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『荒廃をつくる構造』

朝日新聞社 編 19731015 朝日新聞社,朝日市民教室・日本の医療6,250p.


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■朝日新聞社 編 19731015 『荒廃をつくる構造』,朝日新聞社,朝日市民教室・日本の医療5,254p. ASIN: B000J9NNZG 500 [amazon] ※ b

■目次

T 薬洪水の舞台裏 平沢 正夫
U ヒ素ミルク事件と小児科学会 日比 逸郎
V 日本医師会のタテマエとホンネ 岡本 正・高橋 晄正毛利 子来大熊 由紀子(司会)
W 厚生省は何をしてきたか――内側からみた医療行政 曾田 長宗・松井 やより

■引用

◆薬洪水の舞台裏 平沢 正夫 9-86
 おかしなピル戦争の真相
 ……

◆日比 逸郎 19731015 「ヒ素ミルク事件と小児科学会」,朝日新聞社編[19731015:87-160]*
*朝日新聞社 編 19731015 『荒廃をつくる構造』,朝日新聞社,朝日市民教室・日本の医療5,254p. ASIN: B000J9NNZG 500 [amazon] ※ b

 「4 「森永アレルギー」に苦しむ学会
 問いかけにこたえられぬ学会
 昭和四三年の東大医学部紛争に端を発した医局講座制粉砕の医学生・青年医師の闘いは、各大学医学部・大学病院医局をゆさぶった。その余波は医局講座制の一支柱と化していた学会にも、学会紛争として波及した。小児科学会でも青年医師を中心とした学会改革運動が開業医会員をまきこんで、昭和四五年秋にはすでに一定の成果をあげていた。<0133<
 医学部紛争やこれらの学会紛争の過程で、大学教授のかつての絶対的権力と権威はかなりの傷をうけていた。かつて大学教授によってその理事を独占されていた小児学会も、理事の中に少数ながら開業医や病院勤務医が選出されるような状態にはなっていた。
 このような情勢をみて、守る会はまず全国の青年小児科医に、アピールを郵送した。それは、彼らに森永ヒ素ミルク中毒事件のいきさつを教え、彼らに「小児科学」が被害者を救いえなかったことを教えた。これは「学問のあり方」に対しての深い疑念から学会改革運動にとりくんでいた彼らの心をつよくゆさぶった。彼らはただちに守る会と接触し、被害者やその家族のナマの訴えを聞いた。
 四六年二月、守る会は学会の理事会に対して、森永ヒ素ミルク中毒の被害者の追跡調査と救済について、「学会の見解」を公開するように申入れた。それとともに、一六年間の空白をもたらした、かつての小児科学会の権威者たちの「小児科学」をどう考えるかと学会に問うた。すなわち、西沢六人委員会の作成した診断基準、治癒判定基準や、五人委員会の後遺症なしの結論、あるいは三一年のいわゆる精密検診、森永奉仕会と学会との関係などについて「学会の見解」を明らかにするようにとの申入れであった。
 患者が専門家集団としての学会にむかって、きわめて具体的にかつ学問的に医学のあり方について問いかけたのである。この問いかけに学会は答えるすべをもたなかった。
 一六年前に、西日本全体の小児科関係者のほとんどをまきこみ、当時、一九六編の医学論文や多数の学会報告を生みだしたこの事件について、「資料や情報の収集に努めているが、未だ見解を述べ<0134<る段階に達していない」ので、理事会は小委員会を発足させて患者の問いかけに答えるべく資料・情報の収集にあたらせることを公約した。
 守る会はさらに追打ちをかけた。四月の学会総会に参加して、多数の小児科医に被害者として直接、語りたいと理事会に申入れたのである。理事会は困惑し、この申入れを拒否したが、改革派会員の働きかけに押されて、「休憩時間を利用して発言の機会を与える」ことを渋々みとめた。
 その日、守る会の岡崎事務局長は、被害者家族を代表して、小児科医に直接語りかけた。
 「事件発生後わずか三カ月で後遺症なしと判定した西沢説の非科学性は、被害者とその家族に一六年間の暗黒をもたらした。この悲劇はすべて医学の名において被害児に押しつけられたもので、この問題を避けて小児科医が医学や医師の倫理を語るほど罪深いことはない」
 この年はちょうど四年に一度の日本医学会総会開催の年にあたっていて、小児科学会も参加していた。主要テーマは「医の倫理」であった。
 岡崎氏は最後に、@森永乳業に働きかけて、同社のもっている被害児の名簿などの資料を学会に提出させてほしい、A被害児の救済に学会をあげて緊急にとりくんでほしい、という二点を学会の総意として議決してほしいと訴えた。
 「森永事件は政治の問題」
 守る会の一連の働きかけは、決して陳情ではなく、明らかに「小児科学」の本質とあり方につい<0135<ての問題提起であった。この問いかけては学会内部にさまざまな波紋を生んだ。もっともうろたえたのは、かつての西沢委員会のメンバーであり、岡山県で守る会の反対をおしてふたたび「官製検診」を強行しつつあった、いわゆる官製委員会のメンバーたちであった。
 彼らは理事会に対して、学会が森永問題をとりあげぬよう圧力をかけた。官製委員会のメンバーたちは岡崎発言の直前の評議員会や総会で、異様なまでのハッスルぶりで、学会が森永問題をとりあげることと被害者代表に発言の機会を与えることに反対して猛烈なキャンペーンをはった。彼らのやり口は「森永事件は政治の問題である。守る会は政治的偏向のある団体である。守る会は被害者のごく一部の組織で被害者の代表たりえない」といった、学会員の政治アレルギーを利用した偏向助長のアジであった。
 一六年前の事情を知る会員には「古傷にさわられたくない」という気分をひきおこさせ、事件のいきさつを知らぬ会員には「森永問題はどうもタブーのようだ」というタブー意識をもたせることに成功した。しかしそれと同時に、改革派の会員には、森永問題こそ学会改革の上で避けて通れぬ重要な試金石となることを本能的に察知させてしまった。
 守る会の問いかけは、会員間の医学のあり方についての意見の分裂を鮮明に浮き出させたのである。学会は右に左に大きくゆれ動いた。
 「被害者はどうせ一六年お待ちになったのだから、ついでにもう少し待っていただいて、学会での発言などご遠慮いただこうではないか」という官製委員会メンバーの提案はさすがにとおらなか<0136<ったが、「患者の訴えを真正面から聞くところから医学は始る。被害者代表を正式に学会に招待して十分にその訴えをきこう」という改革派会員の意見もとおらなかった。妥協の産物が、「休憩時間を利用して、非公式に一五分間だけ発言することを許してあげます」という結論であった。
 岡崎発言のあと、会員間の医学に対する意識の分裂はさらに鮮明となった。岡崎発言にひきつづいて森永問題を最重要議題として十分討論しようという改革派の声は、圧倒的多数の保守派によって葬りさられた。しかし、森永と学会の癒着を徹底的に追及した改革派医師の努力は、岡崎発言の重みとあいまって、「被害者救済を第一義とする」森永砒素ミルク中毒調査小委員会を総会の総意として発足させることに成功した。
 長時間にわたる議論にわく会議場や廊下を、心配顔の森永の社員が自由に出入りしていた。患者を会場に入れることには神経質な学会員も、森永とうい一企業の社員が会場に入ることにはなんの疑問も示さなかった。」(日比[1973:133-137])

引用:◆稲場 雅紀・山田 真・立岩 真也 2008/11/30 『流儀』,生活書院

◆岡本 正・高橋 晄正毛利 子来大熊 由紀子(司会) 19731015 「日本医師会のタテマエとホンネ」,朝日新聞社編[19731015:161-217]*
*朝日新聞社 編 19731015 『荒廃をつくる構造』,朝日新聞社,朝日市民教室・日本の医療5,254p. ASIN: B000J9NNZG 500 [amazon] ※

「岡本 日本に医療問題を論ずる人はたくさんいる。しかし、武見さんがテレビなどで相手にするのは、水野肇さん一人。医療経済の学者もたくさんいるが、そのなかで武見さんのレクチャーの相手をつとめるのは一橋大学教授の江見康一さんだけだ。この二人なら、武見さんの急所をつくような発言はしないからです。これは非常に露骨なんですよ。しかし、テレビをみている人はそんなことは知らない。この二人がいちばん立派な医事評論家であり、医療経済学者であると思っている。」([182])

「岡本 国民皆保険の実施でも、老人医療の無料化にしても、すべての政府の虚栄(ヴァニティ)が生んだ、みせかけの社会福祉政策ですよ。そういう世間をとりつくろう政策がでると、日本医師会はかならず乗っかっていきますね。そして、もうける。
高橋 老人医療の無料化は、空きベッドをうまく操作するのに役立つ。看護婦不足なら、なるべく手のかからない老人でも入れときゃいい。家族は養老院へやったとなると世間系が悪いが、老人ならたいていどこかぐあいが悪い、病院に入れておけば、安くすむし、かっこうもいい。ほんとうの意味での老人対策の欠陥を全部医療の中へほうりこんだだけだ。医者もそれでもうかる。で、根本の薬の科学性を問わないまま膨大な薬をのませるから、結局あれば安楽死への道へつながりますよ。
毛利 まったくそのとおりで、このままでいったら水俣病の二の舞で、スモンだけでなく第二、第三、第四ときりのないほどの薬害が明らかになるときが意外に近くなるような気がしますね。」(p.187)
 →老い・1970年代

言及:◆立岩真也 2008/02/01 「有限でもあるから控えることについて――家族・性・市場 29」,『現代思想』36-2(2008-2): 資料


UP:20080108 REV:20081106
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