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『寝たきり老人は起ち上がれる――自立と看護の実際』

田中 多聞  19760120 社会保険出版社,204p. 1200


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田中 多聞 19760120 『寝たきり老人は起ち上がれる――自立と看護の実際』,社会保険出版社,204p. 1200 ※ a06 r02 t04

〈目次〉

一 老人ケア
1 ケアということ
(一)どこでケアするか
(二)誰がケアするか
(三)どのように行なうか
2 老人ケアの基本的理念と哲学

二 寝たきり老人
1 寝たきり老人の多くはつくられたもの
2 にせもの(仮性)の寝たきり
3 ほんもの(真性)の寝たきり

三 老人ボケと老年痴呆
1 老人ボケ
2 老年痴呆
3 脳血管性障害による痴呆
4 みせかけ痴呆(仮性痴呆)

四 尿失禁
1 真性失禁(ほんものの失禁)
2 仮性失禁(みせかけの失禁)
(一)心理障害による失禁
(二)看護ミスによる失禁
(三)オムツによる失禁
(四)その他の仮性失禁

五 寝たきりをつくらない方法
1 寝たきりを防ぐ運動
2 生活処方をもらう
3 生活処方箋を実行する
4 運動療法を行なう
5 自立心をもたせる
6 自立行動をさせる
7 生活処方の変更
8 薬をあれこれ要求しない
9 身のまわりのことはどうする
10 自己判断はやめる

六 病院のかかり方
1 老人医療のむずかしさ
2 入院待期と応急処置
3 どんな病院を選ぶか

七 施設の利用

八 在宅でのケア
1 在宅ケアの利点
2 在宅ケアの具体的方法
(一)転ばぬ先の杖
(二)椅子への腰かけ方
(三)車椅子の使い方
(1)移送用として使う場合
(2)自分で使う場合
(3)使ってはいけない場合
(四)寝床のつくり方
(1)ベッドか畳の上か
(2)ベッド利用の注意
(3)ベッドをいやがる老人には
(4)失禁がある老人には
(五)ねまきの注意
(六)トイレを使うには
(七)廊下は多目的に
(八)洗面所の注意
(九)居室は老人の城
(1)環境を整備する
(2)もし建て増しできれば
(3)訓練用の準備
(4)城を明け渡してはいけません

九 病んだ老人の具体的ケア
1 心が老いた老人のケア
2 ふつうの心の老いの特徴
3 病気になった老人の心
4 心の病とそのケア
5 目が不自由な老人
6 失禁したとき
7 体が不自由になったとき
(一)ふらつき
(二)ふるえ(しんせん)
8 中風になったとき
9 骨折したとき
10 リウマチになったとき
11 心臓病をおこしたとき
12 糖尿病になったとき

十 老いへの挑戦
1 老人の心構え
2 健康の維持増進
3 病気で寝こんだら

十一 家族の方へ
1 家族との同居は老人の願い
2 施設収容を考える

十二 行政・制度について

十三 通信療養教室

  
■引用
 二 寝たきり老人 25-33pp
  
1 寝たきり老人の多くはつくられたもの
 老人は、老化現象と病気になる危険性とを同時に背負った人といえます。老化現象をわかりやすく述べると、人間が受胎したときから始まり、死によって終わるとも いえましょう。老化は、血管と体の細胞に特有な変化を現わします。血管とくに動脈の変化―動脈硬化と細胞の萎縮(細胞の数の減少と性質が変化する)が基本となって います。筋肉、関節、骨、その他の諸臓器についても同じです。筋肉がやせ、力がなくなりますし、関節の動きが悪くなったり、骨がもろくなって折れやすくなります。 心臓を養う動脈(冠動脈)に動脈硬化がひどくなりますと、心筋梗塞というこわい病気をおこします。これらは動脈の老化が基本にあって、それから病気になるのです。
 ここで注意しておきたいことがあります。それは、特別な病気はないのに運動不足のために病気になるということです。学問的にいいますと「生理的必要最小限の運動 を怠ったためにおこる病気で、この病気を総称して低運動性症候群と呼びます。
 老人が死亡する場合これで亡くなることが意外に多いのです。(表3)
 たとえば骨折したことが直接の原因となって死亡することよりも、長い間寝こんだために肺炎をおこして死亡することがよくあります。脳卒中の場合でも同じです。
 この一例でもおわかりのように、老人にとって命をおびやかすものは何か?といえば、もちろん脳卒中や心臓病があげられますが、それに次ぐものとして、長い間運動を しなかったり、寝こんでしまうことなどです。

 じっと坐ってばかりいて、仕事をしない。散歩や外出をしない、家事や片づけもしない。身の回りのことも自分でしないですべて世話してもらうなどは、自から病気を つくっているのです。そうしていて、足腰が弱くなったから車椅子を買ってくれとか病院に入院するなどいったのでは、いくらお金があっても足りませんし、他人の世話 を始めから終りまで受け続ける結果となります。自から求めた結果ですからいいとしても、世話する人はたまりません。私はこの十年間に、ずい分このような老人を みましたし、治療してきました。
 社会的にいわれている寝たきり老人の多くは、何らかの病気が土台にあって、その治療が的確さを欠いた、看護や生活指導が不適当であるとか、老人自身の責任、その他 の原因からなるのですが、寝たきり老人は一つの原因からなるのではなくて、いろんな原因がからみ合っておこる社会病理現象なのです。
 こういった考え方から、私は「寝たきり老人という表現をやめましょう」といろんな機会にいってきました。
 このように、「寝たきり老人」の正しい定義がないままに、社会で使われて大変誤った考え方が医師、看護婦、セラピストなどの医療関係者から福祉関係者、その他の 一般社会の人たちの間に植えつけてしまっているのです。私の臨床経験では、寝たきり老人と決めつけられた患者の八割が、自立に成功しています。寝たきりの状態に なった老人、といえば科学的だし良心的ですが、寝たきり老人といいますと、もうどうしようもない絶望的な老人というイメージを与えてしまいます。私は過去十年間 寝たきり状態の老人のうち、八割近くを医療とくにリハビリテーションによって自立させることに成功しました。それらを詳細に分析しますと、発病時およびその後の ケアの誤りが原因で寝たきりになったという例があまりにも多かったのに驚きました。
 発病後大学、国立、公立、私立などの病院に長い間入院したり、往診してもらっていたのが七六%もいながら、私のところに来たときは寝たきり老人になってしまって いたのです。それらの状態を紹介しますと、手足の拘縮(関節が硬くなって動きが鈍くなる)、変形、筋肉の萎縮と筋力の低下、失禁、ボケなどをほとんどがもっており、 それらの三割ちかくが褥瘡(床ずれ)をつくっていました。
 命は助かっても廃人になっていたのです。どういう治療をうけてきたかと聞きますと薬物療法だけで、自立への訓練を受けてきた人は全患者約千名中五名しかいません でした。その五名も、これ以上はなおらないからといわれて、ていよく退院させられているのです。入院できた人は幸せな人で、その他の多くの方は自宅で往診を受けて いたのです。医師の多くは忙し過ぎるので、とても生活のしかたや訓練の指導まではしてくれません。病人は寝たきりのまま幾年も過ごしてしまい、とうとうどうしよう もない寝たきり状態になってしまうのです。こう考えてきますと、寝たきり状態になる原因としては、
  1 医療内容によると考えられるもの
  2 看護に関係あるもの
  3 老人自身の意欲になどに関するもの
  4 病気によるもの
 などにまとめられます。病気によるものは、重症である、動かせない(痛みやその他の症状のために)などでしょうが、半日に五分ていど手足を動かしてはいけない ほどの重症者は危篤状態ですから除外しましょう。
 そうしますと、寝たきりになる原因は、どうも病気よりもケア内容によるものが多いことがわかります。寝たきりになったから特別養護老人ホーム(特養)に収容させ よう、そのためには特養を増設させようと、国や自治体は大変な腰の入れ方ですが、まったくナンセンスではありませんか。いま、もっとも必要な行政の手は、つくらなく てもすむ寝たきり老人をつくっている原因をただし、解決して、一人でも寝たきりになる老人を救うこと、予防する手だてをすることなのです(表4参照)。
  
2 にせもの(仮性)の寝たきり
 寝たきり状態の老人の八〇%は、にせもの(仮性)であることを私は実証してきました。過去十年間に、一〇〇〇人以上の「寝たきり老人」を対象に臨床と研究を 行なった実績から、確信をもっていえます。仮性寝たきりとは、病気その他の原因で老人が一定期間臥床を続けたために、手足の拘縮、筋力の低下、仮性失禁(後述)、 仮性痴呆(後述)、低運動性症候群(前述)、栄養障害などを伴ない、老人の心と体の機能障害をおこし一日の大半を臥床している状態をいいます。仮性寝たきり状態 は必ず改善できます。その回復の程度は、発病後三年以内ならばよくなります。ところが、仮性寝たきりを真性寝たきりと誤って判断して寝かせっぱなしにしていますと、 真性寝たきりになり回復が困難になってしまいます。
  
3 ほんもの(真性)の寝たきり
 真性寝たきりは、病気が重症か、脊椎、四肢の拘縮が強く、また?幹、四肢の筋力が極度に弱く、低運動のため循環不全(起立性低血圧など)などをおこし、坐ることも できない重症の状態をいいます。真性寝たきりの場合は、寝がえりさえできないというより危険でさせてはいけない場合がほとんどで、医師がドクターストップをかける 重症状態をいいます。しかし、ごくまれですが、脊椎から股、膝、足の関節までが、強い拘縮をおこし、ちょうど首から足まで一本の棒状にかたまっている患者がいます。 私は過去十年間ケアしてきた寝たきり老人のうち四名認めています。当然ですが、真性失禁、真性痴呆のほか、いろいろな感染症を合併していることが多く、おそかれ 早かれ死を招きます。
 いかがですか? 真性よりも仮性が多いのです。特養に収容して「寝たきりが歩けるようになった」と施設が強調するのは、おかしいことです。栄養がよくなり、環境 が改善されれば、元気になるのは当然のことです。歩けるようになったのは、もともと歩けるものが仮性寝たきりで一時的に寝こんでいたのにすぎないのですから、当然 なことなのです。しかし、歩けるようになったことは大変うれしいことに違いありません。寝かせっぱなし、オムツのあてっぱなし、ボケさせても平気で「老衰末期の 老人たちが多いからどうしようもありません」と、得々と語る特養にくらべれば立派です。
 ある大学の教授が「特養はオムツ老人をつくっている」と話したと聞きましたが、特養のレベル(非治療的)からすれば、決してそのような特養を責めるわけにはいかない のも事実です。とにかく、寝たきり老人が真性か仮性かを医学的に診断している病院、医師はほとんどないでしょう。「これは一年以上たっているから、リハビリをやって も無駄です、と冷たく突き放されました」と、多くの家族が涙声で訴えたのがしばしばでした。
 このような事実からでも、寝たきりは人によって(老人を含めて)つくられたものが多く、決して病気だけが原因ではないということがおわかりだと思います。


*作成:北村健太郎
UP:20070519 REV:20070626
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