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『「自閉」をひらく――母子関係の発達障害と感覚統合訓練』

つくも幼児教室 編 19800201 風媒社,267p.

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■つくも幼児教室 編 19800201 『「自閉」をひらく――母子関係の発達障害と感覚統合訓練』,風媒社,267p. ASIN: B000J8A508 \3675 [amazon]

■内容


■目次

■引用

まえがき

 あたかも孤独な異邦人のように、周囲の人々と接触を避けながらひとり必死になって生きることを余儀なくされている一群の子どもたちがいる。この子どもたちは自閉症あるいは早期小児自閉症とか、自閉的傾向とか、自閉性精神薄弱などと呼ばれている。しかし、現状ではその本態も原因も治療の方法もほとんどわかっていない。したがって、自閉症と自閉的傾向と峻別したり、自閉症と自閉性精神薄弱と使い分けてみたりしたところであまり意味はないように思われる。せいぜい1つの状態像(医学的な用語を借用すれば、症状)を記述する用語として「自閉」という表現を用いるにとどめ、その原因はけっして単一のものではなく、個々の子どもによってさまざまであり得る、と心得た方が無難であろう。

 そう考えると、自閉の原因として心因や遺伝的な素質が重大な役割を果たしている場合がまったく断言するわけにはいかなくなるし、たとえば最も代表的な心因論者であるベッテルハイム(B,Bettelheim)がその著書『自閉症・うつろな砦』の中で提出している諸症例を読めば、ますますそうした可能性を否定することはできなくなる。しかし、私自身は心因や素質が重要な原因であると思われるような事例を直接見聞したことはないので、事実上大多数の自閉的な子どもについては、子ども自身の側の器質的ないしは機能的な障害が原因となっており、原因の多様性といってもあくまでもその枠の中での多様性でしかない、と信じている。それゆえ、近年自閉症の原因論が心因論から器質論へとコペルニクス的転回を示してきていることには全面的に同感である。

 しかし、だからといって今日の自閉論の主流がこの子どもたちに有効な援助を提供し得ているかといえば、残念ながら否と言わざるを得ない。そこに欠落している最も重大な視点は発達的な視点であると思われるのだが、この点ではむしろ、心因論に近い立場にあるお茶の水女子大学の田口恒夫氏らの理論、すなわち、成熟した母子関係があらゆる人格発達の基盤であるという発達心理学上周知の事実に立って、この子どもたちの抱える問題の核が母子関係のい発達障害にほかならないことを指摘して、母子関係を成熟させるための個別的な方法を提案している理論から学ぶところが大きい。母子関係の重要性を強調することは、母親の養育態度に自閉の原因を求めることとはまったく別個のことである。それどころか私たちは、なんらかの原因から子どもの側に存在している感覚障害が母子の交流を妨げる重要な要因となっている場合が多いという仮説に立って理論と実践を展開しているので、心因論的色彩を払拭しきれずにいる田口氏らの理論と実践に対して多少の異論を持たざるを得ないのであるが、同時に、往々にして基本的障害として強調されているところの言語障害ないしは知覚や運動の統合障害の根底に原始的な水準での感覚障害を想定する点では、母子関係の意義の強調に加えて、従来の器質論とも異なる主張を持っている。

(p. 3-4)
■書評・紹介

■言及



*作成:三野 宏治
UP: 20100303 REV:
自閉症 autism  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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