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『世界の偏見と差別 152のアンソロジー』

Gioseffi,Daniela eds. 1993 On Prejudice:A Global Perspective
=19960315 大西 照夫 監訳,明石書店,890p.


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■Gioseffi,Daniela eds. 1993 On Prejudice:A Global Perspective
=19960315 大西 照夫 監訳 『世界の偏見と差別 152のアンソロジー』,明石書店,890p. ISBN-10:4750307823 ISBN-13:978-4750307824  \9135 [amazon][kinokuniya] ※ er eg-naz f03 ds/ds

■内容(「BOOK」データベースより)
レオ・トルストイ、マーク・トゥエインからマーティン・ルーサー・キング、ネルソン・マンデラまでこの一冊で読む“偏見と差別”。

■内容(「MARC」データベースより)
18〜20世紀を代表する思想家・宗教家・政治家・文学者のその多様な言説を紹介。偏見についてのあらゆる角度からの考察と文献を網羅。偏見がいかにして人の心の中に生まれるかについて深く学問的な考察を試みる。

■編者紹介(本書奥付より)
ダニエラ・ジョセッフィ(Daniela Gioseffi)
 ニュージャージーで生まれ、ニューヨークで育った。詩人、作家、編集者、ジャーナリスト、パフォーマー、市民運動化として世界的に知られている。
 専門は異文化間コミュニケーションで、コミュニケーション学と世界の文学の教授を務め、アメリカやヨーロッパで広く講演活動を行なっている。
 著書に、米国図書賞を受賞した『闘う女性』(Women on War,published in New York and Vienna)、『湖の卵』(Eggs in the Lake,Boa Editions,1980)、『巨大なるアメリカの胃袋』(The Great American Belly,New York, London, and Zagreb,1979)、『傷つける者には言葉を、花には水を』(Word Wounds and Water Flowers:Poems 1980-92,Mosaic, Vienna, New York, & London,1993)、『ごみは消えいく』(Dust Disappears:Poems of A Latin-American Feminist, Carilda Oliver Labra,Cross-Cultural Communications,Merrick, NY, 1993)などがある。詩作でNEA賞を受賞し、PENショート・フィクション賞受賞者にも選ばれている。
『ネイション』(The Nation)、『パリ・レビュー』(The Paris Review)、『ニューヨーク・タイムズ』(New York Times)、『ミズ』(Ms.)などにも寄稿している。

■目次 ※ルビは〔 〕で記した

凡例
この本の読者へ …ダニエラ・ジョセッフィ
解題 …大西照夫
概説 …ダニエラ・ジョセッフィ

第T部 外国人恐怖症とジェノサイド――過去と現在

1.問い直される過去 忘却にさおさして
  怒れる者たち …アン・エベール
  『カンディード』より「彼が出会った奴隷」 …ヴォルテール
  『コンゴ』より「進歩の前哨点」 …ジョゼフ・コンラッド
  『闇の世界』より …ジョゼフ・コンラッド
  奴隷の世界 …ジャン・ロゴジンスキー
  酷使と鞭打ち …ニコラス・ギジェン
  アフリカ、虐待された大陸 戦争と帝国主義の根源 …W・E・B・デュ-ボイス
  奴隷の歌 …エフゲニー・エフトゥシェンコ
  ピルグリムの侵略 …ウィリアム・エイプス
  インディアンに対する細菌戦争 …ブラックバード首長
  あるインディアンの友人 …ジョゼフ・ブルチャック
  メキシコ人たちと戦って …ジェロニモ首長
  ソーク族の戦死の回想録 …ブラック・ホーク
  ジョン・ブラウンへ …A・フランシス・エレン・ワトキンズ・ハーパー
  私を自由の国に葬っておくれ …A・フランシス・エレン・ワトキンズ・ハーパー
  『フレデリック・ダグラス自伝』より …フレデリック・ダグラス
  ある履歴書のために …ロッシェル・ラトナー
  ベウゼッツを訪ねて …ウィリアム・ヒーエン
  黄色の星と桃色の三角形 第三帝国の性の政策 …ジャック・ニューサン・ポーター
  歴史の中の人間 …ウィリアム・ヒーエン
  私はホロコーストの子どもである …マール・ホッフマン
  すべての人びとがその罪を背負わなければならない …マルギュリット・デュラス
  戦争の惨害 …ホセ・エミリオ・パチェコ
  アルメニア人のジェノサイドの経験 …ゾルヤン研究所
  パンの唄 …ダイアナ・デ-ホバネシアン
  カンボジア人の通夜の写真を見つめるアルメニア人 …ダイアナ・デ-ホバネシアン
  大虐殺と凶悪殺害 合衆国のフィリピン占領 …マーク・トゥエインほか
  ヒットラーとジプシー 忘れられてはならないジェノサイド …ドーラ・E・エイツ
  ヒロシマは戦争犯罪であった …岩松繁俊
  男性中心社会の中での女性の略史 …マリリン・フレンチ
  女性たちの頭脳  …ステファン・ジェイ・グールド
  魔女狩り …バーバラ・アーレンライヒ,ディアダー・イングリッシュ
  人間をモルモットにした核実験、ビキニ、ロンゲラップ、ウティリク、クエジェリン
      …ダーレン・ケジュ-ジョンソン

2.過去の記憶を反映した現在
  すべてが素晴らしい …ジェイン・コルテス
  国際政治における人種要因 …ヒュー・ティンカー
  ジェノサイドは過去に起こったある犯罪を意味する新語である …ジャック・ニューサン・ポーター
  人権の監視 大量の国籍剥奪 …アーリー・ナイア
  多民族国家「我々米国民は……」 …ダニエル・パトリック・モイニハン
  米国におけるネオナチ運動 …エリノア・ランガー
  憎しみを見つめて …ジェイムズ・ライト
  ドイツ右翼の復活 過激派たち …フランク・ターラー
  ヒットラーの春 …ユージェニオ・モンターレ
  ヨーロッパで移民は必要とされているが望まれてはいない …アラン・ライディング
  ポーランド系米国人に対する極端な偏見 …レイチェル・トーア
  『私の血統』より「途方もない偏見」 …リチャード・ガンビーノ
  『ザ・ジャパニーズ』より「人種偏見は世界中に浸透している」 …エドウィン・O・ライシャワー
  『日系米国人として』より「増大するアジアの経済力に対して米国人が持つ敵意は……」 …デイビッド・ムラ
  『アラビストとは?』より …ロバート・D・カプラン
  人種差別とオーストラリアの先住民 …ジュリアン・バージャー
  そして真の憎しみが …フィリップ・アップルマン
  『沈黙の強要』より「宗教は作家にとって危険な話題であることはよく知られている」 …シオバーン・ダウド
  独房1081号室物語 …リリア・キンドサ−サンティアゴ
  正当な怒り 演説からの抜粋 …マルコムX
  三日間と一つの物語 …グレース・ペーリー
  『二級市民』より「有色人種お断わり」 …ブッチ・エメチュタ
  まさに今 …ミルトン・ケスラー
  人種差別と麻薬戦争 …クラレンス・ルザーネ
  大衆に向かって詩を朗読する …モーリス・ケニー
  中央アメリカ 消えゆく森林、絶滅寸前の民族 …アラン・ワイズマン,サンディー・トーラン
  ユナイテッド・フルーツ社 …パブロ・ネルーダ
  アメリカ人 …トラン・サイ・ンガ,ウェンディ・ワイルダー・ラーセン
  障害を持つ人びとに対する偏見 …クリス・ギリスピー
  声をぬすまれた小さな男の子 心をぬすまれた小さな男の子 …フェデリコ・ガルシーア-ロルカ
  『(旧ソビエト連邦の)未来をみつめて』より …エレーナ・ボンネル
  ユーゴスラビアの崩壊 …レナード・J・コーエン
  中国によるチベット占領 …ジュリアン・バージャー
  ビルマ 囚われびとの国 …ポーラ・グリーン
  人種差別を性の側面から見てみると…… …カルビン・C・ハーントン
  頭が変になりそうだ …W・E・B・デュ-ボイス
  人種差別と同性愛嫌悪〔ホモフォビア〕 …フィリップ・ブライアン・ハーパー
  ジェノサイドのイデオロギー 傷と癒し …ロバート・ジェイ・リフトン,エリック・マーキュセン
  人は元来、強く、攻撃的な性格を備えもつ …ジクムント・フロイト
  かわいいビヨン …フィリップ・レヴィン
  敵の必要性 …ドロシー・ロウ
  スケープゴートの必要性 …ロバート・コールズ
  人間の皮膚で作ったランプの傘 未完成の自叙伝 …ダニエラ・ジョセッフィ
  かけがえのない地球 …モーリス・F・ストロング
  『汚染された土地』より …アル・ゴア
  アマゾンの熱帯降雨林 伐採のために消えていく人びと …スザナ・ヘヒト,アレキサンダー・コックバーン
  エデンの園から …スタンリイ・バーカン
  「21世紀の政治、世界規模のフェミニズム」より …ロビン・モーガン
  地球こそわがふるさと …ヴァージニア・ウルフ
  わたしは女じゃないのかい? …スジャーナ・トゥルース
  「民族浄化」それとも女性を浄化しているのか …ルシア・マリア・ペリロ
  スカイ・ウーマンと姉妹たち …ポーラ・グン・アレン

第U部 文化の破壊と肯定

植民地化、教育、言語、歴史、民族芸術、宗教、文芸作品、伝統、マスメディアによるステレオタイプ創造と支配、文化崩壊、文化再肯定、誇りと偏見、自文化中心主義、ファシスト的偏見、民主主義、そして寛容

  言語 …ペイ・タオ
  『抑圧の言語』より …ヘイグ・A・ボスマジアン
  テオティワカン …キャロル・ストーン
  「もし黒人英語が言語でないなら、それが何か教えてもらいたい」 …ジェイムズ・ボールドウィン
  『図説 世界の先住民族』より「文化破壊」 …ジュリアン・バージャー
  『図説 世界の先住民族』より「宣教会施設での子ども時代」 …シャロン・ヴィン
  アフリカの諸言語による文学 …フィリス・ビショーフ
  「沈黙の打破 文化保全のための戦略的必然性」より …ロバート・ヴィスクーシ
  死にゆく昔のイタリア人 …ロレンス・フェルリンゲッティ
  英語再考 …キャロライン・ライト
  『みせかけのメディア』より「みせかけの歴史」 …マイケル・パレンティ
  太平洋諸島の植民地化 …チャイラング・パラシオス
  退去通告をうけた島からの叫び …マーティン・エスパーダ
  ホワイト・アース土地権紛争 排除とステレオタイプ …ウィノナ・ラ-デューク
  「テロリズム」の報道 北アイルランドの経験 …ブライアン・ハミルトン-トゥイディル
  印刷された名前! …ラングストン・ヒューズ
  フランス語を話せ …D・H・メルヘム
  信条を超えて 新聞とホロコースト …デボラ・E・リプシュタッド
  見えない犠牲者 …マーティン・A・リー,グロリア・シャノン
  海を隔てて、別の世界へ 相変わらずの憎しみ合い …アンドレイ・コドレスク
  右派の文学選集で育てられて …アミリ・バラカ,バートランド・マシュー
  「文壇ヘゲモニー」より …ヘレン・バロリーニ
  オレンジの採用 …ハリエット・ジンズ
  村の中の他人 …デイビッド・ムラ
  現代の不思議 「昨夜わたしが中国語で見た夢は……」 …シャーリー・ゲオク-リン・リム
  スイッチって何のこと …ギッシュ・ジェン
  黒人たち〔ブラック・フォークス〕の魂 …W・E・B・デュ-ボイス
  ブラックのBを大文字で書くこと …グウェンドリン・ブルックス,D・H・メルヘム
  批判的精神 合衆国内の人種差別と「第三世界」教育 …シャーロン・スペンサー
  正義はマサチューセッツで拒否された …エドナ・セント-ヴィンセント・ミレー
  移民の教育 サッコ=ヴァンゼッティ裁判の写しより …ニコロ・サッコ
  ニュージャージー州パターソン市立第18小学校 …マリア・マジオッティ-ジラン
  妻の話 …バラティ・ムカージー
  多文化主義(多数にして一つ) …ダイアン・ラヴィッチ

第V部 個々の文化と偏見をのりこえ――自尊と寛容へ

異文化論と理解、通文化・異文化コミュニケーション、真の民主主義を求める非暴力的実践主義、生態学的健全さと地球規模の市民権をめぐる諸問題と解決策

  比較文化的状況における近接学 日本とアラブ世界 …エドワード・T・ホール
  アンチ・ステレオタイプ アイルランド人 …改心したサクソン人(詠み人知らず)
  群衆の指導者たち …ウィリアム・バトラー・イェーツ
  アメリカ 多国籍社会 …イシュマエル・リード
  愛と非暴力行為の法則 …レオ・トルストイ
  『科学と自由』より …オールダス・ハクスリー
  サティーヤグラハ運動 …モハンダス・カラムチャンド・ガンジー
  「私は狂信者〔ファナティックス〕に反対だ」 …エリー・ウィーゼル,マール・ホッフマン
  ナショナリズムはいつも圧制的である …アミリ・バラカ,D・H・メルヘム
  エルサレムでの出会い …モナ・イレーヌ・アディルマン
  寛大な地、戦後のベトナム …レディ・ボートン
  若きベトナム人詩人、ハンナ・ブォディンに寄せて …フラン・カスタン
  『図説 世界の先住民族』より「地球の声」 …ジュリアン・バージャー
  「アメリカ合衆国議会へのスピーチ」より …ネルソン・マンデラ
  「そうなのです マンデラ」 …デニス・ブルータス
  鎖を解き放して …デズモンド・ツツ司教
  それでも私は立ち上がる …マヤ・アンジェロウ
  「汝の敵を愛せよ」と「独立宣言」より …マーティン・ルーサー・キング
  カリア …ヤニス・リツォス
  「1852年 独立記念日(7月4日)の白人聴衆への講演」より …フレデリック・ダグラス
  「道路脇のベンチ」より …トニ・モリスン
  60年代についての誤解 …レローヌ・ベネット
  メドガー・エバーズによせて …デイビッド・イグナトウ
  先住民連合 白人は理解できるだろうか? …ジュリアン・バージャー,ポウリノ・パイアカン首長
  白人の条約を先住民が破ったことがあっただろうか? …シッティング・ブル首長
  『人間の最も危険な神話 人種という詭弁』より …アシュレイ・モンタギュウ
  『草の葉』より「私は感動的な肉体を謳歌する」 …ウォホルト・ホイットマン
  「民主主義」より 公衆演説 …バーバラ・ジョーダン
  真の民主主義には道徳的信念が必要である …ヴァツーラフ・ハヴェル
  異人暴動 …テス・オンウィーム
  子どもたちには色への偏見はない …ジェニー・リム
  「最後の詩」より「真実を語る詩人」 …マリナ・ツベターエワ
  世界中で/気づいてください …ファツィル・フスヌ・ダウラルカ

付録 人権宣言および人種に関する声明(抜粋)
  暴力行為に関するセビリア声明 …ユネスコ学術集団
  人種の生物学的側面に関する声明 …ユネスコ学術集団
  人種および人種的偏見に関する声明 …ユネスコ学術集団
  女性によるペンタゴン行動 統一声明 …共同執筆
  障害者権利章典 …アメリカ障害市民連合   世界人権宣言
  
執筆者について(抄訳)
団体のリスト
執筆者索引
編者/役者紹介


■引用 ※文末の( )は訳者

◇障害をもつ人びとに対する偏見 …クリス・ギリスピー(アメリカ・医学評論家)
「 歴史上、身体に障害のある者はさまざまな畏敬や軽蔑の念をもって扱われてきた。彼らは、しばしば社会の重荷、不完全なもの、あるいは不運または罪の象徴とみなされてきた。今日、障害をもつ人びとが経験する恥辱のいくつかは、西洋社会の最も早い時代の道徳的教訓にまでその起源をさかのぼることができる。たとえば、ギリシャ神話では、ゼウスと論争したことに対するヘラの罰は、彼女の息子のヘーパイストスが足が不自由に生まれたということである。ヘラは息子の欠陥を恥じて、彼を天から投げ捨てた。ギリシャ神話のもう一人の人物ピロクテーテースは毒ヘビに噛まれた。傷口の悪臭ががまんできないほどになったとき、旅の同行者は、彼を無人島に投げ捨てた。これらの例は、どちらも身体障害者の排斥を描いているが、それらについて語っている文化の道徳的・文化的理想を具体化しようとする物語に起源を有するだけに、穏やかでない。
 さらに穏やかでないのは、新約・旧約の両聖書(これらはその教義がさまざまな文化や、何千年を通じての人びとの思想や価値体系を形成し、反映してきた書物である)に見い出される身体障害者に関する有害な叙述である。聖書の中では、身体的な障害はしばしば罪や神の罰と同等視されている。(柴田周二)」(p.345)


◇声をぬすまれた小さな男の子 心をぬすまれた小さな男の子
  …フェデリコ・ガルシーア-ロルカ(スペイン・詩人),ダニエラ・ジョセッフィ英訳(アメリカ・詩人)

「声をぬすまれた小さな男の子

  小さな男の子が自分の声を捜しに出かけた
  [コオロギの王様にぬすまれてしまったのだ]
  ひとしずくの水滴の中に
  自分の声を捜そうとしていた

  「話すためにほしいんじゃないよ
  君の小指につける
  指輪を作りたいんだ
  僕の沈黙に我慢できるように」

  ひとしずくの水滴の中に
  小さな男の子が自分の声を捜し続けていた

  [捕らえられたその声は はるか遠く
  コオロギの服を着ていた]

心をぬすまれた小さな男の子

  僕は言った「こんにちは」
  でも、間違ってた
  午後はすでに
  どこかへ消え去ってしまっていた
  (そして 光は若い女性のように
  肩をすくめた)

  「こんにちは!」でも それが無意味だなんて!
  これはほんものじゃない
  船で造られた半月
  あとの半分は決して顔を見せようとしない >0354>

  [そして 光は すべてを照らしながら
  心をぬすまれた男の子と彫刻の真似遊びをしていた]

  「体の小さいあの半月は
  ざくろをの実を食べていた

  この半月は大きくて元気者! 僕にはできないよ、
  腕の中に抱いたり 服を着せたりなんて!
  現れないのかな? どんなようすなの?」

  [そして 立ち去ろうとした光は その心をぬすまれた男の子をからかって 自らの光によって作られた影から引き離した]  (鈴木綾子)」(pp.354-355)


◇わたしは女じゃなのかい? …スジャーナ・トゥルース(アメリカ・奴隷制廃止論者)
「 そこにいる男がいうのさ、女っていう生き物は籠のなかに入れられたがったり、どぶからすくいあげられたがっているうえ、最上の場所を欲しがるものさって。でも、私には籠のなかに入れてくれたり、泥から救いだしたり、最高の場所を与えてくれた男なんていないさ。私は女じゃないのかい。私は、男に負けないくらい働くし食べるよ。鞭にうたれるときは、男とおなじように我慢もするさ。やっぱり女じゃないのかい。私は13人の子を産んだよ。ほとんどの子が奴隷として売られていくのをこの目でみたよ。母親としてかなしくって泣いたとき、イエス様だけが私の泣き声を聞いていたよ。私は女じゃないのかいって言っているのをね。(鈴木清史)」(p.462)


◇『人間の最も危険な神話 人種という詭弁』より …アシュレイ・モンタギュウ(ロンドン生まれ・人類学者)
「 民族集団〔エスニック・グループ〕という概念は、「人種」という用語に関>0776>連しているものとはまったく異なっている。民族集団〔エスニック・グループ〕という語句は、遺伝学や文化人類学か可能にしてきた新しい見解に基づいて、集団というものを、公に広く、質問攻めにせず、試験的に、曖昧に、そして経験的に異なった方法で見ているということを象徴している。用語というものは使われなくなり、退化していく。しかし、他の用語がただ単にそれを代用するということではない。むしろ、人間集団という新しい概念が導入され、古いものと置き換えられる、そしてそれは今ではなくなってしまい、この新しい概念に適した用語もしくは語句が提案される。古い概念は保たれず、新しい名称が与えられるのであるが、新しい概念はそれ自身の名称の下で導入されるのである。すなわち、単に名称を与えるだけとはまったく異なったものである。この点をはっきりと明らかにすることは、とても重要なことである。なぜなら、民族集団〔エスニック・グループ〕という語句が含んでいる新しい概念には、「民族集団〔エスニック・グループ〕偏見」というものを発生させる可能性をもっているからである。そしてこの概念の本質が理解されるやいなや、そのような偏見の発生の可能性はなくなるのである。それは、まさに汚染されていない、中立の概念である。
 おそらく、民族集団〔エスニック・グループ〕という語句がもつ最大の利点は、それが曖昧で、幾分、柔軟性をもつということである。また、どの集団に関しても適応でき、肉体的、文化的特徴があまりに同一視されているので他の集団と区別できるようにある種の特殊性を与えられている。そして、この語句は、生物学的な意味において、人種の定義を含んでいるものとして使用されることもできる。……中略…… 我々が、民族集団〔エスニック・グループ〕という語句を使用するとき、ある人びとの集団が肉体的にも、他の面でも多かれ少なかれ、ある特殊な集団であるということができる。我々は、その語句が本当に何を意味するのかを知るまで、また、他の集団に関して我々は何を話しているのか、完全に理解するまで、そのような集団を民族集団〔エスニック・グループ〕と呼ぶことにしよう。言いかえれば、民族集団〔エスニック・グループ〕という概念は疑問符を呈するが、終止符は意味しないのである。そして、答えなければならない多くの質問が残されており、その答>0777>えの多くは我々が、とくに、どの民族集団〔エスニック・グループ〕を表しているのかをはっきりといえる前に与えられなくてはならないだろう。(ウルフ・リツコ)」(p.776-778)

■書評・紹介

■言及


*作成:石田 智恵
UP:20090214 REV:20100102
民族・エスニシティ・人種(race)…  ◇優生・ナチス・ドイツ  ◇障害学(Disability Studies)  ◇障害(者)・障害学・関連書籍  ◇フェミニズム (feminism)/家族/性…  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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