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『医療経済学――臨床医の視角から』

二木 立 19850801 医学書院,283p. ISBN-10:4260135635 3465


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二木 立 19850801 『医療経済学――臨床医の視角から』,医学書院,283p. ISBN-10:4260135635 ISBN-13: 978-4260135634 3465 [amazon] [kinokuniya] ※ b a06 d me

【内容】
わが国には,真の意味での医療経済学はまだないと言われている。しかし,あらゆる医療行為・実践に,今日ほど"経済的視座"を必要とされる時代はなく,また,医療経済の動向の変化は近年とみに顕著である。「医療経済学を構築し得る唯一の人」という内外の評価を得ている著者が医師・医療従事者に必要な医療経済学の基本的考え方・方法を示し,医療技術論と医療経済学の手法を用い,日本医療の諸側面を分析する。

【目次】
1 医療と経済学
2 「国民医療費」の構造分析と国際比較
3 費用便益分析とその展開
4 医療技術進歩と医療費増加
5 医師所得の構造分析と将来予測
6 病院倒産と病院経営

■引用
「V 透析医療の国際比較
 透析医療(血液透析)は「第2次医療技術革新]の中で延命効果が確認された数少ない治療技術である。この血液透析は1960年代に治療技術として確立された後,1970〜80年代にかけて各国で急速に普及し,現在では全貼界で約20万人がその恩恵に浴している。
 しかし他面,血液透析はその費用が高額(年間1人600万円)であるため医療費高騰の一因とみなされ,近年では各国で種々の医療費抑制策がとられている。
 わが国では透析医療の社会経済的研究が少なくないが,国際比較研究はほとんど行われていない。一般にわが国における医療の国際比較研究は医療保障制度や「国民医療費」など"マクロ"面に限られ,"ミクロ"な個々の医療行為・医療技術の比較研究はほとんどみられない。
 しかし今後"医療の質を低下させない医療費節減"をはかっていくためには、この種の国際比較研究が不可欠である。事実欧米諸国では透析医療を含めた高度・高額医療技術の国際比較研究が盛んであり,いくつかの国際シンポジウムも開催されている(補論参照)8)30)31)。
 ここではこれらの動向を紹介しつつ,わが国の透析医療の国際的位置・<129<特殊性を検討したい。(以下略)」(二木 1985:129-130)

 「わが国では1970年代前半には透析医療の保険点数は他の医療分野に比べてかなり高く設定されたため,民間の透析施設が急増した。その結果1983年には私立透析施設(診療所・病院)は全透析施設の64.0%を占め,全透析患者の74.7%を占めるに到っている。
 しかしその後透析施設の普及が一巡した1970年代後半以後は,1978年2月,1981年6月の2回の医療費改定で透析医療費のそれぞれ20〜30%の大幅切り下げが行われ,透析医療費の"超過利潤"もほとんど消滅した。
 その結果透析患者1人当たりの年間医療費も外来ベースで1,000万円→800万円→600万円にまで低下し,透析医療費の「国民医療費」に対する比率は患者増にもかかわらず減少傾向にある。ちなみに外来医療費ベースで透析患者の総医療費を計算すると1982年度で2,879億円(1人年600万円×47,978人)となり,同年度の「国民医療費」13兆8,659億円の2.1%である(透析患者の薬や検査等を除いた「人工腎臓」のみの費用は1,750億円で,国民医療費対比1.445%)と推計されている)。

 以上,透析療法を中心に慢性腎不全治療の国際比較を行ってきた。それにより,わが国の透析患者数は欧米諸国に比べて著しく多いことが明らかにされたが,その原因には"謎"が多く残されている。
 今回触れられなかったものに日本の患者運動の役割がある。筆者は腎臓病患者組織(国腎臓病患者連絡協議会,1971年結成)が医療関係者・マスコミなどの支援を受けて1970年代に強力な運動を展開し,それによって透析医療に対する患者負担を事実上撤廃させたことを高く評価している。これによって潜在患者の"堀り起こじが促進されたことは疑いない。しかし,今回は資料不足のため,患者運動の国際比較はできなかった。」(二木 1985:145)

「1.慢性腎不全治療患者数の国際比較
 図18は日本と欧米諸国の慢性質不全治療患者数の推移をみたものである。日本では慢性質不全の治療のほとんどは透析(しかもそのほとんどが血液透析)によって行われているのに対して,欧米諸国では腎移植が盛んであり,図19でも欧米諸国の数値には透析と質移植の両方を含んでいる。
 しかし日本は透析患者のみでも欧米の腎不全治療患者数を大幅に上回っている。
 わが国では1972年10月の透析医療の更生医療・育成医療適用と1973年10月の高額医療費支給制度の発足以後透析患者数が飛躍的に増加し,1975年以後は一貫して世界一の水準である。 1983年末の透析患者数は実数で5万3,017人,人口100万対で443.7人に達している。
 表32は慢性質不全患者の治療方法の国際比較(1982年)をしたものである。
 この表から,日本と欧米諸国との間には慢性質不全治療に関して構造的違いが存在することがわかる。
 まず透析患者数(人口100万対,以下同じ)は日本で404.2人と著しく多く,これはアメリカ(Medicare給付分)の257.0人の1.57倍,全ヨーロッパ平均の124.5人の実に3.25倍である。ただしアメリカでは全透析患者のうち7%はMedicare(老人・障害者健康保険)の給付を受けていないと推計されており33),この点を考慮すると日米間の格差は多少縮小する。
 他面,わが国では家庭透析は0.2%にすぎない。それに対して欧米諸国ではイギリスの45.5%は例外としても,各国とも1割強の患者が家庭透析を受けている。また近年新しい透析技術として欧米で急速に普及しつつあるCAPD(腹膜利用連続透析法)もわが国では保険適用の遅れなどのため1.7%にとどまっている。なおこのCAPDはわが国でも1984年3月より保険適用となったが,点数設定,実施医療機関の基準の問親等で普及に大き<130<な隘路がつくられ,同年6月現在で保険請求可能な医療機関は全国でわずか20にすぎない32)注1)。
 しかしわが国と欧米諸国との覧不全治療方法の根本的相違は,わが国における腎移植の著しい少なさである。
 表32に示したように1982年の日本の年間腎移植患者数は人□100万対3.3人にすぎず,これはアメリカの21.3人の15.5%,全ヨーロッパ平均の9.7人と比べても34.0%である。
 腎移植には死体腎移植と生体腎移植があり,欧米諸国では死体腎移植が主流である(アメリカ70.2%,全ヨーロッパ平均89.5%)。わが国でも近年腎移植が増加してきてはいるか,それでも1982年で37.5%にとどまっている。」(二木 1985:131-132)

「注1)最近の1985年3月医療費改定では,診療報酬全体では平均3.3%の引上げが行われたにもかかわらず,血液透析(人工腎臓)は逆に1回21,000〜13,000円(透析時間により異なる)から1回18,000〜13,000円へと実質的1割の引き下げが行われた。それと同時にダイアライザーの価格引下げもなされた。
 CAPD(自己腹膜灌流)指導管理科も月4回を限度として1回7,000円から月2回を限度として1回15,000円へとわずかの引き上げにとどまった。ところがこのCAPDについては,その直後に@月10回を限度として電話再診料の算定を認める,ACAPD指導管理料も月4回までの算定を認める,という異例の処置がとられた。これによりCAPD指導管理料は,月3万円から6万円へと2倍の引上げとなった。更にCAPDの施設基準を緩和する動きも伝えられ,今後日本でもCAPDはかなりの普及をみせることと予測される。
 ただし,今回のCAPDの異例の引上げの裏には「アメリカとの貿易摩擦が作用していたといわれる。すなわち『CAPDが日本で普及しないのは,点数が低いからである。これは非関税障壁だ』というアメリカ・トラベノール社(CAPDの独占企業)の要求で,摩擦解消という高度な政治判断も加わって今回の引上げになったといえる」(社会保険旬報1500号,1985)。
 このことは目本の医療市場がアメリカ「医療産業複合体」の格好の標的になりつつあることを示している。」(二木 1985:133)

 「わが国では,老人ホームの絶対的不足が病院で代替されるという「福祉の医療化」政策が伝統的である3)。 1970年代はわが国が高齢化社会に突入した時代であり,当然それに見合った老人福祉施設の急増が計画的に行われるべきであった。しかし1970〜82年の老人福祉施設定員数の増加は,同時間の病床数増加のわずか28.8%にとどまった。その結果,急増した老人のケアが病院で代行されるという「福祉の医療化」政策が1970年代に加速されたといえよう。

4.私的中小病院の「中間施設」への転換は可能か
 しかし,そのような「福祉の医療化」政策は,国民医療費の急騰を加速することにより破綻し,老人保健法(1983年2月実施)が登場することになった。
 この老人保健法では,患者の自己負担の復活による受診抑制がはかられると共に,「老人特掲診療料」により老人病院規定の新設一病院の選別が行われたことは記憶に新しい。その結果,1983年度は特例許可外老人病院が95,特例許可老人病院が540認定され,前者では20〜30%,後者でも2〜5%の減収がもたらされることになった。
 このように厚生省は診療報酬制度の操作をテコとして,これら老人病院の「中間施設」への転換,あるいは廃業を誘導しようとしている。例えば厚生行政のオピニオン・リーダー・佐分俊輝彦氏(病院管理研究所長)は老人保健法成立直後に,日本の病床は今の半分でよく既存の病床の半分は<201<ナーシングホームに転用すべきことを主張されていた。また吉村仁現厚生省事務次官も保険局長時代に,「個人的な見解」として,現在ある160万床の病床のうち40万床ぐらいは「病院と家庭との間の中間的な施設」として再編すべきではないかと述べ,更に特例許可外病院に対しては「つぶれるか,許可病院のほうへ来るかどっちかにせよ」と明言していた4)。
 しかし筆者には,それが成功するとは思えない。
 まず事実問題として,老人保健法実施後に倒産した老人病院は一つのみ(1983年6月,広島・清風会)であり,しかもこれは過大投資と看護料の不正受給による理事長逮捕のためで,老人保健法とは関係がない。逆に大部分の老人病院は,患者に対する差額徴収の強化というサバイバル戦略をとり,それで成功している。この点についての公式数字はないが,巷間,東京周辺で5〜10万円が相場といわれている。
 筆者自身は医療近代化のために病院の機能別編成を行うことに賛成であり,一部の病院を「中間施設」に転換すること自体にも反対ではない。しかしその前提として,病院機能(特に人材面)の大幅向上が不可欠であると考えている。
 よく知られているように,わが国の病院の器械・設備の保有率は欧米諸国のそれを大幅に上回っている。例えば高額医療機器の代表ともいえるCTスキャナーの設置台数は1982年で人口100万対18.5台であり、アメリカの10.7台の1.7倍に達している(第4章第2節→114頁参照)。
 その反面,人材面の水準は欧米諸国のそれを大幅に下回っている。厚生省「医療施設調査」によると100床当たりの職員数は一般病院でも84.6人,全病院では76.5人(1982年)にすぎない。それに対してアメリカのコミュニティ病院注1)の患者100人当たり常勤職員数は376人(1982年,Hospital Statistics 1983年版)に達し,西欧の一般病院でも100人は大幅に上回っている。わが国の最高の看護体制である特U類ですら,欧米諸国のナーシングホームの水準にすぎないのである。
 費用面から比較しても,アメリカの病院の1日当たりの入院費は市立病<202<院ですら5万円,一流の民間病院では優に10万円を超え、しかもこれらの中には医師の診療費が含まれていないのである。病院とナーシングホームとの費用の格差は約5倍であり,これがアメリカにおいて病院抑制・ナーシングホーム育成を行う原動力となっている注2)。
 これに対してわが国の病院の入院1目当たり医療費は,比較的大病院が多い甲表病院でも16,456円,同大学病院でも23,005円にとどまっている(「医療機関別診療状況調」1983年6月診療分,社会保険本人)。更に多くの老人病院や精神病院の1月当たり医療費は,特別養護老人ホームの平均的費用20万円を下回っているとさえいわれている。
 このような日本の病院の人材・費用面での著しい低水準を抜本的に改善しない限り,病院の機能別再編成は不可能ではなかろうか。」(二木 1985:201-203)

*作成:北村健太郎 *情報提供:天田城介
UP:20080124 REV:
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