「〔i〕生命維持装置を取り外すということは、実際には、生命維持装置などをつかう「特別の治療方法」を「ふつうの治療方法」にかえるという形で問題になるものであるが、問題になる場合が2つある。それは、(i)「死の危険をともなう場合」と、(ii)「確実な死に直結する場合」が、それである。
〔ii〕 まえの「死の危険をともなう場合」には、①生命維持装置が治療や意識の回復のために役だたなくなっており、②この装置を取りつけておくことが病院や家族にあまりにも大きな負担をかけるようなときには、③患者の事前の承諾か保護者の承諾をえて、その装置を取りはずし、ふつうの治療にかえてもよい。それは、治療行為の限界線上にあるもので、許された危険としてみとめられるからである。」(324)
「わたくしたちが問題にしている場合に、いわゆる患者の側の同意を必要とするという立場をとるとすると、患者があらかじめ意識のあるときに承諾をしていないし、また、その患者に近親者がいないときには、たとえその患者がどんな治療をくわえても差し迫った脳死の状態に移ることを避けることができないような状態になり、いわゆる「人間としての尊厳を保った生存状態とはいえなくなった状態」になったとしても、医師の治療義務はつづき、生命維持装置を取り外すことはできない、ということになる。
かつて、わたくしは、基本的に、こういうように考えながら、わたくしたちが問題としている場合に、いわゆる患者の側の承諾がなくても、医師の治療義務はなくなる、としたが、いまでも、基本的に、こういう考えをとりたいとおもっている。」(347)