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『監獄の誕生――監視と処罰』

Foucault, Michel 1975 Surveiller et punir: Naissance de la prison, Gallimard.
=1977 田村 俶 訳,『監獄の誕生――監視と処罰』, 新潮社

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Foucault, Michel 1975 Surveiller et punir : Naissance de la prison, Gallimard=197709 田村 俶 訳,『監獄の誕生――監視と処罰』,新潮社,318p. ISBN-10: 4105067036 ISBN-13: 978-4105067038 \4430 [amazon][kinokuniya] ※ =1979 [1977] Alan Sheridan, trans., Discipline and Punish: The Birth of the Prison,Vintage,ix+333p. ISBN-10: 0679752552 ISBN-13: 978-0679752554 US$15.95 [amazon][kinokuniya]

■内容

■目次
■引用

◆第3部 規律・訓練

 第1章 従順な身体

「技術=政治の領域。」142 この領域では・・・
@「まず取締りの尺度。・・・細部にわたって身体に働きかけること、細微な強制権を身体に行使すること、力学の水準そのものにおける影響―運動・動作・姿勢・速さを確実に与えること・・・」142
A「つぎに取締りの客体。・・・表徴であるよりも体力(「見た目」よりも「実」ひざわ)・・・」142
B「最後に取締りの様相。それは結果によりも活動の過程に留意する、絶えまのない恒常的な強制権を含むものであり、・・・」142

「身体の運用への綿密な取締りを可能にし、体力の恒常的な束縛をゆるぎないものとし、体力に従順=効用の関係を強制するこうした方法こそが、≪規律・訓練discipline≫と名づけうるものである。」143

@配分の技術
(1)「しばしば規律・訓練は、閉鎖を、つまり他のすべての者には異質な、それじたいのために閉じられた場所の特定化を要求する。」147
→「私立学校」、「兵営」、「製造所の寄せ集めが、ついで十八世紀の後半には工場が、・・・」
(2)「しかし、≪閉鎖≫のこの原則は、規律・訓練の装置のなかでは恒常的でも不可欠でも充分でもない。この装置は、はるかに柔軟かつ巧妙なしかたで空間を再構成するのである。しかもまず、基本的な位置決定もしくは基盤割りの原則にもとづいて。」148 →「修道院の独房」
(3)「機能的な位置決定の準則が、・・・規律・訓練中心の諸施設では徐々に記号体系化しようとする。」149
(4)「規律・訓練〔の施設〕では、基本的要素は相互に置き換えが可能である、・・・規律・訓練〔の施設〕では、基本単位は所属分野(支配の単位)でも場所(所在の単位)でもなくて序列である。・・・それぞれの身体を定着させるのではなく配分して、ある諸関係の網目のなかにその身体を順次めぐらせる、こうした位置決定によって、規律・訓練はそれぞれの身体を個別化するのである。」150−151
 →「学級」
「学校の空間を、学ぶだけのみならず監視し階層化し賞罰を加える一つの装置として機能せしめるようになった。」152

 A活動の取締り
(1)「時間割・・・その三つの主要な方策―拍子をつけた時間区分、所定の仕事の強制、反復のサイクルの規制・・・」154
(2)「時間面での行為の磨きあげ。」155−156
(3)「身体と身振りの相関化・・・」
(4)「身体=客体の有機的配置」→「担え銃」の例
「これこそは、身体の道具本位の記号体系化とでも呼びうるような事態の一例である・・・動かすべき身体の諸要素・・・の系列と、操作する客体〔=物体〕の諸要素・・・の系列。」157
「権力は、身体=兵器、身体=道具、身体=機械という一種の複合をつくりあげるわけである。」
(5)「尽きざる活用。・・・つまり〔時間の〕使用というより尽きざる消費である。」158

 B段階的形成の編成
「第一には、時の流れを、連続的であれ平行的であれ線分に分割し、各人がその線分の特定な終局にまで達しなければならない。」161
「第二点として、これらの段階を或る分析的な図式にもとづいて編成すべきである―可能なかぎり単純な諸要素のいくつかの連続が、或る増大する複雑さにもとづいて結び合わされるからである。」161
「第三には、時間中心のこれらの部分部分に目標を与えて、それぞれの部分の終りを試験でしめくくるべきであり、その試験には、受験者が規定上の水準に達したかどうかの指示、当人の技術習得が他の者のそれと同一内容であるとの保証、各個人の能力の区別という三重の機能が与えられる。」162
「第四点として、いくつかの系列から或る系列を配置して、各人に適する訓練を、その水準・古さ・位階に応じて各人に定めるべきであって、共通して行われる訓練には、分化した役割が与えられ、それぞれの区別には、種別的な訓練が含まれる。」162

「連続しておこなわれるさまざまな〔人間〕活動の≪系列≫化によって、権力が時間の流れをすっかり攻囲する事態が生み出される。すなわち、詳細にわたる管理の、また、時間を厳守した一刻ごとの(区別・矯正・懲罰・排除を中心とした)介入の可能性であり、つぎに、個々人が自分のたどる系列のなかで占める水準に応じて個々人の特色を定めうる、したがって個々人を活用しうる可能性であり、時間と活動とを集積して、その双方を一個人の最後の能力たる最終的な成果のなかで総体化され利用可能なかたちで再び見出しうる可能性である。」163

 Cさまざまの力の組立
(1)「一つの身体は、人々が配置し動かし他の身体に連結しうる一つの要素となる。その身体の豪胆さや力とは、・・・身体が占める位置、身体がおおう間隔、身体が位置移動をおこなう場合の元にある規則正しさ・りっぱな秩序である。部隊に属する兵卒は、或る勇気や或る名誉の持主である以前に、とりわけ、動的な空間部分なのである。」166−167
(2)「ある複合的時間を形づくるために、規律・訓練が結び合わす必要のある各種の時間継起上の系列である。」167
(3)「〔人間の〕さまざまの力の、注意ぶかく計算されたこうした組み合わせは、精確な命令組織をぜひとも必要とする。」168

「要約して言うとすれば、規律・訓練は規制する身体をもとにして四つの型の個人性を、というよりむしろ、四つの性格のそなわった個人性を造りだすのである。つまりそれは(空間配分の作用によって)独房的であり、(活動の記号体系化によって)有機的であり、(時間の累積によって)段階的形成を旨とし、(さまざまな力の組立てによって)組合せを旨とする。しかもそのために規律・訓練は、四つの主要な技術を用いるのである。つまり、まず一覧表をつくりあげ、つぎに操練を規定し、さらに訓練を強制し、最後には、力の組合せを確保するため≪戦術≫を整える。≪戦術≫とは、持場の指定された身体、記号体系化された活動、養成された能力などを用いて仕組をつくりあげ、そこでは各種の力の所産をそれら力の計画的な組合せによって増大させる技法であって、こうした戦術は規律・訓練の実務の最高形式といってよいだろう。」169−170

 第2章 良き訓育の手段

 @階層秩序的な監視
「規律・訓練の行使は、視線の作用によって強制を加える仕組を前提としている。」175

「多種多様で交錯した監視にかんする、また相手にみられずに相手を見なければならない視線にかんする、ささやかな技術が存在したのであり、・・・」176

・例として
→医療的行為の道具としての「病院=建物」、訓育のひとつの差要素としての「学校=建物」

・これら建築物がもたらす監視を・・・
「それを些細なものだと考える人があるとすれば、個々人の行動についての段階的な客観化および次第に精密になる基盤割の監視をめざした、より小規模だが欠点のない、こうしたすべての装置の役割を忘れさっている人に限られるだろう。」178

「規律・訓練の階層秩序化された監視における権力は、一つの物として所有されるわけでもなく、一つの権利として譲渡されるわけでもなく、一つの機械仕掛として機能するのだ。・・・実はその装置全体が、≪権力≫を生み出して、この永続的で連続した領域のなかに個々人を配分している。・・・取締る役目の者をもたえず取締るからである。・・・ひそかに機能するからである。・・・」181

 A規格化をおこなう制裁
(1)「規律・訓練的なすべての組織の中心では、ささやかながら刑罰の機構が機能するのである。その機構は、それ自身の掟や種別的な罪や特定の処罰形式や裁判審級などをふくむ、一種の裁判権を有する。」181−182

(2)「だが規律・訓練に派特定の処罰方式がふくまれるとしても、ただ単にそれは一般の裁判の縮小モデルというわけではない。規律・訓練上の刑罰の対象になるものは、規則などへの違反、規則に妥当しない一切の事柄、規則を離れる一切の事柄であり、逸脱である。」182
→要は「不適合」が裁かれる。
(3)「規律・訓練的な罰は、逸脱をなくすという機能をもつ。したがってその罰は、本質的には矯正感化的でなければならない。」
「少なくとも大抵の場合には、規律・訓練的な処罰は義務じたいと異種同形であり、規則違反への報復というより、義務のくり返し、義務の反覆(反復?−ひざわ)の強要である。」183
(4)「規律・訓練における処罰は、恩恵=制裁の二重の体系の一要素にほかならない。しかもこの体系こそが訓育および矯正の過程のなかで作用的になる。」184
 →罰よりも褒賞
(5)「序列や段階にもとづく〔個々人の〕配分には、二重の役割が含まれる。つまり、逸脱を明示し、性質と能力と適性を階層秩序化することであり、他方、懲罰を加え褒賞を与えることである。」185
「序列はそれじたいが褒賞もしくは処罰にひとしいわけである。」185

そして、規律・訓練による刑罰制度は法律による刑罰制度と対立する186−187

B試験
「監視をおこなう階層秩序の諸技術と規格化をおこなう制裁の諸技術とを結び合わせるのが、試験である。」188

(1)「試験は、権力の行使にあたって可視性という経済策を転倒する。・・・ところが規律・訓練的な権力のほうは、自分を不可視にすることで、自らを行使するのであって、しかも反対に、自分が服従させる当の相手の者には、可視性の義務の原則を強制する。」190
 従来の権力 自分=可視  被権力者=不可視
 <規律・訓練>的権力 自分=不可視 被権力者=可視
(2)「試験はまた個人性を記録文書の分野の対象にする。」192
「診断・検査は、付属的にもつこうした書記装置のおかげで、相関する二つの可能性をきりひらく。その一つは、記述可能で分析可能な客体として個人を組立てうる可能性である・・・。もう一つの可能性としては、比較中心の或る体系を組立てることであり、・・・」193
(3)「試験は、記録作成のすべての技術に守られ助けられることで、それぞれの個人を一つの≪事例≫に仕立てる。つまり、一つの認識にとっては一つの客体を構成し、と同時に一つの権力にとっては一つの支配を構成する、そうした≪事例≫である。・・・事例とは、記述され評価され測定され他の個人と比較され、しかも個人性じたいにおいてそうされうるような個人をさす。しかもまた、訓育されるべき、もしくは再訓育されるべき、さらに分類されるべき、規格化されるべき、排除されるべき等々の、そうした個人をもさすのである。」194

「最後に試験は、個人を権力の成果および客体として、知の成果および客体として構成する上述の諸方式の中心に位置している。試験こそが、階層秩序的な監視と、規格化を行う制裁とを結びつけることで、配分や分類や力および時間の最大限の抽出や段階的形成による連続的な累積や適性の最もふさわしい組立てなどの、大がかりな規律・訓練的な機能を確保する。」195

 第3章 一望監視方式

・規律・訓練の諸制度の、深部で起こった各種の過程の顕著な側面について211
(1)「規律・訓練の機能面の逆転。・・・ところが今後、規律・訓練にはその性能があるという理由で、積極的な役目を果たさせて、個々人の効用の可能性を増加させることが求められるようになる。」211
(2)「規律・訓練の諸機能の分散移転。・・・しなやかな取締方式、移し替え取込みうる取締方式に変わるわけである。」212
(3)「規律・訓練の諸機能の国家管理。」

「≪規律・訓練≫は、或る施設とも或る装置とも同一視されえない。それは或る型の権力であり、その権力を行使するために道具・技術・方式・適用水準・標的をともなう或る様式である。」
 →それを「担当」できるものとして
「施設」、「〔権力的〕諸段階」、「装置」、「国家装置(治安警察)」216

(1)「ひとまとめに言いうるとすれば、規律・訓練は人間の多様性の秩序化を確保するための技術である。」
三つの基準→@経費がかからず、A効果を最大限にし、B権力の増大と権力の装置とを結びつける
(2)「規律・訓練は一種の反=法律だと考える必要があるのである。」→2つの理由でもって222−
(3)「・・・それらの方式は組立てられ一般化されて、知の形成と権力の増大が或る円環的な過程によって規則正しく強化し合う、そうした水準に達している点である。」224

◆第4部 監獄

 第1章 「完全で厳格な制度」

1「われわれが手放すわけにはいかない監獄のこうした≪自明の理≫は、第一に≪自由の剥奪≫という単純な形式に基礎をおく。」
2「だが監獄のもつ自明の理は、個々人を変容する装置という、仮定されるか要求されるかの差はあれ、その役割にも根拠をおいている。」232

「要約すれば、すでに十九世紀初頭から刑法上の投獄は自由の剥奪をと同時に技術による個々人の変容をも担当してきたのである。」233

・「監獄」が≪あらゆる点で規律・訓練的≫235であるための原則
(1)「第一の原則としての孤立化。」→そのための2つ(4つ)の理由。235−
(2)「孤立化とともに労働は、〔受刑者の〕監禁本位の変容の一つの動因として定義されるわけである。・・・労働は監禁制度の不可物でも緩和物でもなく、とどのつまり、徒刑の場合であれ懲役の場合であれ拘禁の場合であれ、立法者自身の理解では、労働は全く必然的に監禁制度に伴うべきものである。」239
(3)「監獄は刑罰の軽重を調整する一つの手段になる傾向があるのだ。」242

 第2章 違法行為と非行性

・≪行刑の条件≫として
(1)「刑罰としての拘禁は、個人の行動の変容を根本的機能としなければならない。・・・矯正の原則」267
(2)「被拘禁者はその刑罰の軽重にもとづき、だがとくにその年齢、その性質にもとづき、またその当人に用いるべしと要求される矯正技術や当人の変化の段階にもとづき独房に入れるか、少なくとも配分されなければならない。・・・分類の原則」268
(3)「刑罰とその刑期は、被拘禁者の個性にもとづき、進歩もしくは堕落など入手される結果にもとづき変更されうるものでなければならない。・・・刑罰調整の原則」268
(4)「労働は被拘禁者の変容ならびに漸進的社会化を生む根本的な部分の一つでなければならない。・・・義務として、また権利としての労働の原則」268
(5)「公権力にとって被拘禁者の教育は、社会の利益のために不可欠な配慮であり、また同時に被拘禁者にたいする義務である。・・・行刑上の教育の原則」268
(6)「監獄組織の少なくとも一部分は、個々の囚人の良き形成に留意する道徳的かつ技術的能力を有する専門家が監督し責任をもつべきである。・・・拘禁の技術的帰省の原則」268−269
(7)「元の被拘禁者が〔社会的〕再適応を行うまで、監禁には取締りと援助の施策がともなわねばならない。・・・補足的な制度の原則」269

 第3章 監禁的なるもの

・規律・訓練の最も強度な状態における形態→「メトレー施設」が準拠している五つのモデル
@「家族モデル」
A「軍隊モデル」
B「仕事場モデル」
C「学校モデル」
D「裁判モデル」294

・いわゆる「監禁群島」297のもたらした重大な結果
(1)「・・・人々は無秩序〔=放埒〕から法律違反へ、また反対方向として法律への違反から或る規則、或る平均的なもの、或る要請、或る規格などからの逸脱へいわば当然事でもあるかのように移し替えられてしまう。」299→連続性
(2)「さまざまな手続きをふくむ監禁的なるものをもってすれば、重大な≪非行者≫の徴募が可能である。この監禁的なるものによって、≪規律・訓練的な生産≫とでも名付けられるものが組織され、そこでは排除や拒否の側面があるにもかかわらず磨きあげの作業がすっかり営まれる。」300
「監獄が非行性を罰するのは真実ではあるが、本質的には非行性は、今度は監獄によって究極的にくりかえされる監禁のなかで、監禁によって作り出される。」301
(3)「しかしながら監禁制度の、しかも法律上の投獄をはるかに超えたその制度拡大の多分最も重要な結果はというと、その制度のおかげで処罰権が自然かつ正当とされ、不法不正への黙許から刑罰行為までの水準が少なくとも低下せしめられるにいたった点である。」301
「投獄するまでにいたらず人を閉じ込める≪矯正≫施設の最低段階のものと、法律違反を特定したのちにその罪人を送りこむ監獄との間では、差異はほとんど感じられない(しかも感じられてはならない)のである。」302

(4)「・・・つまり司法権力における、ないしは少なくともそれの運用における内的な解体であり、判断≪=判決≫を行うさいの困難の、しかも有罪宣告をくだすさいの一種の恥辱の増大であり、規格的なものと規格外的なものを評定し評価し診断し見分けたいとの裁判官における激しい欲求であり、しかも治療したり社会復帰させたりという名誉の主張である。」303
「・・・彼らが≪治療本位の≫裁定をくだしたり≪社会復帰をめざす≫投獄を決定したりするのは彼らが行使する権力の経済策によるのであって、彼らの周到さやヒューマニズムに発する経済策にもとづくのではない。」304
(5)「社会の監禁網は身体の現実的支配と果てしない観察とを同時に確実におこなうのであって、自らの固有性の点で、権力の新しい経済策に最も合致した処罰装置であり、しかもこの経済策そのものが必要とする知の形成のための道具である。こうした監禁網は自らの一望監視的な作用のおかげでこの二重の役割をはたすことができるのである。」304
(6)「そのことで多分説明がつくのは、監獄の、ただしすでにその誕生当初から非難の的であるこのささやかな発明の、極端な永続性である。」
■引用

◆規律・訓練 discipline
 「まず取締りの尺度。すなわち、不可分な統一単位ででもあるかのように身体を、かたまりとして、大ざっぱに扱うのが問題なのではなく、細部にわたって身体に働きかけること、微細な強制権を身体に行使すること、力学の水準そのものにおける影響――運動・動作・姿勢・速さを確実に与えることが重要である。つまり、活動的な身体へおよぶ無限小の権力である。つぎに取締りの客体。それは行為の意味表示的な構成要素もしくは身体言語ではなく、またそれらではもはやなく、[身体の]運動の経済や効果や内的な組織である。束縛の対象は[身体の]表象であるよりも体力であって、真に重要である唯一の儀式は訓練のそれである。最後に取締りの様相。それは活動の結果よりも活動の過程に留意する、絶えまのない恒常的な強制権を含むのであり、最大限に詳細に時間・空間・運動を碁盤目状に区分する記号体系にもとづいて行われる。身体の運用への綿密な取締りを可能にし、体力の恒常的な束縛をゆるぎのないものとし、体力に従順=効用の関係を強制するこうした方法こそが《規律・訓練discipline》と名づけうるものである。」
(Foucault[1975=1977:142-143])
 「構成要素として個々人をもつとされる社会については,そのモデルは契約および交換という抽象的な法律上の形式から借用される,との意見がもっぱらである。商業中心の社会は,個々の法的主体の契約関係として表わしていい,というわけである。多分そうだろう。なるほど十七世紀と十八世紀の政治理論は,しばしばこの図式に従っているように思われる。しかし忘れてはならないのは,同じ時代には,或る権力および或る知の相関的構成要素として実際に個々人を組立てるための,或る技術が存在したという点である。なるほど個人というものは,社会の《観念論上の》表象の虚構的な原子であるにちがいないが,しかしそれは《規律・訓練》と名づけられる,権力の例の種別的な技術論によって造りだされる一つの現実でもあるのである。たとえば,権力は《排除する》,それは《抑制する》,それは《抑圧する》,それは《取締まる》,それは《抽象する》,それは《仮面をかぶせる》,それは《隠蔽する》などの,否定・消極的な関連でつねに権力の効果を述べるやり方は中止しなければならない。実際には,権力は生み出している,現実的なるものを生み出している,客体の領域および真実についての祭式を生み出している。個人,ならび個人について把握しうる認識は,こうした生み出しの仕事に属している。」(Foucault[1975=1977:196])
 「原理上は平等主義的な権利の体系を保証していた一般的な法律形態はその基礎では,規律・訓練が組立てる,本質的には不平等主義的で不均斉な,微視的権力の例の体系によって,細々とした日常的で物理的な例の機構によって支えられていた。しかも,形式的には代議制度は,万人の意思が直接的にであれ間接的にであれ,中継の有無を別にして,統治権の基本的段階を形づくるのを可能にする反面では,その基盤において規律・訓練のほうは,力と身体の服従を裏付けるのである。」(Foucault[1975=1977:222])
 「むしろ,規律・訓練は一種の反=法律だと考える必要があるのである。その明確な役割は,のり越えがたい不均斉の導入,相互関係の排除である。その第一の理由は,規律・訓練は個々人のあいだに《私的な》絆をつくりあげ,その絆たるや,契約の義務とは全く異なる一つの拘束関係だからである。ある規律・訓練を受諾することは,なるほど契約の手続きで承認されるものかもしれないが,その規律・訓練が強制される仕方,それが働かせる機構,ある人々に対する他の人々のあべこべにしえない従属関係,いつも同じ側に固定される《より多くの権力》,共通の規則についても別々の《成員》では違ってくる立場の不平等性,以上の事態によって,規律・訓練による人々の絆は対立するものとなり,後者の絆は,規律・訓練的な機構を内容としてもつようになるや系統的に絶たれてしまうのである。たとえば,労働契約という法的擬制を,どんなに多くの[規律・訓練の]実際の処置がゆがめるかは周知のとおりである。工場における規律・訓練が最も重要なわけではないのだから。次の理由としては,法律体系が普遍的規範にもとづいて法的主体を規定するのに対して,規律・訓練は[人々の]特色を示し,分類をおこない,特定化する。ある尺度にそって配分し,ある規範のまわりに分割し,個々人を相互にくらべて階層秩序化し,極端になると,その資格をうばいとり,相手を無効にする。ともかくも規律・訓練は,自らが取締りをおこない自分の権力の不均斉[な諸機能]を作用させるそうした空間や時間のなかでは,けっして全面的ではないがけっして取消されもしない,法律の一時停止を実施する。規律・訓練はどんなに規則遵守的で制度中心的であっても,その機構上は一つの《反=法律》である。」(Foucault[1975=1977:222-223])
■書評・紹介

立岩 真也 198712 「FOUCAULTの場所へ――『監視と処罰:監獄の誕生』を読む」『社会心理学評論』6, pp.91-108
堀田 義太郎 200503 「フーコー」,小泉 尚樹・嵯峨 一郎・長友 敬一・村松 茂美編著,『はじめて学ぶ西洋思想』,ミネルヴァ書房,pp.255-261

◇橋口 昌治 200908 「格差・貧困に関する本の紹介」, 立岩 真也編『税を直す――付:税率変更歳入試算+格差貧困文献解説』,青土社

■言及


*作成:樋澤吉彦樋口 也寸志箱田徹
UP:20031225 REV: 20090104, 0811, 1005, 20100415
Foucault, Michel  ◇監獄学  ◇監獄/刑務所  ◇犯罪/刑罰・文献 歴史  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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