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『悪夢の選択――文明の社会学』

井上 俊 19921025 筑摩書房,222p.

last update: 20110119

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井上 俊 19921025 『悪夢の選択――文明の社会学』,筑摩書房,222p. ISBN-10: 4480856277 ISBN-13: 978-4480856272 \2242 [amazon][kinokuniya] ※ a06 s

■内容

・同書の帯より
文化とコミュニケーションの隘路
不可視の内部を持つ者同士が頻繁に接触し,さまざまの関係を取り結ぶ複雑で流動的な現代社会では,コミュニケーションは見せかけや偽装などのレトリックを必要とする.しかし,このような社会を思想史的に展望するならば,超越的な理念,懐疑と自省を無視できなくなるだろう.

■目次

I 3

1 悪夢の選択――『闇の奥』の文明論 5
 はじめに 5
 1 理想と懐疑 7
 2 誠実の逆説 13
 3 悪夢としての文明 21

2 老いのイメージ 28
 1 「枯淡」の理想 28
 2 「枯れない」老人 32
 3 老いのラディカリズム 40
 おわりに 46

3 芸術社会学の形成 50
 1 芸術社会学と芸術至上主義 50
 2 テーヌの図式 54
 3 「実証主義」と社会の自然化 59
 4 説明概念としての社会 67
 おわりに――「社会学主義」をこえて 75

II 79

4 日本文化の一○○年――「適応」「超越」「自省」のダイナミクス 81
 1 「開化」への疑問 81
 2 実用主義と理想主義 85
 3 文化の自省力 94
 4 「日常化」の進展 99

5 ストレンジャーの文化 109
 1 都市的生活様式 109
 2 ストレンジャー・インタラクション 113
 3 信頼とリスク 116
 4 不関与の規範 119

6 うそ現象へのアプローチ 123
 1 うそと文化 123
 2 うそと社会 130
 3 うその微視社会学 137

III 157

7 紳士の対話――プラトンのコミュニケーション論 159
 1 「対話」の思想 159
 2 アテナイ市民のコミュニケーション生活 163
 3 プロパガンダと教育 169
 4 ポリスの再建 175
 5 コミュニケーションの力 179

8 「神の国」の平和――アウグスティヌスのコミュニケーション論 185
 1 『告発』のコミュニケーション思想 185
 2 ローマ帝国と教会 193
 3 魂の平安,社会の平和 199
 4 修道者の共同体 208
 おわりに――コミュニケーションのモデル 214

あとがき 219
初出覚え書き 222

■引用

「悪夢の選択――『闇の奥』の文明論」(5-27)より
いわゆる近代市民社会の成立と発展につれて,社会生活がいっそう複雑になり,また流動化し,相互に不可視の「内部」をもつ人びとどうしが頻繁に接触し,さまざまの関係をとり結ぶようになると,誠実への要請はますます強まり,その倫理的価値もますます強調されるにいたるが〔中略〕誠実は今や,ある種のレトリックを要するものとなったのである.「内部」の誠実を外部(社会)にもそれと認めさせるためには,内部をそのまま表出するのではなく,むしろ外部の基準にあわせて「誠実な人間」の役を演じなければならないという事態が生じてきた.この場合,人は必ずしも「偽りの自己」を演出しているわけではない.いわば,「真の自己」を演じ,自分自身であるふりをしているのである.しかし,役を演じること,ふりをすることは,まさしく偽装ではあり虚偽ではないのか(17).

「老いのイメージ」(28-49)より
「枯淡」のイメージは,老いを一方的な衰退と喪失の過程とみるのではなく,生理的な衰退と喪失のなかではじめて獲得される価値というものもありうるとする点で,たしかにポジティヴな意味をふくんでいる.しかし現実には,すでにみたように,年をとったらこういう具合に「枯れる」べきだという規範的な側面が強調され,むしろ老人を拘束するイデオロギーとしてこのイメージは作用してきた(48).

「うそ現象へのアプローチ」(123-56)より
「人間の所産の総体」のうち,言語を中心として構築される「シンボルの殿堂」だけを「文化」と呼ぶ狭義の用語法があることからも窺われるように,文化の中心的な構成要素のひとつはシンボルの体系である.このシンボル体系,とりわけ概念やカテゴリーの体系をとおして人間は環境を解釈し,それに意味を与え,人間の生きるべき世界をつくりだす.たとえば時間や空間といったカテゴリー,あるいは因果の概念などをとおして私たちが構成した世界のなかに私たちは生きているのであり,そのような世界が私たちにとっての「現実」(リアリティ)である.したがって,私たちが普通,リアリティとみなしているものは,決して実在そのものではなくて,私たちがフィクションをとおして構成した世界にほかならない.ふぃくしょんをとおして環境世界を一定の仕方で認知的に秩序づけないかぎり,それは無意味なカオスにとどまり,人間にとって意味のある世界とはならず,したがって人間にとってのリアリティともなりえない(129).

■書評・紹介

◇川崎賢一,19970930,「井上俊著『悪夢の選択――文明の社会学』」『社会学評論』48(2): 218-9. ISSN: 00215414; 18842755[online]
[外部リンク]Journal@rchiveで全文閲覧可.PDFファイル)
◇長谷正人,19930530,「『悪夢の選択――文明の社会学』〔含 原著者コメント〕」『ソシオロジ』38(1): 79-87. ISSN: 05841380

■言及

天田城介,19990605,「〈老衰〉の社会学――『再帰的エイジング』を超えて」『年報社会学論集』12: 1-13. ISSN: 09194363; 18840086[online]
[外部リンク]Journal@rchiveで全文閲覧可.PDFファイル)
◇筒井清忠・中里英樹・水垣源太郎・野崎賢也・沼尻正之,19960630,「戦後日本における歴史社会学の展開」『社会学評論』47(1): 18-32. ISSN: 00215414; 18842755[online]
[外部リンク]Journal@rchiveで全文閲覧可.PDFファイル)


*作成:藤原 信行
UP: 20100119 REV:
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