フリードリッヒ・ニーチェからゲイル・シーヒィへ、アラン・ブルームからミシェル・フーコーへと、テイラーはさまざまな観念とイデオロギーについて論じてゆく。
テイラーはそうした議論をとおして、近代においてほんものの自己が育まれてきたその歩みのなかから、よきものと害をなすものとを区別する。自己創造の探求と自己形成への衝動とを結びつける思考と道徳のネットワーク―テイラーはその全体像を描き出し、そうした営みはどのようにしてなされなければならないか、既存のルールや道徳的評価のふるいに取り込まれることなく進めるにはどうしなければならないかを示す。
このネットワークに照らすならば、表現することやさまざまな権利が、また人間の思考の主体性が近代の最大の関心事であったことは、わたしたちにとって清算すべきこと、否定すべきことではなく、活かすべきこと、大事にすべきことであるとわかる。
チャールズ・テイラーは、1931年モントリオールに生まれる。マギール大学で歴史学を、オックスフォード大学で哲学を修め、1961年から母校マギール大学の教壇に立つ。1976-81年にはオックスフォード大学チチェリ社会政治理論教授ならびにオール・ソウルズ・カレッジのフェローに。マギール大学の哲学・政治学教授を経て、現在は同大学名誉教授ならびにノースウェスタン大学教授。
50年代後半にはニュー・レフト第一世代として活躍。New Left Review の創刊にもたずさわった。近年ではコミュニタリアニズム(共同体主義)の思想家としても知られる。著書に、Hegel, Philosphical Papers T. U, Sources of the Self, Reconcling the Solutions, Multiculturalism and ‘the Politics of Recognition’, Philosophical Arguments など。
1967年東京生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期過程単位取得。政治思想/医療思想。早稲田大学教育学部助手を経て、現在、東京医科歯科大学教養部助教授。最近の論文に、「日本の生命倫理における<68年>問題――東大医学部闘争と和田移植」(中岡成文偏『応用倫理学講義1 生命』、岩波書店、近刊)、“The Welfare State and the Task of Bioethics”(Bulletin of the College of Liberal Arts and Sciences, Tokyo Medical and Dental University, no. 34, 2004)が、また訳書に、シャンタル・ムフ『政治的なるものの再興』(共訳、新日本経済評論社、1998年)などがある。