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『精神障害者の医療と人権』

秋元 波留夫 19870610 ぶどう社,246p.

last update: 20110709

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秋元 波留夫 19870610 『精神障害者の医療と人権』,ぶどう社,246p. SBN-10: 4892400688 ISBN-13: 978-4892400681  \2520 [amazon] ※ d07d f01 m m-r

■内容

・「BOOK」データベースより
病院改革と地域精神保健体制の確立へ、精神障害者の総合ケアの充実を展望し、医療・福祉従事者の役割を提言する。

■目次

 第1部 精神保健体制の改革をめざして
医療とリハビリテーションの現状と課題
精神衛生法はいかにあるべきか

 第2部 精神障害者の総合ケアをめざして
病院ケアと地域ケアの総合へ
精神保健運動の新たな展開

 第3部 精神障害者の擁護者たち
精神医学と精神科医の果たすべき役割
精神科看護に望むこと
精神科リハビリテーションの理念と課題
PSWに期待される役割
前進する共同作業所運動

■引用

「よく知られているように1950年代にはじまった、向精神薬による精神病の薬物療法の進歩によって第二次大戦後の精神医学と精神障害者医療に革命的といってもよい変化が起きている。それは第一に、精神病、特に慢性経過をとりやすい分裂病の経過が改善されて、社会復帰ができる人たちが増加したことである。イギリスでは過去20年間に精神病院の入院人口は15万から9万に、アメリカでは55万から12万に減っている。そこではたしかに向精神薬の出現が大きな役割を果たしたが、それに加えて作業療法をはじめとするリハビリテーションが精神病院のなかで活発に行われたからである。薬物療法は精神障害者、とくに慢性化した分裂病の人たちを回復させるための治療手段の一つに過ぎない。」(p216)

■書評・紹介

◆菱山 珠夫 198808** 「〈書評〉 秋元波留夫著『精神障害者の医療と人権』」,『季刊障害者問題研究』54: 74-76

■言及

◆佐藤 宏 19890331 「米国における精神障害者職業リハビリテーションと援助付き雇用」,『職業リハビリテーション』3: 35-40
[外部リンク]Journal@rchiveで全文閲覧可.PDFファイル)
 cf.)引用
p. 35
Farkasらの行った調査では1979年に脱施設化の対象になった54人の州立病院長期入院患者を追跡したところ5年後に一般雇用に就労しているものはゼロであったという3)。援助付き雇用は,こうした状況のなかで精神障害者の雇用の現状を改善するための試みとして登場してきたものである。しかしながら,援助付き雇用は,元来精神遅帯者のための対策として発達してきたものであり4),精神障害者の就労対策にとってどのような効果や問題点があるかは今後の検討課題である。

p. 35
シェルタード・ワークショップは,障害者に対して職業上の訓練と収入の伴う就業機会の提供を行う施設である7)。元来は,身体障害者のためのサービスとして発達したものであるが,貧困者や弱者,ハンディキャップをもった人々を広範囲に扱うため,必然的に精神障害者をも扱うようになってきた。

p. 36
米国の各州立精神病院でワークショップの設立が普及したのは,こうした先駆的な病院の試みに刺激されたということもあるが,1973年に出された連邦最高裁の判決(1978年Souder対Breman事件)の影響が大きい。これは,従来「治療」の名目で患者に行なわせていた病院内の各種雑役労働を違法とし,賃金の支払いを命じたものである。しかし,患者に対し正規の賃金支払い手段を持たな各州立病院は外部から仕事を請け負い,賃金を支払うことのできるシェルタード・ワークショップの設置を求め始めたといわれる。米国の現行法では,シェルタード・ワークショップは,公正労働基準法に定める最低賃金や労働時間(残業)に関する規制および各州労働法の適用対象とされている。しかし,こうした施設で就労することが困難な重度の障害のため,通常の最低賃金の50%以上の生産性をあげることができない障害者を対象に,公正労働基準法上認められている施設である(1974年公正労働法の改正により導入〉。

p. 36
ワーク・アクティビティ・センターは,州の職業リハビリテーション機関の賛意を条件に労働省が認可する。ワーク・アクティビティ・センターは,クライアントに対し生産性に応じて賃金を支払うことを要求されるが,一般のシェルタード・ワークショップと異なり最低賃金の50%以下とすることが認められている(一般のシェルタード・ワークショップでも特定の重度障害者について最低賃金の50%以下とする除外認可をうけることは可能であるが手続きが面倒であるといわれる)。ワーク・アクティビティ・センターではパートタイム労働のほか,リクレーションや社会的心理的サービスなどをリンクさせ,作業療法,創作活動,技能訓練などの包括的リハビリテーションを提供できる。こうしたことから,このタイプのセンターは,とくに精神障害者に対するサービス提供機関として価値が認められるようになってきた。特に重度化し,高齢化する患者が増大している精神病院では価値が大きい。このため従来精神病院が行なっていた一般のシェルタード・ワークショップもこれに切り替えるところがでてきている。近年の調査では,労働省の認可を受けているワークショップの50%近く,またワークショップで働く障害労働者の70%以上が,このプログラムの対象になっているといわれる4)。

pp. 36-37
移行的雇用プログラム(Transitional Employment Program, TEP)は,英国のリハビリテーション機関であるthe British Industrial Therapy Organisation(ITOs)がシェルタード・ワークショップ・プログラムの延長として1960年代はじめに実施したのがはじまりであるといわれるが,米国では精神障害者の自立的なリハビリテーション機関として有名なFountain Houseが1964年にそれに倣って導入したものである。Fountain Houseは,精神障害者を「メンバーとする「精神社会クラブ(psychosocial club)」を中心に精神障害者の社会復帰に関する多様な活動を行っているが,TEPはそうした活動の一つとして実施されている2)。TEPは,企業との協定により,クラブハウスのメンバーの訓練のために初級レベルの仕事に就労させることにある。最初は,ニューヨークのあるチェーンストアに臨時労働者として賃金で就労し,カウンセリングその他仕事が達成できるようにするためのサービスをFountain Houseのスタッフが提供する形で始まった。その後この方式によるプログラムは次第に増加し,1970年代の終わりには44の企業が200人以上のメンバーにTEPによる職場を提供しているといわれる。(なお,現在このプログラムはその後制度化された「企業との連携プロジェクト」(PWI)に基づく連邦及び州政府の助成対象となっている。)

p. 37
フェアウェザー・ロッジ((Fairweather Lodges)は,TEPと並んでシェルタード・ワークショップに代わるものとして1950年代から60年代はじめにかけて発達してきた制度である。Dr.George W. Fairweatherは,カリフォルニア州のパロ・アルトロにある退役軍人病院の心理学者であったが,長期入院患者の社会復帰に当たっては,その足がかりとなり,既成の社会への中継ぎの役割を果たす自立的な労働や生活の場(サブシステム)が必要と考え,実験的に患者による小グループからなるフェアウェザー・グループを構成した。パロ・アルトロの実験に当たった研究者達は地域社会での概点には住居だけでなく,就労の場も必要と考えていた。この場合,従来のシェルタード・ワークショップはシステムの外に出てから必要になるサービスの提供には役に立たない。そこで,彼らは,患者のグループを「家族」として借り上げた建物に移し,そこでグループのメンバーが自ら経営し,労働する,建物の清掃や庭の手入れなどの仕事を請け負う小規模の事業を組織することにした。このプログラムは「ロッジ」と呼ばれている。このロッジ方式は,その後普及し,今日では16州にフェアウェザー・ロッジがあり,1985年現在でテキサス州だけで47のロッジがあるといわれる4)。また,当初は事業の経営には病院のスタッフが当たらなければならなかったが,その後自立性を増し,今日ではグループの一員から経営担当者を出す例が多くなっているといわれる。

p. 37
企業との連携プログラム(Projects with Industry, PWI)は,リハビリテーション法の規定(第621条)に基づき,障害者に対し地域のリハビリテーションサービス機関と連携して訓練を行う企業に対し,連邦政府の補助を行うことにより,一般雇用の道を開こうとするものである。この制度は当初リハビリテーション法の1968年改正法に定められたときは身体障害者に対する小規模なデモンストレーション・プログラムとして設けられたものであるが,その後の法改正で次第に拡充され,精神薄弱者や精神障害者も対象とされるようになった。PWIも,従来のシェルタード・ワークショップの欠点を補うために発達してきた制度であるといわれる2)。PWIを利用している精神保健機関も少なくなく,その一例が前述のFountain Houseである。

p. 38
1986年改正リハビリテーション法の施行規則によれば,同法でいう「援助付き雇用」には,慢性精神病者に対する移行的雇用(transitionalmployment for individual with chronicmental illness)」を含むこととしている。この結果,立法上,援助付き雇用の対策の中からTEPへの資金供給の道が開かれたものの両者の区別は曖昧になったとAnthonyは指摘している。このように二つの制度にはよく似た点があるが,基本的な相違は,その定義に従うかぎり,TEPが期限付きであるのに対し,援助付き雇用は援助を受けながら就労する期間には制限がないことである5)。


*作成:松枝 亜希子・更新:伊東香純
UP: 20071221 REV: 20110709, 20210204
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