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『白い血液――エイズ感染と日本の血液産業』

池田 房雄 19851125 → 増補版 19920925 潮出版社,287+7p.

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last update:20151209

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■池田 房雄 19851125 『白い血液――エイズ感染と日本の血液産業』,潮出版社  → 増補版 19920925 『白い血液――エイズ感染と日本の血液産業』,潮出版社,287+7p.  ISBN-10: 4267010560 ISBN-13: 978-4267010569 1456+税  [amazon][kinokuniya] ※

■内容

■目次

プロローグ

検証I 『売血』
1 売血者の群れ
山谷の冬と路上死/著者自身の売血体験

2 古典的な売血風景
五木寛之の売血/無縁仏たち

3 ドヤ街と売血
西山文夫の生い立ち/血液産業とドヤ街

4 七三一部隊と血液銀行
二〇〇cc、四〇〇円也/遺骨配達、四十体/西山文夫と『荘子』


検証II 『輸血』
1 血液の商品化
浜口雄幸狙撃事件/浜口事件と輸血の普及

2 赤い小球体
血液の歴史/成分と役割/直接輸血から間接輸血へ

3 戦後の売血地獄
戦時下の売血/朝鮮戦争と血液


検証III 『血液銀行』
1 京大微生物学教室
内藤良一の夢/内藤良一の死

2 内藤良一の発想
内藤良一の生い立ち/石井四郎と内藤良一

3 関東軍第七三一部隊の秘中の秘
バクテリオファージ/細菌戦裁判

4 七三一部隊と細菌学者
一台の真空ポンプ/岡九四二〇部隊の誕生/内藤中佐と防疫研究室/日本初の献血制度

5 消えた細菌部隊
GHQと細菌部隊/血液銀行のうぶ声


検証IV 『血液戦争』
1 村上省三――献血の鬼
村上省三の生い立ち/東大血清学教室/梅毒感染事件/血清肝炎/栄介ちゃん事件

2 木村雅是――山谷の売血実態調査
売血者送迎バス/献血の誕生/売血実態調査

3 青木繁之――釜ヶ崎の売血実態調査
木村雅是との出会い/これが売血だ!

4 本田靖春――黄色い血追放キャンペーン
売血追放/売血者を追って/黄色い血の恐怖/献血推進の閣議決定/苦悩する献血


検証V 『人工血液』
1 白い血液の戦士たち
精魂塔の謎/血友病の研究/ウロキナーゼの開発

2 血漿分画製剤
タンパク質の解析/ミドリ十字、買血を中止

3 フルオゾール――DAの内幕
物質で創る血液/森末新一の告発


検証VI 『エイズ』
1 日本のエイズ患者
血漿輸入とエイズ/アメリカの売血市場

2 変革期の血液事業
赤血球大量投棄/献血供給ルートの確立/正体不明の病気

3 黙殺された答申おう
急増する血液輸入/血液輸入、国会で問題化/エイズ、血液製剤から感染/血漿輸入と血友病

4 エイズの狩人たち
同性愛者とカポジ肉腫/破壊された抗体の残骸

5 吸血鬼ニッポン
エイズ感染の拡大/エイズ、血液事業を直撃/自給自足への模索

6 エイズを生きる
エイズ薬害訴訟はじまる/原告番号一、赤瀬範保の半生/毎日が決定的瞬間/赤瀬範保の死

あとがき
増補版あとがき
参考文献

■引用

検証I 『売血』
2 古典的な売血風景
五木寛之の売血

《カネがないのは全く平気だった。いざとなったら議事堂の前に寝てやろうと、本気で考えていた。倒れていれば、カツ丼の一つぐらい食わせてくれるに違いないと思っていた。
わりあいに本を読み、ロシア語の初歩もこつこつやっている。だが、仕事は数日単位のものが多く、雨が降り続いたりすると働けない職種もあった。
そんなとき、立石の製薬会社に、しばしば血を売りに行ってピンチをしのいだ。この売血というやつは、肉体よりも精神に悪い影響を及ぼすものらしい。 出かけて、二百cc抜いて、手取り>028>四百円ほどもらってくると、二、三日は働かないでも済む。つい習慣におちいりやすい危険があった。
当時の立石は、ひどい荒涼たる感じの土地でたんぼの中に高い煙突の製薬会社が見えた。採血の前に、血液の検査がある。病毒検査ではなく、比重を調べるのだ。 検査室の前に長い行列ができていた。若い少女が注射器で少し血を採り、試験管の中へ落とす。すうっと沈めば合格。ふわふわと揺れながらゆっくり沈むのは失格である。
「あんたは駄目。比重が足りない」
 と、少女が機械的に宣告する。白い上っ張りを着たその少女は、唇がぷっくりふくらみ、まつ毛が長く、健康そうな赤い顔をしていた。
「比重が足りない」
と彼女が言う。「はい、つぎ」
比重の足りない血液の持ち主は、色青ざめてその場を離れかねている。おそらく昨日も一昨日も抜いているのだ。そのために血が水っぽくなっているのだろう。
「はい、合格!」
 少女は私の二の腕に、ペタリと紫色のゴム判を押す。丸の中に「合」という字を押された私は、顔をほころばせて採血場の方へ向かって歩き出す。 裸の腕の○合の印を、行列の仲間に誇示しながら、軽い優越感に酔った足取りで歩いて行くのだ。>029>
「駄目、足りない」
「はい、合格」
採血場のベッドに横になり、掌を握ったり開いたりする。そのたびに赤黒い血液が、強く弱く抜けていく。二列に分れたベッドの上で、開いたり閉じたりする数十本の痩せた腕。
四百円を握りしめてたんぼ道を帰ると、遠くの景色が傾斜して見えた。もう二度と血を売るのはやめよう、とそのときに考える。 だが、またどうにもならなくなると京成電車に乗るのだった》(五木寛之「放浪――この素晴らしきものは」『文藝春秋』昭和四十二年四月号)(pp.27-29)
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検証V 『人工血液』
2 血漿分画製剤
ミドリ十字、買血を中止

 売血制度は崩壊したが、売血そのものは形をかえ、血漿分画製剤の原料確保のためのプラズマフェレーシス(血球返還採血方式)として残った。 血漿分画製剤の市場が拡大、肥大化するにつれ、日赤の期限切れ血液(転用血)やプラズマフェレーシスだけでは不足がちとなる。 この供血源の涸渇は、ミドリ十字など血液産業に海外からの血漿輸入をうながし、それは年を追うごとに加速する。(p.188)
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■書評・紹介

■言及



*作成:北村 健太郎
UP:20151209 REV:
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