『臨床人類学――文化のなかの病者と治療者』
Kleinman, Arthur 1980 Patients and Healers in the Context of Culture : An Exploration of the Borderland between Anthropology,Medicine,and Psychiatry,University of California Press
=1992 大橋 英寿・遠山 宜哉・作道 信介・川村 邦光 訳,弘文堂,480p.
■Kleinman, Arthur 1980 Patients and Healers in the Context of Culture : An Exploration of the Borderland between Anthropology,Medicine,and Psychiatry,University of California Press
=1992 大橋 英寿・遠山 宜哉・作道 信介・川村 邦光 訳 『臨床人類学――文化のなかの病者と治療者』,弘文堂,480p. ISBN-10: 4335570473 ISBN-13: 978-4335570476
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■内容(「BOOK」データベースより)
台湾の台北市をフィールドに、民間療法者タンキーと患者との関係における病気観とは何かを、医者と患者のものの考え方、信頼関係、宗教、さらには家族、コミュニティなど幅広い視点から考察し、著著独自の「説明モデル」「医療文化システム」を提示する。社会科学者だけでなく、医者、看護婦、ソーシャル・ワーカーなど必読の書。王立人類学協会ウェルカム賞受賞。
内容(「MARC」データベースより)
台湾台北市をフィールドに、民間療法者タンキーと患者との関係における病気観を、医者と患者のものの考え方、信頼関係、宗教、コミュニティなど幅広い視点から考察し、著者独自の「説明モデル」「医療文化システム」を提示する。
■目次
序文 i
日本語版への序文 ix
凡例 xv
図 表 写真一覧 xx
第一章 オリエンテーション(T)‐問題 背景 アプローチ‐ 1
第一節 プロローグ‐台北市の龍山地区にみられる光景‐ 1
第二節 台湾の現状 11
第三節 調査研究の全体像 17
第二章 オリエンテーション(U)‐文化、ヘルスケアシステム、臨床リアリティ‐ 25
第一節 ヘルスケアシステム 25
第二節 ヘルスケアシステム概念の起源と発展 30
第三節 社会的 象徴的リアリティとしてのヘルスケアシステム‐臨床リアリティの文化的構成‐ 38
第四節 ヘルスケアシステムに作用する外部からの影響‐エコロジカルモデル‐ 48
第五節 ヘルスケアシステムの内部構造 53
第六節 中国人社会のヘルスケアシステムの現状‐台湾の概況‐ 65
第三章 オリエンテーション(V)‐中核的臨床機能と説明モデル‐ 77
第一節 ヘルスケアシステムの中核的な臨床機能 77
第二節 病いの説明モデルと臨床ケア 91
第三節 説明モデルの枠組み 114
第四章 病気体験と病気行動の文化的構成(T)‐中国文化における情動と症状‐ 129
第一節 説明モデルによるケース分析 129
第二節 中国における情動体験と行動の文化的パターン化 149
第五章 病気体験と病気行動の文化的構成(11)‐情動変調と情動障害の身体化モデル‐ 159
第一節 中国人の情動変調への対応と身体化のモデル 159
第二節 症例と考察 165
第三節 総括 187
第六章 家族を中心とするヘルスケア‐民間ヘルスケア彰セクターの実態調査‐ 195
第七章 病者と治療者(T)‐宗教的民俗治療者とクライエントの関係‐ 217
第一節 プロローグ 217
第二節 台湾における治療者たち‐一般的考察‐ 224
第三節 治療者と病者の相互作用(一)‐シャーマンとクライエントの場合‐ 226
第四節 治療者と病者の相互作用(二)‐《籖》解釈者とクライエントの場合‐ 264
第八章 病者と治療者(U)‐専門的治療者と患者の関係、および家族と病者の関係‐ 285
第一節 治療者と病者の相互作用(三)‐中国医と患者の場合‐ 285
第二節 治療者と病者の相互作用(四)‐西洋医と患者の場合‐ 317
第三節 治療者と病者の相互作用(五)‐家族と病者の場合‐ 338
第九章 癒しの過程‐土着治療者の追跡調査‐ 345
第一節 背景 347
第二節 追跡調査の知見(一)‐全体の動向‐ 353
第三節 追跡調査の知見(二)‐陳さんのケース‐ 367
第四節 考察 382
第十章 エピローグ‐医療人類学、医学 精神医学への提言‐ 409
原註 423
語彙集 443
文献 465
訳者あとがき 466
索引 480
■言及
◆Oliver, Michael 1990 The Politics of Disablement, Macmillan,(=20060605, 三島亜紀子・山岸倫子・山森亮・横須賀俊司訳『障害の政治――イギリス障害学の原点』明石書店).
(pp.x-x)
(第2章 「インペアメント つくりだされる解釈」)
しかしながら、つくりあげられたインペアメントの解釈でさえ、いかなる国や地域、階級や社会集団であっても、そこにいるインペアメントをもつ人の数を数えることはできない。というのも、次の理由による。
「病気に対する考え、病人の行動、病人に対する家族や治療にあたる人の対応の仕方は、すべて社会的な現実を表している。それらは、健康管理システムと同様、文化的構築物であり、社会の違いやその社会における社会構造的な環境の違いに応じて形成されているのは明らかである(Kleinman, 1980, p. 38)。」
◆田垣正晋, 2003, 「身体障害者の障害の意味に関するライフストーリー研究の現状と今後の方向性」《人間性心理学研究》21(2):198-208.
主な社会文化的文脈重視・援助貢献型の研究は、医療人類学によるものである。その代表例であるアーサー・クラインマン(Arthur Kleinman,1980;1988)の研究は、慢性病の医療に関心を持ち、Uの冒頭で述べたように、疾患と病いとを区分して後者の重要性を説いた。だがその特徴は、病いだけではなく、生物医学上普遍的と見なされている疾患も、文化的産物であることを指摘した点にある。彼は中国の伝統的な医療のフィールドワークをもとにして、疾患が先進工業国の西欧的な文化によって構成されていると考察した。
◆竹田恵子, 20070320, 「生殖技術受診時に表出する身体観の相互作用」《質的心理学研究》6:140-157.
(p146)
神社参拝のご利益によって子どもが得られるという言説は世間一般で,しばしば耳にする。医学的な因果関係には該当しないとしても,「お参りしたら神様が子どもを授けてくれた」という考えは素朴な因果関係を持ち,同じ時代と文化を共有する者としては取り立てて奇異な考え方ではない。不妊はARTだけではなく「神様」という概念に代表される文化社会的な諸要素が結びついて克服し得る問題なのである。これはKleinmanが体系づけたヘルス・ケア・システム内にART受診者が存在することを示唆する重要な語りでもある(Kleinman, 1992)。つまり,専門職セクタとしてのART関連領域と,民俗セクタとしての「神様」を代表とした様々な言説が,ART受診者の信念や治療法の選択などに深く関わっていることがこの語りから読みとれる。スクリプト5のような身体のとらえ方は身体観が時代,文化を反映する認知概念であることを示す一つの例でもあり,ART受診者の身体観は医学的因果関係に基づく「医学的身体観」だけではとらえきれない多様性を示している。
*作成:植村 要