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『長生きも芸のうち――となりのおばあちゃん』

早川 一光 19890501 小学館,221p.


早川 一光 19890501 『長生きも芸のうち――となりのおばあちゃん』,小学館,221p. ISBN-10: 4093870454 ISBN-13: 978-4093870450 951+ [amazon][kinokuniya] ※

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出版社からのコメント 四十年来、京都・西陣の路地裏に、せっせと往診を続ける早川医師。ひとり暮らしを続けるよねさん。三世代同居で過ごすこんばあさん…。人生80年のいま、他人事ではすまされない老人医療・看護のあり方を、路地裏の仁術師早川センセがほのぼのと綴ります。

■目次

第一章 支え、支えられて
-老人看護と在宅医療-

向こう三軒両隣 姑
長生きするのもよしあしや 八時だぞォ、全員集合
クジラがエビを看る 二度と行くまい
ひとりをみんなが支える 百歳万歳
ひとりで生きる

第二章 お年寄りに学ぶ
-医療の心、看護の心-

大ばば、中ばば、小ばば(三話) 癌も身の内
医者冥加 ほんまわなぁ~、センセ
天狗の隠れ蓑 おばあちゃんの下取り
今、浦島 たかが往診 されど往診
おいとくりやす 月はおぼろに

第三章 いかに生き、いかに死ぬか
-長寿のコツと大往生-

雀のさえずり 語りべ
長生きも芸のうちや 夢にだに
散らしボケ 三か四か
死にたい病 畳の上で
年に不足はおへんけど 業(ごう)
はるけくも来つるものかは 大往生

あとがき

■目次

 「おばあちゃん! 人の顔を見たら”死にたい”と言わんとき。そりや周りの者には皮肉に聞こえますがな」と言い添えてみる。
 「先生、何言うてはります。もう八十三も生きてきたら、酸いも甘いもなめ尽くしましたワ。もういつ死んでも構いまへん。平気どす」と言い切る。
 ”ほんとうかいな”と思っていたら、ムメばあさん、四つ角を由がる時、自動車が急に横▽168 からグイと来たら、あわてて歩道に戻った。”なあんだ、あのまま向こうへ渡ったらポツクリ逝けるのに――なんでまた、あわてて戻るんかいな”と思う。そして、”死にたい”と言うても、ほんとに死ねない体を持っている、とつくづく人間の業の深さを思う。
 西陣に長寿会という”長生きしようかい”がある。ムメばあさんもその会員の一人だ。
 このごろ、長寿会の皆さんが盛んにポックリ寺にお参りに行く。パスを仕立てて、五十人、六十人と団を組んで出かけて行く。
 その時に、必ず会長が診療所に出かけてきて、医療班を出してくれと言ってくる。先日も、お医者さんと看護婦さんがついて行った。途中で、車に酔ったり、急病が出てはいけない、もしものことがあってはと、医療班がついて出て行った。
 私は、「何で医者が、ポックリ逝きたいと祈りに行く人たちのあとにつき添うて行かねばならないのか」と不思議に思った。そんなに死にたければ、医者抜き看護婦抜きで行つたらいいのに、パタッと倒れても放っておいたら本望なのにな、と思う。救っていいのか、放置していたらいいのか、迷うところだ。”死にたい”と願いつつ、医者を連れていく西陣の長寿会のお年寄りもしたたかだ。いったい、死にたいのか、生きたいのか、わけがわ▽169 からない。
 「おばあさん、そんなに死にたかったら、そのバスが川の底にドスンと落ちたら、一ぺんその五十人がポックリ往生するのになあ」と私が言うと、
 「センセ、そんな殺生なこと言うて!」と真顔で怒る。
 「殺生って、やっばり、おばあさん、生きたいと違うか、いったいどっちが本当なのや」
 と畳みかけて聞くと、「それはそれ、これはこれ――」とすまして答える。
 その複雑なムメばあさんの顔を見て”死にたい”ということは、”生きたい”ということ。”心安らかに生きたい”と願っていることだと、読んだ。」(西川[1989:167-169])


UP:20140807 REV:20140905  QLOOKアクセス解析
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