HOME > BOOK >

『福祉優先社会の構想』


last update:20110406

このHP経由で購入すると寄付されます

■高杉 廸忠 19821025 『福祉優先社会の構想』,学陽書房,219p. ISBN-10: 431382006X ISBN-13: 978-4313820067 [amazon][kinokuniya] ※

■引用

■  「高齢化社会における老人福祉を問う
 私は五六年三月、十全会グループの病院を実際に視察した。寝たきりの老人が、一つの病院に一〇〇〇人以上も集まっている光景を見て、「果たしてこれが老人医療のあり方たろうか」「老人福祉とは一体何たろうか」という疑問を強くもった。
 しかし、逆に考えると、老人医療、老人福祉が現状のままで、わが国が高齢化社会に突入したときの姿を、十全会グループの病院は暗示しているともいえる。その意味では、高齢化社会を先取りした病院なのた。今後の高齢化社会における福祉を問題とする場合、十全会グループの実情は、避けて通ることができない課題としてわれわれの前に立ちはたかっている。
 ところが、この十全会グループは、医療の問題としてよりも、「株の買い占め」事件によって社会問題化された。高島屋や朝日麦酒の株の大量買い占めがマスコミで取り上げられ、関連会社を使ってとはいえ、医療法人が株の買い占め行為で社会をゆるがしたこと自体が、医療法法人の領域と良識の範囲な超えた利潤追求であるとして批判をあびた。
 私も国会の質問では、医療法人による株の買い占めの問題から追求したが、いざ医療の内容を調査してみると、医師や看護婦の数が規定の数に不足し、べッド数と入院患者の数がズレているという基本的なところから、問題点が次々と明らかにされてきた。<0165<
 ところで、十全会グループの利益追求の経営と医療行為の不適正さが問題になったのは、実は最近のことではない。すでに一〇年以上も前から、さまざまな問題がマスコミや裁判所や国会で出されていた。この一〇年問、十全会問題を放置してきた厚生省や京都府の責任は重大であるが、実は、長い問放置されざるをえなかったところにこそ、わが国の老人福祉をとりまく複雑で重要な問題点が存在していたのである。
 五五年一〇月一二日、私は参議院社会労働委員会で、高齢化社会に入りつつあるわが国の老人医療のあり方に問題を提起するために、そして、富士見産婦人科病院のような金もうけ本位の医療経営にメスを入れるために、十全会問題をとりあげた。
 第一に、薬を使えば使うほど収入が増える仕組みになっている現行医療保険制度、医師相互の監視機構がなく、密室化しやすい医療行為の現場、不公平税制の典型である医師優遇税制など制度上のさまざまな問題点、第二に、厚生省など監督官庁庁の事なかれ主義、第三に、すべてを病院や医師にまかせ切りにし、老人ホームや老人病院に一旦入れると、その後は老人との人間的なつながりを疎遠にしてしまう患者の家族や地域社会の態度のようなわれわれ自身も含めて反省し改めなければならない点など深刻な問題が存在しているのである。
 結局、現代日本の医療をとりまく多くの矛盾と問題が一つに集約されて出てきたのが、今回の十全会問題であったと言える。
 前述のように、十全会問題の本質には、医療法人のモラルと病院経営のあり方とともに、老人医療のあり方をめぐる問題が存在している。寝たきり老人や動くことの不自由な老人患者を十全会グルー<0166<プの三病院が集中的に引き受けていたこと、そして、十全会を仮に無くしてしまった場合、それに代わって老人を世話する福祉施設が現状では極めて少ないということが、厚生省や京都府が沈黙を守らざるを得なかった最大の理由であった。それは逆に、老人をとりまく家族関係や地域社会のあり方、そしてそれらを総合した「福祉」のあり方が問われていることを意昧する。
 高齢化社会に入りつつある今日、十全会グループのみでなく、老人病院の新設は全国的に増えている。厚生省や各自治体が、老人医療、とりわけ寝たきり老人や体の不自由な老人患者を入院させる病院のあり方、老人福祉のあり方を明確に示さぬ限り、今後とも第二、第三の十全会グループが現われる可能性があることを強調したい。」(高杉[1982:165-167])


UP: 20140709 REV:
精神障害/精神医療  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)