーリーン・レイボウィッツ「女性の家庭内生産性」
 「高学歴女性ほど子供の世話に時間をかけるので、高学歴化は少子化へとシフト」と指摘(レイボウィッツ)(p.140−143)

13.リー・ベンハム「結婚を通してもたらされる女性への教育投資の非市場的見返り」
 女性の学歴・能力が、経済的な力を得るのに結婚というシステムを通さなくても可能になった。  未婚化現象 (p.146)

14.フレデリカ・P・サントス「結婚状況の経済学」
 女性の労働市場での賃金の上昇は、女性の婚姻率の低下を説明する重要な要素。女性の労働市場での力を増すことは、多くの女性に結婚以外の選択をさせる方向へ導く決定要因となってきた。(p.150)

第五章 事実婚はシングルのバリエーション

1.民法750条が定める夫婦同姓
 「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(p.154)

2.管理のためにつくられた戸籍制度
 国際社会において戸籍制度がある国はほとんどない。

3.夫婦別姓への動き(p.158−161)
 
4.老親の介護など家に縛られる女性
 日本の場合、三親等内の姻族までの扶養義務を負う。

5.先進国で次第に増える事実婚
 ドイツ・スウェーデンなどの国では、事実婚の割合は多いが、日本は遅れている。(事実婚は日本でいうバツイチということにはならない。)(p.162−164)

第六章 事実婚を選んだ女性たち
 
1.農村女性に新風を吹き込む事実婚(p.166−169)

2.結婚制度に抵抗して事実婚(p.169−171)

3.戸籍制度に縛られずパートナーと共同生活(p.171−172)

4.ネットワーク作りを考えるシングル女性たち
 年老いてからの健康や経済上の不安は否定できない。   独身女性のネットワーク形成。個を確立して生きることへの考えに。(p.172−174)

5.高い労働力率と高い婚姻率と高い出生率の併立
 スウェーデンモデル(高福祉国家)(p.174−177)

6.「キャリアも子供も」選ぶスウェーデン女性(p.180−181)

7.社会民主主義とともに生きてきたあるサンボウ・カップル(p.182−186)

8.新しいスウェーデンのサンボウ世代(p.186−188)

第七章 未婚化社会が日本を変える

1.日本の企業社会は男性文化偏重
 日本の経済発展を支えたのが、結婚制度や戸籍制度による、家を単位とする国民の国家管理であり、特に近代産業社会が促進したのが女性の専業主婦化である。(p.190−192)

2.結婚モラトリアムで日本社会をリストラクチャリング
 結婚モラトリアム    日本社会の人間と経済の再構築をするよいチャンス。(p.193)

3.男女賃金格差の大幅な縮小(p.194−196)
@ 女性が労働力化し、男性並みの賃金を取ることで、内需拡大し、高経済を維持できる。
A 高経済で、高福祉へ高還元させることが可能に。
B 税収の増加    福祉国家社会

4.男女とも精神的・経済的・生活者的に自立
 「なぜ、女性が外に出て働くことが大切なのであろうか。」と再度、問題提起。
生き方の基本型はシングルであり、自立した個の生き方のバリエーションがあることの考えを確立すべき、と指摘。対等に自立しながら社会参加すべきである。
また、男性も女性も生活者として自立していける最低限度の生活者能力を身に付ける教育を、学校、家庭できちんと行う必要がある。(p.197−200)

終章 女性が自立して生きるために

 〇 どんなライフスタイルでも選択できる社会システム
 女性の労働力率が今より高まることは、21世紀において労働力不足の解消のために不可避である。その働き方も一人で経済的に自立できない、パートタイマーに甘んじるのではなく、男女同一価値労働、同一賃金を勝ち取るような働きをして行くべきである。(自分の年金をもらう方向にするべきである。)
 また、女性が生涯のライフサイクルのどの時期を通しても男性に依存せず、対等に生活することで、国家の高経済を維持し、豊かさを保持できる道である。(p.202−204)

 〇 女性の社会進出を促すためのサポート

@ パート減税の見直し
A 育児・介護の社会保障
B 誰もが多様な選択できる社会へ向けての社会政策の再構築


……以上。コメントは作成者の希望により略、以下はHP制作者による……


UP:2003
性/フェミニズム/家族/…  ◇2002年度講義関連  ◇BOOK
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