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『治療という幻想――障害の治療からみえること』

石川 憲彦 19880225 現代書館,269p.


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石川 憲彦 19880225 『治療という幻想――障害の治療からみえること』,現代書館,269p. ISBN-10: 4768433618 ISBN-13: 978-4768433614 2060 [amazon] ※

■引用

 「「『障害』は病気ではない。だから直す対象として『障害』をとらえることが誤っている」という障害者からの指摘は正しいと思う。しかし、病気と「障害」との差異を強調することだけで(p.35)は不十分である。それは、たちまち「障害」だけを孤立させることになる」(石川[1988:35-36])

 「戦後四十年。脳性麻痺の治療学は、古典的医学の治療という発想の下では、まったく進歩がなかったといってよい。なぜなら「一度破壊された脳細胞は再生しない」という、医学の命題はまだ解決されていないからである。
 にもかかわらず、映画「さようならCP」がその内容をよそに表題のみが社会的に利用されたように、相次いで日本に上陸した早期療法(2)の宣伝によって、一九七〇年代は「脳性麻痺は直る」「紀元二千年に脳性マヒ故に歩けない人は存在しなくなるであろう」といった宣伝が公然と登場してきた。これは、…(p.140)…”戦後の人権意識”に強く支えられた”療育”の立場から語られ始めた。筆者もボイタ法の講習会に参加して、何カ月かこの熱狂的叫びにとらわれ、心揺さぶられた体験がある。
 しかし、この数年、次第にその熱気は冷めつつある。日本脳性麻痺研究会のこの二年の記録は、それを物語っている。同記録『脳性麻痺研究』のNo.3(一九八三年)及びNo.4(一九八四年)は各々、「早期療育」「脳性麻痺は減ったか」のテーマにおいて、リハビリテーションへの基本的な疑問を投げかけている。一言でいえば、「脳性麻痺は減ったが、その主役は胎児新生児病学における治療技術の進歩であり、療育によって減ったといえるのだろうか」という内容の疑問である。(p.141)」(石川[1988:139-141])
 cf.脳性麻痺

 「直るということばの響きは、あくまでも能動的である。この能動性は、直ってゆく主体の広がりをいくらでもふくらませてゆける。私が直ったり、私とあなたとの関係が直ったり、社会が直ったりと、一つの直りは主体を白由に開いてゆく。また、直りの質も、多様に広がりをもっている。「病気は直らなかったが、希望に満ちあふれている」という居直りともいえる質の直りすらが、直ることの質を広がらせる。」(石川[1988:36])

■言及

◆立岩 真也 2013/05/20 『私的所有論 第2版』,生活書院・文庫版,973p. ISBN-10: 4865000062 ISBN-13: 978-4865000061 1800+ [amazon][kinokuniya] ※

 「☆01 時代の雰囲気とは別に、しかし必然性をもって、ものを書いた人の書いたものが、その人たちは「学者」でないことが多いのだが、あったにはあった。よく知らないからでもあるのだが、本書では控えめに、注などで、幾人か・いくつかについて記した。新たに加えた文では、補章1の注4(797頁)で田中美津、注6(798頁)で吉田おさみ、注9(802頁)で吉本隆明・最首悟、注16で森崎和江(809頁)、ほかに本補章で、稲場雅樹、山田真、米津知子、また初版では、第5章の注1(347頁)、注12(359頁)、注22(364頁)、第6章の注1(418頁)、注43(450頁)、第7章の注23(534頁)、第8章の扉(538頁)、注1(608頁)、注3(611頁)、▽844 第9章の扉(620頁)、注2(709頁)、注9(715頁)、注20(724頁)、注21(724頁)、注27(726頁)等で、石川憲彦、石牟礼道子、奥山幸博、小沢牧子、北村小夜、最首悟、篠原睦治、堤愛子、野辺明子、福本英子、古川清治、宮昭夫、村瀬学、横田弘、毛利子来、横塚晃一、山下恒男、山田真、米津知子、渡辺淳の文章・文献にわずかに、ほとんどの場合本当にわずかに、ふれた。」(立岩[2012:843-844])

◆立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※

最首 悟 20130222 「「いのち」から医学・医療を考える」,高草木[2013:235-315]*
*高草木 光一 編 20130222 『思想としての「医学概論」――いま「いのち」とどう向き合うか』,岩波書店,400p. ISBN-10: 4000258788 ISBN-13: 978-4000258784 4000+ [amazon][kinokuniya] ※

 「石川憲彦は、東大病院小児科、精神科勤務を経て、静岡大学教授になり、いまでは「林試の森クリニック」を開いています。彼の書いた『治療という幻想――障害の医療からみえること』(現代書館、一九八八年)はお薦めの本ですここで、石川憲彦が「直り」という言葉を復活させた意義は大きいと思います。

 直るということばの響きは、あくまでも能動的である。この能動性は、直ってゆく主体の広がりをいくらでもふくらませてゆける。私が直ったり、私とあなたとの関係が直ったり、社会が直ったりと、一つの直りは主体を白由に開いてゆく。また、直りの質も、多様に広がりをもっている。「病気は直らなかったが、希望に満ちあふれている」という居直りともいえる質の直りすらが、直ることの質を広がらせる。〔同書、三六頁〕

 私は水俣に調査に行ったときに、旅館で「先生、お荷物を直しておきました」と言われて、すぐには意味がわかりませんでしたが、「元の場所に戻しておく」と「秩序ある状態に整理する」の二つの意味が込められた日常の言い同しだったのです。そのような「直り」として「治り」を捉え返すことで、医療現場が病院という特殊な場だけでなぐ社会全体に広がっていき、また「治癒」のイメージも変わっていきます。
 石川憲彦は、「直り」からさらに一歩踏み込んで「居直り」とも言っていますが、私は最近、「居座る(sit-in)」ことを提言しています。デモをやらないにしても、せめて座り込め。居座ったらどうだ。私たちの原点は、一九六〇年六月一五日に国会構内に突っ込んだことです。社会党や共産党の議員団は、「(間接)民主主義を守れ」と言って、大一なを襷を掛けて議員会館の玄関などに並び手を振り陳情書を受け取る整然たるデモをよしとしました。言い得て妙、<0276<「お焼香デモ」です。議事堂はおろか議事堂構内まで神聖なところとされ、人々がゆえなく入るような場所じゃない。試みれば固める機動隊とぷつかって死者が出るだろう。そんな「民主主義」があるか、冗談じゃないと言って、若気の至りでもありますが、突っ込んだのです。やはり、死者が出ました。樺美智子です。
 べトナム戦争の頃、座り込むのではなくて寝そべって死んだふりをする「ダイ−イン(die-in)」が流行りました。「シット−イン」は、派手なパフオーマンスをするわけではなく、守りの姿勢ではあります。バリケードに閉じこもるのも、「グリーフ・ケア(grief care)でずっとそばにいることも「シット−イン」です。医療の極め付けは、「そこに居ること」だと思っています。言葉をかけなくてもいい、黙ってそこにいればいいのです。医者が「治療と化す」(to become himself the treatment)〔ウォルシュ・マクダーモットが古来からの医戒として引用。『セシル内科学 第16版』原著一九ハニ年。小坂樹徳、高久史麿監訳、医学書院サウンダース、一九八五年、第一巻、xxxiii頁、参照〕という表現がありますが、医者が末期の患者のそばに、手を握ることもなくただ座りつづけることです。それはグリーフ・ケアの極意でもあります。石川憲彦の言う「居直り」も、「居」に「シット−イン」が含まれています。
 そのように「居直り」の境地に達した石川憲彦から見ると、古典医学は「ごまかし」であり、予防医学は「まっさつ」であり、リハビリテーションは「ぺてん」であり、教育は「せんのう」であるということになります。『治療という幻想』の第二章は「てんかん――古典医学(ごまかし)的治療」、第三章は「先天異常――予防医学(まっさつ)的治療 」、第四章は「脳性麻痩――リハビリテーション(べてん)的治療」、第五章は、「言語――教育(せんのう)的治療」ルいうタイトルがつけられています。
 石川憲彦は、東大医学部で青医連運動に加わったあと、東大病院精神科病棟のいわゆる「赤レンガ闘争」を行わいます。精神科は、軍医療の影響を直接的に受けている分野です。軍医療では、いろいろな実験ができますし、人類のためという大義名分もあります。また、敵は人問ではなく、モノか邪な存在という思想があります。この軍医療の発想で、精神病者にロボトミー、前頭葉一部切除手術が行なわれたのです。暴れまくる精神病患者もこれでおとなしく<0277<なりますが、それは「廃人」にしたと言ってもいい。露骨な「優生学」の立場からこのロボトミーをアメリカはすさまじい勢いでやりましたが、日本では戦後も東大が行なっていました。」(最首[2013:276-278])

◆立岩 真也 1997 『私的所有論』,勁草書房

◆稲場 雅紀・山田 真・立岩 真也 2008/11/30 『流儀』,生活書院


UP:20080102(ファイル分離) REV:20080902, 20130322, 20151227
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