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『21世紀のサラリーマン社会』

経済企画庁総合計画局 編 19850822 東洋経済新報社,p.197+17(付属資料)

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last update: 2010315

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■経済企画庁総合計画局 編 19850822 『21世紀のサラリーマン社会』,東洋経済新報社,p.197+17(付属資料) ISBN-10: 4492260285 ISBN-13: 978-4492260289 欠品 [amazon]

■目次

まえがき

第一章 賃金の二重構造の実態
第一節 新たな二重構造の意味するもの
  一 低賃金労働の意味
  二 賃金格差の要因分析
第二節 平均でみた賃金格差拡大のメカニズム
第三節 低賃金労働層の現状とその展望
  一 パートタイム労働層の現状とその展望
  二 高齢低賃金労働層の現状とその展望
第四節 二〇〇〇年の就業構造
  一 構造変化の要因
  二 職業構造の現状
  三 部門別就業構造への組み替え
  四 部門別雇用構造の現状
  五 部門別雇用構造の将来予測

第二章 日本的雇用慣行の変容
 第一節 年功賃金の展望
   一 年功賃金の意味
   二 年功賃金によるコスト負担
 第二節 終身雇用と年功序列処遇の展望
   一 高齢化と定着率の向上
   二 大卒で深刻化するポスト不足
 第三節 企業別組合の展望
   一 企業別組合成立の背景
   二 雇用構造の変化の下での労働組合の二極分化

第三章 産業構造・就業構造の変化と労働・教育のあり方
 第一節 新たな技術革新の波とその影響
   一 経済成長の再評価
   二 ME化の進展
   三 「規模の経済」の変化
   四 労働市場の流動化
   五 労働力の質の変化
 第二節 団塊二世の労働市場への参入
   一 団塊の世代と団塊二世
   二 団塊二世の就職
   三 老若激増の時代
 第三節 年功序列の崩壊と労働市場
   一 二つの価値選択
   二 四つのシナリオ
   三 日本的雇用慣行の修正
   四 自己投資の場としての休日の確立
   五 労働時間短縮の時期
   六 部門専門職制の確立
 第四節 「会社人間」からの脱皮と教育
   一 求められる企業内教育の再編成
   二 労働市場の流動化と教育訓練
   三 労働市場の変化と学校教育

 むすび
 付属図表
 参考文献一覧
 付属資料

■「二〇〇〇年の就業研究会」メンバー

主査 津田眞澂(一橋大学教授)
副主査 大野昭男(社会評論家)
副主査 桑原靖夫(獨協大学教授)
委員 有光逸郎(日本興業銀行産業調査部次長)
委員 猪木武徳(大阪大学助教授)
委員 篠塚英子(日本経済研究センター研究員)
委員 高山憲之(一橋大学助教授)
委員 本岡達(東京大学教授)
委員 矢野真和(広島大学大学教育研究センター助教授)
専門委員 開沢栄相(日興リサーチセンター)

(事務局)
社団法人 社会開発研究所
理事 橋本家利
研究員 平尾勇
研究員 石塚弘克

■引用

「まず、低賃金労働層をどのように評価するかということである。現在の低賃金層は生きていくため、食べていくためにやむをえず労働力の窮迫販売を行った昭和三〇年代前半の低賃金層とは根本的に異なっている。
 現在の低賃金層の主力をなす女子パートタイマー、高齢者、定職につかない若年層の三つのグループは、それぞれ夫の所得、年金、親の所得という核になる所得を持っており、大部分は働かなくとも生活に困らないが、働く時間があり、少しでも生活が豊かになればということから就業していると考えられる。
 (…)
 従って、現在の低賃金層はかつての低賃金層とは質的に異なった「低価格労働供給層」として理解しなければならない。」(p.2-3)

「以上「新たな二重構造論」の事実認識の混乱を二つの観点からみてきたが、これら二点を考慮すると、近年の賃金格差の拡大は規模間の不平等の拡大ととらえるべきではない。また現存している規模間格差自体も、もはやその大きさは問題にする必要がないほど縮小していると認識すべきであろう(…)」(p.16)

「結論から先に言うなら、近年の賃金格差の拡大はわが国の労働市場が終身雇用と年縞賃金に守られた内部労働市場とパートタイマー、アルバイト等の外部労働市場とに二極分化する過程であらわれた現象であると言えよう。
 高度成長期の賃金格差の縮小は熟練労働力の慢性的な不足を背景に起こった。すなわち、経済の急速な拡大は労働力需給を逼迫させ、中小企業はそれまでのように低賃金労働を多用するというやり方の変更を余儀なくされた。中小企業は初任給を上げるとともに、年縞賃金、年功序列、企業内訓練という、それまで主として大企業の専売特許であった雇用慣行をとり入れることによって従業員の定着性を高め、熟練労働力の確保を図ったのである。つまり、高度成長期の賃金格差の縮小は、中小企業に内部労働市場が確立する過程で起こったものであり、それはまさに「大企業・中小企業間」の格差の縮小であった。
 しかし五〇年代に入っての賃金格差の拡大は「大企業・中小企業間」のものではない。社会情勢の変化によって増大してきたパートタイマー・アルバイト等の低価格労働力の導入を大企業が躊躇しているうちに、機動力のある中小企業がどんどん進めた。その結果がたまたま中小企業の賃金に反映して、規模間賃金格差が拡大したのであり、決して大企業・中小企業の労働市場が再び分断されてきたわけではないのである。その意味で、労働市場における「新たな二重構造」とは、企業規模間の問題というより、労働市場の内部、外部への二極分化の問題として再定義されるのである。」(p.17-18)

「第二に、急速に拡大していく低賃金労働層が内部労働市場の賃金を巻き込んでこれを引き下げてしまう、あるいは今まで内部労働市場でまかなわれていた仕事が外部労働市場の労働者によって代替されてしまう危険性があることである。これは世帯主の賃金伸び悩みが主婦や高齢者を就業に誘引し、これが内部労働市場の賃上げ抑制の効果をもたらすという悪循環を意味する。
 このような懸念は、現在めざましく普及しつつあるFA・OA等のME(マイクロエレクトロニクス)化を通じての業務内容の再点検およびサービス経済化の進展にも起因して強まっている。ME化の基本的な性格として仕事を標準化することがあげられる。これは、設計・保守部門は従来以上に知識と熟練を必要とするが、機械のオペレーションは熟練度の低い労働者層で対応することが十分可能となる道を開き、その意味で、外部労働市場への代替を容易なものとする特質を持っている。現在製造業の技能工はおよそ一〇〇〇万人、就業者の二割程度であるが、日本的雇用慣行はブルーカラーを含めて終身雇用制をとったことに特徴があった。もし、ブルーカラーの内部労働市場が浸蝕されれば、内部労働市場全体にとって大きな脅威となることは間違いない。」(p.21-22)

「(…)すなわち現在のペースで非正規雇用者が膨らむ限り、内部労働市場はその内部で大きな部門間移動を伴いながらも確実に狭まるのである。さらに外部労働市場とのバランスにおいても、現在六人に一人にしか過ぎない外部労働市場が西暦二〇〇〇年には三人に一人になるのである。」(p.52)

「年功給と職能給は、ほぼ同じ分布を示しているが、職務給は明らかに分布の山がずれている。しかも職務給はゼロでよいと回答した企業の数がかなり多い。すなわち、企業は職務給という明白に賃金の差がつく給与体系をとろうとしているのではなく、ポストに就けない中高年層にもある程度の所得を保障することができ、なおかつ年功給のように五〇歳を過ぎてもなお賃金が上がってしまうことのない職能給の導入を志向しているのである。先にみた高卒、大卒の標準労働者の賃金カーブと望ましい賃金のピーク年齢を併せて考えると、既に高卒の標準労働者の賃金ピークは五〇歳となっているため、今後給与体系の変更によって狙い打ちにされるのは五〇歳を過ぎても定年まで上昇してしまう大卒標準労働者の賃金であり、そのための手段が職能給であると言うことができよう。このことは問3のアンケート結果によっても確かめられる。
 今後企業が人件費抑制のため賃金面で行おうとしているのは、基本給の中の職務、職能給比率を高め(五七・五%)、定年前から退職者の給与を抑制すること(三九・四%)であり、決して考課を強化して昇給を抑えたり(一〇・八%)、ベースアップそのものを抑える(九・八%)ことではないのである。」(p.63-64)

「団塊の世代が課長以上のポストにつける割合の最頻値は、高卒男子で一〇%未満、大卒男子で四〇〜六〇%となっている。大卒男子については企業の見方のほうが若干楽観的ではあるが、それでも八〇%以上が管理職ポストに就けると回答した企業の割合はわずか九・八%であり、企業としても「大学を出ていればポストに就ける」時代が終わったことをはっきりと認識しているのである。
 戦後、日本のサラリーマンには会社のすべてを賭け、やがてそれなりの高いポストにつくことを人生の最大の目的とするものが多かった。しかも団塊の世代以上ではそれが現在でも主流派である。ところが、まさにその団塊の世代からこのポスト信仰は崩れ去るのである。大学を出て、やがて課長、部長と昇進していくという図式はもう成り立たない。それは、中小企業に就職しても変わらない。多くの人にとって人生を生きることの価値をポスト以外に求めなければならない時代が来るのである。」(p.84-85)

「(…)組合員の平均年齢が高い労働組合ほど「賃金・一時金獲得」への要求が強く、逆に平均年齢が低い組合ほど「労働時間・休日問題」への関心が強いのである。余暇志向の高まりでこうした対立はますます激化すると考えられ、高齢層の要求する生産性向上の一〇〇%賃金配分を続けていけば若者の組合離れが進む恐れがあると考えられる。」(p.95)

「それでは、内部労働市場に参入できない団塊二世たちはどうなるのであろうか。簡単には予測できないが、女子を中心に非自発的な非労働力化が考えられるし、失業者として滞留する者も増えるかもしれない。また、大学・短大・専修学校等の受け入れ枠が拡大すれば、石油ショックの時のように一時的に進学率が上昇することもありえよう。しかし、この方法は基本的に解決策とはならない。大量新卒者の時代が一〇年以上にわたって続くからである。結局のところ、内部労働市場に参入できない団塊二世たちのかなりの部分がアルバイト等外部労働市場での労働を余儀なくされるのではなかろうか。昭和六〇年代半ばには、団塊の世代は四〇代、働き盛りである。一方、団塊の世代の妻たちは子育てを終えパートタイマー等の形で労働市場に参入してくる。
 この時期には団塊の世代の夫、妻、子の二世代が同時に不安定な労働市場に身をさらすことになるのである。むろん、現在のアルバイトの賃金でも若者が生活していくためには差し当たり困難はないであろう。しかし、結婚し子供が生まれ、教育費がかさむようになり、また住宅ローンを抱えるようになればアルバイトで生活することは不可能である。アルバイトを転々としながら、三〇歳前後になって内部労働市場に参入しようとしてもその壁はあまりに厚い。」(p.111-112)

「(…)つまり「よいものは採用する」というのは、採用に値する専門的技術を持っていればということで、内部労働市場に参入できない団塊二世が、「未熟練者」であることを考えれば、やはり日本的雇用慣行の下では就職のチャンスは一回しかないと考える方が自然であろう。そして、この就職のチャンスが一回しかないということが団塊二世の就職問題を考える際に最も重要な点である。」(p.113-114)

「以上のことから、「新卒採用重視、中高年層の流動化によるピラミッド型雇用構造の維持」というのは、あくまでも企業の理想であり、現実問題としては新卒採用重視といってもそれほど採用を増やすわけにもいかず、中高年層の流動化といっても、そのかなりの部分を抱え込まざるをえないというのが実状であろう。従って、大企業では爆発的に増える中高年齢層のため、新卒採用が抑制されてしまう危険があるとみざるをえないのである。」(p.120-121)

「これらの予測される労働市場における重大な事態に対して、ここでは労働者の会社人間からの自立と、「趣味」の確保および部門専門職制の導入を柱とする大胆な提言を行った。
 すなわち、滞留する中高年層の流動化と新卒採用の充実によって、人事構成のピラミッド構造を維持し、企業活力を醸成させるため企業は労働時間の短縮を行い、労働者はその余裕時間を不断の自己啓発として自分自身に投資する。労働者の自己投資は、今後の情報革命の中で直接企業に役立つばかりでなく、一部の労働者の独立を促してピラミッド構造の維持にも貢献する。また、こうした労働者の自己投資のためには、労働時間の短縮は休日増という形で行わなければならず、それは、(1)完全週休二日制、(2)年次有給休暇の完全消化、(3)ゴールデンウィークの連続休暇の三つの実施による年間休日・休暇日数一四〇日程度を目標とするのが望ましい。
 なお、昭和六〇年代に発生する最大の問題である団塊二世たちの就職問題を解決するために、年間休日・休暇一四〇日の実施の時期は、団塊二世が労働市場に参入し始める一九九〇年までであることが望ましい。このため政府は強力なリーダーシップをもって、労働時間の短縮に取り組む必要がある。また、政府は学校教育および職業訓練全体のシステムがこうした労働市場の変化に対応できるよう緊急に方策をとる必要がある。」(p.178-179)


UP: 20071001 REV: 20190315
「若年者雇用問題」文献表 
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