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『精神を病むということ』

秋元 波留夫・上田 敏 19900815 医学書院 ,326p.


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秋元 波留夫上田 敏 19900815 『精神を病むということ』,医学書院,326p. ISBN-10: 4260117505 ISBN-13: 978-4260117500 \4725 [amazon][kinokuniya] ※

■内容

現代日本の精神医学のリーダーであった秋元波留夫氏が,古代から現代までの東西の精神医学の道程を縦横無尽に語る医療者必読の書。とくに近代から現代の精神医療を舌鋒鋭く説く内容は,混迷を続ける現代の日本の精神医療に一石を投ずる。コメディカルの人にも分かりやすく語る対談集。

■目次

序章 精神の病気をみる視角

/心の病気か脳の病気か/ジャクソンの精神病論/精神病と神経症の境界/患者からみた精神障害/

第1章 歴史の中の精神病と精神病者

/精神病の最初の記録/キリスト教社会の精神病観の変遷/わが国の精神病の記載/漢方による治療と蘭学/精神病者は社会でどのように扱われてきたか/精神病院の誕生/日本の精神病院の誕生/

第2章 医学は精神疾患をどうとらえたか

/疾患概念の確立へ/進行麻痺の確立/分裂病の原型―破瓜病と緊張病/破瓜病と緊張病/クレぺリンの早発性痴呆の提唱/躁うつ病概念の確立/クレぺリンの精神医学体系/ブロイラーの批判と分裂病の提唱/分裂病の一次症状と二次症状/分裂病は人格全体の病/わが国精神医学の黎明/わが国精神医学の創立者 呉秀三/呉秀三以後―ブロイラーの影響/内村祐之の業績

第3章 精神を病む人はどう生きてきたか

/鎖につながれた精神病者とピネルの病者解放/ピネルとその継承/西欧の精神病者処遇改革運動/治療院と養護院の設立/西ドイツの精神病院改革/アメリカの精神障害者医療とその改革運動/脱施設化の蹉跌とその修復/わが国の精神医療改革/呉秀三の先駆的な役わり/

第4章 文化の中の精神医学

/原住民の疫学研究/アイヌ人の病歴調査/世界各地の原住民調査/アイヌの「イム」の研究/天才とは何か/天才の研究から始まった病跡学/双璧をなす夏目漱石と芥川龍之介/『地上』を書いた島田清次郎の場合/

第5章 脳の病気としての精神疾患

/失行症研究の事始め/わが国の失読―失書の研究/てんかんの歴史と研究/近代てんかんの歴史と研究/近代てんかん学の父J・ジャクソンの研究/脳波研究の夜明け/てんかんの薬物療法/脳の病気としての分裂病と躁うつ病/躁うつ病の研究

第6章 精神疾患の治療

/向精神薬の登場/戦後の分裂病治療/抗うつ薬の開発/抗うつ薬の開発/抗躁薬の開発/抗不安薬の開発/精神分析の位置づけ/反精神医学の系譜/家族と精神医学/

第七章 精神疾患の予防とリハビリテーション

/精神疾患は予防できるか/リハビリテーションの歴史と現状/作業療法への道/わが国の作業療法/矛盾にみちたわが国の健康保険診療報酬制度/デイホスピタルとデイケア/精神障害者の社会復帰運動/

終章 精神医学のあり方

/精神科医の資格制度がない日本/深刻な精神科医の不足/日本の精神病院のあり方/精神科医としての信条/

あとがき

本書を読むための精神医学略年表

文献

■関連

◆立岩 真也 編 2017/07/26 『リハビリテーション/批判――多田富雄/上田敏/…』Kyoto Books

立岩真也編『リハビリテーション/批判――多田富雄/上田敏/…』表紙
[表紙写真クリックで紹介頁へ]

■引用

 「グリージンガ―の改革構想
 彼は当時のドイツ病院精神医学が、精神病者を「治療のみこみのある者」と、「治療のみこみのない者」に区別することに反対しました。この区別は、学問的にも、倫理的にも不当だというのが反対の理由でした。そして、精神病者のための施設はすべて治療を目的とすべきであることを強調し、「治療養護院」の改革には、そこから「厄介な患者」を別の収容施設に追いだすだけでなく、これを短期治療施設と長期治療施設にわけて、それぞれを治療目的に適するように再編成することが先決だと提言しました。
 そして彼は短期治療施設としては別に、都市部の一般病院、および大学病院に精神科のクリニックを新設する必要があり、現在の治療養護院は、長期治療施設として改善、整備すべきであると主張しました。さらに、これらの施設のほかに、長期療養を要する患者の中には、施設よりも家庭看護の方が適切な人たちが少なくないから、ベルギーのゲールにならって、ドイツでも精神障害者のコロニーの建設を、積極的に進めなければならないというのも彼の持論でした。彼の改革案は一八六八年に発表されましたが、治療養護院の伝統を固守しようとする当時の施設精神医学 Anstaltpsychiatrie の指導者たちの保守的意見と真っ向から対立し、彼らの総攻撃を受けた上、改革案を発表して間もなく急逝したため、闇の葬られてしまいます。
 彼の死後、学問としての精神医学はクレぺリンによって継承され、今世紀初期から第二次大戦まで世界をリードしたのですが、肝心の医療施設は、彼が批判した医療養護院が、精神障害者の隔離収容施設としてますます巨大化し、矛盾を深めていきます。
治療養護院の収容所化に拍車をかけたのは、早発性痴呆、麻痺性痴呆、老耄性痴呆など、痴呆 dementia という言葉が診断名として公然と用いられ、治療の悲観主義が「精神病は治る」とする一九世紀初頭の楽観主義にとって代わったからであり、治療看護院「治療の見込のない」精神病者のたまり場とみなされるようになります。」(pp.116-5)

 「アメリカの精神障害者医療の主体は、州立病院を主とする公立病院――アメリカに限らず、欧米各国はどこでも公立病院が大部分です――ですが、前世紀の中葉から州の各地に建設された公立病院は、その多くが都市から遠く離れた僻地に作られ、高い塀によって周囲から隔離されており、医師、看護婦などの職員の不足、過剰入院、患者処遇の不適切などで、今世紀初めころから、その改善を求める世論がおこっていました。その端緒となったのがビアーズ Clifford Whittigham Beers (1876-1943)の『わが魂にあうまで』(一九〇七)の出版で、精神病院を退院した著者の体験に基づく、病院医療の改善、精神障害者に対する社会の理解を求める切実な叫びが、精神医学関係者だけでなく、広く市民を動かし、改革運動を進めるためのボランティア組織として精神衛生協会が組織され、それがやがて全世界に広がったことは、よく知られたとおりです。
 このような世論の批判にもかかわらず、州立病院の改革は一向にはかどらず、しばしば患者虐待のスキャンダルがおこり、ジャーナリズムの糾弾の的になりました。ビアーズたちの願いが、現実の緒についたのは戦後のことです。」(pp.119-120)

 「ケネディの改革構想
 一九六三年一月、大統領ジョン・ケネディは、年頭の教書で州立病院の改革を含む、アメリカの精神保健体制の革命的ともいってよい革新的国策を議会に提案し、その支持を国民に訴えました。それが有名な「精神病および精神薄弱の治療・研究推進に関する大統領教書」です。彼はそのなかで、「精神病および精神薄弱は、われわれの当面する保健問題のうちでもっとも火急なものである。いまや、大胆で新しい対策が必要である。最新の医学的、科学的、社会的技術を彼らに適応することが可能である。精神病者と精神薄弱者に対する国民の無視を、いまや終わらせなければならない」と述べています。(p.120)

 「地域の精神障害者リハビリテーション活動で、ユニークなのはファウンテンハウスです。今から四〇年前、州立精神病院を退院した数人の元患者が始めた、仲間同士のクラブ組織ですが、ニューヨークのタイムズ・スクエアの近所にある最初の組織のほかに、同じやり方をとっているものがアメリカ全体で一三〇か所あり、最近ではヨーロッパやアジアでも、この方式のリハビリテーション活動が始まっています。精神障害者の社会復帰、リハビリテーションがほとんどすべて、まわりから与えられるものであり、精神障害者は、常に保護される受け身の存在でしかなかったのですが、ファウンテンハウスでは、精神障害者は活動の主体であり、主人公であるという点で、精神障害者リハビリテーションの伝統的な構図を書きかえるものであり、身体障害者の「自立生活運動 Independent Living Movement 」と相呼応するものといってよいと思います。……
彼らの活動が脱施設化の大きな支えになっていることは間違いありません」(pp.128-9)


*作成:三野 宏治
UP: 20090707 REV:
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