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『責任という原理――科学技術文明のための倫理学の試み』

Jonas, Hans 1979 Das Prinzip Verantwortung: Versuch einer Ethik für die technologishe Zivilisation,Insel.
=20000531 加藤 尚武,東信堂,438p.

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last update: 20191031

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Jonas, Hans 1979 Das Prinzip Verantwortung: Versuch einer Ethik für die technologishe Zivilisation,Insel. =20000531 加藤 尚武 訳 『責任という原理――科学技術文明のための倫理学の試み』,東信堂社,438p ISBN-10: 4887133545  ISBN-13: 978-4887133549 4800+ [amazon][kinokuniya] ※ w/jh04, p, be

■内容

amazonより

「BOOK」データベースより

今や地球の全生物圏を侵し尽くそうとする現代技術の暴走を、人類は制御できるか―科学文明が内包する発展至上主義を根底から批判し、生命の根元性の視点から、存在の未来に対する責任こそ、現代における基底倫理であることを告知・論証した、21世紀人類に投じられた哲学的黙示録。監訳者による解説、各章梗概、詳細な索引を付す。

「MARC」データベースより

科学文明が内包する発展至上主義を根底から批判し、生命の根元性の視点から、存在の未来に対する責任こそ、現代における基底倫理であることを告知・論証した、21世紀人類に投じられた哲学的黙示録。


■目次

序文
英語版への序文
訳注
凡例
訳者一覧

第1章・梗概
第1章 人間の行為の本質は変わった
T. 古代の例
  1. 人間と自然
  2. 「都市」という人間の作品
U. 従来の倫理学の特徴
V. 責任の持つ様々な新しい次元
  1. 自然の傷つきやすさ
  2. 道徳の中で知が果す新しい役割
  3. 自然に固有な道徳的権利
W. 人間の「使命」としての科学技術
  1. ホモ・サピエンスを超えたホモ・ファーベル
  2. 第二の自然としての普遍的都市と、世界に人間があるべきこと
X. 古い命令と新しい命令
Y. 「未来倫理」の従来のさまざまな形
  1. 彼岸で完成されるという倫理
  2. 政治家の未来への責任
  3. 現代のユートピア
Z. 技術の対象としての人間
  1. 生命の延長
  2. 行動制御
  3. 遺伝子操作
[. 技術の進歩が持つ「ユートピア的な」力学と、過度の責任
\. 倫理的な真空状態
原注
訳注

第2章・梗概
第2章 基礎問題と方法問題
T. 「未来倫理」における理念知と現実知
  1. 原理問題が急を要する
  2. 技術的行為が及ぼす遠隔作用についての事実学
  3. 原理に関する知への比較未来学の寄与――恐れに基づく発見術
  4. 未来倫理の第一の「義務」――遠隔作用についてのイメージを獲得する
  5. 「第二の義務」――イメージされたものにふさわしい感情を呼び起こす
  6. 未来への見通しは不確実である
  7. 原理論のために発見術を用いるうえでは、可能性をしることだけで十分である
  8. ただし、可能性についての知は、原理を政治に応用するときには一見すると役立たずである
U. 好ましい予測よりも好ましくない予測を優先しなければならない
  1. 大きな冒険に際しての蓋然性
  2. 技術の発達の持つ累積的な力学
  3. 技術の主体は不可侵である
V. 行為の中にある賭の要素
  1. 私が他者の利害を賭金とすることは許されるか
  2. 私が他者の利害を丸ごと全体として賭金とすることは許されるか
  3. 改善主義の理由で全体を賭金とするようなことは、正当化できない
  4. 人類には自殺する権利はない
  5. 「人間」の生存が賭金とされてはならない
W. 未来に対する義務
  1. 未来倫理では相互性は要請されない
  2. 子孫に対する義務
  3. 子孫が存在することに対する、また子孫のあり方に対する義務
    a) 子孫に対する義務は根拠づけを必要とするか
    b) 存在(生存)に対する義務が優先する     c) 第一の命令――人類をあらしめよ
  4. 人間という理念に対する存在論的責任
  5. 存在論的理念が生み出すのは定言命法であり、仮言命法ではない
  6. 二つのドグマ――「形而上学的真理はない」、「『ある』から『べし』へと至る道はない」
  7. 形而上学の必要性
X. 存在(ある)と当為(べし)
  1. 何かが存在しなければならない
  2. 無に対する存在の優位と個人
  3. 「なぜ何かがあり、無ではないのか」というライプニッツの問いの意味
  4. どのような「あるべし」が可能かという問いは、宗教とは独立に答えられなければならない
  5. 問いは、「価値」の身分に関するものへと転換する
原注
訳注

第3章・梗概
第3章 目的と「存在の中での目的の位置」について
T. ハンマー
  1. 目的によって構成される
  2. 目的は事物のうちにあるのではない
U. 法廷
  1. 目的の内在
  2. 身体的な装置の中には目的は見えない
  3. 内在する目的が終われば手段も終わる
  4. 物的道具を通じての目的の告知
  5. 法廷とハンマー――いずれの場合も目的の在処は人間である
V. 歩行
  1. 人口的な手段と自然な手段
  2. 手段と機能(使用)の違い
  3. 道具、器官、有機体
  4. 人間の行為の中の主観的な目的・手段連鎖
  5. 動物の行為の中の連鎖の分割と客観的なメカニズム
  6. 主観的な目的の持つ因果的な力
W. 消化器官
  1. 物理的有機体の内部に目的があるのは単なる見かけにすぎないというテーゼ
  2. 目的因果性は主体の備わる存在者に限られるのか
    a) 二元論的な解釈
    b) 一元論的な創発理論
  3. 目的因果性は意識を持たない自然の中にもある
    a) 自然科学的な禁欲
    b) この禁欲には作り事である一面がある――自然科学者として実存することによって作り事の面は矯正される
    c) 主観性の彼岸にある目的概念――自然科学とどう折り合いがつくか
    d) 主観性の彼岸にある目的概念――概念の意味
    e) 意欲、機会、因果性に通路を開く
X. 自然現実性と妥当性――目的問題から価値問題へ
  1. 普遍性と合法性
  2. 自然の意志表示を否定する自由
  3. 自然の意志表示を肯定する義務は証明されていない
原注
訳注

第4章・梗概
第4章 善(良さ)、当為、存在―責任の理論
T. 存在(ある)と当為(べし)
  1. 「よい」または「悪い」は、目的に対して相対的である
  2. それ自体としてよきこととしての、目的が備わるという性格
  3. 存在は目的の中で自己を肯定する
  4. 生命の「然り」――非存在への否として強調されて
  5. 存在論的な「然り」が人間に対して持つ当為(べし)の力
  6. 意欲(したい)とは異なり、当為(べし)には疑問の余地がある
  7. 「価値」と「よい」
  8. 善の行いと行為者の存在――「責務」の優位
  9. 従来の倫理学説における道徳性の感情的側面
    a) 「最高善」への愛
    b) 行為それ自体のための行為
    c) カントの「法則に対する畏敬」
    d) 以下の研究の立脚点
U. 責任の理論――さし当たりの区別
  1. 責任の行為に起因する因果的結果の計測としての責任
  2. なされるべきことに対する責任――力ある者の義務
  3. 「無責任に行為する」とは何か
  4. 相互的でない関係としての責任
  5. 自然責任と契約上の責任
  6. 政治家が自ら選ぶ責任
  7. 政治的責任と親の責任――対比
V. 責任の理論―際立った範例としての、親と政治家
  1. 第一義的なのは人間の人間に対する責任
  2. 人類の生存――「第一の命法」
  3. 自分の作品に対する芸術家の「責任」
  4. 親と政治家――責任の全称性
  5. 親と政治家は責任の対象が交錯している
  6. 親と政治家は感情という点で類比的である
  7. 親と政治家――連続性
  8. 親と政治家――未来
W. 責任の理論――未来の地平
  1. 教育の目標――大人になること
  2. 歴史的生成展開は有機的成長とは比較できない
  3. 歴史的なメタファーとしての「若さ」と「老い」
  4. 歴史的好機――予知のない認識(マケドニア王フィリッポス)
  5. 予見に際して理論の果す役割――レーニンの場合
  6. 分析的な因果的知識からの予言
  7. 思弁的理論からの予言――マルクス主義
  8. 自己充足的な理論と行為の自発性
X. 政治的責任はどの程度まで未来へと及んでいるか
  1. あらゆる政治は、将来も政治が可能であり続けることに対して責任を持つ
  2. 変化がいつまでも続く際の近接未来地平と遠隔未来地平
  3. 科学的技術的進歩の期待
  4. 今日の集団責任の一般的に拡張された時間の広がり
Y. 「責任」はなぜこれまで倫理学説の中心に据えられなかったか
  1. 知と力の近接領域――持続性という目標
  2. 力動性の欠如
  3. 過去の倫理学は「水平地平」方向でなく、「垂直」方向へ向かっていた(プラトン)
  4. カント、ヘーゲル、マルクス――終末論としての歴史過程
  5. 「汝なすべし、ゆえに汝なしうる」という命題は今日逆転する
  6. 人間の力――責任の「べし」の根
Z. 子ども――責任の原初的対象
  1. 生まれた子どもの「存在」に含まれる要素としての「べし」
  2. もっと切迫性を欠く存在当為(あるべし)の呼び声
  3. 責任の本質にとって原型となる証拠――乳飲み子 原注
訳注

第5章・梗概
第5章 今日の責任――危機にさらされる未来と進歩思想
T. 人類の未来と自然の未来
  1. 利益と有機的世界の連帯
  2. 各生物種のエゴイズムと、その共生を通した帰結
  3. 人間による共生の均衡関係の破壊
  4. 危険は、破壊を拒否することが第一の義務であることを露呈する
U. ベーコンの理想には不吉な脅威がある
  1. ありあまるほどの成功によって破局が襲う
  2. 自然を超えた力と、この力の行使に至る圧迫との間の弁証法
  3. 求められる「力を支配する力」
V. 危険によく対処できるのはマルクス主義か資本主義か
  1. ベーコンの理想を実現するマルクス主義
  2. マルクス主義と工業化
  3. 科学技術による危険を制御する見込みの比較考量
    a) 需要経済と利潤経済――官僚制と企業家
    b) 全体的政治権力の長所
    c) 大衆の禁欲道徳の長所と共産主義下でのその持続の問題
    d) ユートピアへの熱意を謙遜への熱意へと転換できるか(政治と真理)
    e) 断念する準備ができていると言う点での平等の長所
  4. 比較考量の結果――マルクス主義の利点
W. 抽象的な見込みの具体的吟味
  1. 共産主義国家内部での利潤という動機と最大化という刺激
  2. 世界共産主義は地域的な経済エゴイズムを抑止できない
  3. マルクス主義における技術崇拝
  4. マルクス主義におけるユートピアという誘惑
X. これから現れる「本来の人間」というユートピア
  1. 将来の本来的人間としてのニーチェの「超人」
  2. 来るべき本来の人間の制約としての無階級社会
    a) 無階級社会は文化的に優越するか
    b) 無階級社会の市民は道徳的に優越するか
    c) マルクス主義的ユートピアの因果的条件としての物質的豊かさ
Y. ユートピアと進歩思想
  1. ユートピア的理想を捨て去ることの必要性
    a) 豊かさを約束することの心理的危険性
    b) 理想の真理ないし非真理と、責任を負う者の使命
  2. 「道徳的進歩」という問題の構図
    a) 個人の進歩
    b) 文明における進歩
  3. 科学技術における進歩
    a) 科学の進歩とその代償
    b) 技術的進歩とその倫理的(道徳的)両面性
  4. 社会制度の倫理性(道徳性)について
    a) 専制政治の反道徳的な効果
    b) 経済的搾取の反道徳的影響
    c) 「よい国家」、政治的自由と市民道徳
    d) 自由主義的体制の妥協的性格
  5. ユートピアの種類
    a) 理想国家と最良の国家
    b) マルクス主義的ユートピアの新しさ
原注
訳注

第6章・梗概
第6章 ユートピア批判と責任の倫理
T. 地に呪われた者と世界革命
  1. 地球規模での苦悩の新たな分配の下での「階級闘争」状況の変容
    a) 西欧的「産業プロレタリアート」
    b) 国家間の争いとしての階級闘争
  2. 新たな階級闘争状況への政治的な解答
    a) 国家の自己利害に根ざした地球規模での建設的な政策
    b) ユートピアの名による暴力への訴え
U. マルクス主義的ユートピア主義の批判
 A. 第一ステップ――現実的条件、またはユートピアの可能性について
  1. 鎖を解かれた科学技術による「地球という星の改造」
  2. 自然の許容限界――ユートピアと物理学
    a) 食糧問題
    b) 資源問題
    c) エネルギー問題
    d) 究極の熱問題
  3. エネルギー節減経済という永続的な命令、およびこの命令がユートピアに対して拒否権を発動するということ
    a) 慎慮を伴う進歩
    b) ユートピアの厚かましさに対抗して、目標を控えめに置くこと
    c) 理想の外的不可能が明らかになった後でも、なお理想の内的批判が、どうして必要なのか
 B. 第二ステップ――現実へと翻訳された夢、またはユートピアの「願わしさ」について
  1. ユートピア状態の内容規定
    a) カール・マルクスの自由の王国
    b) エルンスト・ブロッホと活動的な余暇という地上のパラダイス
      @ 「精神との幸せな婚姻関係」
      A 「道楽」と「人間にふさわしいもの」
  2. 「職業としての道楽」に批判的な照明を当てる
    a) 自発性の喪失
    b) 自由の喪失
    c) 現実性の喪失と人間の尊厳
    d) 必然性がなければ、どのような自由もない――現実性の尊厳
  3. 他の余暇の内容――人と人との間の関係
  4. 人間化された自然
  5. 未来像が論破された後でも、過去像の批判がなお必要であるのはどうしてか
 C. 第三ステップ――夢の消極的な引き立て役、または従来のあらゆる歴史の暫定性について
  1. エルンスト・ブロッホの「まだない存在」の存在論
    a) この「まだない」を、未完成の存在についての他のさまざまな理論から区別すること
    b) 過去に現れる「正義の前兆」と「偽善」
  2. 本来的な人間の「すでに、ここに」について
    a) 人間には二義性が属する
    b) ユートピアの人間学的な誤謬
    c) 人間についての知の源泉としての過去
    d) 善と悪とに開かれている人間の「自然(本性)」
    e) ユートピアを好餌としないで、さまざまの条件を改善すること
    f) それぞれの歴史的現在の自己目的について
V. ユートピア批判から責任の倫理へ
  1. ユートピア批判は、極端にはしる技術に対する批判であった
  2. 夢を論破することの実践的意味
  3. 責任という、ユートピアでない倫理
    a) 恐れ、希望、そして責任
    b)「似姿」の張り番について
原注
訳注

訳者による解説
 ハンス・ヨナスの短い紹介
 思想的生涯を振り返って
 『責任という原理』の読み方
   1. 同一モチーフの反復
   2. 行為の変質と自然の傷つきやすさ
   3. 従来の倫理
   4. 新しい倫理に至る方法
   5. 責任の倫理の原型・親子関係
   6. 目的は意識に先行し、存在に内在する
   7. 存在と声の歴史的責任
 ヨナスの著作目録
 参考文献
 訳者あとがき
 索引
  事項索引
  人名索引


■引用

技術の実践は、たとえ近接する目的のために企てられる場合でも、空間的時間的に大きな広がりを持つ因果系列を引き起こし、これがあの垣根を押し流してしまう。この因果系列は不可逆的なもので、こうした無数の系列が巨大な規模でまとめあげられると、道徳の方程式にもう一つ新種の要因が導入される。これに加えて、こうした因果系列の持つ累積的な性格がある。こうした系列の引き起こす結果は相乗化される。後になってからの行為と存在にとっての状況は、因果系列の始まりに際しての行為者にとっての状況とは、もう同じではない。ますます違うものになってゆく。すでに行われたことの結果が、たえず重なってゆく。従来の倫理学はすべて、累積的でない行動だけを計算に入れていた。(p.15)


新しいタイプの人間の行為に適した命法、新しいタイプの行為主体に向けられた命法は、次のようになるだろう。「汝の行為のもたらす因果的結果が、地球上で真に人間の名に値する生命が永続することと折り合うように、行為せよ」。否定形で表現すると、「こうした生命が将来も可能であることが、汝の行為がもたらす因果的結果によって破壊されないように、行為せよ」。あるいは簡単に言うと、「人類が地球上でいつまでも存続できる条件を危険にさらすな」。あるいは、再び肯定形を使えば、「汝が現在選択する際に、人間が未来も無傷であることを、汝の欲する対象を含み入れよ」。(p.22)

 自明な言葉がほとんど得られていない領域では、そうした言葉をさがすことが義務となる。この際にも、恐れを導きとすることが是非とも必要である。われわれが求めている「未来倫理」の場合もそうである。この場合、恐れなくてはならないものはまだ経験されていないし、その類似物ですら、過去の経験にも現在の経験にも見つけ出されないからである。だから、イメージ上の害悪が、実際に経験される害悪の代わりをつとめなければならない。したがって、このイメージを現実に先駆ける思考で獲得することが、ここで求められる倫理学の第一の義務、いわば導入としての義務となる。(p.51)


■書評・紹介



■言及





*作成:篠木 涼
UP: 200802 REV:20080616, 20191117(岩ア 弘泰
Jonas, Hans  ◇哲学/政治哲学/倫理学  ◇生命倫理(学) (bioethics)  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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