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『管理される心――感情が商品になるとき』

Hochschild, Arlie Russell 1983 The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling,
University of California Press
=2000 石川准・室伏亜希訳,世界思想社


このHP経由で購入すると寄付されます

■Hochschild, Arlie Russell 1983 The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling, University of California Press=200004 石川准・室伏亜希訳,『管理される心――感情が商品になるとき』,世界思想社,323p. ISBN:4-7907-0803-9 3045 [amazon][kinokuniya][kinokuniya][bk1] ※ s e01

■内容説明[bk1]
乗客に微笑むスチュワーデス。債務者の恐怖を煽る集金人。彼らは肉体労働者である前に、感情労働者である。丹念なインタビューをもとに、感情を売り買いする時代の、商品化された「心」を探究する。

石川准さんより

 2000.04
 石川です。
 本の宣伝をさせていただきます。

A.R.ホックシールド著、石川准・室伏亜希訳『管理される心:感情が商品になるとき』
世界思想社(2900円)

を出版しました。まもなく書店に並ぶと思います。興味のある方はご一読いただ
ければ幸いです。
 なお視覚障害、上肢障害などの理由で電子テキスト版をご希望の方は石川まで
メールにてご連絡ください。電子メール(圧縮形式の添付ファイル)での提供(
無償)をいたします。ただし活字版(墨字版)をご購入された方に限ります。

 以下目次と訳者あとがきの一部です。長文です。

目  次
まえがき vii
謝  辞 x

第一部 私的生活 1

第1章 管理される心の探究 3
第2章 手がかりとしての感情 25
第3章 感情を管理する 39
第4章 感情規則 64
第5章 感情による敬意表明│贈り物の交換 87

第二部 公的生活 101

第6章 感情管理│私的な利用から商業的利用へ 103
第7章 両極の間で│職業と感情労働 158
第8章 ジェンダー、地位、感情 186
第9章 本来性の探究 212


付   録 227

 A 感情モデル│ダーウィンからゴフマンまで 228
 B 感情の命名法 253
 C 仕事と感情労働 264
 D 地位と個人に関するコントロールシステム 270

注 271

訳者あとがき 296

参考文献 319
索  引 323


訳者あとがき


 「本訳書はArlie Russell Hochschild, The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling, University of California Press, 1983 の全訳である。
 著者アーリー・ホックシールド(一九四〇年生まれ)はカリフォルニア大学で博士号を取得し、永年に渡り同大学バークレー校社会学部教授を務めている。現在は、一九九八年に新設された同大「勤労家族センター(Center for Working Families)」の副所長も兼務している。ホックシールドは「感情社会学」という新しい分野を切り開いた理論家であるとともに、女性の就労をとりまく種々の社会問題への実践的な取り組みを行ってきた実践家でもある。
 ホックシールドには、本書の他にも The Time Bind: When Work Becomes Home and Home Becomes Work や The Second Shift: Working Parents and the Revolution at Home(田中和子訳『セカンド・シフト 第二の勤務―アメリカ 共働き革命のいま』朝日新聞社、一九九〇年)等、好著が多数あるが、彼女の代表作はなんといっても本書であろう。
 本書は、「感情社会学(sociology of emotion)」の事実上の宣言書であり、その後の社会学における感情研究を大きく方向づけてきた作品である。ホックシールドは、一九世紀の工場労働者は「肉体」を酷使されたが、対人サービス労働に従事する今日の労働者は「心」を酷使されている、という印象的な対比から本書を書き始める。現代とは感情が商品化された時代であり、労働者、特にサービス・セクターや対人的職業の労働者は、客に何ほどか「心」を売らなければならず、したがって感情管理はより深いレベル、つまり感情自体の管理、深層演技に踏み込まざるをえない。それは人の自我を蝕み、傷つける。しかも、そうした「感情労働」を担わされるのは主として女性であるという。
 ホックシールドが特に関心を寄せるのは公的な場所、労働の現場における感情管理である。それは、職務が要求する適切な感情状態や感情表現を作り出すために規範的になされる感情管理、つまり「感情労働」である。感情労働は賃金と引き替えに売られ、交換価値を有する。現代社会は、感情の商品化、すなわち感情の売買を組織的に、広範に推し進める社会であるという意味では過去に類をみない社会である。だが、感情の商品化は資本主義社会の進展とともに徐々に高度化してきた歴史的過程である。にもかかわらず、感情労働という視点の本格的な理論化は、ホックシールドを待たなければならなかった。感情の活用とその隠蔽あるいは忘却の背景には、感情労働の起源が家庭にあり、女性の本来性とみなされ、女性を「感情の容器」と決めつける神話が近代以降に構築され、それが感情労働という認識を妨げる先入観として機能してきたという事情がある。
 社会が、感情労働を主に女性というジェンダーに担わせているのは、女性に「感情的な生き物」となるべく「感情教育」を執拗に与えてきた長い歴史があり、その結果男性より高い感情管理能力を有するようになった(と信じられた)からだが、もちろんそればかりでなく、感情労働は、「感情教育」の実習の現場であり、同時に女性には労働より感情がふさわしいとする社会の家父長的ジェンダー規範の正当性の証明という「感情政治」の実行の現場でもあると考えられる。人が日常的な文脈で行う感情管理は、自らが準拠する感情規則への自発的な同調である。たとえ人、いや女性や男性を、感じる主体へと規律化する権力が働いているとしても、ひとまずは自分のための感情管理である。だが、感情労働は職業的に要請されるタスクである。公的な場における他者との相互作用を、私的な交わりとして体験し表現するという労働である。
 ホックシールドに代表される感情研究の特徴を端的に述べるなら、それは、感情経験を構築する社会的実践の研究、すなわち「構築主義」感情社会学であるということができる。この立場からすると、感情とは社会的文化的に構築されるものであり、したがって制度の外側にある自然なもの、本来的なものなどではなく、制度そのものだということになる。逸脱的とされた感情は社会的・主体的統制を受けて同調的とみなされるものへと改められる。適切な感情が創出され不適切な感情は消去される。このような社会的主体的統制が「感情管理」である。

 なお、本書は、今日風にいえば感情の脱構築というラディカリティを含む作品であるにもかかわらず、語り口の平明さと、記述の深さを兼ね備えた作品であり、その意味でも貴重である。
 とはいえ、私たちにとって訳出作業はそう平坦な道のりではなかった。原書の記述を極力保存しつつ、日本語としての可読性を保証する、という責任を引き受けるのが学術書の翻訳作業であることを改めて痛感した。原書のなかに見つかった書誌情報等の誤りは訳者の判断で訂正した。また、著者の真意が必ずしも明確でないと感じたところは直接著者に問い合わせることも含め、私たちなりに可能な限り最大の努力を払ったつもりだが、それでも誤訳や曖昧さは残っているだろう。読者に伝わらない文章があればそれは私たちの実力不足が原因である。
 日本でも近年「感情社会学」を名乗る作品がいくつか発表されている。実はそれらは、ほぼ例外なく、ホックシールドの研究、とりわけこの The Managed Heart から多くを得ている。感情社会学が立ち上がりつつあるちょうどそのときに、本訳書を送り出すことができるのは、訳者にとっては幸運なことであった。感情社会学のバイブルともいうべき本書が、研究者のみならず、広い範囲の読者が感情社会学を知り、そこから何かを学ぶ手助けとなればと願っている。」

■紹介・言及

立岩 真也 2004/05/25 「障害学の本・再度」『看護教育』45-05(2004-05)(医療と社会ブックガイド・38)

橋口 昌治 200908 「格差・貧困に関する本の紹介」, 立岩 真也編『税を直す――付:税率変更歳入試算+格差貧困文献解説』,青土社


UP:2000 REV:20040821 20090709 20090811
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