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『米国精神医療視察報告』

米国精神医療視察団 編 19800630 (社)日本精神病院協会,159p.


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■米国精神医療視察団 編 19800630 『米国精神医療視察報告』,(社)日本精神病院協会,159p. ※:[広田氏蔵書] m.

■引用

 「精神障害者の為の社会復帰施設が日本に於てどうあるべきかは長年の懸案であったが,ー昨年当時の中精審(現在の公衆衛生審議会精神衛生部会)がこれに対して中間報告の形式で答申を出してから急に脚光をあびた。
 日本精神病院協会では,これを受けて早速社会復帰対策検討委員会を設置して鋭意意見の取りまとめを行って来たが,昨年諸外国の実体[ママ]を把握する為,先づ米国のこの方面の実情を調査することになり, 2月に式場常務理事が米国に渡って予備調査をすませその上で各委員会からメンバーを出して戴いて調査団を編成し,これに厚生省精神衛生課からも参加を願って9月に渡米,詳しい調査を実施して来たのである。
 本報告書はそのまとめである。御承知の方も多いが,米国は精神科の病床数60万床を20万床まで急激に減少させた。
 日本と実情が異なるのは全病床数の90%までが公立病院で占められているので,一片の法規で入院期間を極端に短縮しその結果実現出来たわけであるが,その裏には医療費節約という名目があったのはいうまでもない。
 あたかも下流の河川の状態を考えないでダムの水門を急に開いた様なもので流れ出た水が街にあふれ出ているのが,今の米国の現状であろう。
 今からこの問題に取り組む日本にとって米国のこの大胆な試行錯誤は大きな警鐘であり,日本がこれな真似てはならない貴重な他山の石でもある。
 今回の調査団はスケジュールがあまりにも盛沢山すぎたので選ぱれた団員には御苦労をお掛けしたし,またそのまとめも大変な負担であったが,よくやりとげて戴いたことに心からお礼を申しあげ,序文とする。」

 「ここで私達の大きな関心は,このように大量に退院させられた精神障害者はどうなっているのかということであり,これらの人々が地域でどのようなケアを受けているかであった。先にあげた精神医療の3つの理念,哲学は具体的にどう機能しているかであった訳であるが,米国の精神衛生組織(精神衛生生サービ提供体系)が,そのことをある程度物語ってくれよう。資料に見られるように,米国の精神衛生ケア組織は次のように概括される。
 入院施設としては,急性期(短期)治療施設として,総合病院の精神科部門,民間(私立)病院,郡立病院があり,これらの病院では,大体30日を一応の入院期間としており,最も長い期間でも90日である。(これは保険の支払いが大体3ヶ月位と限定されているためといわれる)。そして急性期(acute))いう考え方は30日以内のものとしており,これは必ずしも病状の如何には関係しないと云うのである。その後は亜急性(subacute)の状態と理解しているが,この考え方に対しては精神科医の中でも異論もある。私達が面接したある旧い精神科医(かつて行政関係の職にあり,現在開業医で地域施設にも相談医として関係している)は,大体現在の2倍位の期間が適当であろうと述べていた。
 この短期急性期の治療施設では,私達の経験からしては驚く程の大量量の薬物療法や,濃厚な治療が施されていて,例えば,常用されるハロペリドールにしても1日量60mg(日本では大体最高30mg,稀に40mg)が多くの場合使用されており,内服のみではなくて,筋注,時には点滴静注の形で使用されくいて,入院期間中,多くの患者はそのために文字通りにメロメロ状態となっている。これがIntensive Care (I. C)集中治療の1例だと思われる。
 この短期治療施設でI. Cを受けた患者で,退院可能な人は家庭に帰るものもあるが,その多くは次の延長(extended)療養施設に移される。この施設の中心となっているのが所謂ナーシグホーム(Nursing Home)であり,この施設を米国では又Semi Hospitalとも呼んでいる。これは文字通りに「看護するホーム」である。私達はナーシングホームとは,日本の養老施設の一種と理解していたが,その本態は必ずしも養老のための施設ではなくて,看護するための施設であり,多くの場合,老人の入所が多いわけであるが,必ずしも老人ばかりではない。このナーシングホームには3種類にわけられる。
 第1級をSkined Nursing Homeと称している。これはR. N. (Reqistered Nurse)が常に24時間動務していることが条件である。これに精神科専門があり,主に精神障害者を収容している。この場合は閉鎖病棟の形をとっている所が多く,多くは強制的に収容されている。(後見人制度がとられて,患者は収容及び治療を拒否することはできない)
 第2級は, Nursing Home(Intermediate Facility)と呼んでいる。1人のR. Nが昼間8時間勤務していることが条件である。以上第1級,第2級をSemi Hospitalと称している。
 第3級は, Nursing Homeと云ったり,Board and Care Homeと云ったり, Halfway Houseとも称しておりR. N. の規定はない。
 この延長療養施設は,短期を目標とはしているが,多くは数ヶ月,中には数年の長期間入所していることがあり,特に老人の場合は終生となることは己むを得ないだろう。
 これらの延長施設で精神症状が改善されてくると,次の地域内居住施設に移ることが考えられる。そしてこれらの1),2),3)の施設でうまく行けば,所謂 <0013< 社会復帰,再社会化(Resocialization)ができるわけであるが,うまくいかない場合は1)にかえったり, 2)にかえったり,症状が重く長期の治療や拘禁(自他に傷害の危険が大きい場合が多い)のため, 3)の拡大長期治療病院院に移される。それが老人病院であり,州立精神病院であり,特殊なものとしての復員軍人病院である。これはある意昧では,重症難治の精神障害者の最終終的な受け皿となる。勿論最初からこれらの病院に入院する場合もあり,必ずしも長期入院ではなく,比較的短期にI. Cを受けて,先の2)に移されることも多いが,精神症状と共に身体的合併症状をもつ老人精神障害者や,重い精神症状伏をもつ人は,どうしても長期の入院となってしまう。(長期入院させていたために慢性化したという立場から,脱入院化を主張した訳であるが,慢性化したために,巳むを得ず長期入院に至った人が多いことも事実であるという意見もある)

 「何と云っても我々の感じたことの大きな問題点としては,精神医療を医療の枠から福祉へ移行しすぎではないかとの印象である。アメリカにおける精神科医のあり方としては,開業医が経済的安定が得られるシステムがあり,ために福祉の枠に移った精神障害は,PSWなどの世話を受けるようになり,医療の枠からやや遠ざかってしまっているように感ぜられる。
 私立病院は,それぞれ地域における精神医療の先端として機能しているが,内容は大部分が,オープンシステムで日本の病院とは事情を異にしている。郡立病院,或は総合病院の精神科は少いべッドで救急医療的役割を持ち,高い医療費の関係もあり,回転ドアー現象はかなりけん著である。
 アメリカ全体の意見とは考えられないが,地域精神医療への夢が現実化した現時点において,一部反省期に入りつつあるという感じを持ったのは私だけであったろうか。旧いマソモス精神病院の再現はだれも望んでいないが,こじんまりした200べッド程度の精神病院の建設の希望も聞かれた。さてこれを日本の現実にもどしてみると,我々の地域精神医療に対する道は開かれ始めたばかりであり,医療経済機構のちがい,官公立と私的病院比率の差などから,アメリカ流の早急な地域精神医療,脱入院化などが実行されることは不可能に近く,現在の我々会員病院の内容充実,近代化を計ることが,急務であるが,現在の日本の精神医療経済からは,改善を計るためには増べッドしかないという悪しき現状をどうするか,日本の精神病院を良くするために中小規模で,アメリカが望んでいるような病院をマンモス化するなど,我々としてはさけなければならない。アメリカの入院料の1/10の医療費で(ボードアンドケアーホームと同じかやや下廻っている),我々の出来ることは,となると頭が痛くなる。デイケア,部分入院などのすぐれた増床を防ぐ方法も,現実では乏しい保険医蓑のおかげで実行は不可能に近い。<0158<
 アメリカでのディケア,部分入院料は入院費の約半分である。日本でも現在の入院医療費の半額を投じてくれれば,日本での社会医療化への推進へ大いに役立つと考えられる。
 アメリカでの地域精神医療の現状を通じて日本での我々のとるべき道は,地域精神医療に対する幻想的期待はすてて,現実的な地道な精神病院の機能の改善を計り,着実な地域精神医療への道を作らねぱならぬと信じてやまない。
                    式場 聴」

■言及

◆立岩 真也 2014/06/01 「精神医療現代史へ・追記3――連載 100」『現代思想』41-(2014-6):-


UP: 20140510 REV:
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