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『セルフ・ヘルプ・グループの理論と実際――人間としての自立と連帯へのアプローチ』

アラン・ガートナー/フランク・リースマン 198509 川島書店,201p.


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■Gartner, Alan / Riessman, Frank 197703 Self-help in the human services, Jossey-Bass Inc Pub.
=198509 久保紘章監訳,『セルフ・ヘルプ・グループの理論と実際――人間としての自立と連帯へのアプローチ』,川島書店,201p. ISBN: 4761003235 2500 [amazon]

■紹介・引用
▼セルフヘルプ・グループの「効用」と「効かない場合」

「現状
セルフ・ヘルプの形態は、今日的な問題と密接に関わっている。というのは、それが経済的に安くあがり、非専門家によるものであり、見たところ効果があがっているからである。」(p.6)

「セルフ・ヘルプ・アプローチは、広く行われている専門的、制度的アプローチよりも、必要とされるサービスを、かなり財政的に安く提供することができる。しかし、それが相当な影響力をもつにいたったのは、ほかにも多くの理由がある。第1に、反官僚主義的、反中央集権的、人民党的傾向が強いことである。小グループのセルフ・ヘルプ志向は、疎外感を減らしたり、個人の持っている力を高めようとする拮抗力として作用する。第2に、セルフ・ヘルプ・アプローチは、女性、若者、老人、身体障害者など、幅広い人びとにとって適切なものだということである。第3に、セルフ・ヘルプ活動をすることが、慢性疾患(中略)のケアに効果があると証明されたことである。(中略)第4に、セルフ・ヘルプ活動が、不十分なヒューマン・サービス一般を改善しようとしていることである。」(p.8)

「ヘルパー・セラピー原則
この原則は、簡単にいうと、「援助をする人がもっとも援助をうける」という意味である。」(p.117)

「自己説得
非援助者を説得する過程で、援助者は、一般的なやり方ではなく、共通にもっている各種の特別な問題について自分自身を説得または強化しなければならない。」(p.121)

「援助の役割
援助の役割をとる人が特別な利益を得ているという事実は、さらに少なくとも三つのメカニズムから説得することができる。つまり、(1)援助者は依存的であることが少なくなる。(2)同じような問題をもつ人のことで苦闘するなかで、援助者は自分の問題を距離をおいてみる機会が与えられている。(3)援助者は援助の役割をとることによって社会的に役立っているという感じを持つことができる。」(p. 121)

「プロデューサー(生産者)としてのコンシューマー(利用者)
セルフ・ヘルプ・グループのひとつの重要な特徴は、コンシューマー(サービスの利用者)の特別な参加にある。第1章で述べたように、どのようなサービスにおいても、コンシューマーは、サービスを生産し実践者を生産することに独自な貢献をしている。コンシューマーは潜在的にはプロデューサーであって、プロデューサーとして十分に活用されればされるほど、参加したことでサービスの効果が高まるのである。」(p.126)

「非専門的次元
しかしながら、セルフ・ヘルプ・グループの重要なポイントは、コンシューマーの参加がヘルパー・セラピーの原則や非専門的援助と結びついている点にある。」(p.127)

「グループ・プロセスの役割
グループは支持、強化、制裁および規範を提供する。グループによって個人の力がひろがり、仲間同士の援助ができ、制限がもうけられ、メンバーが分かち合うことを学び、フィードバックをし、いろいろな時間を過ごすことができる。この最後の点は、生活の全体を左右し支配している嗜癖行動を克服しようとしている人にとっては、望ましくないものと考えられるのが普通であるが、グループへの参加は充実した時間を与え、嗜癖行動の変容を助ける。たとえば、アルコール依存の人がAAの集会に毎晩のように出かけて、援助をしたり受けたりしているのもめずらしいことではない。」(pp.131-132)

「癒しの共同体は、個々のメンバーの相互関係の面からみても、グループ全体の社会構造の面からみても治療的なものとみなすことができる。個々人の結ぶ関係の治療的側面は「癒しのカリスマ」(healing charisma)であると考えられる。それは、人と人との相互作用の本質には、メンバーに自分のことを「なりたいものになんでもなれる」人として経験させるような、社会的エネルギーとでもいえる特別なものがあるという意味である。このグループの社会構造は全体として「癒しの共同体」という特徴をもっている。これは、個人の特定の役割や肩書によって地位を与えられるのでなく、理想的にはすべての個人とすべての関係が「カリスマ的」であり、基本的な「関係性」によって結びついているべきであるという意味である。」(p.133)

「治療共同体に新しいメンバーが入ってくると、このグループやメンバーはすべて特別なものであると教えられ、彼らもその特質にあずかることができると教え込まれる。会員として十分な資格をもつことがたいせつであり、それは、そのグループの特別な規範に従って定められた行動をすれば得られるものとみなされている。グループのどのメンバーからも同じような行動が期待される。そのような行動を通して、新参者は一人前のグループ・メンバーとなり、単にケアの受け手であることにとどまらず、ケアを与える人となるのである。」(p.133)

「イデオロギー
社会から逸脱し、スティグマを負わされたグループでは、社会に対する批判や社会変革に対する要請がそのイデオロギーに含まれている。こうした批判は、ときには大きな社会全体に向けられるが、専門家や社会機関に向けられることもしばしばである。セルフ・ヘルプ・グループがイデオロギーの上でもっている展望は、こうした機関と交渉したり、グループとその状態をより積極的にうけとめていく力と確信を与えている。」(p.134)

「セルフ・ヘルプの2つの側面
相互援助運動の重要性については、2つの視点から見ることができる。すなわち、(1)セルフ・ヘルプ・アプローチは、どのようにしてヒューマン・サービス実践の性質や特質に関係するのか、(2)相互援助の世界観は、社会的、政治的変化とどのように関係するのか、である。」(p.171)

「社会変革
しかし、セルフ・ヘルプの世界観には、次のような傾向がある。(1)症状レベルで問題に対処する。(2)小さな解決を求める。(3)主要なケア提供システムに対して、ぎりぎりの代替物を明確にする。(4)制度や社会の枠組みに対して概して批判的であるが、直接的で率直な政治的な挑戦を組織化しない。」(p.175)

「セルフ・ヘルプ・アプローチは、疎外感を減らし、自分には力があるという感じを高めることで、少なからず社会変革に役立っている、というのがわれわれの仮説である。」(p.177)

「まとめ
したがって、セルフ・ヘルプ・グループは、もともと、行動変容に関する社会学的、心理学的原則と非常に結びついている。それらは、たいていの場合、幼少期の原因を探索しようとはしない。たいせつなのは現在の行動――ある場合には症状――である。しかし、ほとんどのグループは、症状を軽減させたりコントロールすることだけでなく、積極的な心の健康、統合された人間関係、誠実さなどを築くこと、にも関心をよせている。」(p.179)

▼セルフヘルプ・グループが持つ危険性

「つまり、セルフ・ヘルプ・グループを、われわれの時代の万能薬だとは思っていないし、社会変革を指導する力ともみなしてはいない。実際、古くからあるセルフ・ヘルプ・グループ、たとえばアルコール依存者匿名協会、リカバリー協会、シナノンなどの多くは、いくぶん権威主義的である。それらのグループは、多くの場合、専門家のかわりに、伝統的でカリスマ的な全能の指導者をまつりあげる。そして、多くの組織が、個人が自立と自主性に関心があると公言していながら、簡単にまとめられた教義を拠りどころにして、しばしば終生それに依存することを促してきた。社会を批判する一方で、犠牲者(依存者自身)を非難することも多い。」(p.2)

「危険性
1.セルフ・ヘルプ・アプローチは、サービスをいっそう削減するための論拠として用いられるおそれがある。
2.このアプローチは、専門家や制度の責任を少なくするために用いられるおそれがある。(中略)
3.責任と評価のような最近もたれるようになった関心は、弱められて、単に利用者の満足しか意味しなくなるかもしれない。そしてサービス遂行の客観的指標を見つけ、発達させるという目標が、おろそかにされるおそれがある。
4.セルフ・ヘルプ・アプローチは、専門的な制度にすっかり吸収されてしまうかもしれない。そうなれば、伝統的な機関の付属物として、セルフ・ヘルプの形態が用いられるようになるおそれがある。」(pp.22-23)

「さらに次にような危険性もある。それはコンシューマーによりかかる結果に関連するものである。

1.セルフ・ヘルプが強調されると、犠牲者が非難されることがよくある。
2.相互援助活動に関わっている者は、参加することはできても、援助はしてもらえなくなるかもしれない。
3.セルフ・ヘルプにのめりこみすぎると、有効な治療や専門的技術のような適切な社会資源まで関心をむけなくしてしまうおそれがある。
4.依存が助長されるかもしれない――セルフ・ヘルプの参加者は、グループにとどまることによってのみ自分は健康でいられる、と思いこむようになるおそれがある。」(p. 23)

「第五章 セルフ・ヘルプの可能性と限界
その危険性の一つに、セルフ・ヘルプ・アプローチが、有料サービスの拡大のかたがわりとして用いられるおそれがある」(p.139)

「セルフ・ヘルプ・アプローチには、その他のさまざまな困難な点がある。精神衛生およびその他の対人サービスの分野における伝統的なセルフ・ヘルプ・アプローチは、そのほとんどが主として中産階級グループ、ときには上層の労働階級のグループに向けられてきた。このことは、貧しい人びとは伝統的な諸機関からもセルフ・ヘルプ・グループからも、援助が十分に得られていないことを意味する。」(p.143)

「すなわち、貧しい人はセルフ・ヘルプのサービスを受け、一方で金持ちは専門家のサービスを受けるという危険性である。この2つのサービスは、どちらのグループにも必要なのである。
もう一つの危険性は、セルフ・ヘルプが、行うべきことを行わないばかりでなく、逆にあまりにも多くのことを行おうとしたり、すべての人びとにすべてのことを行おうとすることである。」(p.143)

「専門職化したクライエントと生活の医療化
専門職化したクライエントがもつ危険性は、何が役に立つかを考えるよりも、自分たちの気持ちや誰が援助しているかにより関心をもつことである。彼らは原因(環境的要因、経済状況、遺伝的素質、個人の行動やグループの行動)を見い出そうとしないで、自分たちの気分をよくするものを求めようとする[Dewar,1976,p.81]彼らは、専門家の解決法を鏡として利用する。したがって、彼らは、自分たちが模倣する専門家と同じ程度にしか効果をあげられないし、適切でもない。」(p.145)

「セルフ・ヘルプの調整介入は、専門家の付属物になることによってそのエートス(その精神、その大衆的、土着的側面)を失うという問題が残る。専門家のアプローチに再び活力を与える過程の中で、相互援助アプローチはその特徴と力を失い、本質的には専門職化されているサービスの単なる片腕あるいは付属物となってしまうかもしれない。さらに、専門家はクライエントまたはコンシューマーからますます離れた存在になるかもしれない。なぜならば、コンシューマーは本来、他のコンシューマーに助けられている部分が大きいからである。」(p.155)

「もう1つ避けなければならない危険は、セルフ・ヘルプ・アプローチを理想視することである。」(p.155)

「この場合にひそむ危険は、専門職としての方向づけに固有の利点、つまり体系的な方向づけ、広い視野、経験を乗り越えようとする努力などが失われ、すべての実践が非専門家の次元に"還元"されてしまうという危険である。」(p.156)

「セルフ・ヘルプが急速に成長することは、とりもなおさず多くの危険性をはらんでいる、ということである。たとえば犠牲となっている本人を責めること、断片化すること、構造の変化を目指すよりも症状の治療を目指すこと、などの危険性がある。」(p.168)


*作成:松枝亜希子
UP:20071026
BOOK ◇セルフヘルプ・グループ
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