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『障害児と教育』

茂木俊彦 19900720 岩波新書 212p ISBN4-00-430131-9 C0237


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■茂木 俊彦 19900720 『障害児と教育』,岩波新書新赤0131,212p. 505 [amazon]/ b


障害をもつ子も、もたない子も、せいいっぱい力を発揮して、のびのびと遊び、学び、生きていくための教育は、どうすれば実現できるか。障害児教育の現場にもかかわりの深い著者が、発達と教育についての基本的な考え方をふまえて、障害児と学校、職業選択や進路指導など具体的な問題にふれながら、現状と今後の方向を明らかにする。

目次
序章 教育を奪われた子どもたち
第一章 障害がもたらす困難とは
1 障害とは何か
2 活動と子どもたちの発達
3 障害と活動の制限
第二章 障害児をどう理解するか
1 障害児の側から世界を見る
2 発達におけるゆたかさ
第三章 障害児教育の目指すもの
1 「愛される障害者」づくり
2 子どもと育ち合う教育
3 「現在」を充実させる
4 ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」論
第四章 からだをつくり、心をひらく
1 重症児療育の最前線
2 ほほえみの獲得
3 ある森永ひ素ミルク中毒被害者
4 からだづくりと能動性
第五章 「ほんもの」の文化・科学を伝える
1 経験主義教育の限界
2 生きる力と教科学習
3 「原数学」という発想
4 教科教育をどこからはじめるか
5 「ほんもの」を伝える
第六章 働く力を育てる
1 限られた進路と職業教育
2 労働の中で育つ
第七章 健常児との交流の中で
1 インテグレーションという概念
2 障害は個性か
3 学力と発達の問題
4 多様な教育の場とインテグレーション
5 交流の中で学び合う
終章 総合的な権利保障に向かって
1 もっと学びたい
2 施設の充実と教師
3 後期中等教育の拡充を
4 子どもの権利条約
あとがき


 本書の内容として、まず序章では、60年代から70年代にかけて障害児の教育権保障運動が全国で盛んに行われた当時、筆者が関わった不就学障害児に関する調査での活動が紹介される。当時、教育の機会を奪われた子どもたちとその家族がどのような困難を抱えて生きていたのか、障害児に対して、教育の持つ意味を考えるための問題提起がなされる。
 第一章、第二章では、障害についてICIDH等の一般的理解と筆者の主張が具体的な例を挙げて解説されている。特には、障害児の側から世界を見るということの大切さが強調される。「障害についていくら深く知ったとしても、それだけでは、その障害児の子どもとしての全体像がわかったということにはならない。いいかえれば、障害児とは障害をもつ「子ども」なのだという、しごく当たり前の事実にも、しっかり目をむける必要ある(p43)」。こう述べられているように、障害によるできなさにばかり着目するのではなく、障害児個人の発達の姿や要求に沿った教育的対応が必要だということである。第三章では、従順な社会の一員としての「愛される障害者」づくりのための教育とそのための訓練主義に対する批判がなされる。そこから、一人ひとりの子どもが持つ発達の可能性を現実のものとし、彼らの生きる力を育てるための教育の重要性がヘレン・ケラーの逸話等を交えて解説され、そのような望ましい障害児教育実践ための重要課題として、身体的、精神的な発達に関する課題、教科教育の課題、就労に関する課題が、第四章、第五章、第六章でそれぞれ考察される。そして、第七章では、インテグレーション、つまり障害児と健常児の交流について、終章では、まとめとして、これまでの章で論じられてきた障害児の教育のための権利保障について、後期中等教育の拡充等、いくつか内容を挙げて述べられている。
 上記のような内容で構成されるこの「障害児と教育」は、第七章まで明言されることはないが、一貫して発達保障論の立場から書かれた本である(筆者は全国障害者問題研究会の23〜36期全国委員長であり、全障研の理論的背景の一つとして発達保障論がある)。1990年の出版で、障害概念としてICIDH(WHO、2001年ICFに改訂)が紹介されていることや交流教育に関する概念としてインテグレーションが紹介されている(90年代からインクルージョンの用語が主流になる)こと等、現在の障害児をめぐる状況と幾分の違いはある。しかし、本書からは、どんな重度の障害児でも発達の可能性を持ち、発達する権利、教育を受ける権利を持つという筆者の一貫した主張とそのためにできることを問い続ける真摯な態度が感じられ、現代においても学ぶことの多い貴重な文献であるといえる。

UP: 20070827


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