HOME > BOOK >

『地域医療計画批判』

朝日 俊弘 19920315 悠々社,201p.


このHP経由で購入すると寄付されます

朝日 俊弘 19880125 『地域医療計画批判』,批評社,197p. 1600 ※:[広田氏蔵書] m.

■引用

第一章 保健医療をめぐる最近の動向

 「2「老人保健施設」の創設――老人保健法の改正について

 (1) 地域医療計画と関連する課題の二番目として、新たに制度化されることとなったいわゆる中問施設としての「老人保健施設」について検討を加えておかねぱならない。
 この施設は八六年十ニ月の第一〇七国会で成立した老人保健法改正案の中で法的に制度化されたもので、医療と福祉、治療と介護、施設(収容)と在宅の中間に位置するものという <0018< (図1参照)。
 従って、この老人保健施設は医療法に基づく医療機関でもなく、社会福祉事業法等に基づく社会福祉施設でもないとされ、その根拠法は老人保健法となっている。
 しかし、結論的に言えば、国会審議の過程の中で、日本医師会からの強い圧力によって修正を余儀なくさせられたことでより明確になったように、その本質は明らかに”第二種老人病院”とでも言うべきもので、限りなく医療施設に近いもの――図にあてはめて言えば、図の左上の位置に置かれるべき性格の施設と考えておくべきであろう。」(朝日[1988:18-19])

 「ちなみに、このモデル実施七カ所についての一覧表を表3に掲げておく。
 この表でいくつか留意しておかねばならないことは、まず、病院併設型五ヵ所、特養併設型二ヵ所となっていて、厚生省が例示した独立型はひとつもふくまれていないこと。その上、特養併設型二ヵ所といっても、実際にはそれらの特別養護老人ホームにはいずれも隣接して老人病院を併置していることから、結局は、七ヵ所の全部が病院併設型と考えられること。定員数 <0025< [表] <0029< は二二床〜五〇床と、比較的小規模な単位となっていること。そして、七ヵ所のうちの一ヵ所は「痴呆性老人中心」とされているが、その母体は民間精神病院であること、等々である。」(朝日[1988:25,30])

 「また、施設面でも病棟転換型をより容易にするため、一人当たりの床面積をもっと狭くすべきである、との要望も出されてきており、全体として国会における審議過程で明らかにされた厚生省の考え方(試案)よりも、あらゆる面で一歩も二歩も後退させられそうな状況にあるようである。」(朝日[1988:30])

 「(5) 老人保健施設の問題と関連して、いわゆる「老人病院」の問題と、アメリカにおける「ナーシングホーム」のことについて、簡単に附言しておくことが適切であろう。
 (ア)いわゆる老人病院について
 この老人病院については、最近、『週刊朝日』の中で大熊記者がその実態を告発するレポートを連載したことによって、新たな関心を呼び起こしているが、その制度的位置づけについてはあまり知られていない。
 この老人病院の制度は、実は八三年二月から実施されている二つの制度――すなわち拝例許可老人病院」と、「特例許可老人病院」――に定められた規定に基づく病院のことを意味している。
 @特例許可老人病院
 これは「主として老人慢性疾患の患者を収容する病室を有する病院として医療法第二一
条第一項ただし書の規定に基づく都道府県知事の許可な受けている病院」のことをいう。
 ここで医療法第二条第一項ただし書の規定とは、病院の法定人負及び施設の基準等について、「病院は、省令の定めるところにより、次に掲げる人員及び施設を有し、かつ、記録を備えて置かねばならない。たたし、政令の定めるところにょり、都道府県知事の許可を受けたとき、とされている部分を意昧している。
 この政令の定めるところとは、医療法施行令第四の六(病院の従業者の定員の特例)「主として精神病、結核、らいその他厚生大臣が定める疾病の患者を収容する病室を有する病院……」と記されている部分を指している。
 そして、その他厚生大臣が定める疾病として、八三年一月一九日付の厚生省告示によって <0033< "老人慢性疾患"が指定され、「特例許可老人病院」の制度が新たにスタートしたわけである。
 実際の対象病院(病棟)としては、「おおむね六五歳以上の者がり患している疾患であって、手術を要する状態や急性期を除いた慢性的な経過をとっている状態にある(老人慢性疾患)患者がおおむね七割以上である病棟(老人病棟)を単位」としている。
 この場合には、一般病院について定められている医師等の定員の基準よりも少ないスタッフ配置が認められており、これに応じて、診療報酬体系の上でも別枠の老人特別診療料が適用されることになっている。参考までに表4に定数の基準を一般病院と比較しておく。
 A特例許可外老人病院
 この病院の基準は老人診療報酬点救し、定められたものであって医療法上の制度ではないが、「特別許可老人病院以外の病院であって老人収容比率が著しく高い病院として別に厚生大臣が定めるもの」とされている。
 実際の対象病院としては、「毎年一月から三月までの間における七十歳以上の老人の収容比率が六〇%以上の病院(病棟)」であって、結核・精神および伝染病棟、特例許可老人病院、および基準看護承認病院を除くものである。
 この特例許可外に該当する老人病院(病棟)についても、診療報酬体系し、別に定められた項目が適用されることになっている。
 以上述べたように、これら二つの老人病院とは、決して老人医療を専門とする病院なのではなくて、むしろ老人を多く収容している病院について、例外的に少ない医療スタッフ配置を認めるかわりに、診療報馴点数もいわゆる”まるめ方式”の採用等によって、別枠で低く押さえ <0034< ることを目的として制度化された病院にすぎないのである。」(朝日[1988:32-35])

 「(イ)「ナーシングホーム」について
 厚生省はこの老人保健施設の制度化にあたって、明らかにアメリカにおけるナーシングホームのことを念頭に置いていたと思われる。そこで、簡単にこのナーシングホームのことにつレて解説をしておきたい(なお、詳しくは『アメリカの医療と看護』岡本祐三著、一九八四年などを参考としていただきたい)。
 まず、厚生省側が老人保健法の改正に際して提出した資料では、アメリカのナーシソグホー <0034< [表] <0039< ムとは、主として看護婦により慢性疾患の患者に対して長期ケアを提供するもので、経営主体は営利田体が八割を占める。施設・運営基準はそれぞれの施設独自に決められるが、メディケア・メディケイド・の支払いを受けるためには一定の基準が必要で、メディケア適用の場合の利用者負担は一日四五ドルである、と紹介している。
 前掲の岡本によれば、ナーシングホームとは「病院でしかできないような濃厚な医療は必要ではないが、専門的な看護のもとで、長期の療養を必要とする人々が入るところで、少数の専門職看護婦と、さらに少数の非常勤医師、比較的多数の無資格助手によってケアの行われている医療施設」ということになる。
 一九八〇年現在、アメリカのナーシングホームの施設数は約一万三千施設、ベッド数は約一五四床に達するといわれる。これを六九年の数値と比較すれば、それぞれ一万八千施設、八八万床となっており、極めて大幅な増加を示している(『国際医療保障論』、石本忠義、勁草書房、一九八五)。またこれらの数値を病院数、七、〇五一施設、約一四〇万床(うち精神・結核を除いた一般床数は約一一〇万床)と対比すれば、いかにこのナーシングホームの占める割合が多いかを知ることができよう。」(朝日[1988:35,39])


■言及

◆立岩 真也 2014/06/01 「精神医療現代史へ・追記3――連載 100」『現代思想』41-(2014-6):-


UP: 201405010 REV:
朝日 俊弘  ◇精神障害/精神医療  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)