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『アメリカ民族文化の研究――エスニシティとアイデンティティ』

綾部 恒雄 編 19820920 弘文堂,316p.


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■綾部 恒雄 編 19820920 『アメリカ民族文化の研究――エスニシティとアイデンティティ』,弘文堂,316p. ISBN-10:4335560400 ISBN-13:978-4335560408 4410 [amazon]  b 0e/e01


■内容(弘文堂HPより)
巨大な文明を誇るアメリカは反面人種のルツボに悩む国でもある。日本とアメリカの人類学者がチームを組み、サンノゼの日系人をはじめ、韓国系、スペイン系、ユダヤ系、フランス系、インディアン系の6民族を選び、その歴史、文化的背景、考え方、さらにアイデンティティなどについて実態調査したものをわかりやすく書き直した。
 世界は今や「国家の時代」から「エスニシティの時代」へと大きく流れを変えている。巨大な単一民族集団である日本が、世界の中でどう位置づけられ、またどう生きていくかを考えるためにユニークな視点を提供する書。


■著・訳者紹介

綾部 恒雄 (あやべ つねお) 1930年生 筑波大学教授,文化人類学・都市人類学
J. M. ハルパーン   マサチューセッツ大学教授,文化人類学
B. K. ハルパーン   マサチューセッツ大学助教授,文化人類学
R. サーディナス   ノースイースタン大学院生,文化人類学
田中 真砂子 (たなか まさこ) 1933年生 名城大学短期大学部助教授,文化人類学
青柳 清孝 (あおやぎ きよたか) 1930年生 国際基督教大学教授,社会人類学
黒田 悦子 (くろだ えつこ) 1938年生 国立民族学博物館助教授,文化人類学
江渕 一公 (えぶち かずひろ) 1933年生 福岡教育大学教授,文化人類学・教育人類学
丸山 孝一 (まるやま こういち) 1937年生 九州大学助教授,文化人類学
太田 和子 (おおた かずこ) 1948年生 光陵女子短期大学専任講師,アメリカ社会史・アメリカ文化


■目次

まえがき
第一章 エスニシティの世界的背景・・・綾部恒雄
   一 エスニシティの再発見
   二 エスニシティと宗教
   三 エスニシティと国家
   四 第二次大戦後のエスニシティと国家
   五 エスニシティとアイデンティティ
第二章 アメリカ社会におけるエスニシティの意味・・・J.M.ハルパーン,B.K.ハルパーン,R.サーディナス (田中 真砂子 訳)
   一 はじめに
   二 事例一、ドクター・マイヤー・クリーガー
   三 事例二、お針子のレア
   四 おわりに
第三章 部族のアイデンティティ――インディアン・・・青柳清孝
   はじめに
   一 インディアン・テリトリー
   二 アナダーコーとその近辺
   三 二つの行事
   四 部族のアイデンティティ
   おわりに
第四章 危機に立つ民族性と民族文化・・・黒田悦子
   問題の設定と考察の方法
   一 タオスの町
   二 イスパーノと他二民族との関係
   三 スペイン語系アメリカ人の分類とアイデンティティの文化的表現
   四 水利、環境問題をめぐるイスパーノの抵抗運動と市民運動の融合
   五 伝統的民族文化の復興と発展への努力
   六 展望
第五章 日系アメリカ人の民族的アイデンティティに関する一考察・・・江渕一公
   一 研究課題と方法
   二 日系人の民族的アイデンティティの世代的変化
   三 日系人コミュニティの構造
   四 三世と日本町
   五 三世のアメリカ化と民族的アイデンティティ
   六 民族的アイデンティティの社会的文化的基盤
   七 ルーツの探求と民族文化の創造
   八 イデオロギーとしての民族性
第六章 日系及び韓国系移民社会における文化の持続性と変容過程・・・丸山孝一
   一 はじめに
   二 シカゴの民族構成史
   三 シカゴ日系人社会の成立と展開
   四 韓国系社会の成立と課題
   五 結びにかえて
第七章 フランス系アメリカ人のエスニック・アイデンティティ・・・太田和子
   一 はじめに
   二 フランス系移民の史的背景
   三 調査地概要
   四 フランス系移民の定着とその社会文化的特性
   五 同化とアイデンティティの危機
   六 70年代の新しい動き
   七 結びにかえて
第八章 エスニシティ・文化的多元主義・アイデンティティ・・・綾部恒雄
   一 開化・同化・融和
   二 文化的多元主義
   三 エスニシティと階級・利益集団
   四 アイデンティティの模索とイデオロギー
索引


■引用

 「エスニシティというのは新しい言葉である。Oxford English Dictionary では、1972年の補足版に始めてこの言葉が収録されている。民族問題について精力的に論稿を発表しつづけているネーサン・グレーザー(Nathan Glazer)によると、エスニシティとは「ひとつの共通な文化を意識的にわかち合い、何よりもまずその出自によって定義される社会集団」である。“人種”は形式的なちがいによって集団を分ける言葉であるが、“エスニック”な集団は、文化的な要素の他に、出自を共通にするという意味で、推測上人種的にも共通性をもつことが期待されている。アンドリュー・グリーリー(Andrew M. Greeley)によるエスニシティの概念規定はグレーザーのそれより広いが、結局、文化的伝統の共有をもっとも重視していることに変りはない。アメリカでは民族集団を考える場合黒人をも含めて論じることが多い。アメリカの黒人は単なる人種集団ではなく、すでにひとつの民族的文化を身につけた集団であるという考えに立っているのである。
 したがって、“エスニック・グループ”という語は、既成の民族集団に限定されて用いられているのではなく、一定の社会=文化的条件のなかで、常に再生産されるものとして位置づけられている。」(第一章、p.13)

 「現代を「国家の時代」とみなし、国家という制度がいまほど栄えている時代はないという考え方もある。たしかにそれも現代についてのひとつの見方である。しかし、1960年代以降の世界は、既存の国家が民族によって挑戦されている時代と考えることもできる。ナショナリズムはインター・ナショナリズムを越えるほどの勢をもっている。」(第一章、p.15)

 「複合民族国家における問題のひとつは、後にアイデンティティとの関連で論じるように、国家と民族の双方が、その構成員に対して忠誠を要求することである。」(第一章、p.16)


 「ところで、「アイデンティティ」という言葉を最初に用いたのは、かの有名な精神分析学者のフロイトである。彼のばあいも、当時のウィーンにおける社会的状況のなかで、ユダヤ人としての自己を確認する必要に迫られた結果であった。フロイトはあるユダヤ人の集会のために出す招待状のなかで、アイデンティティ(innere Identitat)という言葉を「ユダヤ民族の歴史のなかでつちかわれた独自の価値観――あらゆる宗教的、国家的偏見からの自由さと知性の尊重――とその民族内の各個人の(この価値を共有し合っているという)内的な連帯感」という意味に用いている。フロイトをしてかく語らしめた背景には、ライン河畔から東欧に逃れ、更にポーランドを通ってオーストリアに住みつくまでに経験した、ユダヤ人としてのフロイト家の迫害された歴史があった。西暦70年、ローマ軍の包囲によってエルサレムが陥落したあと、祖国を失ったユダヤ民族は、世界各地へ離散するが、このことは、ユダヤ人の歴史が絶えず異民族との接触を通して自己確認を迫られてきたことを物語っている。フロイトは終生「自分はドイツ人でもオーストリア人でもない、ユダヤ人だ」と語っていたといわれるが、今日盛んなアイデンティティ問題は、正にエスニックなものとの関連において誕生したといえるのである。フロイトの愛弟子エリクソンが、このアイデンティティの概念を>303>精神分析学のなかで体系づけ、自我心理学の基礎概念として用いたのも、彼のユダヤ人性と切り離すことはできないだろう。
 このようにみてくるとき、他民族国家としてのアメリカで、エスニックアイデンティティの研究が盛んであることは当然のことといわねばならない。特にインディアン、黒人、プエルト・リコ人、ユダヤ人、メキシコ人、日本人……などは、いずれもマジョリティからの偏見や迫害のなかで、それぞれのエスニック・アイデンティティを放棄したり、抑圧したりしなければ、アメリカ社会に適応できないような状態におかれてきたのである。民族的に均質で、他民族からの抑圧や搾取を知らない日本本土における日本人の感覚では、アメリカ社会におけるエスニシティやアイデンティティの問題を理解することは、かなり困難を伴う事柄であろう。」(第八章、pp.303-304)


■言及



*作成:石田 智恵  追加者:
UP: 20080504 REV:
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