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『死にゆく者の孤独』

Elias, Norbert 1985 Uber die Einsamkeit der Sterbenden, 1982 Altern und Sterben, 1985
=19900825 中居実訳,『死にゆく者の孤独』,法政大学出版局,叢書ウニベルシタス

last update:20100722
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Elias, Norbert[ノルベルト・エリアス] 1985 Uber die Einsamkeit der Sterbenden, 1982 Altern und Sterben, 1985
=19900825 中居実訳,『死にゆく者の孤独』,法政大学出版局,叢書ウニベルシタス,146p. ISBN: 4588003046 1854 [amazon] ※

■内容

〈老い〉と〈死〉の社会学死、避けられぬ事実を人間はいかにイメージ化し対処してきたか。〈文明化の過程〉の理論モデルに依拠し、現代社会で様々に抑圧・嫌悪・タブー視される老化と死を社会学的視野から省察、生きることの意味をも問う。

■目次

 死にゆく者の孤独
 老化と死―その社会学的諸問題の考察
■引用

「死を間近に控えた人が早々と孤独に陥ってしまう現象が、とくにそうと意図したわけではなもないのに、発達した社会の中でこそ頻繁に起きているという事実は、この社会のもつ弱点のひとつである。つまり、ここではっきりしていることは、自分を老人なり死を迎えている人なりの立場に置いてかれらの身になって考えること、すなわちかれらとの自己同一化が、われわれにはまだまだ非常に難しい、ということである。
 確かに、他者との自己同一化──他者と自己とを同じ人間として考える態度が、今日では昔より広がっていることは否めない。罪人の打ち首、八つ裂き、車裂きの刑を見物しに行くのが日曜日の娯楽であった時代ははるか昔のことになった。」(p.4)
 「[…]人類とは死(p.5)すべき者たちの共同体なのだということ、および、人間が困窮に直面したとき助けを求めるべきは人間をおいてほかにないのだということへの、これまで以上に明晰な認識を必要とするのであり、死の脱神話化を推し進める必要があるのである。生きている者が死んでゆく人々と自己同一化……

 「極めて刺激に富み資料も豊富に渉猟した著書『中世から現代に至る西洋の死の歴史』の中で、著者フィリップ・アリエスは、死に対する西洋の人間の振る舞い方の変遷、死を迎えるときのかれらの心的態度の変遷を生き生きと読者に伝えようと努めている。とはいえ、アリエスは、記述されて残っている記録をそのまま歴史そのものとして受け取ってしまっている。かれはイメージを次々に重ね、太い筆使いで形態変化を描く。それは見事で刺激に富んではいるが、別段何も解明はしていない。アリエスの資料の選択は、前もって措定された見解に基づいているのだ。つまりかれは、昔は人間は悠然と落ち着いて死んでいったものだ、との仮定の上に立って論を進めているのである。唯一現代においてのみ──とかれは強調している──死の迎え方が異なっているのだ、と。ロマン主義者の精神をもって、より良き過去の名において不信の眼差しをこめつつ、より悪しき現在を眺めるのである。[…]中世の人々がどれほど穏やか(p.20)に死を待ち受けていたか、ということの証人として、アリエスは『円卓物語』のイゾルデとテュルパン大司教をひき合いに出しているが、とうてい賛成しがたい。かれは、中世叙事詩が、騎士の生活を理想化したものであること、騎士生活が現にどうであったかよりも、作者並びに読者たちの意向に従い、騎士生活とはどうあるべきかについて述べていることのほうがしばしば多い、いわば良いことずくめの理想像が描かれている作品であることを指摘していない。」(pp.19-20)
 「高度に産業化された国民国家における生活に比較すれば、かつての中世封建国家における生活は──そのような国家が今日いまだに存在するとすれば、そこでは現在も──激情に支配されやすい、暴力的なものであったし、それゆえ不安定で短い、荒々しいものだった。死は、たまらないほど苦痛に満ちたものでありうる。以前は死の苦痛を和らげる手だてがほとんどなかった」(p.21)

 「ひっくるめて言えば、中世(p.24)の社会では、人の一生は今より短く、手に負えぬさまざまな危険はいっそう多く、死はもっと苦しいものであったし、罪の意識に根ざした死後の刑罰への恐怖は隠しようもないほどのものであったが、その反面、死にゆく人間に対する人々の関与の度合いは現在よりもずっと大きかった。今日では、臨終の苦痛は緩和できることが多いし、罪の意識からくる怖れはかなりの程度まで抑えられている。しかし、ひとりの人間の死にほかの人間が居合わせ、関わりを持つということはずっと乏しくなった。」(p.25)
 「これから死んでゆこうという人々が、かくも衛生的に健康な人々の目の前から姿を消し、社会生活の舞台裏へと追い払われるようなことは、人類史上未だかつてなかったことである。未だかつて、ヒトの死体がかくも無臭のままに、これほどの技術的完璧さをもって臨終の部屋から墓地へと運送された例(ためし)はない。」(p.36)

■言及

◆立岩 真也 2015 『…』 文献表


UP: 20100722 
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