『現代日本における不安定就業労働者(増補改訂
版)』
加藤 佑治 19870801 御茶の水書房,582p.
■加藤 佑治 19870801 『現代日本における不安定就業労働者(増補改訂版)』,御茶の水書房,582p. ISBN-10:
4275013891 ISBN-13: 978-4275013897 \8,925 [amazon]
■目次
増補改訂版に寄せて
増補版に寄せて
はしがき
序章 不安定就業階層論序説
第一節 現段階における相対的過剰人口の堆積とその存在形態
第二節 停滞的過剰人口の比重の増大とその意味
第三節 「不安的就業階層」について
第四節 相対的過剰人口と不安定就業階層の関係について
第五節 本書における主題の限定とその視点
補論1 失業の今日的形態と不安定就業
補論2 相対的過剰人口の本質規定をめぐって――伍賀一道氏の再批判に答えて
第一章 労働者階級構成の展開と不安定就業階層
第一節 戦後段階における労働者階級構成の一般的特質
第二節 現段階における労働者階級構成の展開と不安定就業階層
補論 労働雇用政策の現段階と不安定就業
第二章 建設業の就業構造と労働者状態
第一節 高度蓄積過程と建設産業
第二節 建設業における下請制と就業構造
第三節 建設業における労働力編成
第三章 日雇労働者の一般的性格と諸類型
第一節 日雇労働者の不安定性とその一般的性格
第二節 いわゆる「長期日雇」労働者層についての考察
第三節 失対労働者層について
小結
〔補〕日雇労働市場調査の一齣
第四章 不安定就業階層と婦人労働者
第一節 現代日本における資本蓄積と婦人労働者
第二節 独占による労働力政策の展開と婦人不安定就業労働者層の創出
第三節 最近における不況の深化と婦人不安定就業階層の増大
第四節 現代日本における婦人不安定就業問題克服のための闘争と雇用保障制度
補論1 婦人不安定就業労働者の諸類型
補論2 いわゆる産業の゛空洞化゛と婦人パートタイマーへの攻撃
第五章 未組織労働者の堆積とその組織化
はじめに
第一節 いわゆる企業別組合論争から未組織労働者問題研究へ
第二節 いわゆる「高度成長」下および構造的危機化における未組織労働者の堆積
第三節 未組織労働者組織化条件の成熟と組織化の方向
あとがき
■引用
「だが、高度蓄積の進展にともない、本工層以外の、より低賃金の労働者が広範に追及され、鉄鋼、化学等装置産業を中心として社外工制度が本格的な展開をみ
せ、また電機産業や第三次産業における新たな労働力としての主婦労働力、学生。、および従来の農家の「二三男」を中心とした出稼ぎから農業破壊のもとに大
量の農家のしかも世帯主自身が出稼ぎに出るという新たな形態があらわれ、また従来の重化学工業にみられた社外工の延長としての「業務処理請負」労働者のほ
とんど全産業的な出現等、新たな状況があらわれるに及んで、従来の臨時工の概念を越えた新たな概念を必要とするに至ったものと思われる。ところで前述した
ように「不安定階層」なる概念は高度蓄積下に江口英一氏らによってはじめてつくられるに至った。すなわち同氏らは、すでに一九六六年に発表された調査研究
において、「不安定階層」という言葉を用い、この層を「ある原因が加わると、きわめて短期間に、いわば直線的に非保護世帯として保護金品を受けないと、自
立的生活がいとめなくなるような窮した状態におちいっている」層としている。(…)」(p.37-38)
「こうした中でこの「不安定」な階層に対する一層厳密な概念化が江口英一氏らによってすすめられて来ている。すなわち、江口氏は本工、常用労働者にたいし
て「不安定雇用」労働者という概念を設定され、その指標として第一に低賃金・長時間労働といった社会的標準以下の労働条件したがって低消費水準、第二にそ
の生活を支えるべき社会保障制度の欠如、第三に無権利な未組織状態をあげられている。この三つの指標は「不安定雇用者」の性格を規定する上で不可欠のもの
であろう。ただし筆者はこれらの諸指標に先立ってまず就労の不規則・不安定性をあげたいと思う。すなわち一般にはこの指標に該当するような労働者は低賃
金・長時間したがって低消費水準に属するであろう。しかしなかにはこのような指標におさまらない場合がある。たとえば、臨時工(臨時職員)の一部やとび職
など建設業労働者の一部の特定技能を持った層などの賃金はしばしば一般労働者に比して低くなく労働時間も長くないにもかかわらず、かれらは不安定雇用者に
入れられるべきであろう。(…)」(p.38-38)
「まず第一に高度蓄積過程において日本の労働者階級はその「数の力」において飛躍的な変化をとげたことである。この過程における鉄鋼業を主軸とする巨大な
重化学工業の創出にともない、生産的労働者とくに「資本のくびきを打倒する」闘争で「勤労被搾取者の全大衆を指導することができる」工業プロレタリアート
が増加してきたことであってこのことの重大な意義がまず確認されねばならない。」(p.54)
「第五に右に一瞥したような不安定就業労働者層は今日労働者階級のなかでますます大きな構成部分をなすようになっているが、これら労働者層の多くは未組織
のままで放置され、事実上組織労働者とその運動の足枷になっており最近に見る労働組合の右傾化、官僚化の重要な背景をもなしている。後に見るように不安定
就業労働者の特質の重要な要素の一つはその未組織性とともに社会保障の欠如である。したがって不安定就業労働者への社会保障の適用は、不安定就業問題解決
の重要な一歩であることは言うまでもない。だがそのためにも不安定就業労働者の組織化を急務とするのである。」(p.57)
「そしてこの場合この反発・吸引労働力の質的問題と量的問題の統一的把握が必要であろう。すなわち吸引される労働力が反発される労働力とその質を異にする
ということと、吸引される労働力が絶えず「減少してゆく比率」でしか増加しないということとは、換言すれば反発労働力と吸引労働力の質的問題と量的問題と
は資本制的蓄積における同じ過程の異なるあらわれに過ぎずこの両社は統一的に把握される必要があろう。すなわち資本制的搾取および蓄積から必然となる旧型
技術体系の解体とこれにともなう旧型労働力の反発と新型労働力の吸引とは、これもまた同一の基底から発するところの可変資本を逓減的にしか増加させないと
いう傾向によって相対的過剰人口の累進的生産をより確実なものにしてゆくのである。」(p.65-66)
「(…)なかんずくわが国においてはいわゆる「高度成長」は、その他いかなる国の経済成長よりも力強く、かつ長期にわたっておこなわれた。このため後述す
るような日本資本主義の特殊な下請重層構造および労働運動の弱体と相まって相対的過剰人口が隠蔽される度合がより強くあらわれた。とくに独占資本による高
度の蓄積欲求のもとにあって柔軟かつ低賃金の若年低賃金労働力が渇望されるなかで「労働力の不足」がうたい上げられ、「完全雇用」が喧伝された。かくして
「失業問題」は解消され「雇用問題」があるのみであると言われるに至った。(…)」(p.72)
「またP・スウィージー等は、アメリカでは一九七〇年代末に二五歳から六四歳までの働きざかりの人々が二四〇万人も労働力人口からはずされているが、これ
は決して「有閑階級」ではなくて「隠された失業」者なのだということを厳密な手法で証明している。この点、日本でもたとえば一九八〇年三月の総理府『労働
力調査特別調査報告』によれば、就業希望者のうち「仕事がありそうにない」ために求職活動をしなかった人々が二三五万人を数えるが、このうち女子が二〇〇
万人を数える。これに「一時的な病気」のためと「仕事を探す余裕がない」という、ともに本人の意思によらず求職活動の妨げとなった理由による女子を加える
と合計で実に二七六万人もの女子が仕事を希望しながら仕事をさがすのをあきらめていることになる。これ等もまた「隠された失業」者であって資本蓄積の進行
のもとで過剰化されて職場を追われ、ないし労働力価値分割の進行のもとに「家」という隠れ家に滞留させられている停滞的過剰人口の現代的形態というべきで
あろう。」(p.74-75)
*作成:橋口昌治