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『改訂版 重度聴覚障害児の音声言語の獲得――9歳の壁の打破 聴覚活用法からの言語教育理論の提言』

森 寿子 19921101 にゅーろん社, 179p.


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■森 寿子 19921101 『改訂版 重度聴覚障害児の音声言語の獲得――9歳の壁の打破 聴覚活用法からの言語教育理論の提言』, にゅーろん社, 179p.  ISBN-10: 4891080256 \7000

■出版社/著者からの内容紹介
「重度聴覚障害児のスピーチの獲得 −9歳の壁打破 聴能訓練法からの挑戦−(初版)」は、筆者が1970年から1988年までの18年間に、病院において言語聴覚士の立場から行った言語指導の臨床とその結果をまとめたものである。 その後聴覚障害児を取り巻く環境は一変した。1998年に日本耳鼻咽喉科学会によって先天性の聾児に人工内耳埋め込み術が認可された。 これによって重度聴覚障害児の言語臨床は大きく変化した。補聴器で限界があった重度聴覚障害児が聞こえの世界を取り戻し、音声言語を健聴児なみに獲得することが容易となり、それとともに普通クラスでの学習が可能となった。 これと平行して、近年の補聴器の進歩は著しく、個人用補聴器の種類の多さと性能の良さは、早期発見の方法の確立とあいまって、聴覚障害児の聴覚活用と音声言語の獲得を一層容易にした。 加えて、1997年から医療現場で働く言語聴覚士の国家資格制度が制定され、これまで無資格者として勤務していた言語聴覚士が正式な医療スタッフとして公的に認知され医療現場で働けるようになった。 病院の中での聴覚障害児のための言語臨床の方法と言語教育理論を詳述した本書が言語聴覚士を目指す学生の指針となり、ひいては病院における言語聴覚業務を確立するための一助になることを心から願うものである。

■目次
序章  本書の教育理念
第1章 聴覚障害児教育の変遷――聴覚活用法が生まれた歴史的経緯
 第1節 欧米における教育法の変遷
 第2節 日本における教育法の変遷
 第3節 岡山の果たした役割――高原滋夫の業績、日本で最初のSTのための4年制大学開設へ
 第4節 聴覚活用法による音声言語獲得指導から見た課題
第2章 重度聴覚障害児の音声言語の獲得指導の実際と成果――文献考察
 第1節 音声言語の体系(音韻・語彙・文法)の獲得――伝達機能としての音声言語
 第2節 音声言語を媒介とした象徴機能の獲得――内的心理的過程、精神機能の形成過程で果たす役割
第3章 筆者の行った聴覚活用法による言語訓練の実際
 第1節 聴覚活用法による言語訓練に対する筆者の基本的考え
 第2節 実施した訓練の実際
第4章 聴覚活用法による言語訓練の効果と限界――教育法としての意義
 第1節 研究課題と研究の方法
 第2節 391例の結果
 第3節 聴覚活用法による言語訓練の効果と現時点での限界――考察
 第4節 結論
第5章 聴覚活用訓練法による音声言語の獲得
 第1節 研究課題と研究の方法
 第2節 対象症例と指導経過
 第3節 聴覚活用訓練法による音声言語の獲得――5例の結果
 第4節 明らかにされた問題
第6章 9歳の壁を打破するために――永遠の課題への聴覚活用による言語訓練法からの提言
 第1節 教育理論の提言
 第2節 聴覚活用法による言語訓練を成功させるための「言語学習条件整備用森式チェックリスト」と
      「年齢別言語能力評価基準表(就学前児用・第一次試案)」の作成
改訂版のおわりに 「言語聴覚学」の独自性と専門性の確立を
             ――学際性と学問としての領域の広さと深さを保ちつつ
おわりに(初版)――「言語聴覚学」の確立とチーム医療の重要性

■紹介・引用
 …「聴覚活用法」とは「補聴器や訓練機器による増幅音を用いて残存聴力を最大限に活用し、主として聴覚より音声言語を獲得させる訓練方法」で…ある。
 …教育法を工夫することで多くの研究者が指摘し続けてきた重度聴覚障害児の「9歳の壁」を打破することが可能なのかどうかなど、聴覚障害児教育における永年の研究課題を解明する必要がある。
 ここでいう「9歳の壁」とは重度聴覚障害児では「言語性知能・読書力・国語学力は小学校3〜4年段階までは到達できてもそれ以後学習が停滞し年齢が上昇しても伸びがみられなくなる現象」と 定義されるもので、現在までこの壁を打破するためにさまざまな試みがなされてきた。しかし、いまだ有効な教育法は確立されておらず、この永遠の課題を打破する方法を、筆者はSTの立場から是非本書で示したいと考える。
 …近年重度聴覚障害児のインテグレーションのニーズはますます高まっており、彼らが普通小学校の健聴児集団の中でより望ましい発達を遂げるためにも、 乳幼児期における聴覚活用法の役割と位置付けが明確にされねばならないであろう。
 本書はこのような目的で。聴覚活用法という一つの視点から、「9歳の壁」を打破するための言語指導法と言語教育理論の開発を試みるものである。
 本書の構成は概略以下のようである。
 まず第1章では、聴覚障害児の教育法の変遷を欧米と日本に分けて概観し、聴覚活用法が歴史的にどのような経緯を経て生まれたのかをまとめた。
 次いで第2章では、重度聴覚障害児の音声言語の獲得指導に関する実態と成果を、米国と日本の文献を中心に概説した。
 第3章では第1章と第2章をふまえて、筆者がどのような考えと視点に立ってこの20年間言語指導を行ってきたか、筆者の聴覚活用法に関する基本的な考え方と、実施したプログラムを具体的に示した。
 第4章と第5章では、第3章の考えに基づいて訓練を行った結果、どのような訓練効果が得られたかを、1970〜1985年の15年間の臨床データに即してまとめた。 まず第4章では、15年間に訓練を行った391例の聴覚障害児の初診時・就学時・9歳時の音声言語能力と言語性知能等を追跡調査した。 そのデータをもとに、391例中何割の者が9歳の壁を打破し得たか、9歳の壁を打破するために就学前の聴覚活用法ではどのような教育的諸条件を 整備することが必要であったか等を検討した。次いで第5章では、391例より抽出した5症例の初診時から9歳時までの音声言語の獲得過程を追跡調査し、 聴覚障害児の発達における音声言語獲得の意義を検討・解明すると共に、9歳の壁を打破するための就学時における音声言語能力の具体的条件を示した。
 最後の第6章では、第4章と第5章の結果から得られた教育理論を提案し、聴覚活用法による言語訓練を成功させるための「言語学習条件整備用森式チェックリスト」と 聴覚障害児のための「年齢別言語能力評価基準」(いずれも就学前児用・第一次試案)を作成し、本研究の総括とした。終わりに今後の聴覚障害児教育のあり方、 研究の進め方等をSTの立場からまとめ、「言語聴覚学」確立の必要性に言及した。(序章、p.3-4.)



*作成:坂本 徳仁
UP:20080802
BOOK  ◇聴覚障害/(ろう)聾  ◇福祉・医療の仕事
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