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『直接税改革――間接税導入は本当に必要か』

八田 達夫 19890916 日本経済新聞社,262p.


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八田 達夫 19890916 『直接税改革――間接税導入は本当に必要か』,日本経済新聞社,262p. ISBN-10: 453208850X ISBN-13: 978-4532088507 1300 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

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内容(「BOOK」データベースより)
直接税制のゆがみを放置したままの消費税導入は本当に不公平を解決できるか?キャピタルゲイン課税や納税者番号などの利点を生かした独創的な提案で、間接税導入論に代わる改革の戦略を示す。

■目次

序章 税制改革はなぜ必要か
第1部 直接税改革の構図
 直接税の歪み是正の方法とコスト
 第2章 直接税の歪みは正す価値があるか
 有価証券のキャピタルゲイン税の導入
 高齢化対策としての直接税改革
 土地税制の歪みの是正
 税制改革の戦略
第2部 税制改革の諸問題
 アメリカの税制改革
 固定資産税はなぜ上げるべきか
 税制改革よもやま話
 新型間接税は本当に必要か

■引用

第1部 直接税改革の構図
 第2章 直接税の歪みは正す価値があるか
 1 ライフサイクル説
 2 日本は平等か
 3 所得税以外による再分配
 「4 所得再分配と活力(一)――労働意欲
 流行に敏感な日本では、次のような外国での政治スローガンもいち早く輸入された。
 ▼高い累進度は労働意欲を減退させ、経済の活力を殺ぐ。[この文太字]
 所得の分配をすればパイのサイズを小さくするから、低所得の人も含めて皆が損をするというわけである。これについては、高所得者と低所得者を分けて論じよう。
 高所得者の勤労意欲
 高所得者に対する高い累進税率は高所得者の勤労意欲を殺ぐから、低い税率にした型が、かえって多く働き多額の税を納めることになり、社会全体のためによいのだという議論がある。
 これはレーガン、サッチャー流の保守主義の受け売りである。金持ちの勤労意欲に関する実証研究は日本にはないので、これに対して決定的なことは何もいえない。しかしながら、イギリスの上流階級の人間が怠け者であることがイギリスの沈滞の原因であった、とイギリス自身が指摘してきた(注1)。そういう国で、藁をもすがる思いで所得税率を減らし、勤労意欲をあおろうとするのは、効<0066<果は疑わしいとしても全く理解できないわけではない。アメリカでも一九九一年のレーガン減税に、景気拡大の効果があったことは認められるが、これが高額所得者の労働時間を増やし、そのために彼らの支払い税額が増加したという実証研究は、寡聞にして知らない。低所得者に減税すれば、もっと少額の減税でもより大きな景気拡大効果があったであろう。
 英米においてすらそうである。ましてや日本のように働き過ぎの社会で、累進度の緩和が勤労意欲をさらに増大させるとは考えられない。まず、大企業の重役の場合、勤務時間や勤務日数は自由になるものでもないから、当人の自由で労働時間を調整することができるのは、退職年齢についてであろう。しかし、多くの財界人が老害といわれながらも役職にしがみついているところをみると、高い税率が彼らの勤労意欲を阻害しているとはとても考えにくい。
 また、労働時間や努力を調整しうる小説家にしても歌手にしても、努力を重ねて仕事をする理由は収入だけではあるまい。仕事の内容や社会的評価が、その大きな報酬である場合が多いであろう。幸いにして日本は、そのような意味での健全な勤労意欲がある。そういう文化が衰退してしまった国ででてきた政策論、それも金持ちによって自分たちのためにねつ造された政策論を、日本で当てはめるのは無理であるように思われる。
 そもそも人が高い労働所得を得るのは、運と能力と努力とを合わせて初めて可能になる。もし人々が平等な能力と運とを持って生まれ、努力だけで人の貧富の差がつくのなら、税による所得の再分配は必要である。一方、運や生まれつきの能力の違いのみで所得の差がつくのならば、ある水準以上<0067<の所得には全額課税することによって、社会的な総生産を減らすことなく完全平等な世界を達成できる。実際は、その中間にあると考えられる。
 […]
高い労働所得を得ている人に対する高い所得税率は、このような運のよさや生まれつきの才能に対して課税するためのものである。税率が高いからといって、必ずしもそれらの人々が怠けものになってしまうわけではない。
 一方著しく高い資産所得は、運の良さや才能とともに、相続が深く結びついている。アメリカの大富豪の財産の約五〇%は、相続によって得たものである。[…]
 高い資産所得に対する高い税率は、運のよさと才能と、相続財産が生む資産所得とを課税するものである。
 […]  婦人・老人・若年の勤労意欲
 三十歳から定年までの男子については、賃金率が労働時間に対して非常にわすかな影響しかないことが知られている(注2)。したがって、このグループについては、税が勤労意欲に及ぼす影響は、無視できると考えられる。
 しかしながら、婦人・老人及び若年の労働者が、働くか働かないかを決める段階で、賃金率が非常に重要な役割を果たす(注3)。したがって彼らの手取り所得が高ければ、婦人は家にとどまらず稼<0069<ぎに出かけるようになり、老人は定年後も再就職先を見つけて働き続け、若年もぶらぶらせずに勤め始める。
 人々を働かせ、経済を活性化させるためには、このグループの人たちが直面する税率を低く抑えねばならない。しかし、このグループの人々の平均所得はせ、どちらかというと低い所得の人々である。一方、所得税の完全なフラット化や、大型間接税の導入は、最も所得の低い人たちの実質所得を引き下げる。このため、低所得者に対しては低い税率で課税することのできる累進所得税こそ、このグループの労働意欲を刺激し、活力ある経済を生み出すことができる。
 「高所得者によるり低い税率を、低所得者により高い税率を」という今回の税制改革の政府案は、経済の活性化のちょうど正反対をねらっていることになる。」(八田[1989:66-70])
 5 所得再分配と活力(二)――競争的環境
 6 まとめ

第7章 アメリカの税制改革
 「法人税率を下げたにもかかわらず、投資の税額控除の廃止と減価償却方式の変更によって、大幅な法人税の増収(一九八七年から九一年の五年間に、法人税増は一二〇〇億ドル)が見込まれており、これが投資意欲を減退させるのではないかといわれている。
 もっとも一方には、今までタックスシェルターや、キャピタルゲインを狙って不動産投資に向かっていた資金が、金融資産に流れるから利率の低下を引き起こし、それが投資を刺激するという相殺的効果もある。さらにいえば、この法人税で最も打撃を受ける重厚長大産業(鉄鋼、自動車業界等)は、今までの税制の中立性を侵して強力な実質的補助金を受けていたのだから、それらの分野での投<0193<資が減るのは、長期的観点から見て、効率的な資源配分を達成すると見ることもできる。
 しかしながら、法人税増税が全く問題がないわけではない。キャピタルゲインが全額課税所得とされる新税制下では,法人税は完全な二重課税である。内部留保はそれが適切であると信じられる度合いに応じて、株のキャピタルゲインにはね返る。したがって税の中立性の観点からは、キャピタルゲインが課税所得とされているなら、法人税は廃止されるべきである。このことを考えると、法人税かキャピタルゲイン税の軽減を求める動きが強まるに違いない。」(八田[1989:193-194])

■言及

◆立岩 真也 2008-2009 「税制について」,『現代思想』 資料

◆立岩 真也 編 2009 『税を直す――付:税率変更歳入試算+格差貧困文献解説』,青土社 ※


UP:20081112 REV:20090503, 0719
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