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『障害の政治――イギリス障害学の原点』

Oliver, Michael 1990 The Politics of Disablement, Macmillan, 152p.
=20060605 三島亜紀子・山岸倫子・山森亮・横須賀俊司訳 明石書店,276p.

last update: 20100715

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Oliver, Michael 1990 The Politics of Disablement,The Macmillan Press,152p. =20060605 三島亜紀子・山岸倫子・山森亮横須賀俊司訳,『障害の政治――イギリス障害学の原点』,明石書店,276p. ISBN-10:4750323381 ISBN-13:9784750323381 2940 [amazon][kinokuniya] ※ ds

内容(「BOOK」データベースより)

障害者が社会のメインストリームから孤立化させられ、排除されてきたのはなぜなのか…。障害者が無力化されてきた要因、すなわち個人主義イデオロギーと医療化イデオロギーを明らかにし、無力化への対抗としての障害者運動の可能性を示した画期的論考。

■目次

Acknowledgements

Introduction

Chapter 1. Disability Definitions: The Politics of Meaning
- The importance of definitions
- Criticisms of official definitions
- The politics of meaning
- A way forward

Chapter 2. The Cultural Production of Impairment and Disability
- Impairment: A structured account
- Cultural considerations of disability
- Disability: A structured account
- Implicit theories of disability
- Towards a social theory of disability

Chapter 3. Disability and the Rise of Capitalism
- The mode of production and historical change
- The mode of thought and historical change
- State intervention in the lives of disabled people
- Explanations - back to Comte and Marx
- Rationalisation - disability as an administrative category

Chapter 4. The Ideological Construction of Disability
- Individualism and ideology
- The individualisation and medicalisation of Disability
- Theories of medicalisation
- Core and peripheral ideologies

Chapter 5. The Structuring of Disabled Identities
- Culture and disability
- Adjustment - a psychological approach
- Stigma - a social psychological approach
- Social adjustment - a sociological approach
- Women and disability
- Black people and disability
- Race and gender and disability

Chapter 6. The Social Construction of the Disability Problem
- Social policy and disability
- The idea of dependency
- An economic basis for the creation of dependency
- A political basis for the creation of dependency
- A professional basis for the creation of Dependency
- The creation of the dependent individual

Chapter 7. The Politics of Disablement - Existing Possibilities
- The restructuring of the welfare state - the elimination of
dependency?
- The political participation of disabled people
- The politics of pressure-group activity
- A national disability income

Chapter 8. The Politics of Disablement - New Social Movements
- The emergence of new social movements
- The history of the disability movement
- A typology of disability organisations
- The disability movement as a new social movement
- New directions for the future
- Counter-hegemonic politics

Postscript: The Wind is Blowing

Bibliography

Index

目次

第1章 障害の定義―意味の政治
第2章 文化的産物としてのインペアメントとディスアビリティ
第3章 障害と資本主義の到来
第4章 障害のイデオロギー的構築
第5章 無力化されたアイデンティティの構築
第6章 ディスアビリティ問題の社会的構築
第7章 無力化の政治―その存在可能性
第8章 無力化の政治―新しい社会運動


第1章 障害の定義―意味の政治

第2章 文化的産物としてのインペアメントとディスアビリティ

第3章 障害と資本主義の到来

 「第一段階の経済的基礎である農業や小規模な工場では、大半の障害者は生産過程に組み込まれて、完全に参加ができなくても、部分的に貢献することができた。封建時代の障害者は薄幸の個人と見なされていたが、社会から隔離されることはなかった。第二段階で産業化が進むにつれて、[…]障害者の大半は生産過程から排除されるようになったのである。[…]<0062<
 個々人ができる範囲内で生産過程に参加する農村部の協同システムから、都市の工場を基礎として賃金労働者個人を組織化したものへと変化したことは重大な結果を招いた。一九世紀の労働市場によって、あらゆるハンディキャップをもつ人々は市場の底辺へと追いやられたのだった。」(pp.62-63)

 施設化について。「就労可能であるにかかわらず仕事に就こうとしない人々を、就労できない人々と分離することが重大な問題として浮上したのである。」(p.73)
 「施設へと人々を社会から引き離すことでイデオロギー的気運が生まれ、部分的にせよ、その結果、障害は恥ずべきものへと変化した。それはスティグマ化の動きが、就労が可能な者だけでなく、働くことができない者にまで及んだからである。」(p.74)

第4章 障害のイデオロギー的構築

 「障害のカテゴリーは人間を労働ベースと必要ベースのシステムのどちらかへと分類する機能を担うもので、これを遂行するために配分方法を開発することが必要視された。障害を臨床的な概念とし、医療専門職にその配分をおこなう役割を課すことによって、これはなされた。」(p.101)
 「病院主体の医療は、新しい資本主義社会の秩序のなかで人々を分類して統制し、労働者と非労働者(non-workers)を分別する必要から生まれた」(p.102)
 「病気の様式は変化しているし、ディスエイブリングな状態の多くはもはや医学的処置(たとえば、治療)の効果が期待できないというのが事実であるとすれば、なぜ医療専門職は障害の領域を支配しつづけるのかという疑問がもたらされる。病気の様式が急性疾患から慢性疾患に移行したために、医療専門職が治療と同じように、リハビリテーションにまで活動領域を拡大させている。このことが主たる要因であることに疑問の余地はない。」(p.103)

 「中絶法(the Abortion Act, 1967)では、もし「子どもが生まれた際に、身体的または知的な異常があることで重度のハンディキャップを負うという重大なリスクがある」場合、中絶が可能とされた。異常性を明記する厳格な基準はおかれず、重度のハンディキャップの定義は示されなかったため、中絶の決定は二人の医師の手中に収められることとなった。はじめは障害とハンディキャップを定義することの難しさについて議論がなされるが、最終的には[医師]個人の私的な判断にもとづいて中絶の決定がなされるだろう。しかし、その医師は、どのような訓練を受けたとしても、彼らが健全な心身をもつ個人のイデオロギーの拘束から逃れることはできないのである。
 これは「中絶の議論」に乗り出すことではなく、異なる領域での専門職的実践のイデオロギーにおける類似性を描くものであるということが明らかにされるべきである。中絶を支持するこの<0106<イデオロギーは、障害にむけられた言外の意味がある。

 障害者が優生的中絶を正当なものであると認めるならば、そのことによって自らの人生の価値を傷つけることになるということは、一般的に一致した意見である(Graham Monteith, 1987, p.38)。

 また社会に対しては、[次のような意味がある]。

 もし健常者社会において障害をもつ人々が権利を有する対等な人間であると承認されるなら、スクリーニングと中絶が社会に利益をもたらすという考えや、ハンディキャップをもった人は社会のために早めに殺されたほうがよいとする考えは破棄されなければならないだろう(Davis, 1987, p.287)」(pp.106-107)

Davis, A. 1987 "Women with Disabilities", Disablity, Handicap and Society 2-3
Graham Monteith, W. 1987 Disability: Faith and Acceptance, Edinburgh: Saint Andrew's Press.

第5章 無力化されたアイデンティティの構築

第6章 ディスアビリティ問題の社会的構築

第7章 無力化の政治―その存在可能性

第8章 無力化の政治―新しい社会運動

訳者あとがき 横須賀俊司

 「著者のマイケル・オリバーは一九六二年に頚椎損傷者となり、それ以来四肢麻痺の障害者として生活をしている。グリニッジ大学における障害学(ディスアビリティーズ・スタディーズ)担当の教授であり、かつてはケント大学でも教鞭を執ったことがある。現在ではグリニッジ大学を退職し、同大学名誉教授になっている模様で、ロチェスターに在住する。」(p.237)
 「イギリス障害学会の学会誌であるDisability and Societyの編集にも携わるなど、障害学における指導的役割を果たしてきたといえる。オリバーは研究だけにとどまらず、脊椎損傷者教会やイギリス障害者協議会といった障害当事者団体の運営にも携わり、障害当事者運動にも積極的な関与を行っている。このように障害学の主要なメンバーが障害当事者運動とコミットし、両者が連動しながら展開されているところに、イギリス障害学の特徴を見てとることができる。」(p.237-238)

言及

◆立岩 真也 2006/12/25 「『障害の政治』」(医療と社会ブックガイド・66)
 『看護教育』47-11(2006-12):-(医学書院)[了:20061102]
◆立岩 真也 2007/**/** 「障害の位置――その歴史のために」
 高橋隆雄・浅井篤編『日本の生命倫理:回顧と展望』,九州大学出版会


*作成:青木 千帆子箱田 徹ほか
UP: 20060616 REV: 1101,02 20070127 20100416 0517 0706,15
障害学  ◇コリン・バーンズ集中講義シラバス  ◇BOOK  ◇身体×世界:関連書籍 2005-
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