HOME > BOOK >

『日本近代文学の起源』

柄谷 行人 198001 講談社,219p.


このHP経由で購入すると寄付されます

柄谷 行人 198001 『日本近代文学の起源』,講談社,219p. ISBN-10: 4061168703 ISBN-13: 978-4061168701 1529 〔amazon〕→19880610(文庫版) 『日本近代文学の起源』,講談社,270p. ISBN-10:4061960180 ISBN-13: 978-4061960183 987 〔amazon〕 

■内容(文庫版より: 出版社/著者からの内容紹介)
“歴史主義的普遍性”の基盤を鋭くくつがえし、新たな思考の視座を布置・構築して行く、最も現代的な“知の震源”・柄谷行人の鮮やかにして果敢な知的力業。名著『マルクスその可能性の中心』に続く快著。

■目次(文庫版より)
T 風景の発見
U 内面の発見
V 告白という制度
W 病という意味
X 児童の発見
Y 構成力について
あとがき
著者から読者へ
解説(川村湊)
作家案内(栗坪良樹)

■引用
 柳田国男が「学術的価値」といい、坂口安吾が「資料価値」というとき、彼らが近代的な「知(サイエンス)」(科学)のなかにあることはいうまでもない。おそらく、数学よりも「記述」にこそ西欧的な知(科学)の本質があらわれているといえる。(1980→1988:81p)

 明治二十年代の文学を見るとき、われわれはそのときまだ在りもしなかった内面を(:91p)想定してはならない。「内面」は一つの制度として出現したのであり、われわれこそそのなかにいるのだ。たとえば、近代文学史家が『舞姫』をとりあげるとき、それを「近代的自我」の問題として論ずるのがつねである。しかし、それが文語体で書かれたという事実は忘れられている。それはあくまでテクストであって、「自己表現」ではなかったのだ。(1980→1988:92p)

 たとえば、「病と闘う」というのは、病気があたかも作用する主体としてあるかのようにみなすことであり、科学もそのような「言語の誘惑」に引きずられている。ニーチェにとって、そのように病原=主体を物象化してしまうことが病的なのだ。「病気をなおす」という表現もまた、なおす主体(医者)を実体化する。西欧的な医療に存する枠組はそっくりそのまま神学的である。逆にいえば、神学的な枠組は医療の枠組に由来している。
 ヒポクラテスの医療において、病気は特定の、あるいは、局部的な原因に帰せられるのではなく、身心の働きを支配する各種の内部因子の間にある平衡状態がそこなわれたものとみなされている。そして、病気を癒やすのは医者ではなく、患者における自然の治癒力である。これはある意味で東洋医学の原理である。そして、西欧においてヒポクラテスの医学が進学・形而上学的な思考の下に抑圧されていったのと、類似したことが、明治時代にきわめて短い時間のうちにおこっている。
 たとえば、同じ結核という病に関して、『不如帰』が神学的な枠組を与えているのに対(:147p)して、正岡子規の『病牀六尺』は、ただ病気は苦しいと率直にいうだけだ。(1980→1988:148p)

 “自然”のようにみえるこの遠近法は、もともと自然なものではない。西欧においても、近代の遠近法が確立されるまでの絵画には、「奥行」がない。この奥行は、数世紀にわたって、消失点作図法という、芸術的というよりは数学的な努力の過程で確立されたのであって、それは現実に、つまり知覚にとって存在するのではなく、もっぱら“作図上”存在するのである。この作図法は、「幅・奥行・高さのすべての値をまったく一定した割合に変え、そうすることによってそれぞれの対象に、その固有の大きさと眼に対するその位置とに応じた見かけの大きさを一義的に確定する」(バノフスキー「象徴形式としての遠近法」木田元訳)。この遠近法的空間に慣れると、われわれはそれが“作図上”存在することを忘れ、まるでそれまでの絵画が“客観的”な現実をみていないかのように考えがちである。たとえば、えぢじだ居の画が「写実」的であったとしても、それはわれわれが考えるような「写実」ではない。なぜなら、彼らは、そのような「現実」をもっていないからであり、逆にいえば、われわれのいう「現実」は、一つの遠近法的配置において存在するだけなのである。
 同じことが文学についてもいえる。われわれが「深さ」を感じるのは。現実・知覚・意識によってではなく、近代の文学における一種の遠近法的な配置によるのである。われわれは、近代文学の配置が変容されていることに気づかないために、それを「生」や「内面」の深化の帰結として見ることになってしまうのだ。近代以前の文学が「深さ」を欠くとい(1980→1988:192p)うことは、彼らが深さを知らないということではなく、「深さ」を感じさせてしまう配置をもっていないということでしかない。(1980→1988:193p)

■書評・紹介

■言及



*作成:岡田 清鷹
UP: 20080605
身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
 
TOP HOME (http://www.arsvi.com)