『障害者のゆたかな未来を――ゆたか福祉会の20年のとりくみ』
泰 安雄・西尾 晋一・鈴木 清覚 編 19890305 ミネルヴァ書房,323p.
■泰 安雄・西尾 晋一・鈴木 清覚 編 19890305 『障害者のゆたかな未来を――ゆたか福祉会の20年のとりくみ』,ミネルヴァ書房,323p. ISBN-10: 4623018938 ISBN-13: 978-4623018932 \2940 [amazon]/[kinokuniya] ※w0105,d00b
■内容(「BOOK」データベースより)
重度障害者に働くのは無理だといわれた時代、人間らしく働き生きることを主張して、1969年、全国初の無認可共同作業所として、出発……。それから20年、本書は、成人期障害者の総合的な施設づくりとゆたかな実践を展開してきたゆたか福祉会の感動の記録です。
■目次
まえがき
第1部 ゆたか福祉会における施設づくりと実践の展開
第一章 共同作業所の誕生 ゆたか作業所
1 ドラマチックなゆたか共同作業所の始まり
2 ひとりの人間として、成人した大人として、自立に向かって歩む仲間たち
3 移転増改築と今日の状況、課題
第二章 地域にねざした作業所づくり みのり共同作業所
1 点から線へ
2 仕事の変遷――下請仕事から自主生産へ
3 労働実践と労働教育
4 みのり共同作業所の将来展望――仲間の未来を見通した実践を
第三章 障害の重い人々の労働保障 なるみ作業所
1 「なるみ共同作業所」の開所・運営から「なるみ作業所」の建設へ
2 障害の重い仲間たちの実践の展開
3 なるみ作業所の取り組みのまとめと課題
第四章 人間らしいゆたかな生活をめざして ゆたか希望の家
1 労働と生活・教育を統一的にとらえた新しい施設づくり
2 待望の生活施設スタート
3 再びわれわれがめざす生活施設づくりに向かって
4 「障害者の人間らしい生活の実現」をめざす施設づくりの教訓と今後の課題
第五章 自立した生活をめざす共同ホーム ゆたか鳴尾寮
1 親なき後の生活の場をめざして――共同ホームづくりの運動の過程
2 暮らしを通して自立する
3 地域の中での暮らしのネットワークをめざして
――ゆたか鳴尾寮の課題と展望
第六章 せっけん・ホカコン・虹の工場 つゆはし作業所
1 熱田作業所の出発とホカホカコンサート
2 ホカホカせっけん事業の取り組み
3 自立をめざして
第七章 新たな働く場をめざして リサイクルみなみ作業所
1 住民、自治体労働者とともに
2 リサイクル現場の生産実践
3 今、私が輝いているために働く――肢体障害の仲間の発達
4 職種の拡大と全市的な展開
第八章 重度重複障害者の願いにこたえて デイ・サービスみなみ
1 在宅、重度障害者の願いにこたえて
2 労働の保障の実践
3 出かけていく実践――在宅訪問活動
4 診療所の開設
5 デイ・サービスの三年間をふりかえって
第2部 ゆたか福祉会における実践・事業・運動
第一章 ゆたか福祉会における実践の特徴
――ゆたか福祉会20年の実践の基本とその展開
1 発達保障論の継承と発展
2 ゆたか福祉会における実践の基本
――実践の理念と推進の体制
3 ゆたか福祉会の事業・実践の展開
第二章 障害者の願いにこたえた施設づくり運動
1 障害者、家族の願いと実態から
2 運動を基礎とした施設づくり
3 制度を活用し改善する
4 政治、社会を変えるなかで障害者の未来を
5 地域の民主的諸団体とむすびつき支えられるなかで
第三章 福祉分野における民主経営づくり
1 二〇周年を迎えたゆたか福祉会
2 共同作業所の設立――法人化――複数施設の体制へ
3 民主経営づくり、労働協約の締結、主任管理職化
4 事業開始一〇周年を迎えて
5 「長期プラン」を総達成しつつ迎える事業開始二〇周年と、
福祉分野の民主経営としての新たな発展方向「福祉共同組合」づくり
あとがき
■引用
◆第八章 重度重複障害者の願いにこたえて デイ・サービスみなみ
◇2、労働の保障の実践
○デイ・サービスの取り組み
「「一人ぼっちの在宅障害者をなくしていく」「障害の重い人たちの生きがいの場、自立の場としていく」「地域の障害者の人が利用しやすい場としていく」「家族の方と事業をつくりだし発展させていく」これらの思いで事業を進めてきました。
デイ・サービス事業は一九八五年四月、身体障害者のデイ・サービス事業(身障授産施設併設)として国の制度を活用し、名古屋市が設置し、ゆたか福祉会に委託され、リサイクルみなみ作業所に併設された在宅障害者デイ・サービス事業として発足しました。事業の内容としては、日常生活訓練、創作活動、軽作業、相談等、内容は多様です。また、利用する場合は原則として週二回となっています。」(p.205)
「四年間事業を進めるなか、在宅障害者の本人とともに家族の方の生活の困難さがいっそうはっきりとして<205<きました。生活の多くの場面で介助の必要な仲間、家族の手で生命を守られている仲間たち、親の病気、高齢化、それでも介助の手をゆるめることはできません。重度の障害者の問題はまさに親の問題であり、生活の問題であり、人の生死の問題につながっています。
グループ活動や訪問活動を進めるなか、仲間や家族の方から相談も多くなり、「このままではいけない」「人として生きたい」とその思いが強く伝わってきます。「親が病気したら、安心して一時的にでも託せるところを」「毎日通えるところを」「管理的ではない生活の場を」…と広がってきています。」(p.207)
○デイ・サービスの取り組み
「ダイちゃん、クリモトさん、エツコさん……。デイ・サービスに通う仲間たちの障害は重く、介助なしでは生活できません。しかし、仲間たちにとって「仕事」は大切なものとして生活の柱になっています。しかし、週二日程度しか利用できません。クリモトさんや多くの仲間が毎日働きたい、ダイちゃんがもっと多く通いたいと願っても、デイ・サービス事業の制度としてそれを実現し、こたえることはできません。仲間たち、親たちの願いにこたえていくためには、仲間たちも通える作業所づくりや、通所形態での療護施設など本格的な施設づくり、そして、仲間たちが安心して通ってくることができるように送迎体制、医療体制を整えていく必要があります。」(p.209)
「同時に「生活の場」も大きな課題となっています。介助なしでは生活できない仲間たち、食事、排泄、入浴、移動……全ての面で介助が必要であり、家族(特に母親)の疲労は大きなものがあります。緊張の強い体を抱きかかえることはたいへんなことですが、高齢者にとってはさらにたいへんなことです。家族が、特に母親が病気をしたら、生活の場をさがさなければなりません。親の体を気づかい、明日はどうなるかと不安に思いながらの仲間たちも多くいます。今、リサイクルの仲間と身障ホームづくりへと自分の願いや思いを託している仲間がいます。介助なしでは生きていけない障害の重さ、それをとりまくきびしさをうけとめながら頑張っています。」(p.210)
◇3、出かけていく実践――在宅訪問活動
○不十分な教育・医療・福祉のもとで
「訪問に至る経緯はさまざまで、年齢も行政区も異なり数的整理はしにくいのですが、学校教育が保障されたとはとてもいえません。大切な学齢期、未就学はもちろん不十分な訪問教育も、本人と親の集団への参加のチャンスを奪い、発達を疎外し、生きていく見通しをもちにくくしています。てんかんを合せもつ人、状態の不安定な人、なかには片時も吸引器が離せず二四時間つきっきりの介護が必要な人もいますが、継続した医療は受けられていませんでした。ヘルパーや補装具、日常生活用具の制度も知らず、利用されていませんでした。支えを切実に求めつつも相談機関との日常的な結びつきはなく、必要な情報すら伝わっていませんでした。」(p.214)
「不十分な教育・医療・福祉の在宅生活です。その長期化のなかで、障害はますます重く、介護者は心身の安定を欠き、家庭生活はますますせっぱつまった状況になってきたといえます。装具や用具の活用だけでもずいぶんと日常生活上の不自由と負担を軽減し、快適さを増します。安心して相談でき、情報がきめこまかにわかりやすく伝えられていたら、どんなに支えられ、努力が実ったことでしょう。「もっと早くに、こういうことがわかっとったら」、同様に口にされるのは精一杯のことをしてきた人たちの無念です。生きていく必要に迫られてのさまざまな努力と工夫にはほんとうに頭が下がりますが、いまある科学の光はやはり正当にすべての人にあてられるべきです。」(p.215)
■書評・紹介
■言及
*作成:長谷川 唯