『生物進化を考える』
木村 資生 19880420,岩波書店, 岩波新書新赤版19, 290p.
last update:20100916
■木村 資生 19880420 『生物進化を考える』,岩波書店, 岩波新書新赤版19, 290p. ISBN:4004300193 [amazon]/[kinokuniya] ※
■内容
ダーウィンによって確立された進化論はどのように発展していったのか。分子生物学は進化論をいかに豊かにしたのか。進化の道筋は現在どのように考えられているのか。革命的な「分子進化の中立説」を提唱して世界の学界に大論争を巻き起した著者が、『種の起原』から中立説までの進化の考え方をやさしく説き、人類の未来にも想いを馳せる。
■目次
第1章 生物の多様性と進化の考え
第2章 遺伝学に基づく進化機構論の発達史
第3章 進化の道すじをたどる
第4章 進化要因としての突然変異
第5章 自然淘汰と適応の考え
第6章 集団遺伝学入門
第7章 分子進化学序説
第8章 中立説と分子進化
第9章 進化遺伝学的世界観
■引用
◇「優生学(eugenics)はダーウィンのいとこで,生物統計学の創始者の一人でもあるフランシス・ゴールトンの理想主義から生まれたものである。しかし,その後,ナスチ・ドイツの非科学的で非人道的な民族政策に悪用され,すっかり面目を失墜してしまった。その結果,現在では優生の問題はほとんどタブーのようになり,それを論ずることすら悪であるかのような傾向が生じた。しかし…」
(木村[1988:268])
◇「優生の問題を考えるとき、すぐに頭に浮かぶのは、突然変異蓄積の害である。医学の進歩とともに死亡率が激減し、不妊が治癒され、さらに家族計画が徹底してくると、異なった夫婦の間で、次代に寄与する子どもの数の間に差が少なくなって、厳密な意味での自然淘汰は次第に減少することになる。このために、突然変異の除去は次第に困難になる。」消極的優生学について「現実に有効なのは、平均より多くの有害遺伝子をもった人が、なんらかの形で子どもの数を制限するか、あるいは有害突然変異遺伝子をもっていることが分かっている受精卵を、発育の初期に除去するかのどちらかになると思われる。とくに染色体異常を含む受精卵を発育させないのは、その個体自身にとっても社会全体にとっても、好ましいことと考える。ごく最近になって、いわゆる羊水検査によって、染色体異常を出生前に検出し、妊娠中絶によって除去することができるようになったのは、明るいニュースであろう。アメリカの遺伝学者ベントリー・グラスは「健康で生まれることは、各人が教育を受ける権利をもつと同じように、ひとつの基本的人権と考えられるときがくるであろう」と言っている。」積極的優生学についてはマラーの案を紹介し「種々な面を総合的に考えると、…科学的にはもっとも安全・確実で、長期的にも有効な方法といえるかもしれない」とした後、注意点を一つ加える。
以上 立岩真也『私的所有論』pp.267-268
「精子供与者の集団をあまり小さくとってはならない…。あまり小さいと、すぐ近親婚の可能性が生ずるうえに、集団の遺伝的変異量が限られて、育種でいう選抜限界が低くなってしまう恐れがある。…極端にすぐれた少数の天才的才能の持主(例えばノーベル賞受賞者)だけを親に選ぶのは非常によくないと思われる。…例えば…集団の総個体数を一億とし、なんらかの基準ですぐれたと思われる人を一〇〇万人ぐらいを選んで、次の代を残すようにする方がよいと思われる。」
(木村資生[1988:278])
以上 立岩真也『私的所有論』p.215に引用
■書評・紹介
続きは、「もちろん、これはあくまでも理論上の計算であり、マラーの方法が社会的に是認された場合の話であることをつけ加えておきたい。」
(木村[1988:268-278])
他にMuller[1966=1974]を含む木村編[1974]。
文中で言及されているグラスのアメリカ科学振興学会の一九七〇年の会長講演は
Glass[1971]。
Hubbard[1984=1986:177]、鈴木善次[1993:516-517]、山崎カヲル[1996:45-46]に批判的言及。)
以上 『私的所有論』p.268
■言及